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『に、逃げろおぉーっ!!』ドドドドド

 下桜口の門より、石田軍の兵達がどっと押し出される。
 新たに突入しようとしていた兵と鉢合わせになり、門前は大混乱となった。

晶「な、なんだ!?どうなってんだ!!」

 さらに、城塀沿いに旗を立てていた百姓達も、門に現れ、次々に敵兵を追い落としていく。

晶「くそ、向こうの策にハマったか!」

 やがて門前に、梓が騎馬で現れる。門前は混乱を極め、中には水田に逃げ込む敵兵もいた。

 梓がすっと右手を上げる。
 すると、城塀越しに鉄砲組が一斉に姿を現す。

梓「放てぇ!!(行け行け私!)」

 ババババババババン!!

 一斉射撃によって、混乱は石田軍の後方にまでも及んでいく。

梓「首は置き捨てます!皆さん続いてください!」ダダダッ

 あぜ道を駆け出した梓に続いて、騎馬武者達が駆け出し、さらに足軽や百姓達が続いていく。勢いがついた梓軍は、次々と槍を繰り出し、敵兵を討ち果たしていく。

梓「やああぁぁ!!(私、今すっごく輝いてる!)」ザクッ!ザクッ!

菫「か、覚悟ですー!」ザクッ!

直「百姓だからとあなどらないでください」ザクッ!

晶「隼人はどうした!討たれちまったのか!?」

敵使番「本軍はもはや収拾がつきません!このままでは総崩れも……」

晶「くそ、なんで百姓の士気があんなに高いんだ!?者共、引け!態勢を立て直す!」ダダダッ


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長野口
===

ドゴォ――――ンッ!!

 丸太で叩かれ続けていた門はとうとう開け放たれ、幸軍の騎馬武者と足軽達が乱入してくる。

律「ちくしょ、まだかよぉー!」

信代「まだ鉄砲組は二段目です!」

敵騎馬武者「大谷家家中、前野与左衛門、一番乗りィ!」

律「みんな、下がれぇ!」

 城兵達は槍を構えつつ下がる。
しかし、前野は律達に迫り、敵兵は破れた門から次々になだれ込んでくる。

前野「でやあぁっ!」ブンッ

 ガッキーン!!

 前野の槍を、律は自らの槍柄で受ける。

律「くっ!まだかぁ~!!」ググググ

信代「あ、入った入った!三段目、入りました!!」

律「よし、放てぇ!!」

 律が後方の城兵達に向かって叫ぶ。
 すると、最後尾にいた射手が火矢を引き絞り、空高く射た――


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桜川の上流
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 桜が丘軍の兵数人が、川の堰で待機している。

 と、長野口の方角から火矢が上がった。

春子「合図だ!やるぞォ!!」

 兵達が大槌を振り上げる。
 そして一振りで、堰は叩き壊された。

 ドドドドドドオオオォッ!!

 川の水が、轟音を立てて一気に下流に流れ込んでいく。

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 ドドドドドド……

 中軍にいる幸の耳に、轟音が聞こえてくる。

 幸「……はっ!いけない!先鋒を戻して!川から引き上げないと!」

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『よし、城塀までもうすぐだぞ!』

 ドドドドドド……

『ん?何だこの音……』

 敵鉄砲足軽達は上流を見た。
 すでに目の前まで、激流が迫っていた。

 ドドドドドドオオォーッ!!

『うわああああぁぁ!!』

 敵鉄砲足軽達は、ことごとく激流に押し流されていった。大水は、門前にかかった橋までも押し流した。

律「へへーん!どんなもんだいっ!」

前野「ば、馬鹿な……」

律「あっれー?前野ちゅわんだっけ~?どっこ見てるのかな~?」

前野「ひっ!!」

 ドスッッ!!

律「武功一等、田井中律を前にして、後ろを振り向くなんて、いい度胸だぜ!」

 律は高笑いし、前野の身体を貫いた大槍を引き抜く。前野は木偶のように地面に叩きつけられた。

 大水で退路を絶たれたうえに、前野のあっけない最期を目の当たりにした敵兵達は、完全に戦意喪失している。

律「ふっふっふ、ここに来たのが、お前らの運の尽きだ!いっくぜー、りっちゃん無双ー!!」

 ザクッ!グサッ!ドスッ!ブシュッ!ズバアァッ!!

『うっぎゃああああああ!!』


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佐間口外
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「……秋山様!お気を確かに!」

澪「う~ん……はっ!敵はどうした!?」

恵「良かった、気がついて!安心して!敵の先鋒は、私たち附鞍倶楽部が追い詰めています!」

澪「そうですか、良くやってくれました……で、なんで私膝枕されてるんですか?」

恵「うふふ、良いじゃないの……」ニコリ

澪「そ、そんなことより、早くまた指揮を取らないと!」ガバッ

恵「…………」ショボーン

 澪は再び馬に乗り、門付近の騎馬鉄砲組に声をかける。

澪「弾込めは終わったか?」

曜子「終わりました!」

澪「よし、続いてくれ!」ダダダッ

 澪と騎馬鉄砲組は、あぜ道の上を突進してゆき、四千の大軍へと向かっていく。

澪「ちっ、近づくな!近づく者はみんな、朱槍の餌食にするぞ!!」ブウンッ!ブウンッ!

