【第四話】
‐桜高・音楽準備室‐
放課後。私達は“珍しく”真面目に練習していました。
澪ちゃんは感動のあまり、涙を流さずにはいられなかったことでしょう。流してませんけど。
梓「じゃじゃッ、じゃじゃッ、じゃーん!」
唯「おー、梓ちゃん上手いね。凄い勢いで上達していってるよ」
律「これで初心者だもんな、驚きだよ。もしかしたら、唯を追い抜くのも時間の問題なんじゃないか?」
それが冗談になってないのが、問題でした。
梓ちゃんの上達スピードは恐ろしいもので、本当に初心者だったのか疑わしくなってくるほどでした。
梓「まあ、向こうで小さいときから弾いてましたからね」
唯・律「全然初心者じゃないじゃん!」
向こうで弾いていたなら、こっちで楽器を買う必要がなかったような気がしますが。
もしかしたら向こうの楽器は、トンデモナイ形をしているのかもしれません。
唯「まあ、いざ私より上手くなったら教えてもらうし~」
律「お前は先輩としてのプライド捨てるの早いなー……」
潔いのが、私のウリです。まあ簡単には抜かれませんけどね。
……私は梓ちゃんが来てからというもの、やる気に満ち溢れていました。
おかげで、いつもの一・二倍ぐらい練習量が増えました。これなら簡単に抜かれません。
澪「よし、そろそろ合わせてみるのもいいかもしれないな」
紬「お茶が入りましたよ~」
澪「ムギ!?」
澪ちゃんが狼狽えるのを尻目に、私達はいつもの定位置に着きました。
* * *
梓「そういえば、この前話した“塵取り紛失事件”あるじゃないですか」
そういえば、確かに前に話してもらった覚えがありました。
各教室に二つずつ配備されているのに、梓ちゃんのクラスには一つしかなかった、という事件だったと思います。
大して気にもしていなかったので、すっかり忘れていました。
それは、私以外でも例外でなかったようで、
律「あー、あったな、そんなこと」
澪「あれだろ、確か梓のクラスの塵取りが無くなったっていう」
紬「へえ、解決したのね」
誰も大した興味を示しませんでした。
それが気に食わなかったのか、梓ちゃんはしかめっ面を私に向けてきました。
……何故、私一人に向けてくるのでしょう。
梓「唯先輩、いいですか」
唯「だから何で私にだけ視線を向けるの?」
梓「ちょうど唯先輩が目に入ったからです」
それはおかしい。
唯「おかしいよ。だって、その前にりっちゃんのオデコの輝きが、目に入ってるはずだもん!」
律「おい」
梓「今日は生憎の曇りです。晴れた日の輝きほどではありません」
律「おーい、梓ちゃーん?」
ああ、澪ちゃんの次はりっちゃんを怒らせそうです。
今回怒りのタネを撒いたのは、紛れもなく私なのですが。
唯「それで、事件の真相は何だったのかな?」
梓「全てはこの新聞に書かれています!」
澪「えーと、桜高新聞?……あ、新聞部が作ってるっていうアレか」
紬「そういえば、そんな部活があったね」
桜高は非常に部活が多いので、存在自体が忘れられている部活も少なくありません。
因みに新聞部は毎月、“桜高新聞”という新聞を出している部活です。
梓「ここを見てください」
梓ちゃんが指差した紙面を見てみると、
【悲劇!チリ取りがヤマのようなお金を……】
と大きく見出しが書かれていました。
唯「どれどれ」
『【悲劇!チリ取りがヤマのようなお金を……】
塵も積もれば、山となる。とても有名な諺に、こんなものがある。
これは諺の中でも非常に論理的なモノで、執筆者の私も信じるほどのものだ。
しかし、いくらこの諺に信頼を置いていようと、次の諺(が仮にあったとしても)信頼は出来ない。
“塵を取れれば、山も取れる。”
事件の発端は、春休み中まで遡る。
この時、とある桜高生の二人は、一年生教室に来ていた。
何故なのか、理由はわからない。ただ悪ふざけをしたくなったのだろう。
