三花「真鍋さん……?」
和「そ、あなたの真鍋さんです」
軽口を叩きながらも和の表情は険しい。
帯刀していた『桜花』に手をかけてそのまま抜刀、腕をしならせる。
和「これ以上の喧嘩は私が出張るわ」
殺戮の光が刃に宿り、闇夜を照らした。
三花「…………」
和「ん、取り敢えず今はそうやって大人しくしててね」
口をもごもごさせながらも押し黙る三花を余所に、和は折れた木にもたれた純に問い掛ける。
和「この状況に至った理由を説明して」
純「え、なんかそこの方がギラギラしてたから取り押さえようとしたらこうなりました……」
和「え」
純「え?」
和「つまり佐伯さんは何もしてないって事……?」
純「え……。いや、その……」
和は引きつった表情を浮かべ、三花に向けた刀を下ろした。
純は身の危険を察知して、直ぐに逃げ出せるように立ち上がる。
純「まぁ……。そうとも取れます、かね。あははは……」
純が摺り足でその場から離れようとするのを、和は見逃さなかった。
和「っ! 待ちなさい!」
純「やば──っ!?」
純を逃がすまいと和は飛び出した。
逃げられない事を悟った純は固く目を閉ざすが……。
純「え?」
その刹那、鳴り響く甲高い金属音は純を困惑させた。
うっすらと目を開くと、眼前で三花の拳と和の刀が鍔競り合っていた。
三花「私を無視しないでよ……」
瞳を爛々と輝かせ、三花は乱暴な動作で蹴りを放つ。
和「っ!?」
躱す事は不可能だと察した和は咄嗟に身を屈め、左手と刀の柄を使ってその蹴りを受けた。
和(重い──っ!)
人間のそれとは比べ物にならない桁外れの威力。
たとえ象に踏み付けられたとしてもこんな衝撃は起こるだろうか。いや、断じて起こらない。
純「やっぱり私は正し──」
和「黙ってなさい!」
和は即座に気持ちを闘いに切り替える。
膨大な闘気の奔流が木々をざわめかせた。
三花「黄色……? 凄く濃い……」
うわ言のような三花の呟きに和は機敏に反応した。
和「……見えるの?」
常人では視覚する事すらままならない闘気。
その存在を認識し、己の力として操る事が出来るのは『絶対の彼方』を越えた達人だけだ。
和(探りを入れてみようかしら)
闘気を感じられない敵から闘気を仄めかす発言が零れるという地雷原のように曖昧模糊としたこのシチュエーション。
和は警戒こそすれど、その状況に臆することなく踏み込んでいった。
三花「うわっ、凄い!!」
無邪気な反応を示し、迎え撃つのは三花。
闘気を纏った光刃と鋭い貫手が衝突する。
平沢 憂すら貫いた光刃が闘気も扱えない少女の生身の拳と均衡を保っていた。
和「…………」
内心驚愕していた和だが、それを面に出す事はない。
光刃は拡散し、辺りの地面を爆散させる。
三花「え?」
拍子抜けした三花の声に少し遅れて、大地が光り輝いた。
純と三花にはその光の正体は分からない。
だが戦士としての直感が警鐘を鳴らす。この場に居てはならないと。
純「──やばいやばいやばいっ!!」
先の戦いにおけるダメージが若干残っていたが、生存本能が純の身体をつき動かす。
純「もう帰りたいよーっ!!」
純の背後で爆風が巻き起こり、砂塵が舞う。
和の闘気の色は黄色。つまり大地を司る力だ
本来その能力は地脈に流れる僅かなエネルギーを集め、己の力として還元する能力なのだが、和クラスの使い手となるとその力は様々な多様性を見せる。
地脈のエネルギーを物体に纏わせて破壊力を高め、或いは自分自身に纏って鋼の如き防御力を得る。
先程の大地の爆散は地脈のエネルギーを転換する事なくそのまま暴走させ、破壊に転じさせる技なのだ。
和「これでまだ動けるなら大したものよね」
大地の奔流に成す術なく飲み込まれた三花。
