《日本刀》パチュリー・ノーレッジ&セイバー◆HQRzDweJVY
――ぺらり。
アーカム。
それはアメリカ合衆国の北東端、マサチューセッツ州にあるとされる地方都市の名だ。
際立った観光名所があるわけでもない、似たような都市ならばアメリカ国内に三桁はあるだろう普通の都市。
だがそんな何処にでもある街を特別たらしめている施設がある。
その名はミスカトニック大学。
かのアイビー・リーグにも名を連ねる、歴史ある名門大学の一角である。
特にその附属図書館には40万冊を超える貴重な蔵書が所蔵されており、多くの学生や教授が入り浸っている。
そして当たり前のことではあるが、そんな図書館も閉館後は全くの無人になる。
――ぺらり。
だがその無人のはずの館内に頁をめくる音が響き渡る。
音の主は図書室の一角で平積みにされた本を読んでいる一人の人物。
卓上ランプに照らされたその顔は、未だ10代の年若い少女のものだ。
その細い首に下げられたネームプレートには『Patchouli Knowledge』と書かれている。
パチュリー・ノーレッジはミスカトニック大学に通う学生だ。
彼女は『どうしても調べたいものがある』と教授陣に頼み込み、泊まりこみで調べ物をしているのだ。
稀覯本も多い附属図書館では通常このような行為が許されることはない。
だが東洋の五行説を発展させた革新的論文を発表した"七曜の魔女"――神秘学科の新星に対する教授陣の期待と信頼はそれを可能にしたのだ。
――ぺらり。
そんな彼女が手にしているのは半ば風化しかかった表紙の一冊の本。
年代を感じさせるそれを、少女の白く細い指が優しくめくっていく。
新たな頁をめくるごとに少女は新たな知識(せかい)と出会う。
それは少女にとって日常であり、何者にも代えがたい幸福な時間だった。
「――おい、いつまでこんな所に籠ってる気だ」
だがそんな至福のひとときをぶち壊しにする無粋な声がここにはあった。
本棚の影から歩み出たその男は、図書館の主のように振る舞う少女とは逆に、何もかもがこの場所に似つかわしくない格好をしていた。
アーカムには珍しいモンゴロイド系の顔立ちに、図書館というインドア空間に似つかわしくない筋骨隆々の肉体。極めつけはその身を包む時代錯誤な東洋の鎧甲冑だ。
だがその男はある意味誰よりも今のこの街(アーカム)にふさわしい存在と言えるのかもしれない。
何故ならば男は人間ではない。
どこかの人類史に刻まれた英霊――サーヴァントと呼ばれる超常存在なのだ。
パチュリーは不機嫌そうな表情を隠そうともしない男に、感情のこもらない視線を一瞬だけ向ける。
「何か不満があるような口ぶりね、セイバー」
「ああ、大いにある。そもそもあんた本なんざ読みふけって、聖杯戦争について理解してんのか?」
「ええ、理解しているわ。貴方は私の従僕(サーヴァント)。上下関係ははっきりしているわね。
だったら私の読書の邪魔をしないで頂戴」
少女はそう言うだけ言って、再びページをめくる作業に戻る。
その行動はセイバーの神経を逆なでした。
「……何のつもりだ。俺達は飾って楽しい美術品じゃねぇんだぞ」
セイバーは己のマスターに鋭い視線を向ける。
その視線の先にいれば、大の大人でもまるで剥き身の刃を向けているかのような殺気にも似た威圧感を受けただろう。
「まったく……誤解があるようね」
だが少女は涼しい顔で視線を受け止める。
「私は美術品になんて興味はないわ。
レミィやあの黒いのみたいに変なものを集める趣味なんてないもの。
私にとって刀は刀。無銘だろうと贋作だろうと切れればよし。
特に貴方は美術品としては大した価値はないでしょうに」
パチュリーのその言葉にセイバーは驚きの表情を浮かべる。
「あんた……」
「ええ、さっき調べたわ。
刀なんてあの半霊が持ってるのぐらいしか見たことなかったけど、色々あるのね」
少女が先ほど手にしていた本。それは19世紀の日本刀の目録だ。
「貴方が貴方であるように、魔女には魔女の役目がある。
貴方が力を持って道を開くというのなら、無限の知識を糧に前へと進む……それが魔法使いの挟持というものよ。
