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その頃――小田原城天守閣内
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大広間の真ん中で、さわ子が平伏している。
上段の間には氏政と、その息子で現当主の氏直が物凄い形相でさわ子を見ている。

氏直「この書状を見ろ!」バサッ

さわ子「(やっぱりバレたか……上方軍の報復ね)」

氏政「そなたが関白に送った密書らしいな。昨夜、城内に打ち込まれていた。まことではあるまいな?」

さわ子「……ええ、これは本物よ」

氏直「おのれ、ぬけぬけと!」

氏政「北条への恩を忘れ、猿に寝返るなど言語道断だ!!」

さわ子「……ごちゃごちゃうるせえんだよ!!!」ウガー

氏直・氏政「ひいぃっ!?」

さわ子「お前ら、天下の大半を収めた関白に抵抗して本気で勝てると思ってんのかァ!?お前らがそんな無能だから、私達下のモンがいつもいつも迷惑こうむってんだろうがアァッ!!」ファーック!

氏政「貴様……申したな!!」

さわ子「ハン!あんたがヅラだってことぐらい、関東の武将はみんな知ってるのよ!!」

氏政(堀込)「う、嘘ぉっ!?」コソコソ

氏直「き、貴様、父上になんてことを!者共!こいつを捕らえよ!!」

『ははっ!』ドドドッ

 氏直の声を聞きつけ、北条家の家臣達が大広間に乱入し、さわ子を押さえつける。

さわ子「……バカね。あんたは後世、暗愚と罵りを受けるわ」

氏直「ふん、言いたいことはそれだけか!今すぐ首をはねよ!」

氏政「……待て、外から何か聞こえないか?」

氏直「外から?」

 ガラガラッ

氏直「なっ……!?」

 そこから見える笠懸山の斜面は、香奈の軍勢の旗で、極彩色に彩られている。

『えいえい、おーぅっ!!』
『えいえい、おーぅっ!!』

 兵達が、小田原城まで届く鬨の声を上げる。


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笠懸山頂上
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香奈「小田原城の者共、見てるかしら!ウフフフフ……」

 香奈の背後には、天守閣がそびえ立っている。

香奈「さぁみんな、一斉に切り倒すのよ!せえーの!!」

『応!!』

 頂上近くの斜面にいた兵達が、構えていた斧を振りかざし、一斉に木を切っていく。

 カーン! カーン!

 カーン! カーン!

 カーン! カーン!

 …………

『倒れるぞー!!』

 木々が一斉に傾き出し、兵達は頂上に向かって駆けていく。

 ドシーン!! ドシーン!!

 ドシーン!! ドシーン!!

 ドシーン!! ドシーン!!

 …………

香奈「どうだー、見たかーっ!」ババーン


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再び、小田原城天守閣
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氏直「こ、これは……」

氏政「そんな馬鹿な……」

 木々が倒れ、土煙が舞い上がる笠懸山の頂上に、城が出現した。

氏政「い、一夜城……」ポカーン

氏直「上方軍の城が、あんなに近くに……」ポカーン

さわ子「(あ、今のうちにずらかろう)」コソコソ

家臣「待て、内通者め!」

氏政「もういい、去りたい者には去らせよ……」

さわ子「長らくお世話になりました~」ノシ

氏政「……相手が悪すぎた」ガクッ ヅラポロリ

氏直「ち、父上!頭が!も、者共!見るでない!」

 こうして、北条家は香奈に降伏し、小田原城は落城した。氏政は切腹して果て、氏直は高野山に幽閉され、翌年大坂で死んだ。ここに、戦国大名北条家は滅亡した。

 なお、上方軍に投降したさわ子は、小田原征伐が達成されたことで、お咎め無しとなった。後に蒲生氏郷の預かりとなって会津に移住することになる――


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再び、桜が丘城
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長野口に再び陣を敷いた律は、桜川を隔てて対峙する幸の陣を眺めていた。