二人は塵取りを取り出し、元々持っていたテニスボールを打ち合った。
“塵取りテニス”なるものを始めたのだ。
しかし、塵取りはただのプラスチック製のモノであり、丈夫とはいえない。
逆にテニスボールは、時にあの丈夫なテニスラケットのガットさえ切らしてしまう。
耐えられる訳が無かった。
教室の窓側にいた生徒が塵取りでボールを返そうとした瞬間。その塵取りが割れてしまったのだ。
当然ボールは返されることなく、そのまま直進を続けた。(この時、窓は開け放たれていた)
結果、テニスボールは外へと落ちた。生徒二人は焦った。学校の所有物を壊したのだ。
それを何とか隠そうと、生徒二人は割れた塵取りをゴミ箱に捨て、そのまま下校したようだ。
しかしこの時、生徒二人が注意するべきは“外へ行ったボール”だった。
そのボールが落ちた地点は、丁度園芸部の花壇の近くだった。
この周辺は、園芸部の人間以外が近づくことは滅多にない。
故に、事件当日まで誰も近寄らなかったことは、想像に易いといえる。
事件当日、とある園芸部員が一人、花壇の様子を見に行った。
この日は新入生の、仮入部期間の開始を翌日に控えており、
園芸部はそのために育てた花の最終チェックをしたかったのだろう。
その園芸部員が花壇に近づいた瞬間。事件は起きた。
―――花壇の近くにあったテニスボールを、誤って踏んでしまったのである。
当然、ボールを踏んだ部員は、思い切りよく転んだ。
しかしここは当然とはいえず、偶然というべきで、不幸中の不幸だったといえよう。
転んだ先にあったのは、まさに自分がチェックしようとしていた花壇だったのだ。
その数分後、他の園芸部員たちが、例の花壇に集まった。
だが、そこにあったのは土汚れが酷く、涙目になった部員が一人と、見るも無残な花壇だったのだ……。
事件当日の放課後に、園芸部員全員が招集させられた。
翌日の仮入部期間に間に合わさなければならないからである。
集まった部員たちは町中の花屋を回り、潰れた花壇の修復に必要な花を自身の財産をもって購入していった。
そして購入された花はその日のうちに植えられ、結果、花壇は修復されたのである。
この“表面上の”事実だけを聞けば、ただの美談に過ぎないが、話はそこまで簡単ではない。
当然、こんな事態を想定していなかった園芸部に、それの代金を賄う部費など余っていないのだ。
つまり想定していない事故、“塵取りテニス”を原因に多くの部員たちが“多くの財産”を失ったのだ。
これを称賛する者などいない。まして、それを取り戻す手段も存在しないのだ。
そう、これは美談などではない。ただの悲劇なのである。』
唯「……」
律「これは……」
澪「……ちょっと、な……」
紬「可哀想……」
本来の用途から外れた方法で使っていた人たちは裁かれず、
ただ真面目に部活動へ勤しんでいた部員たちが、損害を受ける。
私はとても理不尽な事件だ、という印象を覚えました。
それは梓ちゃんも同じでした。いや、誰もが理不尽さを感じてもおかしくない事件でした。
梓「私、こういうの許せないんです」
梓「罪を償う人は、この人たちじゃありません。間違えてます」
全く、そうだね。
梓「ですから私、明日のこの時間からは、この犯人探しに向かいたいと思います!」
えっ。
澪「軽音部はどうするんだ?」
梓「あっ」
何も考えていなかったんだね。
律「探してやりたい気持ちもわからんわけじゃないけどなあ……。
これは私達が手を出す問題じゃないだろ?」
梓「うー……」
紬「休み時間の間だけなら、いいんじゃない?」
梓「あっ」
本当に、何も考えていなかったんだね。
梓「……そのアイディア、頂きました」
澪「うん、その時間ならいいと思うよ。頑張れよ」
律「よし、じゃあどこから捜査するか、決めようぜー」
澪「えっ」
