【第十三話】


 ‐平沢宅‐

 ‐唯の部屋‐


 文化祭の二日目です。
 今日で最終日となった文化祭。
 それはいわば、私に残された時間の少なさ、
 タイムリミットが近づいていることを示しています。

 今日中に、レインボーをとっ捕まえる。

 あずにゃんに守られ続けた私が、
 今度はあずにゃんを守るために行動しています。
 そして、この行動には多くの人が協力してくれています。
 私は必ず、この目標を達成しなくてはいけません。

 だからこそ、一日の始まりである朝は、
 気持ち良く迎えなくてはなりません。

 窓を開けて、さわやかに青空へ挨拶。
 おはようございます!


憂「お姉ちゃん、早くご飯食べないと遅刻するよ!」



 ‐桜が丘高校‐

 ‐昇降口‐


 とくに遅れることもなく学校に到着。

 下駄箱を確認しますが、今日は犯行予告なし。
 どの下駄箱にも、なにも挟まっていません。

 昇降口から少し歩くと掲示板が
 見えたので、近づいてみました。
 そこで文化祭新聞、それも最新号が
 掲示されていました。

 まだ九時にはなってませんが、九時号。
 これも今までと同じく、
 怪盗レインボーが取り上げられている
 欄が用意されていました。


 “【雨振る場所に、虹はかかる】

   本日もこの欄はレインボーを追っていく方針を
  新聞部は決定した。毎回執筆者こそ変わるが、
  記事に込める意思は一つであることを、
  再度確認していただきたい。

   しかしなんと悲しきことか。この桜が丘高校にも
  多くの個性的な生徒が在学していることは認めよう。
  だが、それと“レインボーの模倣”は話が別である。

   そう、なんと今回のレインボー事件において、
  私たち新聞部はある人物たちの協力の下、
  “模倣犯”の存在を明らかにしたのだ。
  同時に、その模倣犯との見分け方も、既に心得ている。
  その証拠に、レインボーが実際に盗んだ品の個数は
  三個と判明しており、色の数と一致している。
  模倣犯を除いた数としては理想的で、これは疑いようのない事実といえよう。

   しかし残念なことに、その模倣犯の原因を
  作ってしまったのは、この新聞自体である。
  これについては陳謝する。

   とはいえ、これ以上模倣を続けることは許されない。
  新聞部は、生徒会にもこの旨を伝える。
  雨ふる場所に虹はかかる。私たちの空間に雨が降るのは、
  決して屋根がないからではない。
  雨を通しているのは、雨漏りを許している穴なのだ。

   私たち新聞部は生徒全体の意思統一により、その穴が塞がり、
  模倣する生徒たちの過ちが防がれることを切に祈っている。”

 その記事を見て、昨日のあの子を思い出しました。


唯「あの子も、頑張ってくれてるんだ……」


 ただ、その記事の上にあるのが、
 一年二組の劇“憧れ少女は天使と出会う”の
 紹介だったのが、模倣犯たちへの皮肉に感じられました。
 新聞部も狙ってやっているのではないでしょうか。

 とたとたと背後から足音が聞こえ、
 掲示板に近づいた二人もまた新聞を見詰めました。


梓「あっ、紹介してくれてるんですね」

憂「えへへ、なんだか照れくさいね」


 憂は頬を掻きました。


唯「そういえばあの劇、オリジナルなんでしょ。
 誰が考えたの?」

憂「クラスの皆の意見を取り入れて、ああなったんだよ」


 だからあんな節操のない願い事だったのだと、
 今になって納得しました。
 純ちゃんの憧れが多方面すぎた気はしたのです。
 今時あんな夢多き女子高生は、
 そんなに多くないと思います。世知辛い世の中です。


梓「ちなみに天使というアイディアを出したのは私です」

唯「うん、だろうね」



 ‐二年二組教室‐


文恵「おはよ、唯」

唯「おはよー、文恵ちゃん」


 あれ、デジャヴュ。
 昨日の朝も同じ挨拶をしたような気が。


唯「文恵ちゃん、今日って文化祭二日目だよね?」

文恵「んー……じゃあ一日目かな」


 ……なんてことでしょう!

