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湖上の澪達は、一心不乱に船をこいで、歌う唯へと近づいていく。
唯「♪私前世は~上方人~」ジャカジャカ
澪「唯ー!やめろーっ!!」
律「早まるんじゃなーい!!」
梓「戻ってきてくださーい!!」
紬「唯ちゃーん!!」
唯「♪一、二、三、四、ご・は・ん!」ジャカジャカ
~~~~~~~~~~~~~~
いちご「……一、二、三、四、ご・は・ん」ブツブツ
晶「さっさと撃てぇ!!」
いちご「オホン……御意」
幸「晶!お願いだからやめて!!」
晶「ゴチャゴチャうるせーっ!!デカ女は黙ってろ!!」
幸「で、デカ女……」シオシオ
菖「ああっ、幸がどんどん小さく!ちょっと晶!いくらなんでも酷くないっ!?」
幸「…………もういいよ。晶、ホントはね、成田家はすでに降ってるの。城主が殿下に内通の意を示したの。だから……戦わなくても勝てたのっ!!」
晶「な、なにィ!?」
菖「うそっ!?私聞いてない!」
唯「♪一、二、三、四、ご・は・ん!」ジャカジャカ
晶「……………………」
唯「♪一、二、三、四、ご・は・ん!」ジャカジャカ
晶「………………………………………撃て」
菖幸「!!?」
いちご「御意」
カチャッ ジリジリジリ……
幸「ダメェ!!!」
唯「♪一、二、三、四」
ニコッ
いちご「…え」
ダァ――――――――――――――ンッ!!!
唯「♪ご・は・」
バズッッ!!!
ッッ……
ッ…
…
バッシャ――――――――ンッ!!!
夜空に血しぶきの弧を描き、唯の身体は大きく吹っ飛んだ。
そのまま仰々しい水音を立てて、湖に落下する。
紬「ひっ……!」
梓「あぁ……あ……」
律「…………ゆ」
澪「唯ぃ――――――ッ!!!」
ドボーン! ドボーン!
澪達は次々に湖に飛び込み、唯の落ちたところまで一心不乱に泳いでいく。
水を朱く濁らせながら沈んでいった唯だったが、やがて力なく水面へと浮上していった。
澪「唯!唯ィ!!」
澪がいち早く、唯の身体に近づく。
唯「…………あ、澪……ちゃん」
澪「唯っ!急所は外れたかっ!!」
唯「……えへへ…………」ガクリ
澪「……唯のバカァ―――――――ッ!!!」
~~~~~~~~~~~~~~
菖「晶のアホ―――――ッ!!」ドゲシッ
晶「ぐえっ!何すんだこのっ!!」
菖「何で撃っちゃうのよ!何もしなくても勝てるって、幸が言ったじゃない!!」
幸「これでこの戦は泥沼……」シオシオ
晶「……フンッ!!どいつもこいつも私をみくびりやがってェ!!」
陣が一気に静まり返った中、昌はきびすを返してその場を去っていった。
いちご「…………あの子、何で笑った……」
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人夫「あ~あ、これでおしまいか。せっかく面白かったのによぉ」
純「…………」ボー
人夫「おい、どうした嬢ちゃん?」
純「…………上方軍め……」
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桜が丘城本丸居館・寝間
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唯は布団に寝かされている。それを澪、律、そして紬が見守る。
律「……とりあえず、一命は取り留めたな」
澪「ああ……でも、左肩を砕かれている。もしかしたら、一生上がらないかも……」
唯「…………う~ん……」
紬「唯ちゃん!気がついた!?」
唯「あいたたたぁ……」
澪「肩をやられてるんだから、ムリするな」
唯「……ねえ、城のみんなは?」
澪「兵も百姓も、上方討つべしと騒いでるよ……お前の狙い通りにな」
唯「狙い通り?どゆこと?」
澪「この期に及んでとぼけるなっ!」
律「死んで兵の士気を上げようとしたろ!」
唯「ほえ?」
紬「唯ぢゃん……」ワナワナ
唯「ムギちゃん……あれ?怒ってるの?泣いてるの?」
紬「……唯ちゃんのバカバカバカ!!死のうとするなんて許さないんだから!!」ブンブンブンブンッ
唯「あたたたた!!ムギちゃん、痛い痛い!!」ガクガクガク
澪「おい姫様!やめろ……」ガシッ
紬「いやぁっ!!」ブゥン!
澪「へっ!?」フワッ
ドグシャッ! ドスン! バリバリバリ!!
律「ああ!澪が吹っ飛ばされて、障子を突き破ったまま廊下まで!?おい姫!いいから落ち着け!!」ガシッ
紬「もうっ!!」グイッ!
律「なっ!?」
ブゥオォンッ! ゴキッ!!
