* * *


 憂の持ってきた型にチョコを流し入れ、あとは固めるだけ。
 ほぼ完成しました。キッチンにはチョコの甘い香りが立ち込めています。


憂「うん、良い感じだね!」


 憂の審査も通りました。完璧です。


憂「軽音部の皆さんにあげるの?」

唯「そうだよー。憂の分もあるからね!」

憂「わあ、ありがとうお姉ちゃん!」


 ああ、憂の笑顔が輝いています。
 なんて眩しいんでしょう。


唯「そうだ、最近あずにゃんたちの様子はどう?」

憂「梓ちゃんは相変わらず猫の捜索を続けているみたい。
 目撃証言もいくつか取れたみたいだよ」

唯「本当!?」

憂「うん。純ちゃんの猫がいなくなった町での目撃情報だって」

唯「そっかあ、それなら安心だねえ」


 安堵し、つい溜め息が出ました。
 猫は攫われてはいますが、現在も生存していて、
 案外近場にいるのですから。

 ということは、猫を攫った人の住居も、その地域にあるのでしょうか。


憂「そうだ、お姉ちゃんの友達の人の猫も、いくつか目撃情報があったみたいだよ」


 きっと文恵ちゃんのことでしょう。
 文恵ちゃんの喜んでいる顔が目に浮かびました。


唯「……じゃあ後は、こっちの問題だねえ」

憂「こっちの問題?」


 憂は首を傾げました。
 私は急いで笑顔を作って、ごまかしました。


唯「ううん、何でもないよ!」



 【Mi-side】


 ‐図書館‐


澪「一致したぞ、律!」

律「本当か!?」


 目的のものが見つかった嬉しさで、つい場所を忘れて叫んでしまう。
 周りからの視線が集まる。
 私たちは二人して咳払いをして、その場を離れた。

 少し離れた場所に椅子と机を見つけ、そこに腰を下ろす。
 律は私の向かい側の椅子についた。
 私は見つけた雑誌を二人の間に広げ、
 その上に切り抜かれた文字を乗せた。


澪「見ろ、ここの部分。裏側も見事に一致してる」

律「本当だ……。あっ、しかもこっちのページはこの切り抜きと一致してるぞ!」


 律は私の指摘したものと別のページを指摘した。
 そのページに目を走らせると、確かに別の切り抜きと一致している。
 もう間違いない。


律「この雑誌から全て切り抜いたのか……?」

澪「その可能性も、有り得るだろうな」


 切り抜かれたページは殆ど、
 批評家による映画批評のページのものだった。
 この犯人は批評家が嫌いなようだ。

 しかしこの際、そんなことはどうでもいい。
 私はプロファイリングの専門家でもないし、
 それが目的なわけでもない。

 私は鞄から携帯を取り出した。


律「通話はダメだぞ」

澪「するかよ……」


 律の検討違いな指摘をさて置いて、私はブックマークの一覧を開く。
 画面をスクロールさせていき、目的のページにカーソルを合わせた。
 ボタンを押し、そのページを開く。


律「なにやってんだよー」

澪「これだよ」


 私は律に画面を見せた。
 そこに表示されていたのは、最近知ったSNSの一つ“MIXY”。
 律は眉をひそめた。


律「……あれか、SNS中毒ってやつか」

澪「違うわ」


 * * *


 このMIXYというSNSには“コミュニティ”というものが存在する。
 それは同じ趣味を持った人が集まり、
 友達作りや雑談を楽しむための機能だ。

 コミュニティには専用の検索欄があり、
 絞り込みを利用することで自分に合ったものを探し当てることが可能だ。
 探し当てた後は、ただ参加するだけ。当然、無料だ。

 ただし参加するにはコミュニティの管理人の許可がいる場合や、
 そもそも特定の人物以外の参加を認めないものもある。
 とはいえ、そういったものは大抵コミュニティのトップページの紹介欄に
 書かれているので特に問題はない。

