【Mi-side】


 扉は開け放たれた。

 いつもの見慣れた部室。机。窓。
 ティーセットの入った戸棚。ドラムセット。

 机側に立っているのは、私と唯。
 ……そして反対側、ドアの近くにもう一人。
 鞄を持った女の子。


?「それで、なにか用ですか?」

澪「単刀直入に言おうか。
 あなたが怪盗レインボーだ」


 彼女はかすかに笑みを浮かべた。
 が、すぐにそれは消し去られた。


?「根拠は?」

澪「当然ある。そうだな、どこから話そうか」

?「最初からお願いします」


 そう言うのなら、是非そうさせてもらおう。


澪「この事件の始まりは文化祭初日。
 朝一に仕掛けられた下駄箱のメッセージカードから始まった。
 まずここから、学外の人間の仕業ではない。
 これは大丈夫かな?」

?「続けてください」

澪「学内に限定しても、この桜が丘高校は各学年五組ある。
 全学年合計十五組だ。一クラス四十人と仮定すると、六百人。
 およそ六百人の容疑者じゃ、とてもじゃないけど絞り込めない」



 一枚目のメッセージカード、
 つまり犯行予告で推理できる範囲はここまで。
 どこぞの名探偵なら別なのかもしれないけど、
 生憎私はそうじゃない。


澪「そして次の犯行。梓の赤いギターが盗まれた。
 私は当初レインボーの盗む“色”に執着していたから
 気付いていなかったけど、冷静に考えれば、
 これはかなり犯人を絞り込める」

?「そうなんですか?」

澪「何故ならレインボーは、
 “梓のギターが音楽準備室に
  置いてあることを知っていたのだから。”
 因みに同じ軽音部の私たちは、
 梓が自分のギターを音楽準備室に置いたことを、
 盗まれるまで知らなかった。