 澪は槍を右へ左へと振りながら前進していく。あぜ道上の敵兵は恐れをなし、まるで薙払われるように、次々と田んぼの中へ飛び込んでいく。

『ひいぃっ、とてもかなう相手じゃない!』

『魔人だ……漆黒の魔人だァ!!』

澪「(ああ……本当はこんなことしたくないのにっ!!)」ブウンッ!ブウンッ!

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菖「もー!兵達は何をしてるの!?」

使番「これでも先鋒は進んでいるのですが、田が異様に深くてなかなか……」

菖「だったらあぜ道を行けばいいじゃない!!」

 ブチンッ

使番「ハァ?あぜ道には漆黒の魔人がいるだろ、この貧乳がァ!あの女ぐらい胸大きくなれ!そうなれば士気も上がるってもんだ!ケッ!」

菖「む、胸は関係ないでしょ!?うわーん!!」ジタバタ

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憂「すごい……こんな人が、お姉ちゃんを守ってるなんて!」

佐間口の守りについていた憂は、あぜ道上の敵兵を次々と薙払う光景を見て、感嘆した。

澪「みんな、出て来てくれ!」

 はるか前方の澪が、後方に向かって叫んだ。

憂「私だって……全力で戦って、お姉ちゃんを守るんだ!」

 意を決し、憂は他の百姓達と共に門から飛び出す。
 槍を手に、田んぼに飛び込む憂達。深い田んぼを楽々と進み、足留めされている敵兵に迫っていく。

憂「やああぁぁ!!」ビュッ

澪「はああぁぁ!!」ブンッ!ブンッ!

 あぜ道の上の敵兵たちが田んぼに逃げ込み、その敵兵たちを百姓達が次々と討ち取っていく。こうして敵の先鋒はほぼ壊滅状態となった。

澪「どうした上方軍!これまでか!」

菖「うわ、こっちに迫ってきた!!」

使番「申し上げます!石田軍が、これより退却致します!」

菖「晶が負けた!?それならこっちも引くわよ!」


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長野口外
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 桜川の激流はなおも続き、その向こうの門付近では、律が大暴れしている。

律「おらおらおらーっ!もっと来ーい!」ドドドドドド

幸「鉄砲組はほぼ全滅……しょうがない。退くわ!」

 幸の命令により、兵は長野口の前から引き上げ出す。

律「退くのか!なら戦記に書いとけ!城方総大将は成田唯親!この長野口大将は、武功一等、田井中和泉守律だぁ!」バーン

幸「くすっ……私は大谷幸継!承ったわ!」

 ―――こうして桜が丘軍は、兵力の差をものともせず、緒戦を勝利で飾った。


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佐間口
===

『えいえい、おーうっ!』
『えいえい、おーうっ!』

 城兵や百姓達が勝ち鬨を上げる中、澪と騎馬鉄砲組が門を入っていく。

『えぃえぃ、おーぅ……』

澪「(今のは長野口から……律、やったか)」

『えぃえぃ、おーぅ……』

澪「(今度は下桜口から……梓もやったか)」

 間もなく方々から、勝ち鬨の上がるのが聞こえ、澪は七つ口全てで勝利を収めたことを確信した。

 緒戦を制したことで、佐間口内は安堵感と活気にあふれた。
 兵達をねぎらうため、子供達はざるいっぱいの握り飯を振る舞っている。

澪「そこの君!」

男児「ん?何だよねーちゃん」

澪「握り飯、私にも一つくれないか?」

男児「駄目だよ。馬になんか乗って楽をして。これはちゃんと働いた人たちにやるんだ」

澪「けど、私も少しは働いたぞ?」

男児「本当?」

澪「本当だ」

男児「しょうがないな、やるよ」ヒョイ

澪「ふふっ、ありがとう」パシッ

 ポコン ポコン ポコン

澪「うわっ!なんだ!?握り飯は一つでいいんだ!四つもいらないって」

太郎次郎三郎花子「「「「うん、一つだけ投げたよ」」」」

澪「ひいぃっ!?お、同じ顔が四人……」クラッ

 ドサッ

ちか「あ、澪殿が四つ子を見て馬から落ちた!」

美冬「無理もないよね。関白だってきっと腰を抜かすよ!」

『あはははははは!!』

澪「あいたたた……ん?」

『わーはっはっはっは!!』

 百姓も侍も、老いも若きも、男も女も、皆一様に笑うさまを見て、澪は思った。

澪「(士気は高い……勝てるぞ!)」


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丸墓山・晶の兵舎
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 晶、幸、菖に加え、合力の将達が、一同車座になって軍議を行っている。