だが彼女の野獣のように狡猾な生存本能がここで散る筈がない。和はそう確信していた。
和は刀を大きく薙ぎ、真横に構えて目を閉じた。
奔流していた闘気が桜の元に集い、光の剣が形成される。
直径百メートル、最高レベルにまで錬磨されたその力を。
和「出てきなさい!」
足を軸にして一回転に振るった。
木々は済し崩しに倒れてゆき、刃の軌道を追うように地脈エネルギーが暴発する。
純「あわわ……。目がイッちゃってるよあの人……」
倒壊する木々の隙間を縫って安全地帯に逃げる純。
ふと後ろを振り向くと据わった目をした和がいた。
純「っ!?」
和の頭上に現れた影を見て純は驚愕する。
『獣王』が、佐伯 三花が傷一つ負わずに和に食いかかっているではないか。
和「そう来てくれるわけね」
自分の技が全く効いていない事には驚いたが、和はここで自分の勝利を確信した。
刀に纏わせた闘気を解除し、それを頭上に投げる。
三花「っ──!?」
三花は和のこの行動を予想していなかった。
剣術使いにとって刀とは己の命を預ける言わば自分の映し身のようなもの。
それを躊躇無く敵に投げ付ける剣術使いなど、三花が今まで闘ってきた中には一人も居なかった。
刀は刀身を逸すことなく切っ先を向けて自分の胸を狙ってきている。
躱す? 無理だ。空中で、しかも攻撃に転じた姿勢はそう簡単に覆せるものではない。
ならば残された道は一つ。
三花「うぐっ……!」
三花は鈍色に輝く刀身を掴む。
掌の肉を裂いても刀の勢いは収まらない。
切っ先が胸に届く寸前に、三花は身を捩らせる。
肩口にざっくりと食い込む事で、『桜花』は動きを止めた。
三花「いっ……たいなぁ……っ!」
丸腰の和の前に降り立ち、ぎらついた瞳で睨み付ける。
そして攻撃手段を失った和の首筋目掛けて爪を突きたてようとした。だが……。
三花「かは──っ!?」
鳩尾に鈍い衝撃、三花がそれが和の蹴り上げによるものだと気付いたのは、和の拳が自分の頬に捩じ込まれてからだった。
三花は身体が後ろに飛ぼうとしているのを察知するが、行動を起こせない。
肩口に刺さった刀に手をかけられている事に気付いていても、何も出来ないのだ。
和「あなたの敗因はただ一つ。シンプルな答えよ」
躊躇無く、三花の肩から刀を引き抜く。
夥しい量の鮮血が噴き出した。
和「あなたは、痛いほどに弱過ぎた。私を相手にするにはね」
自然と和から離れてゆく自分の身体。
舞い散る鮮血の向こうで眼鏡をくいっと上げてほくそ笑む和の顔が、三花には悪魔のように思えた。
純「そこは『テメーは私を怒らせた』でしょーに……」
安全地帯で軽口を叩く純。
だが彼女も、
真鍋 和という完成された戦士の脅威に身を震わせていた。
刀についた血を払いつつも、和は警戒の糸を切らさない。
佐伯 三花、彼女が『獣王』と呼ばれる所以を少なからず把握しているからだ。
三花「うぅ……」
呻き、肩を押さえながらも三花は立ち上がる。
表情は眉間から吹き出た血に覆われてよく見えない。
和「そろそろ降参したら? いつだって獣は人に虐げられるものなんだから」
帝王の私には敵わない、そう付け加えると和は姿を消した。
その直後に三花の眼前に現れ、腰に差した鞘で喉を突いた。
和「ごめんね、ちょっと痛いかも」
そして三花の頭を躊躇無く踏み付ける。
三花の頭を中心に大地はひび割れ、そして。
三花「~~っ!?」
大地は輝き始めた。
痛いどころではない。下手をすれば首から上が木っ端微塵に吹き飛んでしまうかもしれない。
忍び寄る死の恐怖が三花を焦躁に駆らせた。
和「カウントしてあげるから歯を食いしばりなさい。さーん」
今の三花にはその配慮が嫌がらせにしか思えなかった。
和「にー」