 ここから何がわかる?それは簡単な話だ。
 同じ部内の人間ですら知りえなかった情報を、
 レインボーは持っているのだから」

唯「それってつまり……」

澪「そう。“レインボーは一年二組の人間だ。”
 ちょうど、あなたみたいなね……」


 人を指差すのは良くないので、
 私は視線だけ強く目の前の人物に送った。
 そして、声高に宣言する。


澪「鈴木さん!」

純「……」


 鈴木さんは視線を少し落とし、口を結んだ。
 沈黙が、世界からこの部屋だけを切り取ったように感じた。
 やがて鈴木さんは口を開いた。


純「その推理は賛成できません。
 一年二組以外の人間にも、
 梓がギターを運ぶ姿は見れました。例えば、廊下などで」


 やはり、そう反論してくるか。
 だけど。


澪「だけど見ただけじゃ、置いたことはわからない。
 教室と音楽準備室間を往復する梓の姿を捉えた人間にしか、
 ここにギターがあったことを知ることは出来ない」

純「不可能ではありません」

澪「……それもそうかもしれない。
 これは一旦保留しておこう」


 鈴木さんの言う通りだ。
 まだ完全に絞り込めるわけではない。
 ただ、この時点で一年二組の人間は極めて怪しくなった。


澪「次の犯行はなんだったかな。そうだ、黄色だったか」

唯「えっ?」


 唯が素っ頓狂な声を上げた。


唯「次は橙色じゃなかったっけ?
 あれ、しかも橙色が盗まれた時って……」

純「そうです。私たち一年二組は講堂で劇をしていました。
 澪先輩も見ていたと聞きましたよ?」

澪「そうだね。それが一番のネックだった」


 一年二組が一番怪しい。
 でも、橙色を一年二組が盗むのは不可能。
 私の前に立っていた壁は、それだ。


純「まさかここで他に協力者がいたとか、
 言わないでくださいよ」

澪「勿論、言わないさ。協力者は一人ぐらいいても、実行犯は一人だ。
 レインボーは実に律儀な怪盗だからね」


 鈴木さんは一瞬狼狽えた。
 恐らく、私の言ったことが本当だったから。


澪「なにはともあれ、この事実は度外視できない。
 ならば何が、それを解決に導くか?
 その答えを私たちは随分前から持っていた」


 どうして、これに気付かなかったのだろう。
 我ながら情けないと思う。


澪「“模倣犯だ。”私が三つのグループに分けた際、
 二つ目のグループに属することになった、
 あの橙色の犯行を示すメッセージカードは、模倣犯のものだ」

純「それだとおかしいですね。
 レインボーは律儀な怪盗だというのに、
 虹の七色全てを盗んでないことになりますよ」

唯「そうだよ!あの時、澪ちゃんの推論に
 納得できたのは、残った数が盗まれた数、
 つまり赤、橙、黄の三色と一致したからだよ?」


 残念ながらそんな根拠、簡単に否定できる。
 唯は本気で忘れていそうだが、
 鈴木さんは間違いなく惚けている。
 舞台上で見せた演技力は伊達じゃない。


澪「この事実を忘れちゃいけない。
 “藍色はレインボーに盗まれていない。”」

唯「あっ!」


 そう。藍色の盗難は唯が言った後、私が裏をとったように、
 “模倣犯の犯行である。”
 その後、レインボーによる藍色の盗難は起こらず、
 “紫色が盗まれている。”


澪「さて、わざわざ一人称を“私”とすることで
 実行犯は私一人だとアピールしたり、
 自分を律するような二行目をメッセージカードに書いたりと、
 とても律儀な怪盗がどうして藍色を抜かしたのか。

 なにも難しく考える必要は無い。
 “元々盗む予定でなかった”だけだ」

純「矛盾していますよ。
 律儀な怪盗が、虹の色を抜かすんですか?」

澪「虹は七色じゃない。“五色”だ」

唯「へっ?」


 異国の言葉を聞いたかのように、唯はぽかんとしていた。
 まあ確かに現在の日本では、この常識は通用しないだろう。


澪「私もついさっき、虹のことを調べて知ったんだ。
 かつての日本で虹は“五色”だった!」

唯「えぇ!?」


 ありがたいリアクションだ。
 対して鈴木さんは、まあ驚いていない。
 知っているのだから当たり前か。


純「虹が五色だったと言われていた話は、
 聞いたことがあります。
 今でも虹が七色というのは、世界共通ではありませんし。
 でも、どうしてレインボーが五色の虹を採用したことが
 わかるんですか?」

澪「もう一度言おう。レインボーは実に律儀だ。
 そして、なんといってもフェアだったんだ。

 私が注目したのはメッセージカードの二行目。
 これは自分を律する文章が主に書かれている。
 どうして、これを書いたんだろうね」

純「なんででしょう。気分じゃないですか」

澪「気分で片付ければ、それまでだ。
 だけど、こうも考える。“あえて付け加えた”、と。
 例えばこの一文だ」


 私は携帯で撮ってあるメッセージカードの画像を開き、
 二人に見えるように画面を向けた。


唯「“過去を大切にする私は固執する。”だ……。
 これって、つまり、過去の虹の基準に固執しているって、
 自分から主張していたってこと?」

澪「そうだな。犯行予告の二行目には、
 “基本に忠実な私は嘘をつかない。”と書いてあったし、
 十分に信頼を置けると考える」

純「いやいや、おかしいです。
 何故犯人側が、そんなヒントを与えるんですか?」

澪「その理由は後にわかるよ。
 ただこれで、橙色の時間に拘束されていた
 一年二組でも犯行が可能であることが、
 証明されたと言ってもいいんじゃないかな?」


 鈴木さんは頭を掻いた。否定は出来ないようだ。

 正直、虹の色は五色でも四色でも良かった。
 三色はいくらなんでも少ない。
 六色以上じゃない可能性さえ提示できれば良い。
 まあそれは、言うならば結果的に五色に決まったけれど。


澪「よし、次の犯行にいこう。次は間違いなく黄色だ。
 マスタードの空容器。これは二年一組、私のクラスから盗まれた。
 そして意外とこの空容器は盗みにくい。
 協力者無しでは、相当な技術を要することになるだろうね。