律「うぎゃああぁっ!!肩が!肩が外れたああぁっ!!」ジタバタ
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その頃大広間では、兵と百姓達が大勢詰め掛け、息巻いていた。上座に立つ梓は、ぐいぐいと詰め寄られている。
『なんで今すぐ打って出ないんだ!』ワーワー
『ふわふわ様の弔い合戦だーっ!』ギャーギャー
梓「ですから、唯殿は死んでませんってば!あくまで手傷を……」
『舟に乗って夜襲を掛けるぞ!』
『上方軍は皆殺しよっ!!』
梓「ちょっと落ち着いてくださーい!はぁ、もうどうすれば……」
憂「みなさん、静かに!」
突如叫んだ憂の声に、百姓一同は、一斉に口をつむぐ。
憂「下桜村の憂です。さっき、村の水練上手の子を放ちました!もうすぐ堤に辿り着く頃です。その子が堤を崩します!!」
梓「い、いつのまにそんな……」
憂「うふふふふ……お姉ちゃんを撃ったやつらなんて、みーんな濁流に飲まれて死ねばいいんだぁ」ニタァ
梓「……」ゾワッ
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その頃――恩那堤
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ザバァ……
月明かりの下、菫が湖面から姿を現した。
菫「(堤は俵を積み上げて出来ている……ならば俵を幾つか引き抜けば、水が抜けるはず!)
菫は敵兵の目をかいくぐり、かがり火の明かりが届かない堤の陸側へと回り込む。
菫「(……これは?)」
堤の崖の部分に、人が一人入れるくらいの穴が、ぽっかり空いていた。
ゴソゴソ……
菫「(奥から何か来る!?)」
ヒョコ
純「……はー、はー、くそぅ……」ドサッ
菫「え……!う、うそ!?」
純「ス、スミーレ!?」
純菫「「どうしてここに!?」」
『ん、今何か聞こえなかったか?』
純菫「「(……しーっ!!)」」
純「な、何しに来たのよ、あんた?」ヒソヒソ
菫「命を受けて、堤を崩しに来ました……ふわふわ様の敵討ちです!」ヒソヒソ
純「……なら手伝って」ゴソゴソ
菫「どうして私より先に……?」
純「私が俵を外に出すから、スミーレは堤に沿って置いてね。見つからないようにね!」
菫「……侍が憎かったんじゃないんですか」
純「う、うるさいわねっ!///」ゴソゴソゴソ
純は照れながら、穴の中へ入っていく。そして、腰縄から抜いた小刀で、俵に穴を開け、中の土を抜いていく。軽くなった俵を引き抜くと、それを菫が穴の外へと運び出していく。
純「くそぅ、くそぅ……上方軍め、見てろ……よくも、よくもふわふわ様を……目にもの言わせてやるぅ……!」ザクッザクッ
菫「(……口ではいつも悪く言ってましたけど、やっぱりふわふわ様が好きだったんですね)」
純「くそぅ、くそぅ……百姓をなめるな……坂東武者の末裔を……」ザクッザクッ
ブシャアアアアァ!!
純「うわっぷ!!」
菫「み、水が出た!!」
ブシャアアアア―――――ッ!!
純「スミーレ!逃げてえぇ!!」
菫「きゃあああああっ!!」ダダダダダッ
菫は一目散に逃げ出す。穴の奥から純も這い出てこようとしたその時、悲鳴に気づいた敵兵が、穴から顔をのぞかせた。
敵兵「おい!何をやって……」
純「どいて邪魔邪魔ぁー!」
ゴボゴボゴボゴボ……
敵兵「なっ……水が
ドッパァ―――――――――――ンッ!!!