 私は早速コミュニティの検索欄に、文字を打ち込もうとする。
 と、その前に雑誌の表紙を確認する。


澪「雑誌名は“映画宝庫”か」

律「まさか雑誌のコミュニティに参加している人の中から、
 この地域の人物を見つけ出すのか?」

澪「そのつもりだ」


 律は呆れていた。当然だ。
 巨大コミュニティともなれば、参加人数は数千をゆうに越える。
 さらに言ってしまえば、その雑誌のコミュニティに参加していないからといって、
 この雑誌を読んでいないということにはならない。


澪「大丈夫。あたりはつけてるんだ」

律「どういうことだ」

澪「言っただろ。嫌な予感がしてるって」


 検索欄に“映画宝庫”と打ち込み、検索をかける。
 ヒットした。映画雑誌はマイナーだと思っていたが、
 意外と参加人数は多く、約二百人。
 その人数を見た律は肩を落とした。


律「二百って……こりゃかなりキツイぞ」

澪「そうだな。だから律、今日は一旦帰ろう。
 この雑誌を特定出来たことは、間違いなくプラスに作用する」

律「そうなりゃいいけどよ。じゃあ、帰るか!」


 帰り際、雑誌を棚に戻す。
 その際先程の私たちの叫びを聞いていた人がいたようで、
 こちらをジロジロ見てきていた。
 ばつの悪くなった私たちは、足早に図書館を出て行くことにした。



 【Yi-side】


 ‐桜が丘高校‐

 ‐二年二組教室‐


 バレンタインデー当日。
 教室は既に甘い香りで一杯になっていました。
 ここは女子高なので、全員がチョコを作る可能性を持ちます。
 それゆえの甘い香りなのでしょう。


唯「でもりっちゃんは作ってなさそうだよね」

律「それはあれか、私に喧嘩売ってるのか」

唯「そんなりっちゃんに、チョコだよ!」

律「おお、サンキュー。……って、そんなことに釣られる私じゃないぜ」

唯「お助けをー!」

律「さっきの落とし前、どうつけてもらおうかな!」


 私がりっちゃんとじゃれあってると、一際強い視線に気付きました。


紬「唯ちゃんりっちゃん、おはよう」

唯「ムギちゃんおはよ~。ムギちゃんにもチョコあるからね!」

紬「まあまあ!嬉しいわ~!」


 ムギちゃんは手を合わせて喜びました。
 しかし、不意になにかに気付いたような顔をすると、
 私にそっと耳打ちしてきました。


紬「澪ちゃんにはあげなくていいの?」

唯「ちゃんとあげるよ~」

紬「ふふっ、そっか。澪ちゃん、飛んで喜びそうね」

唯「そのつもりで作ってきたもんね」


 私は自信たっぷりに言いました。
 おみくじに恋愛は“慎重に”と書かれていましたが、
 それでも行動するときは行動するべきだと思います。


律「なんだムギ。すっげえ嬉しそうじゃん」

紬「唯ちゃんからのチョコだもの!
 それにね、家でも面白いことがあったのよ」

律「なにがあったんだ?」


 ムギちゃんは嬉々として喋り始めました。


紬「なんと私の家の使用人の一人が、
 家の金を少しだけどくすねていたのが発覚したの」

唯「ええっ!?」

紬「それでね私、頑張って色々調べて、
 ついに犯人を突き止めて……“犯人はあなたです!”って言えたのよ!」

律「……それは面白いことなのか?」

紬「一度それを言ってみることが夢だったの~」

唯「夢なら仕方ないねー」



 【Mi-side】


 ‐二年一組教室‐


 甘い香り漂う教室に入るまで、
 今日がバレンタインデーということを忘れていた。
 恋人のいる人間として、それはちょっとまずい。

 予めわかっていたら、せめて唯にチョコの一つぐらいは
 作ってあげられただろう。今更なにを言っても遅いのだけれど。


和「どうしたの澪、酷い顔よ」

澪「まさかバレンタインを忘れるとは思わなかったよ……」

和「そんな、気にすることじゃないのに。
 唯は張り切っていたけれどね」

澪「唯が?」

和「軽音部のみんなにあげるんだって。私も登校中に貰ったわ」


 初耳だった。そういえば最近、唯と二人で会う機会も減っている。
 それも例の猫探しの一件があるせいだ。
 猫探しが一段落したら、存分に楽しむことにしよう。
 いや、今日の放課後にでも、どこかに出かけようか。