出鱈目に身体を動かすが頭部はがっちりと固定されて動けない。それどころか更に地面にめり込んでいるような気がした。
和「いーち」
大地が一層強く光り輝く。
もう無理だ。いくら身体を動かしたところでこの場から逃れる事は不可能なのだろう。
そうして三花は考えるのを止めた。
和「ぜーろ」
声の抑揚は全く変わらない。
ただ作業のように三花の頭部を踏み付ける足に力を込めた。
土砂が巻き起こり、砂塵が吹き荒れる。
大地はそこにある全てのものを蹂躙し、食らい尽くした。
和「……何でいつも一筋縄ではいかないのかしら」
強者故の驕り。
確かに無かったとは言えない。
だがあまりにもタイミングが良過ぎるのではないか、と和は苦笑した。
舞い上がった粉塵が一陣の風に吹かれ、辺りは晴れた。
そこには佐伯 三花を含め、三人の少女がいた。
「手ぇ煩わせちゃったみたいだね。ごめんなさい」
「こっちの不手際……かな? まぁ無事でなにより」
褐色の肌の少女が和に対して舌をぺろりと出して頭を下げた。
それに続いて色白の冷たい雰囲気を醸し出す少女が僅かに頭を下げる。
和「巻上さんに、砂原さん……」
巻上 キミ子と砂原 よしみ。桜高生徒序列では五十位に入っているかいないか、そんな微妙な位置付けにいるこの二人がこの場に介入している事に、和は不信感を覚えていた。
和「理解に苦しむわ。悪いけどこの状況について説明してくれる?」
和は極太の鋼鉄製の鎖でがんじがらめにされ、二人に拘束されている三花を一瞥してから上を見た。
和「立花さん」
和の視線の先には衝撃で倒れかけた大きな木。
そしてその頂点で威風堂々と佇む姫子が居た。
姫子「……いつから気付いてた?」
和「その子が私の頭上を突いた時よ。敢えてカウントしたのはあなたの出方を見る為」
溜め息が出るほどに美しく佇む姫子を見据え、和はそっと頭を掻いた。
和「まぁ、そこの二人はノーマークだったんだけどね」
肩から血を流しながらうなだれる三花。
だが二人は容赦無く鎖を持つ手に力を込めている。
姫子「……それにしても大したものだね。私に牽制しながら『獣王』をこんな僅かな時間で屈服させるなんて」
さっと髪の毛を払って、姫子は木から飛び降りた。
その拍子に木は遂に崩れ落ちる。
和「降りてこいとは言ってないわよ」
言い終えるよりも速く、和は『桜花』を姫子に向けて飛ばしていた。
『桜花』は鈍色の輝きを放ちながら姫子目掛けて直進してゆく。
姫子「危ないなぁ……」
姫子はそれをぎりぎりまで引きつけて躱した。
和はそれを確認してにやりと笑う。
純「人使い荒いなぁ、もう!」
丁度姫子の後ろで純が身構えていた。
器用に刀の柄を掴み、大きく跳躍する。
純「九頭龍閃!!」
九つの閃きが姫子を襲う。
刹那に打ち込まれたその斬撃の一つ一つには赤の闘気が練り込まれていた。
姫子「やばっ!?」
咄嗟に風を巻き起こし、刃の軌道を逸らそうとした姫子だがそれは逆効果となった。
赤の炎は風を飲み込み、爆発を巻き起こす。 だがそれに易々と飲み込まれる姫子ではない。
身体をブリッジの要領で大きく反り、そのまま地面に手を着いてそこを軸に足払いを放つ。
純「もらいいい──っ!!」
大きく体勢を崩しながらも純は歓喜した。
刹那に取った体勢は突きの構え。
刃には赤の闘気が溢れている。
純「超! ゴールデン中華斬舞!!」
爆炎を起こしながら放たれるは無数の突き。
不安定な体勢の姫子にそれを防ぐ術は無い。
姫子「──っ!」
意を決した姫子は斬撃の渦中に手を突っ込んだ。
姫子が掴んだ刃は掌を裂き、高熱で肉を焼く。
姫子「あつっ!」
一瞬だけ苦悶の表情を浮かべる姫子だが刀を掴む手を緩めたりはしなかった。