澪ちゃんは何を驚いているのかな。……当然、私達も参加するに決まっているというのに。
* * *
唯「新しく探偵部って作ったら面白そうだよね~」
紬「あっ、それいいわ唯ちゃん!」
律「こらこら。部活作るのはやりすぎだっつーの」
律「それで梓、何か操作するアテはあるか?」
梓「はい、そうですね……」
澪「ちょーっと待った!」
律「なに、澪?」
澪「その捜査って、私もメンバーに入ってるのか?」
律「当たり前だろ」
あまりに即答すぎて、澪ちゃんは呆気にとられていました。
澪「……はあ、そんなことだろうとは思ったけどさ……」
少しは察していたみたいです。
律「よし。それじゃ、梓、頼んだ!」
梓「はい……とはいっても、“犯人を知っている人”は知っているんですけどね」
澪「この記事の執筆者か?」
梓「はい」
この記事を書いた人物は、確実に犯人のことを知っていました。
知らなければ書けないような、具体的なことまで書かれているので、それは間違いありません。
律「ま、この桜高新聞がデタラメばっか書く新聞だったとしたら、そうとは限らないけどな」
梓「百聞は一見にしかず、といいます。一度新聞部の方に尋ねましょう」
紬「梓ちゃんは友達に新聞部の子がいるの?」
梓「いませんよ?皆さんこそ、いるんじゃないですか?」
……。
梓「……あれ?」
……きっと新聞部は、謎の多い部活なのです。
‐翌日・二年二組教室‐
昼休み。梓ちゃんなりに今日一日捜査した結果を、私たちに報告する時間です。
場合によっては私たちも出動し、昼休みを使って捜査するという寸法でした。
梓「皆さん、お待たせしました!」
来ました。
梓「結果から言いますと、訳わかりませんでした」
期待通りの答えです。端から梓ちゃんには期待していません。
律「よし、じゃあ私たちの番だな?」
紬「聞いて驚かないでね?なんと、私たちは記事を書いた子を突き止めたの!」
梓「す、凄いですね先輩たち……!」
何も難しいことはしていません。
和ちゃんに頼んで、部活の資料を見せてもらい、新聞部の子を特定。
その後に、記事を書いた子を特定すればいいだけでした。
唯「じゃあ、行こうか?」
梓「あれ澪先輩は?別のクラスなのに、呼ばなくてもいいんですか?」
呼ぶ必要は、ありません。
何故なら、これから私たちが目指す場所は、澪ちゃんがいて。
……その記事を書いた人がいるクラスなのですから。
‐二年一組教室‐
?「はい、確かに私が書きました」
澪「それでも、犯人は教えてくれないんだね?」
私たちが教室に着くと、澪ちゃんが誰かに話し掛けていました。
その相手こそ、私たちが突き止めた人物。新聞部でした。
新聞部A「新聞部には、個人名を隠す義務があるんです。残念ですが」
澪「そっか……ゴメンね、無理を言っちゃったみたいで」
新聞部A「いえ。それでは」
話が終わると、新聞部の子は自席に戻っていきました。
その顔を覗いてみると、安堵の表情を見せていました。よほど緊張していたのでしょう。
……それは、澪ちゃんも同じかな。
律「なんだ、澪が終わらせちゃったのかー」
澪「皆来てたのか。まあ、見たとおりだ。あの子からは何も聞き出せないよ」
個人名を隠すこと。それが新聞部のルールだとすれば、それを破らせるわけにはいきません。
新聞部のプライドにも関わってきます。
梓「唯先輩」
ん?
梓「……どうして、聞いてはいけないんですか?」
唯「えっ?」
梓「あの人は」
梓ちゃんはそこで言葉を切り、真剣な顔つきになりました。
思わず私もたじろいでしまいましたが、それを気遣うこともなく、
ゆっくりと、梓ちゃんは口を動かしました。
梓「……あの人は、“犯人を知っています”」
梓「それなのに、“どうして聞いてはいけないんですか?”」
私は咄嗟にその理由を説明しようとしました。
しかし、
唯(……あれ。何でだろう……?)