 私、時間遡行しちゃいました。
 まさかこれも天使の力。
 ああ、恐ろしや、恐ろしや。

 あれ、何で文恵ちゃん笑い堪えてるの。


文恵「……ぷふっ。唯って面白い」

唯「……」


 騙されました。


唯「酷いよ~!」

文恵「唯がいきなり訳分からないこと言うからだよ。
 そんな怒らないでって」


 文恵ちゃんは和やかな笑顔を崩さず、
 廊下の方を指差しました。


文恵「そういえば唯に、さっきお客さん来てたよ」


 振り返り、私は誰もいない教室の扉へ
 視線を向けました。
 なんとなく、誰が来たのかは想像できました。



 【Mi-side】


 ‐二年一組教室‐


 今日の朝、私はとんだ失態を
 犯していたことに気付いた。
 尤も、それは十分挽回可能なことで、
 だからこそ先程唯の教室に行ったのだ。
 しかし、唯はまだ登校していなかった。

 私の失態、それは今日の仕事について
 なにも言ってなかったこと。

 恐らく今日は昨日の継続で、
 怪盗探しに勤しむことになる。
 しかし昨日それに時間を費やせたのは、
 あくまで午後に仕事がなかったからだ。
 そして今日の仕事は残念なことに、午後にある。

 つまり最後まで唯に付き合うことが出来ない。
 その旨を伝え忘れていたのだ。

 怪盗のきまぐれで、
 事件が午後に集中してしまったら、
 それは私が何も出来ないことを意味する。

 いくら友人となった姫子が
 頼りになる人物で、唯が大丈夫だとしても、
 なにも力になれないのは悔しい。

 となると。


澪(レインボーは、午前中に捕まえる)


 それが私の今日の目標だ。
 当然、それは難しい目標でもある。


和「難しそうな顔してるわね」


 和が私の顔を覗き込みながら言う。


和「昨日に引き続き、怪盗探し?」

澪「ああ、そうなんだ和。
 生徒会も今日はそうなんだろう?」

和「新聞見たのね。そうよ、その通り。
 生徒会もこれ以上の盗難に、目を瞑ってはいられないの」


 和は肩をすくめ、溜め息を吐いた。
 その様子から苦労が窺える。


和「出来れば、自首して欲しいものね。
 こっちだって暇じゃないんだもの」

澪「いや、その必要はないよ」


 呆気にとられたような表情をした和に、
 強い語調で言った。


澪「私が午前中に捕まえたいと思ってるから」

和「……そう。それは楽しみね」


 和は曖昧な表情を浮かべていた。
 私の言うことが、嘘だとは言わないまでも、
 信用しきれていないようだった。


 * * *


 クラスがやることは昨日と同じで、
 それはつまり改善点もほぼ無いので、
 朝早く来たのにやることがなく暇だった。
 逆に私はこれを好都合だと考え、
 今後のレインボーの行動を予測することにした。

 さて、レインボーの特徴の一つとして、
 盗品は個人ではなく、文化祭参加団体の所有物に
 限定されているということが挙げられる。

 いわば部活、及びクラス団体。

 ならばと思い、鞄の中から冊子を取り出す。
 文化祭のパンフレットだ。

 “■参加団体一覧
  ・一年一組:有名作の出会いが生んだ、奇跡の劇『ロミオとシンデレラ』!乞うご期待!
  ・一年二組:劇『憧れ少女は天使に出会う』。非日常体験をどうぞ!
  ・一年三組:殆どの人を恐怖に陥れるお化け屋敷『呪中八苦』を展開中。因みにダジャレです(笑)
  ・一年四組:焼きそば。ただしソースのみなので、塩は禁句。
  ・一年五組:お化け屋敷『血の館』。小道具まで気合入ってます。お化けも怖いぞ~。
  ・二年一組:食べ応え十分のホットドッグ。美人の売り子さんがキミに売ってくれるよ!
  ・二年二組:四種ものパンケーキを用意!パンケーキとは、宇宙である。
  ・二年三組:喫茶店『タッピィ』。だけど商品はオレンジジュースとタピオカのみ!原因はくじ引き!
  ・二年四組:自作映画『脱出ゲーム』を放送。圧倒的な結末。絶対見るべし。
  ・二年五組:劇『おかしな部長会議』。コミカルな部長さんたちが送る、笑いの二十分。もしかしたら三十分。
  ・三年一組:ファッションショーやります。参加者は当日募集!衣装はこちらが用意!
  ・三年二組:劇『Dancing girls』。女子高生が歌って踊って、見てるだけで楽しい気分になれるよ~!
  ・三年三組:演じる側も頭がこんがらがる!?脚本も頭痛に悩んだ奇劇、『奇天烈TAN』をどうぞ!
  ・三年四組:焼き鳥屋台『三四屋』開店中。ああ、私たちの女子力は何処へ……!
  ・三年五組:遥か遠くの地との交流が、世界を広げる。遠くって大阪だけど。普通のタコ焼き屋だけど。