 当然、鈴木さんが不器用な人とは思ってないけど、
 怪盗としての才能に恵まれた人とも思っていない。
 だとすれば、間違いなく二年一組に協力者がいる」

純「その、まさに二年一組の人がレインボーという可能性は?」

澪「考えたけど、あとで否定した。それも後で。
 それじゃ、次だけど、次は生徒会で緑色のハサミだ。
 これは協力者が生徒会にいるという事実を示唆している」

唯「澪ちゃん、ちょっと省略しすぎじゃない?」


 おっと。唯の指摘で気付く。
 唯に視線で礼を伝え、言い直す。


澪「生徒会はあの時、血眼になってレインボーを追っていた。
 そんな生徒会に、レインボーは殴り込みにいった。
 ドラマチックであるけどリアリスティックじゃない。
 律儀なレインボーは全五色を揃えるまで、
 捕まるわけにはいかなかったんだから。

 ならば、どうして生徒会のハサミを狙ったのか。
 答えは簡単だ。生徒会から盗むのが一番楽だった。
 さらに“レインボーとしての理”に適っていたからだ」

純「……生徒会の誰かとレインボーに
 繋がりがある、というのはわかりました。
 でもレインボーとしての理って、なんですか?」

澪「それは次の、青色の文集で見えてくる」


 心の中で、あの時の律に感謝する。
 確かに道を照らしたお前は、輝いていたよ。


澪「私は仕事中だったから、
 人に頼むことになってしまったけど、
 文芸部の人と協力して文集の売上数と在庫数を
 調べてもらったんだ。そしたら驚いた」


 実際、私は大して驚いていなかったけど。
 さっきから多少大袈裟な表現が混じっているが、
 まあ問題ないだろう。


澪「なんと“在庫数”と“売上数”を足したら、
 “入荷数”と一致した。どういうことか、わかるよね?」

純「……“レインボーは文集を購入した”ってことですね」

澪「正解。本当に律儀な怪盗だと、改めて認識したよ」


 鈴木さんは少し照れた様子だった。
 まあ、実際褒められてるみたいに感じているのだろうけど、
 この場面でそれはいけないと思う。


澪「不思議だ。怪盗が品物を盗まずに、買った?
 とても不思議に思えてしまうかもしれない。
 だけど、私はこの事実には酷く納得できたし、
 もし盗んでいたのなら納得できなかった」

唯「それがレインボーの理なのかな?」


 唯も察しが良い。


澪「そう、それだ。ここで思い返して欲しい。
 盗まれたとされる品々を。

 一つ目、赤いギター。返っている。
 二つ目、黄色い空容器。返っていない。
 三つ目、緑のハサミ。返っていない。
 四つ目、青の文集。購入済み。返っていない。

 私は返っていない品物は、あまり価値のないようなものだから、
 返していないのだと思っていた。
 だけど文集は違う。価値がついて売られている。
 ところがそれは購入済みときた。ならば問題ない。

 ならば、新しく出てくる不思議なポイントはどこだろう?
 ……それは一つ目、梓の赤いギターだ」

純「それだけ価値が馬鹿でかいですね」

澪「そうだ。最初はそう思った。

 ただ、私はここで考え方を変えた。
 価値の有無で返されているか否かを、
 決めてるんじゃない。

 なにより重要なのは、時間だったんだ。
 梓のギターは“ライブ前に盗まれている。”
 これは文化祭に影響を与えかねない。
 それに比べ、他の品々は影響を与えないものばかりだ。
 文集に関しては貢献しているぐらいだね。

 以上のことより、次の結論が導き出せる。
 “レインボーは途中で盗みのターゲットを変更している”」


 鈴木さんが一瞬、たじろいだ。
 が、すぐに持ち直す。


純「確かにターゲットを変更したようにも見えます。
 しかし、それが確実にそうだと言える根拠はあるんですか?」

澪「盗んだ品だ。例えば黄色と緑なら、
 他の品でも簡単に代用できる。
 そこらじゅうに溢れている色だからな。
 それはもう、協力者が協力するまでもないはずの色だ。
 模倣犯でも盗める程度の品物があるんだから。