次に出る言葉が、ありませんでした。
新聞部のルールを守るため。これが一番早くに出た理由でした。
しかし私たちは捜査する側の人間。この選択は、下手すれば自分の首を絞めるような選択ともいえます。
まるで、犯人を守っているようにも見えてしまいますから。
梓「唯先輩?」
唯「……ゴメンね。絶対にその理由は答えてあげるから、今はちょっと待って」
結局その場凌ぎの言葉しか、出てきませんでした。
これで納得されなければ、梓ちゃんはあの新聞部の人に詰め寄ってしまうことでしょう。
何とかそれだけは回避してほしい。そう願っていると、梓ちゃんは、
梓「ふむ」
と言って、笑みを浮かべました。
梓「唯先輩が言うなら、そうしましょう!」
……ゴメンね。私、そんなに頭が良くないんだ。
私は心の底で悔しがりながら、そんな謝罪の言葉を呟きました。
‐二年二組教室‐
律「さて、振り出しに戻ったわけだけど……」
律「何か捜査のアテがあるやつ、いないか?」
アテなどありません。それを考える余裕もありませんでした。
何故なら、私の頭の中は、さっきの言葉がでぐるぐるが回っていたのですから。
“犯人を知っています”
“どうして聞いてはいけないんですか?”
この問いに、私は必ず答えなくてはいけません。
紬「あのー」
律「ムギ、何かあるのか?」
紬「時間、大丈夫なのかなって……」
あっ。
梓「もう昼休み終わりますね」
澪「今日はこれで解散だな。明日、また捜査の続きをしよう」
梓「はい!」
……結局、今日中に答えは出そうにもありません。
唯「梓ちゃん」
梓「はい?」
唯「待っててね」
梓「……待ってますよ、ずっと」
今は梓ちゃんの、その天使のような優しさに縋るしかありませんでした。
* * *
唯「……」
五時間目の授業が始まりました。
梓ちゃんとも別れたことで、少し心に余裕が出来たせいなのか、
事件のことにも考えが回るようになっていました。
唯(……唯一の手掛かりは、この前の梓ちゃんの話かな)
新聞部を頼れないとなれば、前に塵取りが足りない現場を実際に見ている、
梓ちゃんの話以外に手掛かりになるものはありません。
その日に話された内容を、私はじっくりと思い出していきました。
唯「……」
掃除の時間。塵取りが一つ足りないことに気づく。
廊下の掃除班が使用していた塵取りを使用し、問題はなし。
ゴミ捨て場へゴミを捨てて、無事掃除は終了。
唯(……だから何だっていうのさ……)
特に、何の変哲も無い掃除の風景に聞こえました。……本当に?
唯(あれ……?なんだろ、この不自然さは)
理由はわかりません。さっきも自虐のように言いましたが、私は頭が良くないのです。
なら、今の私に出来ることは?
唯(……みんな、力を貸して!)
皆にメールを送り、その答えを託すこと。
三人寄れば、もんじゃの知恵とも言うぐらいです。……違ったかな。
いえ、そんなことはどうでも良いのです。
このメールさえ遅れれば、必ずや良い結果が……。
先生「平沢さん、今は授業中ですよ?」
あっ。
* * *
律「……お前のやりたかったことはわかった」
律「だけど馬鹿だろ。タイミング的に」
携帯は、一度は取り上げられましたが、授業後無事に戻ってきました。
次は無いと言われてしまいましたが。
唯「でも、これで心おきなくメール出来るよ~」
紬「私達にはメールじゃなくてもいいんじゃない?」
唯「あっ、そうだね!」
初めから休み時間を待てばよかったみたいです。うっかり。
* * *
六時間目が終了すると、携帯が震えました。メールです。
送信者は澪ちゃん。
唯(澪ちゃんなら頼りになるよ~)
私は、早速メールを開きました。
#==========
From:澪ちゃん
Sub:無題
#==========
携帯、取り上げられたんだって?これから授業中は、携帯使うなよ?