律「げ!あいつら、田んぼを埋める気か……」

 足軽達が、土俵を担いでいる。堤に使われていた土俵である。その土俵を、田んぼへと次々に投げ込んでいく。

一方、下桜口でも――

梓「(田んぼを埋めるのは、ここみたいな城を攻める時の常套手段……正攻法で来られては、勝ち目は薄い!)」

 やはり深田に土俵が次々と投げ込まれていく。その上を兵達が進んでいく。

晶「もう逃げるわけにはいかねえ……力で完璧に叩き潰す!!」ギンギン

そして、佐間口では――

澪「ついに総攻撃が始まる……」

 馬上の澪が険しい顔で見つめる先には、菖の大軍が布陣している。こちらはすでに、直線上の田んぼは土俵で埋め尽くされていた。

澪「ここからは本当の地獄になるぞ……」

憂「望むところです!打ってでましょう!」

澪「憂ちゃん……戦なんてつまらないことで死んだらダメだ」

憂「何言ってるんですか!私達は最後の一人になるまで、戦い抜きます!お姉ちゃんのために!!」

『そーだそーだ!』

『すべてはふわふわ様の為に!』

『死ぬのが怖くて、戦ができるかー!』

澪「(みんな正気じゃない……唯に心酔するあまり、自分を見失ってる!!)」ゾクッ

憂「さぁ澪様!総攻撃を!」

澪「やああぁっ!!」ブオォンッ!

 スパーン!

憂「ああ、私の槍が!澪様、なぜです!?」

澪「……百姓のみんなは、持田口から落ち延びろ。士分のみんなは、全力で百姓達を守れ」

憂「そんな、嫌です!私はここで死にます!」

澪「自分から死にに行くなんて馬鹿のすることだ!!いいからみんな、さっさと行けぇーっ!!」ブオォンッ!ブオォンッ!

『うわあああァっ!』ザザザザッ

澪「(……これでいいんだ)」

 兵や百姓達を追い払った澪は、馬首を門の方へと向け、敵陣へと闊歩していく。

憂「澪様!何をするつもりですか!」

澪「もちろん、戦うんだよ……私だけで」ザッザッザッ

憂「どうしてです!?そんなことするのは馬鹿だと言ってたのに!」

澪「それは……私が馬鹿だからだよ」ニコッ

憂「……!」

 憂に笑顔を残すと、澪は一人城門をくぐり、ゆっくりと敵陣へと向かっていく。

澪「(結局、一番唯に心酔してるのは、私なのかもな……)」ザッザッザッ

『単騎で誰か来るぞ!』

『あれは――黒い甲冑に朱槍!』

『し、漆黒の魔人だァ!』

 澪の参上に、先鋒の足軽達が恐れおののく。

菖「来たわね、澪ちゃん……武勇は認めるけど、果たして一人でこれだけの人数を相手に、生き延びられるかしら?」

澪「(……唯だって、命をかけてまで水攻めを破ったんだ。私だって……命をかけて領民を守る!)」

菖「たった一人を相手に、大軍が臆することはないわ!みんな、かかれぇーっ!!」

『うおおおおーっ!!』ドドドドドド

 意を決した兵達が、槍を構え、突撃を始める。

澪「(律、梓、姫、唯……みんな、許してくれ…………)」

 目をつぶり、静かに息を吸うと、澪はただ前だけを見つめ、馬を疾走させた。

澪「……やああああああぁぁーっ!!」

 ドドドドドドドド……
ドドドドドドドド……

『双方、待たれよ!待たれよー!!』

澪「えっ!?」

菖「ん!?」

 澪と菖軍の間に、突如、一騎の騎馬武者が割って出た。

澪「誰だお前は!」

騎馬武者「それがしは関白殿下の使者!双方、この先の戦は無用じゃ!小田原城は七月五日、落城致した!」

澪「な、なんだって……!?」

 澪は全身の力が抜けていくような気持ちになった。

澪「(負け、か……)」

 構えていた槍を、ゆっくりと下ろす。

澪「(でも……これで戦が終わる!)」

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 関白の使者から、氏直のしたためた書状を受け取った澪は、それを唯のもとへ届けるため、馬を走らせる。