  ・軽音楽部:講堂でライブ!奥様、実はこのライブを聴いた人はお肌ぴちぴちになるって噂ですわよ!?
  ・ジャズ研究部:演奏会。ライバルは軽音部。今年の講堂は、うちの方が盛り上げます!
  ・合唱部:三曲歌います。日々の努力の成果を見せます。
  ・吹奏楽部:みんなの知ってる曲メドレー。最後は皆で叫べ、テキーラ!
  ・茶道部:茶道室にて、お茶とお菓子。うちの自慢の着物美人が待ってます(笑)
  ・華道部:展示。心を落ち着かせたい方、どうぞいらしゃってください。
  ・文芸部:私たちが書いた作品やコラムをまとめた文集を販売。一冊三百円。
  ・園芸部:外の花壇にて公開!苦労を乗り越えた今年の私たちは違う!
  ・新聞部:文化祭新聞を各階の掲示板にて掲載。二時間ごとに更新。
  ・演劇部:劇『言葉の代わりに』。言葉の代わりに残されたソレについて、私たちは追求する!
  ・囲碁部:部員と正々堂々対局。挑戦者求む。
  ・オカルト研究会:エクトプラズムに関する考察。
  ・美術部:文化祭用に部全体で巨大な一枚絵を制作!私たちの汗の結晶です!
  ・マジック同好会:講堂でマジックショー。トランプマジックから脱出マジックまで幅広く。
  ・お笑い研究会:笑いで疲れを吹き飛ばせ!苦笑いだって怖くない!”



澪(……次の色は緑か)


 緑と聞いて思いつく団体を探す。
 まずは茶道部。つまり緑茶。

 ……さすがに盗めないか。

 焼きそばを振舞う一年四組も、
 要注意かもしれない。
 青のりがそれに該当する。

 そんな具合に、いくつか候補は挙がった。
 しかし。


澪(いや、ダメだ。やっぱり絞り込めない)


 劇を実施する団体はあらゆる色が揃っているし、
 前に新聞で言ったように美術部、園芸部、文芸部なんかは
 様々な色を取り扱っていておかしくない。
 盗まれる色だけで絞り込むのは、難しいようだ。

 その後、いくら考えても良案は閃かなかった。
 本当に今日の午前中、事件は解決に向かうのだろうか。



 【Az-side】


 ‐一年二組教室‐


 足りない小道具があった昨日とは違い、
 今日の教室は非常にゆったりした雰囲気が
 漂っています。

 私は憂と純を呼び、
 今日の作戦について話し合っていました。


憂「次の色は、緑だよね」

純「順当に行けばの話ね。
 てか、今日も本当に探すの?」

梓「本当に探すの」


 純は溜め息を吐きました。
 多分あれは、呆れられています。


純「あんた真面目すぎ。
 でも、そっちに熱中して劇忘れないでよね」

梓「わかってるよ」


 これでもそれなりの責任感は持っています。
 自身が重要な役であることは、わかっていました。


憂「それで、昨日はひたすらレインボーの
 後を追っていたけど、今日はどうするの?」

梓「昨日が後追いなら、今日は先回りかな……」

純「じゃ、今日はこうしよう。
 レインボーが現れる地点を三つ選んで、
 三人で待ち伏せ」


 純は一度言葉を切りました。
 ここが重要といわんばかりに溜めてから、
 また話を再開しました。


純「ただし、チーム行動が大原則!
 レインボーらしき人物を見つけたら、
 絶対に他の二人に連絡すること。独断で行動しないこと。
 それでいいなら、私も全力で協力するよ」