晶「討死、手負いの者、合わせて千二百人かよ……」

菖「うち八百は、晶の軍だよね」イシシ

晶「うるせー!お前なんて鉄砲組を一列しか配置しなかったくせに!」

菖「初陣の大将に負けたのって、誰だっけ?」

晶「てめ~……殺す!たたっ切る!」

幸「やめなよ、二人とも……」

合力の将1「しかしあのような戦い方……まるで地侍じゃ。何をしでかすか分からん!」

菖「問題は田んぼだよ。あんなに深いんじゃ、大軍も使えないし」

合力の将2「この城の総大将、あなどれぬな……」

幸「長野口の大将が、総大将は成田唯親って言ってたっけ……どんな人なのかしら」

菖「う~ん……城で見た時は、とてもじゃないけど、すごい人物には見えなかったな」

晶「やりやがるな、あいつら……よし、みんな!私は決めたぞ!」

菖幸「「え?」」

晶「……水攻めをやる!」

合力の将1・2「「なんだと!?」」

菖幸「「水攻めぇ!?」」

晶「やるからには、まず堤を築くぞ。各々、陣を下げろ。その前に縄張りを決めるからな!」

合力の将1「水攻めなら、こちらの勝利は間違いござらんな……ならば初めからそうなされば良かったのだ!!」

合力の将2「これでは何のために参陣したかわからん!御免!!」

 晶の、味方の心情を度外視した発言に怒り、合力の将達は座を立ち、兵舎を出ていってしまった。

菖「晶のバカー!」ボカンッ

晶「あいてっ!何だよ!?」

菖「何で水攻めなの!それじゃ合力の将が手柄を立てられないじゃない!?」

幸「晶、総大将が将の心を考えないでどうするの?」

晶「うっせー!誰が何と言おうと、私は水攻めをやる!そして勝つ!!」

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 晶達は、丸墓山の頂上に立ち、水田の中に建つ桜が丘城を見下ろす。

晶「城の右が利根川、左が荒川だ。この二つを結ぶ堤を築く。後は上流で川を決壊させれば……城は沈む!」ニヤリ

菖「二つの川を結ぶって……どんだけ長い堤を作るのよ」

晶「ざっと、七里(約28キロ)だな!」

菖幸「「七里!?」」

菖「殿下が備中高松の戦で築いた堤でさえ、三里半よ!?」

幸「その倍じゃない……」

晶「ああ。殿下はそれを十二日で築かれた。私は四日でやってみせる!」

菖幸「「四日っ!?」」

菖「何考えてんのよ……無茶だよ」

晶「十万人を昼夜兼業で四日間働かせる。殿下と同じやり方だ。昼は永楽銭六十文、夜は百文、それぞれに米を一升つける」

幸「そんなに払うの!?」

菖「ざっと八千四百貫文……銭のかけ方まで殿下をしのぐわよ?まぁ、今の私たちなら、あの頃の殿下より銭はあるけど……」

晶「よし、村という村に触れを出して、人数をかき集めるぞ!菖、できるか?」

菖「ま、まぁ……しょせん、銭に転ばない人はいないしね。あはは……」

幸「…………」ハァ

『晶殿!連れて参りました!』

晶「お、来たか。」

 晶が振り返ると、兵達と共にひとりの百姓が立っていた。

幸「晶、この子だれ?」

晶「桜が丘城下の百姓だ。成田唯親をよく知ってるらしい。おいお前!名前は?」

純「し、下桜村の純でございますっ!」ドゲザッ

晶「純か。なぜ成田唯親を知ってるんだ?」

純「はい……ふわふわ様は、野良仕事とあれば必ず手伝いに来られるんで」

晶「ふわふわ様ァ?」

純「あ、唯親様のことです。」

幸「なんでふわふわ様なの?」

純「そのまんまです。ふわふわと浮ついた感じで、まるで子供みたいなので、みんなふわふわ様と……」

晶「ぷっ……そいつが聞けば激怒するだろうな」

純「いや、面と向かって呼んでますけど、ちっとも……」

菖「あ~、何か納得。ちょっとアレな感じしたし」ウププ

晶「変わりもんだな、要は」ヤレヤレ

幸「(そんなに言われて平然としてるなんて……おもしろい)」


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夕刻――桜が丘城・佐間口
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やぐらの上で監視をしていた兵が、菖軍の退却を確認した。

曜子「秋山様!敵が逃げます!」

澪「うん……門を開けてくれ」

 門が開くなり、澪は外に飛び出す。荒れ果てた田んぼが、夕焼けに染まっている。

澪「(あんなに一斉に退いていくなんて……何かあるんじゃ)」


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