澪「(こうなったからには、唯には一刻も早く降伏をしてもらわなければ……!)」パカラッパカラッ

律「澪ーっ!」パカラッパカラッ

梓「澪殿ーっ!」パカラッパカラッ

澪「律!梓!お前達も小田原の件は聞いたか!」

律「ああ。本当はもうひと暴れしたかったけどな……」

梓「御屋形様は無事だそうです!北条家が降伏する前に、城を抜け出されたらしいです」

澪「そうか、良かった……あとは唯に降伏をしてもらわなきゃな」

 三人は並んで馬を走らせ、本丸の居館へと向かっていった。


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本丸居館・寝間
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唯「こ、これは……!」

 布団から半身を起こした唯は、小田原からの書状に目を通す。

紬「唯ちゃん…………」

梓「…………」

律「…………唯、分かっただろ……」

澪「そういうことだ…………だから……」

唯「達筆過ぎて読めな~い」エグエグ

澪律梓紬「だああああああああっ」ズコー!

律「あのな唯……要するに北条家は関白軍に負けを認めたってことだ」

唯「ほえ~……」

澪「唯、こうなったらどうしようもない。天下はもう関白のものだ。このまま戦を続ければ、天下の兵を敵に回す。兵も百姓も皆殺しになるぞ」

律「……開城だな」

梓「ですね……」

紬「うぅ……みんな……」シクシク

唯「いや……まだ戦は終わってないよ」

律梓紬「!?」

澪「バ、バカなこと言うな!領民が皆殺しになってもいいのか!?」ドンッ

唯「違うよ澪ちゃん……みんなを助けるための戦が残ってるんだよ」

澪「……え?」

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『桜が丘城は開城に決した。速やかに軍使を立てられよ――』

 その知らせを受けた晶は、菖と幸、数十人の家来と共に、軍使として城へ向かっていた。

晶「…………」ボーッ

菖「いやー、まさか支城の前に、本城が先に落ちるとはね」

幸「私達が苦戦してるうちに……さすが殿下は仕事が早いね」

晶「…………」ボーッ

菖「おーい、晶ー?」

幸「真っ白に燃え尽きてる……」

菖「無理もないか。あれだけ桜が丘討伐に燃えてたのに」ヤレヤレ

晶「……負けた……一度も勝てなかった……」ブツブツ

菖「コラ!軍使はもっとしゃんとしろー!」ドゲシッ!

晶「ぐえっ!痛ぇなこの!」

菖「そうそう、それでこそ晶だ!」イシシ

幸「でも……開城したと言っても、敵の城に総大将が乗り込むなんて、大丈夫?」

晶「……会ってみてえんだよ。二万の軍勢を退けやがった総大将に」

菖「まさか名乗るつもり?」

晶「名乗る!」

菖「殺されても知らないわよ?」

晶「そんなやつが、正面から戦を仕掛けて来ねえよ……」

幸「(……晶も、成田唯親に魅せられたんだね)」クス


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桜が丘城本丸居館・大広間
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上段の間に着座する晶・菖・幸。
その目の前には、成田家の家臣達がずらりと居並んでいる。澪・律・梓の姿もそこにある。
 そして、先頭には肩に晒しを巻いて、腕を吊した唯が座っている。

唯「いや~、こんな格好で面目ない。桜が丘城城代、成田唯親です。えへへ…」

晶「総大将、石田三晶だ」

澪「えっ!総大将!?」

律「いい度胸してんな、オイ」

晶「こっちは長野口を攻めた大谷幸継、こっちは……戦の前に会ってるだろ。菖束正家だ」

菖「やほー!澪ちゃん、相変わらず胸おっきいわね~」

澪「も、もうそれはいいだろっ!///」カーッ

律「へへっ、澪の胸は桜が丘の宝だぜ」ムニュッ

澪「ひゃうっ!!」ビクンッ

菖「それを言うなら、こっちには幸がいるもんね~!」モニュッ

幸「(菖、あの子ともう意気投合してる……)」

澪「和議の場でふざけるなっ!」バコンッ!