澪「……そうだ和。少し協力してほしいことがあるんだけど」

和「なにかしら?」

澪「唯たちから既に聞いてると思うけど、猫探しの件で、
 調べて欲しいことがあるんだ」

和「なにか危険なことでもさせるのかしら?」

澪「まさか。レインボー事件の時よりは、よほど楽な仕事だよ」

和「……そう。それなら、いいわよ」


 和は少し顔を強張らせたが、すぐに平常に戻った。


和「それで、なにを調べるの?」

澪「後からもう一つ頼むことになるかもしれないけど、とりあえず一つ。
 ある部活のメンバーを、全員教えて欲しいんだ」


 * * *


 放課後。帰りの支度をしている最中、
 私を呼ぶ声が聞こえた。唯たちが教室の前に来ていた。

 唯は私に手作りチョコを渡してくれた。
 どうやら他の皆にもあげたようだけど、
 私のモノだけは少し特別らしい。
 嬉しい一方で、その特別がどちらに転ぶか正直不安ではある。

 次に唯は私たちを率いて、一年三組の教室に向かった。
 憂ちゃんにはチョコをもうあげているというので、梓へのチョコだという。


唯「あっ、純ちゃんのぶん忘れてた」

律「おいおい、それなりにお世話になってたのに忘れんなよ」

澪「チョコ作ってないお前が言うな」

唯「しょうがないから、自分用のチョコをあげることにするよ……」

澪「自分用のチョコを学校に持ってくる必要はあったのか?」


 唯は頬を膨らませた。


唯「もし皆で食べることになって、私だけ食べれないのは寂しいじゃん!」

紬「大丈夫よ唯ちゃん、チョコレートなら私もあるから」


 唯は少し考える仕草をした。


唯「……よしっ、このチョコは純ちゃんにあげてくるよ」

澪「いいのか、今の決め方」



 【Az-side】


 ‐一年二組教室‐


唯「あずにゃん!」


 純と憂と話していると、唯先輩が教室にやってきました。
 手にはなにかを持っていました。


梓「どうしたんですか唯先輩?」

唯「今日はバレンタインだからね、チョコのプレゼントだよ!」

梓「ああ、なるほど。今日はチョコをプレゼントする日なんですね。
 だから教室中で甘い香りがしていたんですね」

唯「純ちゃんにも、一応あるよ」

純「なにか含みのある言い方ですね」

憂「大丈夫、家で食べたけど、とっても美味しかったよ!」


 唯先輩は包みを二つ、机の上に置きました。


唯「そうだ、猫探しはどう?」

梓「目撃情報がいくつかあるだけですね。
 文恵先輩の猫も、ほぼ同様の状況です」

唯「そっか」


 唯先輩の顔に一瞬、陰りがさしました。
 が、それはすぐに払われ、晴れやかな笑顔に変わりました。


唯「頑張ってね、あずにゃん!」

梓「……はい!」



 【Yi-side】


 ‐昇降口‐


 澪ちゃんが寄りたいところがあるというので、
 私たちは部活をせずに、そのまま帰宅することになりました。
 しかし神様と言うのは本当にいるのでしょうか。
 死神様ならいそうな気はしますが。

 またしても、私の下駄箱に紙が挟まっていました。

 緊張し、思わず唾を飲み込みました。
 そっとその紙を引き抜くと、こんなことが書かれていました。

 “至急、理科室に集合のこと。”


律「場所を指定してきたな。なにをやらせるつもりなんだ?」

紬「理科室……薬品でも扱わされるのかしら」

律「おい、それって危険じゃねえか」

唯「そうであっても、行ってみないとわからないよ。一度行ってみよ?」

律「……まあ、猫一匹で大きな犯罪を犯すわけ、ないよな」


 りっちゃんは渋々頷いてくれました。
 対して澪ちゃんは、少し落胆していました。
 寄りたい場所があったと言ってましたし、
 残念がっても当然なのでしょう。



 ‐廊下‐


 昇降口近くの階段を上り、二階へ。
 そこから後者の北端を目指します。
 そこに理科室があります。
 文系になると、ほぼ無縁になってしまう教室です。

 二階の廊下は、殆ど人がいませんでした。
 二年生の教室を覗くと、ちらほら人はいるようでしたが、
 三年生の教室には誰もいませんでした。

 既に三年生は登校日以外、一切来ていません。
 もう、そんな時期でした。

 理科室の前まで来ました。
 ここに入ることになるかと思いきや、そうではないようです。
 理科室の前に、一枚の紙が落ちていました。

 “3→35→18→39”