 私は純と目を合わせ、頷きました。

 実は、私も同じような提案をしようと思っていました。
 現状手掛かりが少なく、その盗品も実に多様なので、
 レインボーは非常に捕まえにくいのです。

 こうなれば、作戦は一つ。
 こういうのを確か、ジンカイ作戦と言うはずです。

 それに、先輩たちには少なくない心配をかけています。
 単独行動だけは絶対慎むべきです。


憂「私も、ちょっと怖いけど協力するね」

梓「憂、ありがとう」

純「こらこら私はー?」


 純は自分を指差しながら、視線を送ってきました。
 有無を言わせない力が感じられました。

 ただ。


梓「……ありがと、純」


 これは本心であって、
 決して純に言わされた言葉では、ありません。



 【Mi-side】


 ‐廊下‐


 文化祭が開始時間が訪れる。
 午後には仕事のある私は早速唯のクラスへ
 行こうと教室を出る。
 その直後、姫子と出会った。


姫子「あれ、澪も唯のクラスに?」

澪「ということは姫子もか。
 丁度いいから、一緒に行こう」


 昨日会ったばかりなのに、
 ここまで親しく接していられるのは
 間に唯がいたからだろうか。
 それとも、私の友達作りスキルが上がったのだろうか。
 前者でも後者でも、嬉しい。

 唯の教室は二階にある。
 二人並んで階段を上っていると、
 私は不思議な点があることに気付いた。


澪「待って、姫子」

姫子「ん、なに?」

澪「姫子は二年四組だったよね」

姫子「そうだよ。自作映画上映してるから、
 良かったら見に来てね」

澪「ああ、わかった。“脱出ゲーム”だっけ?
 楽しみに見ることにするよ」


 階段の踊り場に差し掛かった。
 少し歩調を遅める。


澪「……なんで姫子は一階にいたんだ?」

姫子「あっ、やっぱり気になるんだ」

澪「そうだな、ちょっとだけ」


 立てた親指と人差し指の間で、
 それを表現する。


姫子「簡単な話。二年一組のメンバーの観察」


 なにを言っているのか、理解できなかった。
 どれだけ考えてもそれが肯定的な意味には
 聞こえなかったが、否定的な意味に聞こえると
 判断するにはいささか性急すぎる。
 そう感じた私は、先を促した。


姫子「あの、言いにくいことだけどさ。
 昨日盗まれた、マスタードの空容器のこと」

澪「空容器って、二年一組から盗まれた?」


 姫子は首肯し、十分な時間を空けてから、
 ゆっくりと口を開いた。


姫子「私、それを盗んだのって、
 二年一組の誰かじゃないかって疑ってるんだよね」



 【Az-side】


 ‐一年二組教室‐


 私は現状手掛かりが少ないと言いましたが、
 まるで無いわけではありません。
 例えば、昨日の純の指摘です。

 純は昨日“黄色”が盗まれた直後に
 集まった際、マスタードの容器について
 こんなことを言っていました。

 “違うよ、梓。
  これはさっきから梓が欲してたものだ。”

 あの時、私が欲していたものとは。
 そうです“犯人の絞込みに使用できる材料”です。
 ではこれが、マスタードが盗まれたことが、
 犯人の絞込みに使えるのか。

 結果から言えば、使えると思います。
 昨日話し合いましたが、
 あの容器がカウンターの下にあった以上、
 お客さんには盗むことが難しいのです。

 では、あそこにいた、お客さん以外の人間とは。
 それは自ずと決まってしまいます。
 店員です。つまり、“二年一組の生徒です。”