二人は同時に地面に倒れ、動きを止める。
純「あー……。ごめんなさい和先輩。無理です、勝てません」
姫子「……性格悪過ぎ」
純は手首を返し、和に『桜花』を投げ渡した。
その一連の動きを確認すると姫子はジト目で純を睨む。
和「そうかしら? 裏表の無い良い子だと思うけど」
姫子「本気でそう思ってるなら大したもんよね。あーエゲツないエゲツない」
姫子は地面に大の字に寝そべって、力無く手を振った。
闘う気など更々無いのだろう。ただ不貞腐れた顔で溜め息をついている。
姫子「黄色だった闘気が目を離した内に赤……。意味分かんないよ」
純「その気になれば青と緑もいけますけどね」
純は得意げな笑みを浮かべながら姫子の身体に手足を絡ませた。
純「かくほでーす」
姫子「…………」
姫子は抵抗する気力も無いのか、ただ呆れたように溜め息をついた。
しかし和はそれ以上に呆れていた。
厳かな雰囲気を良しとする和にとって、今の状況はシュールを通り越して理解不能だ。
姫子「私……。君の事嫌いだな」
純は姫子の呟きに耳を貸さず、無邪気な笑みを浮かべている。
純「やっぱりおいしいところは私のもの!」
純は歓喜の叫びをあげた。
和「じゃ、聞かせてもらおうかしら。どういう了見でこんな厳戒体制を張ってたの?」
姫子「だからギスギスした話じゃないんだって。私達は敵じゃないし、むしろ味方になりたいと思ってる」
姫子は身体を絡めてくる純を鬱陶しそうに払おうとする。
だがその上から更に纏わりついてくる純に苛立ちを覚えていた。
太股同士が触れ合う冷たい感触に、姫子は背筋を震わせた。
姫子「んっ……。もう……。離れてったら!」
純「どうしますー?」
姫子の意見には聞く耳持たず、純は和に問うた。
和「……離して良いわよ」
少しだけ考え込むような動作をして、和は大きく頷いた。
純「はーい」
軽い返事をして純は立ち上がった。
その拍子に姫子の首筋に一瞬だけ舌を這わせる。
姫子「ひゃっ!?」
舐められた部分を抑えて咄嗟に立ち上がる姫子。
その顔色はみるみるうちに高揚してゆき、紅葉のような赤みを帯びている。
姫子「……大っ嫌い!」
年下に弄ばれているというシチュエーションに、姫子は憤った。
純「ふっふーん。こりゃ嘘を吐いてる味ですよ、なーんてね」
目を細め、見た目に不釣り合いな艶めいた笑みを浮かべて純は言う。
純「私は好きですよ。丁度良い喧嘩相手になりそうだし」
姫子は恥ずかしさのあまり逃げ出したくなる衝動に駆られた。
ほんの一瞬だけ満更でもないと思ってしまった自分を切り刻みたくなる。
姫子「……馬鹿」
純が姫子の呟きに対して何か返そうとした時、大地が大きく揺れた。
和「話すの話さないの。どっちなの?」
眼鏡越しに据わった目で二人を見つめる和。
蚊帳の外に居る事に耐え切れなかったのだろうか、手持ち無沙汰に『桜花』を手首で振るっている。
純「あっはは、怒られてます──うわっ!?」
純は執拗に姫子に絡もうとした。
だが丁度二人の間の狭い隙間を縫うように光刃が叩き付けられる。
和「ど っ ち な の ?」
姫子は素直に戦慄した。
純はもう自分は喋らない方が良いかもしれないと悟った。
姫子「話します……」
姫子は両腕で肩を抱きながら答える。
その様子をキミ子とよしみは冷めた目で見据えていた。
キミ子「私、立花さんに協力するの止めようかな……」
よしみ「……同感」
三花を縛る鎖を持つ手が緩んだ。
その気になれば容易く脱出出来る筈なのだが、三花はそれをせずに周りに合わせて溜め息をつく。
三花「なにこの状況」
キミ子「お前が原因だ!」
三花「いてっ」
軽く小突かれた三花ははにかみながら舌を出した。
和につけられた肩の傷は既に塞がっている。