 数字と矢印が並ぶ、不思議な暗号文でした。
 もしかして数学でしょうか。


紬「数列?でも、法則性が無いわ」

澪「暗号と見て間違いないだろうな」


 数学ではないようです。


律「なんだ、理科の実験でもさせんのかと思ったら、拍子抜けだな。
 ある意味平和で良かったともいえるけど」

澪「だとしたら、どうして理科室に呼ぶんだ?」

律「そりゃ……、そういう趣味だったり?」

澪「……どういうこと?」


 りっちゃん、それは流石にわけがわからないよ。

 気を取り直して、暗号文をもう一度見ました。
 数字と矢印。理科室の前に置かれた紙。
 なにかわかることは、ないのでしょうか。

 澪ちゃんに適当にあしらわれたりっちゃんは機嫌を損ね、
 まるで紙に目を向けていませんでした。


澪「でも理科と数字って、なにか結び付かないか?」

紬「理系教科だものね、なにか、なにか……」


 二人が唸っていると、りっちゃんが唐突に喋り出しました。


律「これじゃね?」


 りっちゃんが指差したものは、化学で使用する、元素の周期表でした。
 りっちゃんは気怠そうに言っていたのとは対照的に、
 澪ちゃんは目を見開かせていました。


澪「そうか……律、ちょっと今から言う番号の元素、
 それの記号を言ってくれないか?」

律「ん、いいけど」

澪「三番のリチウムはLi。三十五番はなんだ?」

律「三十五番は臭素、Br」

澪「十八番は……アルゴン、Arか」


 恐らく、澪ちゃんは頭の中でスイヘーリーベーしているのでしょう。
 それは二十番まで対応可能です。


澪「三十九番は?」

律「えーと、イットリウム。初めて聞くな。記号はYだ」

澪「ありがとう。並べると、Li、Br、Ar、Yってことは」

紬「……Library!図書室ね!」

澪「急ごう!」


 それぞれの数字は元素番号を表していました。
 その上で、理科室に呼んだということでしょうか。
 流石に番号のみで答えさせるのは、
 無理があったのかもしれません。

 だったら、もっと良い謎々を考えれば良い気がしますが。
 意外と犯人側にも時間がないのでしょうか。



 【Mi-side】


 ‐図書室‐


 図書室に訪れるのは、初めてではないけれど、
 随分久しぶりな気がする。
 先日寄った、あの図書館ほどの規模はないが、
 学生が利用するには十分な規模だ。

 私たちが入っていくと、強い視線を感じた。
 というか、突き刺さるほど強い視線を送っている人がいる。
 絶対ファンクラブの人だ。恐ろしい。

 その恐ろしさに立ち竦んでいると、突然律に声をかけられた。 


律「そこで突っ立ってると、邪魔だぞ」


 確かにそうだと思い、私は入口の前から動いた。
 するとすぐに一人の生徒が図書室を出て行った。
 私が邪魔していたようだ。申し訳ない。


唯「でも図書室の、どこが答えなんだろうね?」

律「また紙が置いてあるんじゃね?」

唯「じゃあ探してみようよ」


 律は腕を組むと、悩ましそうに言った。


律「本の間に挟まってるかもしれないぞ」

紬「でも元素記号の件で理科室の前まで誘導するぐらいだから、
 そんな理不尽なことはしないと思うけど」

律「じゃあどっかに落ちてるとか?」

紬「理科室みたいに端っこの教室ならともかく、
 図書室なんて誰でも使うし、それは難しいんじゃない?」

律「じゃあどうすればいいんだよー」


 少し考えてみた。ムギの言っていることはその通りだ。
 理科室前の廊下でさえ、紙が誰かに拾われる可能性は捨てきれない。
 まして図書室、それを免れることは出来ないだろう。