 初めはこの考えを否定したくなりました。
 一応このクラスは、澪先輩のクラスなのです。
 疑いたくはありません。

 ですが結局、その考え方は
 私の欲していた証拠そのものであると、
 認めざるを得なかったのです。

 ……あの時の唯先輩も、
 きっとこんな心境だったのでしょう。
 疑いたくない相手を、疑うということ。
 とても辛いことです。


憂「梓ちゃん、どうしたの?なんか辛そうな顔してるよ」


 どうやら辛いことは、すぐに外に姿を現してしまうようです。
 当然これも唯先輩の例に漏れず。


憂「……そうだよね。レインボーが、
 大切な先輩のいるクラスにいるかもしれないなんて、
 あんまり思いたくないよね。
 澪さんだよね、確か」


 憂は少し俯き、声を落としました。


憂「私も、和さんのクラスの人を疑いたくない。
 もしかしたら和さんの友達かもしれない人を、
 疑うのって辛いよ」

梓「憂……」

純「うおらああ!」


 しかし、そんな空気をぶち壊すように、
 純は勢い良く私たち二人の間に突っ込み、
 二人ともを両腕で抱え込みました。

 ちょ、ちょっと苦しい。


純「ええい、辛気臭い!臭すぎる!
 確かにそうなる気持ちはわかるけど、そういうのは困るよ。
 ほら、二人とも笑った方が可愛い……」


 多分、だから笑え、と続けたかったのでしょう。
 しかし、それを言い切る前に私は、
 私を抱える純の腕を思い切り振り払いました。

 振り払われた腕は、別に狙ってませんが、
 ついでに近くの机の角に当たりました。


純「痛たあああ……!なにすんのさー……」

梓「強く締めすぎ!苦しいわ!」


 全く、加減というものを考えて欲しいです。


純「にしても机の角は痛い……」

梓「……まあ、それはごめん」


 純は自分の手に息を吹きかけました。
 あれって、効果あるのでしょうか。

 しかし私の興味は、一瞬で他方へ向きました。
 未だに純に抱え込まれている憂が、
 逆に純を抱き締め返したのです。


純「ちょ、ちょっと、憂!?」

憂「……純ちゃん、ありがと」


 あー。純が見事に反撃食らってます。
 憂のカウンターパンチです。
 というかホールドです。


純「くうっ、恥ずかしい……」

憂「純ちゃんが友達で本当良かった!」

純「わかった、ごめんよ憂……。
 だから許して、離して、助けて!」


 そう言って憂の腕の中でもがく純の顔は、
 どうみても嫌がっていませんでした。
 天の邪鬼なやつです。



 【Yi-side】


 ‐二年二組教室‐


 パンケーキとは、宇宙である。

 今日はこちらの看板を持って、
 あらゆるところに出掛けることになります。

 先程澪ちゃんと姫子ちゃんがやって来て、
 姫子ちゃんは一日暇だということですが、
 澪ちゃんは午後仕事があるので
 放課後探偵タイムを途中で離脱するそうです。
 無念。

 さらに残念なのが、
 午前中は私が仕事があるということ。
 私の仕事、つまり、
 あらゆる場所に遊びに行くことが

 間違えました。

 あらゆる場所に宣伝に行くことが、
 どれだけ重要な仕事かは想像に易いです。
 お客さんの入りに直接影響する仕事、
 適当にこなすわけにはいかないのです。


文恵「じゃ、適当に行こうか」

唯「適当にこなすわけにはいかないよ!」

文恵「えっ、熱血キャラ?」


 今日の私は、一味違うのです。



 【Mi-side】


 ‐廊下‐


 まさか唯が午前中参加できないとは。
 三人でグループを組んだのが幸いだったが、
 私にとってなにも幸いではない。
 不幸中の不幸といっても良い。

 ……唯と一緒に文化祭を回れないじゃないか!

 ついでに付け加えると、
 姫子は午後一杯唯と一緒に回れる。


澪「……」

姫子「ん、どうしたの?」

澪「いや、何でもないよ」


 今からでもオカルト研に寄って、
 魂を入れ替える術でも教えてもらおうか。

 いやダメだ、私がある意味耐えられない。


姫子「そっか。そうだ、提案していいかな」


 どうぞ。


姫子「後輩クンたちと合同で調べない?
 どうせ澪は愛しの唯とは一緒に回れないんだし」


 なるほど、どうせ唯と回れないなら、
 いっそ全員が集まった方が……って。


澪「姫子、今とんでもないこと言わなかった?」

姫子「まさかバレてないと思った?」



 ああ、これはバレてる。
 姫子はにやにやしてこちらを見てきた。


姫子「澪の唯に対する反応を見てれば、一目瞭然だよ」

澪「そ、そうなのか……ははは……」


 私は明らかに動揺していた。
 まさか出会って二日目の人間に、
 私の秘密を知られてしまうとは。
 さすがにショックだった。


澪「は、ははは……」


 あれだ。きっとこれから、
 凄いスピードで噂が広まるんだ。
 ゴシップ記事も出来たりして。

 タイトルはそうだな、

 “桜高人気ベーシストが禁断の恋、
  お相手は同バンド内のギタリスト”

 とかどうだろう。

 そうなったら、周りから白い目で見られるんだろうなあ。
 あ、しかも唯に迷惑かけちゃう。どうしよう。
 責任とって、唯と一緒に海外にでも逃亡するか。
 逃亡先で一生幸せに二人きりの生活を……。

 ここまで考えたところで、姫子が私の頭を小突いた。


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