そしてある賢者は言ったわ。"彼を知り己を知れば百戦殆うからず"……そう、知は戦を凌駕する」
セイバーが机上に目をやれば平積みにされた本の中にはこの街の歴史書や観光
マップらしきものもある。
これから先のことも考えてはいるらしい。
「それに貴方もサーヴァントの端くれでなら理解しているでしょう。
――この街はすべてがおかしい。これから先、何も起こらないなんてことは決してありえない」
"魔法使い"であるパチュリーは知っている。
一見平穏に見えるこの街には混沌とした異常な魔力が充満していることを。
そしてそれがありえないほどに不自然かつ危険な状態であることを。
例えるなら今のアーカムはまるで奇妙な器になみなみと注がれたニトログリセリンだ。
少しショックを与えるだけで、劇的な変化を起こし――そして二度と元には戻らない。
「……安心しなさい。時が来れば思い切り戦わせてあげるわ。
そしてそのまま戦場で散りなさい」
パチュリーのそれは彼を"使い潰す"、という宣言にほかならない。
だが対するセイバーは口の端を釣り上げていた。
獰猛な笑み。己の強さを証明する機会というエサを目の前にした獣の笑みだ。
そしてその笑みを浮かべたまま、虚空へと姿を消した。
一方で少女は再び手元に視線を落とし、読書を再開する。
その姿は一位時間前と少しも変わらない。そしてこのまま変わらないだろう。
……この街で、何かが起こるまでは。
【マスター】
パチュリー・ノーレッジ@東方Project
【マスターとしての願い】
???
【能力・技能】
精霊魔法を得意としており、7つの属性を自在に操る。
ただし運動は苦手のため、詠唱しきれないこともある。
少女は空を飛べる。当然のことである。
【人物背景】
紅魔館の魔女。
一見して人間の少女のようであるが"魔法使い"という種族の妖怪であり、年齢は百歳を超えると言われている。
基本的に自らの図書館から動かない本の虫であるが、用があれば出歩くこともある。
様々な知識をため込んだ知識人ではあるのだが、異変の犯人と遭遇していながらスルーしたり、サポート時に話す情報がことごとく役に立たなかったり、と若干天然の気がある。
一方で運動は苦手であり、喘息気味で呪文詠唱すらおぼつかないこともある。
【方針】
不明。
【クラス】
セイバー
【パラメーター】
筋力:B 耐久:B 敏捷:C 魔力:E 幸運:E 宝具:D
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
日本刀という幻想によって補正が加えられており、
相手が日本人、もしくは日本に縁のあるサーヴァントである場合限って一時的にブーストが掛かる。
【保有スキル】
付喪神の一種とされる日本刀の化身。
少年から青年まで様々な男性の姿を取る。
同ランク相当の『戦闘続行』、『心眼(偽)』スキルを発揮する。
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
示現流やタイ捨流などの肥後・薩摩地方の剣術に多く見られる独特の叫び声。
裂帛の気合とともに剣気を叩きつけるアクティブスキル。
対象は精神で判定を行い、失敗した場合、回避行動にマイナス判定がかかる。
【Weapon】
自身の本体と類似した幅広の太刀。
飾り気は少なく実用性重視。
【宝具】
『兜割』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
セイバーの持つ斬鉄の逸話の顕現。
天覧試合にて見事鉄兜を五尺ほど傷つけ、セイバーの名を天下に広く知らしめた。
筋力判定に成功した場合、相手のあらゆる防御行動を無効化した一撃を加える事ができる。
対コスト効果に優れた対人宝具。
【人物背景】
九州の刀工の作である同田貫をモチーフとした刀剣男士。
質実剛健を絵に描いたようないかつい外見は、少女漫画風の絵柄が多い刀剣乱舞勢でも一際目を引く。
指揮なども嫌がる純粋な脳筋であり、美術品として愛でられるのを好まず、武器として戦うことを望む。
【サーヴァントとしての願い】
戦場で戦う。ただそれだけ。
最終更新:2016年04月28日 23:10