 しかし本に挟んであるなど、そんな理不尽なことはしない。
 それもムギの言っていた通りだ。

 床でも本でもないなら、答えは一つ。


澪「机、もしくは椅子の上だ」

唯「どっちも誰でも使うんじゃない?」

澪「それまで自分で使用していれば、誰も使うことは無いだろ?
 だから、私たちが来たのを確認してからここを退出すれば、
 紙が紛失せず、私たちのもとにくる可能性が上がって……」


 ここまで言って、私ははっとした。
 なんてことだ。私はとんでもない馬鹿なのか。


澪「おい、誰かさっき図書室を退出した子の顔を見た人はいるか!?」

律「いや見てないけど」

澪「そうだよな……。ああ、なんてことを……!」


 私の態度を見て、唯やムギも考え始めた。
 そして気づいてしまった。

 そう。“私たちは先程、犯人とすれ違っている。”

 図書室で紙を私たちが拾うには、
 その紙を直前まで見張っておく必要がある。
 それは出来るだけ近場、つまり椅子にでも座って。

 そして私たちが来た頃を見計らって、
 この図書室を出る。私たちが残された紙を回収。
 それで全て円滑に完了する。
 これが一番確実で、犯人が顔を見られない安全な方法だっただろう。

 現に私たちは誰一人、犯人の顔を確認出来ていない。


澪「……ともかく、紙を探そう。話はそれからだ」


 私たちは明らかに落胆しながらも、
 犯人が残した紙を探し始めた。

 紙はすぐに見つかった。椅子の上に置いてあった。
 その椅子は温かく、先程まで誰かが座っていたことがわかる。
 私の仮定は悔しくも当たってしまった。

 一応、図書委員に、私たちとすれ違った人を見ていないか尋ねる。
 ところがその人も、顔まではハッキリと見ていないという。
 ただ、二年生の私がすぐにわかる顔ではないから、一年生だろうということだった。



 【Yi-side】


 ‐平沢宅‐

 ‐唯の部屋‐


 猫探しを解決出来なくては、あずにゃんが笑いません。
 猫攫いを解決出来なくては、猫探しは終わりません。

 帰宅した私はベッドに座り、そのまま背後に身体を倒しました。

 澪ちゃんの話では、時間をかければ犯人を追いつめられるとのことでした。
 しかし、どの程度時間がかかるのか。
 あずにゃんが天使の世界に帰ってしまうまで、もう残り一ヶ月ほどしかないのです。

 時間は残されていませんでした。

 だからといって、私になにか出来るわけでもありません。
 今は私に与えられた役目、暗号解きをムギちゃんと進めるのみ。
 澪ちゃんとりっちゃんが、あとはなんとかしてくれます。

 しかし、犯人の目的は一体なんなのでしょう。
 どうして猫を攫って、私たちで“憂さ晴らし”をしようとしているのでしょう。
 何度考えても、理由が思い付きませんでした。


唯「それでも、あずにゃんのせいじゃ、ないんだよ」


 このまま理由が思い浮かばなかったら。
 あずにゃんは、こうしたのは自分だと言ってしまうのでしょうか。


唯「……今日はもう、考えるのは止めにしよう」



 ―――幸福を祈る不幸の天使。
 彼女は人一倍、悩む。努力する。
 そして、自力で素晴らしいことを成し遂げようとしている。
 周りもそれを理解したつもりでいます。

 そんなあずにゃんは、なにを得ることが出来るのでしょう。

 あずにゃんは私たちと触れて、変わりました。
 自分の力で人を幸せに出来るかもしれない。
 そういう希望が、見えてきているのです。

 でも、変わってないものもあるでしょう。

 今もこうして私は不安になってしまっている。
 それには必ず原因があるのです。
 もしそれが変わってないものの一つで、
 それは変えるべきものの一つでもあったならば。



唯(私は、見つけなくちゃいけない)



 最後の瞬間を、笑って過ごせるように。



第十七話「黒猫がよぎった」‐完‐


―――第十八話に続く


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最終更新:2013年03月16日 21:44