 なら、わざわざ協力者を介すという、
 面倒な選択をしたレインボーには、
 “考える時間と選択肢が無かった”と考えるのが自然だろう。
 つまり、限られた時間の中、協力者の身辺へ思考が回り、
 そこで簡単に解決できる品物を見つける。
 それにレインボーと協力者共々飛びつく。こんな具合だ」

純「それじゃ、余計二年一組と生徒会が怪しいですね」

澪「今は、誰が怪しいかを話しているんじゃない。
 盗むターゲットを変えた理由だ。

 梓のギターを盗み、レインボーに変化が起きた。
 それは確実に、一度ギターを盗まれたにも関わらず、
 元気にライブをこなした梓に心打たれた、
 なんてものじゃない。それだったら平和だったけどね。

 ライブでないなら、話は簡単だ。レインボーはライブ前に、
 “悲しみに打ちひしがれた梓を見て、ショックを受けた。”
 そしてこう思ったはずだ。

 梓があんなにショックを……ああ、私はなんてことを。
 もう文化祭を楽しみにする人間を傷つけるような
 犯行を重ねるのは止めよう。
 だとすれば、これ以降使用されるかもしれない品物に
 手をつけるわけにはいかないな。
 しかし困った。私の計画で盗む品々には、
 そういうのばかりではないか。どうしよう、どうしよう。

 ここで例の協力者が登場し、文化祭に差し障りのない、
 空容器や生徒会のハサミを取ることを提案した」


 途中に入れた芝居がかった口調のせいか、
 隣の唯までもが冷めた視線を送ってくる。
 咳払い。


澪「……と、とにかく。朝一の犯行予告から分かる通り、
 計画的な怪盗であるレインボーが、
 ターゲットを変えることになったきっかけは、これ以外考えにくい。
 そしてこの“差し障りのないものを取る”というのが、
 レインボーの理だ」


 さて、そろそろ決着だ。唇を舐めて、湿らせる。


澪「ここで犯人の絞り込みがほぼ完了される。
 何故なら、梓のあの姿を見られた人間が
 そもそも限られているからだ。

 具体的には私たち軽音部、
 和と憂ちゃん、そして鈴木さんだ」

純「軽音部の皆さんは、
 まあ犯人でないと思いますよ、私も。
 常に誰かと一緒にいそうですし。

 ただ、残った三人から、
 どうやって私に絞り込んだんですか?」

澪「和は見張っていたから、わかる。
 憂ちゃんは、丁度緑のハサミが盗まれた時、外にいた」

純「和先輩はまだわかりますが、
 憂はどうでしょうか。犯行とその発覚にはタイムラグがあります。
 憂はそんなことしないと言い切ってもいいんですが、
 それで私だけに疑いが向けられるのは」

唯「それなら、私から説明するよ」


 突然の発言に驚き、
 唯は私と鈴木さんからの視線を一斉に受ける。
 その視線を振り払うように手を振り、
 唯は説明を始めた。


唯「空容器が盗まれる直前のこと、純ちゃんは覚えているかな?」

純「すみません、あまり覚えてません」

唯「あずにゃんに聞いたからわかるんだけど、
 その時は二階で映画研究会を見張ってたんだよね?」

純「……あっ、思い出しました」

唯「そして声が聞こえた。パプリカと水泳帽が盗まれたんだよね。
 そして、外に出るため純ちゃんが一階に下りたとき、
 空容器が盗まれたことを知った」

純「そうですね、その通りです」

唯「……おかしいよね?」


 唯の問いは、有無を言わせない強さがあった。
 鈴木さんは答えられなかった。


唯「映画研究会の部室は南側。
 外に出るために通る下駄箱も南側。
 だけど、“二年一組は北側”なんだよ?」


 そうか。なるほど、そういうことか。
 私は軽音部の皆と違って、二年一組の人間だからわかる。

 毎朝、自分のクラスに行くために、
 廊下の端から端まで歩いていること。
 そして私のクラスの前の階段で、
 他の皆が階段を上がってしまうこと。


唯「あずにゃんが言ってた。
 自分のいた場所だと、犯行現場の二年五組の叫び声が
 やっと聞こえるぐらいだって。
 じゃあ、下駄箱から二年一組の状況がわかるって、
 どういうことなんだろうね?