律「あいたっ!澪こそ、和議の場で暴力ふるうな!」

晶「おい……そろそろ本題に入っていいか」ギロッ

澪律「は、はいっ!」ビクッ

晶「早速だが、開城の条件を出す。士分の者や百姓は、全員すぐに城を出ろ。百姓は村に戻し、士分は所領を去れ。ただし、武士をやめる者は残ってもいい」

唯「うん、分かった!そんだけでいいんだね?」

晶「へっ?」

 あまりにあっさりと承諾をした唯に、昌は面食らった。そして、同時に失望もした。

晶「(何だよ……あれだけの戦をしたやつだから、どんなこと言って巻き返すかと思ってたのに。落城となれば、素直に従っちまうんだな……)――あ、ああ。それだけだ」

菖「(ん?晶、アテが外れて残念そうだな……そーだ!)」ピーン

 その時、菖は場をかき乱すことを思いついた。

菖「いや、条件はまだあるわよ!」

晶「はっ?」

菖「士分は全財産を置き捨てたうえで所領を出なさい。刀も槍も兵糧も、ぜーんぶ!」

『なっ……!』ザワザワ

澪「待ってくれ!それはいくらなんでも……」

律「そんな和睦の条件、聞いたことねーぞ!!」ブーブー

菖「天下は改まったのよ?新しい習慣は、殿下が作られるわ!」フフン

晶「おい菖!どういうことだよ!」ヒソヒソ

菖「無様な戦をしたんだから、戦利品くらい無きゃ、殿下に顔向けできないでしょ?」コソコソ

晶「ぐっ……そりゃそうだけど……」

菖「(条件はこれくらい無茶でなくちゃ……頑張って、晶!)」

律「てめー!城のやつらは飢え死にしろってか!」ガタン

唯「まあまありっちゃん、落ち着いて」

律「唯も何とか言え!」

唯「えっ!?んとね、えっとね……こ、これから言うところ!」グルグル

澪「何を言うんだよ!だいたい、唯がモジモジしてるから、私達が言ってるんじゃないか!!」

梓「あ、あの……唯殿が何か言うというなら、ちょっと聞いてみませんか!?」アタフタ

晶「(何なんだこいつら……)」

菖「(これは予想外だわ……)」

幸「(……面白い)」

律「何を言うってんだよ!また戦でもやるってか?」

唯「そう!それだよ、それそれ!」

澪律梓「…………え?」

晶菖幸「「「…………え!?」」」

唯「えっと、晶ちゃん?」

晶「あ、晶ちゃん!?」

唯「お城のものを持ち出せないのなら、家臣さんやお百姓さんに持たせるお米もないから、みんな飢えるしかないんだよ。ご飯を食べられないって、すっごく辛いことだよ……そうなるくらいなら、私達みーんな、お城に立てこもって戦うから!」

晶菖幸「「「なっ!!?」」」

唯「こっちには、澪ちゃん、りっちゃん、あずにゃん、他にも強ーい家臣さん達がいっぱいいるんだよ。まだ戦したいなら、思いっきり相手してあげるから……すぐに陣に戻って、軍勢を差し向けてねっ!!」フンスッ

澪律梓「「「!!?」」」

信代「そーだそーだ!私達は戦うよ!」

姫子「たとえ、最後の一人になってもね!」

三花「えいえい、おーっ!」

『えいえい、おーうっ!!』

澪「(みんな……)」

菖「(やば……ひょっとして余計なこと言っちゃった?)」ガーン

幸「(ホント、この子はたいした将器だね)」クス

晶「(……やっぱり、こいつが二万の軍勢と水攻めを破った張本人だな)」ニヤリ


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