それはそうと、唯からのメール、しっかり読ませてもらったよ。
唯が感じた不自然さ、私もなんとなく感じた。その理由も、わかったよ。
ただ、皆で検証できる場所で、この意見を出したい。
だから部室で、話そう。
#==========
唯「……流石、澪ちゃんだね」
私は澪ちゃんに感謝しながら、急いで部室に向かいました。
クラスメイト「唯ちゃーん、今日掃除当番だよー?」
私はクラスメイトに感謝しながら、急いで教室に戻りました。
‐音楽準備室‐
紬「澪ちゃん、早速話してくれる?」
私達は、遅れた梓ちゃんを除いた四人でいつもの席についていました。
みんなが澪ちゃんの見つけた不自然な点を気にしていました。
澪「これが事件解決に関わるとか、実はただの偶然だったとか、
そういうこともあるから、あんまり重く受け止めないでほしいんだけど……」
澪「私が見つけた不自然な点は、ここ」
澪ちゃんは、私が送ったメールの文面の一文を指差しました。
そこにある一文は、こうでした。
律「“ゴミ捨て場にゴミを捨てて”……?」
私はハッとしました。そうです、私もこの一文に不自然さを感じていたのでした。
律「どういうことだ?別に、掃除をしたんだから、普通だろ?」
澪「日常生活の中だったら、自然なことだったろうな。だけど“時期”が不自然だった」
律「時期……?」
紬「四月?」
澪「それは世間一般すぎる言い方だ」
澪ちゃんは一息置き、そして、
澪「この学校の、ローカルな言い方だと?」
紬「始まったばかりの学校?」
そう口にしたムギちゃんもハッとしました。この不自然さに気付いたみたいです。
紬「……確かにこれはおかしいわね!」
律「ダメだ、私にはちーっともわからん!」
りっちゃん、それは鈍すぎるよ……。
澪「あのな、律」
澪ちゃんはゆっくりと口を開けて、答えを言いました。
澪「学校が始まったばかりなのに、“一年生の教室のゴミ箱が一杯になってるんだ”」
律「え……?」
りっちゃんは未だに理解できていないようでした。
すかさずムギちゃんが、補足説明を加えました。
紬「りっちゃん、いい?」
紬「梓ちゃんは、ゴミ捨て場にゴミを捨てているわ。つまりゴミ箱は一杯になっている」
律「ああ、そうだな」
紬「これが有り得ないの。だって、梓ちゃんがゴミ捨て場に捨てに行ったのは、入学式の翌日よ。
僅か一日、それも一年生が、“ゴミ箱が一杯になるほどゴミを捨てた”とは考えにくいと思わない?」
律「……あっ」
私が不自然に思っていたのは、まさしくそれでした。
入学したての一年生が僅か一日で、ゴミ箱が一杯になるほどのゴミを、
自分の新しいクラスに捨てた?
……そんなこと、到底考えられないのです!
澪「……これで大丈夫か、唯?」
唯「うん!まさしく、私が感じてた不自然な点だったよ!」
澪「……良かったー……」
澪ちゃんは姿勢を崩し、椅子の背もたれに大きく寄り掛かりました。
きっと、慣れない作業に疲れていたのか、緊張していたのでしょう。
律「……で、これが事件と何の関係性があるんだ?」
澪「さあ……」
澪ちゃんもそこまで考えていなかったみたいです。
手掛かりが何もない状態から、少しでもマシになるとは思っていましたが、思い違いだったようで……
紬「いや……。これは大きな証拠よ」
……そうでもなかったみたいです。
紬「普通、新学期が始まる前に、各クラスのゴミ箱は綺麗にされているわ。
それだから、今の不自然な点が生まれたのよね」
紬「つまりゴミ箱に多くのゴミが捨てられたのは、ゴミ箱が綺麗になった後。
つまりこれは間違いなく、春休みの後半に起きたことだと思うの」
紬「春休みに学校に来る生徒は、限られているはず……。
これを利用すれば、犯人の絞り込みが出来ると思うわ!」
ムギちゃんの狙いは、私の心を躍らせるほどに、確かなものでした。
つまり春休みに来た人たちをターゲットにすればいい。犯人に一気に近づいたような気がします。
澪「待って」
ん?
澪「それを調べるのは、一度梓から話を聞いたあとにしよう。
一応、梓が捨てにいったゴミ箱の中身が、どれほどのものか聞きたいし」
もしかしたら梓ちゃんは潔癖症で、ゴミ箱の中身を毎日綺麗にするような可能性もあるかもしれない。
そういう可能性を考えたのでしょう。
……無いと、思いますけどね。一緒に暮らしていれば、わかります。
最終更新:2013年03月16日 21:21