 それはね。純ちゃんが故意に二年一組に近づいたってことだよ!」


 どやあ。そんな顔をしている唯。
 心の中で感謝する。


澪「そんなわけで鈴木さんが怪しい要素は沢山ある。
 憂ちゃんにはそれが無い。
 なら、鈴木さんに疑いを向けても、間違ってはいないと思わない?」

純「なるほど、アリだと思います。
 ただ直接証拠が足りていません。私が怪盗だという。
 状況証拠以上に決定的な、直接証拠はあるんですか?」

澪「あるよ。その鞄にね」


 鈴木さんは驚き、提げていた鞄を上げたり振ったりした。
 勿論、それでは何も出てこない。


澪「その鞄の中には、
 レインボーが取った品物が入っているはずだ」

純「なぜそう言いきれるんですか?」

澪「まさかレインボーは取った品をずっと手に持っている、
 なんてことは有り得ない。
 だとしたらどこか一ヶ所にまとめてしまってある、
 言い方を変えれば隠してあると思った。

 そこで疑いを鈴木さんに絞った上で、
 私ともう一人の友人で鈴木さんの動向を見張らせてもらった。
 決定的な写真を撮れれば良いと思ったけど、
 それは残念ながら叶わなかった。
 でも同時に、“取った品を別の場所に隠していない”ということもわかった。

 それなら隠し場所は一つ。“その鞄の中だ”」


 私は鞄を指差す。
 一方鈴木さんは、鞄の中身をいくつか取り出した。


純「こんなのしか入ってませんよ?」


 それは緑色のハサミと原型を留めていない、
 紫色の布キレだった。

 ……まあ、予想は出来ていた。

 文化祭が終わってしまえば、衣装は処分される。
 言い方は悪いが、ゴミと同様になる。
 いくらかはそれを着ていた人間の手元に行くだろうが、
 この衣装を着ていたのは紛れもなく鈴木さん。
 それを切り刻もうと燃やそうと、鈴木さんの勝手だ。


唯「ぬ、布キレはともかく、そのハサミは緑色だよね!」

純「これは私のです。ほら、ここに名前が書いてあります」


 緑色のハサミも、世に溢れる品だ。
 名前だって後から書けるとはいえ、
 それが生徒会のものだという証拠はない。

 ただ、これも予想通り。
 だから私がメインに据えていた品、それは、


澪「じゃあ、文集を出してもらうよ、鈴木さん」

純「……」

澪「そうだね。絶対、文集だけは原型を留めている。
 だって鈴木さんは文集を買っていない。
 それはいわば“借り物”なんだから。

 その文集はいずれ返さなくてはいけない。
 そんな品をぞんざいに扱えるわけが無いからね」

純「……」

澪「ここまで言えば、誰に借りたかもわかる。
 和だ。生徒会でいて、二年一組の協力者。
 和は文集を持っていたが、それも借り物。

 調べると、それは新聞部の知人から借りたものだった。
 買った人間がわざわざ同じ物を借りる理由は、
 当然、自身が購入した証拠を提示したいだけだ。

 大方、今まで和の周りで事件を発生させ続けたことを
 反省して、和とは無関係の場所で事件が発生したと
 見せかけたかったんだろうな。
 そして同時に、文集を購入していない鈴木さんから
 目を逸らさせたかった。
 また、人から取るという怪盗としての体裁を
 崩したくなかった。違うかな?」


 長い沈黙。
 合っているのかいないのか。
 緊張の時間。
 そして。


純「……ふふっ」


 不意に、鈴木さんが笑った。
 満足した笑い声だった。


純「完敗です。参りました、澪先輩」


 鈴木さんはゆっくり鞄に手を入れ、引き出した。
 手には綺麗な状態に保たれた、
 文芸部の“青い”文集が掴まれていた。


31