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晶の本陣
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大勢の兵がいる兵舎に、決壊した湖水が迫ってくる――
┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”・・・
『む、何だこの音は!?』
┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”・・・
『み、水だ!鉄砲水だあぁ!!』
『堤が破れたのか!?』
『に、逃げろお――っ!!』
┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”━━━━━━━━━━━━━━━・・・
洪水は轟音を立てて、立ち並ぶ兵舎も逃げ惑う兵達も、ことごとく飲み込んでく。
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┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”・・・
晶「な、何だ何だ!!」
濁流は晶のいる兵舎にも迫ってくる。外に飛び出した晶は、噴出してくる水を目の当たりにした。
晶「嘘……だろ!?」
『堤が決壊したあああ!!』
『水が!水が来る!うわあああああああっ!!』
晶「落ち着け!高地へ逃げるんだ!丸墓山へ急げぇ!!」ダダダダッ
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丸墓山
===
晶と兵達は、全身全霊、必死の形相で山の斜面を駆け上っていく。
晶「頂上だ!頂上へ早く!」ダッダッダッダッ
しかし――
┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”・・・
低くなだらかな山肌を、濁流はあっさりと飲み込んでいく。
晶「もうすぐ!もうすぐだぞ!!」ダッダッダッダッダッ
『ひいいいいいいぃっ!!』
晶「……よし!頂上だ!着いた着いたぞ!ここまで来れば……」クルッ
┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”┣”━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・・・・
晶「………………」
後ろを振り返った晶が見たもの、それは目の前で濁流が飛沫をあげて、後続の兵達を一人残さず引きずり込んでいく様であった。
晶「あ……あぁ……」ペタリ
晶は茫然自失となり、その場にへたり込んだ。
堤の決壊箇所は脆くも自壊し、水量はみるみるうちに増していき、山の周辺は一面の水で覆い尽くされた。
その一方で、桜が丘城を囲んでいた水はみるみるうちに引いていき、二の丸、三の丸までもがその姿を現していった――
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桜が丘城本丸居館・寝間
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澪「水が引いたって!?」
アキヨ「はいっ!堤が破れ、上方軍の陣に一気に流れ込んだと……」
律「マ、マジかよ!?」
澪「堤が破れた……はっ!?まさか唯……」
唯「……えへへ」ポリポリ
澪「水攻めを破るって、こういうことだったのか!?」
唯「城の外のお百姓さんも、みんな私達の味方だもん」ブイッ
澪「最初から士気を上げるのが狙いじゃなかったのか!気づかなかった……」ポカーン
この時、澪は確信した。
澪「(唯……やっぱりお前は底知れない将器を持った、稀代の名将だよ…………)」
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本丸居館・門前
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憂「ええっ!?純ちゃんが!」
菫「はい……でも、逃げる途中で見失いまして……もしかしたらそのまま水に……」ポロポロ
憂「純ちゃん……」
梓「…………」
澪「梓!どうしたんだ?」テクテク
梓「澪殿!こちらにいる憂の村の者が、堤を破ったんです!」
澪「そうか、よくやってくれたな。これで城は救われるぞ」
憂「はい……でも破ったのは、城の外にいた者で……戦に加わらず、村を逃げ出していたんです」
澪「そんなことはもういい。その者にお礼を言いたい。今どこに?」
梓「それが……」ヒソヒソ
澪「え…………そうなのか」
憂「…………」グスッ
ドド――――ンッ!!
澪「な、なんだ!?」
梓「堤の方からです!」
澪と梓は城塀までかけていき、外をのぞく。
ドド――――ンッ!!
ドドド――――ンッ!!
ザザザザザァ……
堤の数ヶ所で爆発が起き、そこから水が外に流れ出している。
澪「発破をかけて、水を抜いてるんだ……あいつら、攻めてくるぞ!」
梓「水が退いたら……また一戦ですね」
澪「みんな!守り口が水から出てきたら、すぐに持ち場に戻れ!」
『応!!』
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丸墓山頂上
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晶「城が……浮いていく……」
晶は、避難に成功した家臣達と共に、湖からゆっくり浮上してくる桜が丘城を、半ば放心状態で見つめていた。
菖幸「「晶ぁーっ!!」」
ずぶ濡れになった二人が、山を駆け上ってくる。
幸「晶、無事だった!?」
晶「…………ああ……」
菖「も~、何回びしょ濡れになればいいのよ……」グショグショ
晶「見ろ、あれを……いつだったか、殿下が言ってた浮き城が、今そこにある……」
菖「あ……」
幸「ごめん……内通のこと、黙ってて……」
晶「いいんだ……今となっちゃどうでもいい。奴らは名実共に私達の敵。私達は戦をして、緒戦に敗れた。それだけのことだ……」
幸「晶……」
菖「でも、なんで堤が破れたんだろう?殿下が備中高松で築いたものより、強くしたのに……」
敵兵「申し上げます!!」
晶「ん、どうした?」
敵兵「この者が、堤を破ったと白状してござりまする!!」ドサァッ
晶「なんだって!?」
純「やぁ、久しぶりね……敵の総大将さん……」ボロボロ
地面に投げ出された純は、手足を縛られたうえに暴行を加えられており、顔を真っ赤に腫らしていた。
晶「お前が……堤を破ったのか」
純「……」ブー
敵兵「応えろ!!」
純「……フンだ!!ふわふわ様を撃たれ、田んぼをダメにされた百姓が、黙ってるとでも思った!?ざまーみろ!猿にしっぽ振る犬共めっ!!」
敵兵「ななっ……!?」
菖「こ、この子何てことを……!」
幸「(……やっぱり)」
敵兵「無礼者!今ここで斬り捨てるっ!!」
純「望むところよ!!」
晶「やめろっ!!」
敵兵「はっ……?」
晶「幸、これがあの時、お前が止めた理由か」
幸「……」コクリ
晶「利に転ばない奴がここに……これが、成田唯親の策か…………
……ちっくしょおおおおおおおーっ!!!」ガスッガスッガスッガスッ
菖幸「「!!」」ビクッ
晶「こいつは放せ!水攻めを破ったのはこいつじゃない……成田唯親だ!絶対に、絶対に奴を倒すっ!!」
菖幸「(ほ、本気だ……)」
晶「全軍に伝えろ!水がはけたら、総攻撃をかけるっ!!」
最終更新:2013年03月03日 21:24