所変わって姫子がよく利用する喫茶店。
コーヒー豆の香ばしい匂いが室内に立ち込め、立ち寄る者に安堵感を与える。
和「疑似的に『絶対の彼方』を越えた人体。そしてそのプロトタイプってわけね」
店の隅で毛布にくるまり、カップに注がれたココアを啜る三花を眺めながら和は言う。
姫子「そう。あの子の身体は特別製だから、その身体の秘密さえ分かれば力の無い子でも『絶対の彼方』を越えられるかなと思って、ね?」
純「『獣王』ですか……。制御不能のキワモノって感じですけどね」
純はうさん臭そうな面持ちでコーラフロートのアイスを一口で頬張った。
姫子「でもやってみる価値はあるでしょ」
横目で純を睨みつつ、姫子はコーヒーに口をつけた。
エスプレッソの濃い香りが苛立ちをほんの少しだけ緩和させる。
和「確かに……。でも容易な事じゃないわよ?」
姫子「それも分かってる」
和は純粋に姫子の事を心配して言ったのだろうが、それも一蹴される。
和「解せないわね。そこまでして一般人に『絶対の彼方』を超えさせる事に固執するのは何故なの?」
姫子「全ての乱れを静めるためだよ」
意志が込められた強い言葉に和は思わず身を引いた。
それが
立花 姫子の矜持なのだろう。
群雄割拠の桜ヶ丘高校のトップランカーに君臨しながらも、私闘を善しとしない穏やかで優しい性格。
彼女が纏う緑色の闘気が鋭利な刃ではなく、全てを包み込む穏やかな風であるのもそこから来ているのだろうか。
和「越権行為よ。それは生徒会の仕事であってあなたの仕事じゃない」
姫子「それじゃあ唯は止められないよ」
即答して、空になったコーヒーカップをテーブルにおく。
そして姫子は一際険しい顔つきで言った。
姫子「それに唯の妹さんも、このまま放置しておくには危険過ぎる」
和「……あの子はイレギュラーなのよ」
姫子「それじゃ駄目なんだよ!」
和「…………」
テーブルを強く叩く姫子。
彼女の真剣さを痛いほどに理解した和は何も言い返せなかった。
姫子「……ごめんね。でも自分じゃ太刀打ち出来ない力を諦めて放置するのは、ただの思考停止だと思うんだ」
姫子は一呼吸置いて言った。
姫子「イレギュラーがイレギュラーたる原因は、観測者の力量不足だよ。諦めなければきっとあの子達に届くから……」
後半は悲痛の叫びだった。
唯が居ない今の状況を作り出したのはあの日関与していた者全員、つまり自分と自分の友人達の力量不足。
責任感が強い姫子にとって、突き付けられた現実はあまりにも無情だった。
姫子「唯を取り戻す事、そしてその後の治安維持を私達に……協力させてほしいの」
元より姫子の声しか響かなかったこの空間が、更に水を打ったように静まり返った。
和「…………」
和はしばらく考え込むような動作をしていた。
唯と幼馴染みである自分。そして生徒会長である自分が心の内で責めぎあっている。
純「良いんじゃないですか?」
閉口しきっていた純がここで口を開いた。
純「イレギュラーがイレギュラーたる原因は観測者の力量不足。そこは全面的に同意ですよ。それにこのままだらだらやってるのも私らしくないし」
和「……でも」
純「それとも天下の『女帝』がビビってるんですか? 笑えない冗談ですね、それ」
内心苛立った和だがそこはぐっと堪えた。
和の心境を察したかのようにせせら笑う純は言葉を続ける。
純「勝ちの目は1パーセントくらいが丁度良いんですよ、それ以上は楽しくない。安全装置無しでジェットコースターに乗るくらいの気楽な気持ちでやりましょうよ」
和「……無謀過ぎるわよ」
とは言うものの、和の表情は穏やかなものだった。
それを見て姫子もそっと安堵の息をついた。
最終更新:2013年03月04日 19:54