※けいおんの唯梓で唯が嫉妬する話。
※エロは無くても有っても良い。
いつもの帰り道、いつも通り、唯先輩と一緒に歩く。
なのに、二人の間に流れている空気がこんなにも重たいのは、なぜなのだろうか。
私は、何となく予想がついている。
それは、今日の放課後、部活動と言う名のティータイム中にさかのぼる……
――――――――――――――――――――放課後・音楽室
先輩たちよりも一足先に部室に着いた私は、いつも通りにむったんのお世話をしていた。
どうせ今日もそんなに練習しないんだろうなぁなどと思いつつも
チューニングしたり、磨いたり…弦の状態を確認したり。
そろそろやることが無くなってきたかな、というとき
ガチャリ、という音とともにドアが開かれた。
澪先輩だった。
澪「お、梓。早いな」
梓「はい、今日は特に何も用事が無かったので」
澪先輩は、相棒であるエリザベス…ベースを立てかけると
私の隣に座った。まぁ、大抵二人になるときはこんな感じ。
澪「そっか」
「むったんのチューニングでもしてたのか?」
梓「まぁ、そんなとこです」
「ゆ…他の先輩たちはまだですかね?」
危うく、唯先輩のことを第一に発してしまいそうになったが、何とか持ち直した。
ちょっとだけ、澪先輩が笑ってる気がするけれど、たぶん気のせいだろう。
澪「んー、もうちょっとかかるみたい」
「…唯は和に勉強教えてもらってるらしいぞ」
梓「そ、そうですか」
唯先輩のことを聞いていないのに、唯先輩のことを言ってくる澪先輩。
まるで私が聞くことは、すべて唯先輩に関することみたいじゃないですか。
それにしても、唯先輩は、和先輩と一緒にお勉強、か。
…別に、いいけどさ。私が同級生だったらなぁ、教えてあげられるのに。
って、これじゃあ、私、唯先輩と一緒にいたいみたいじゃないですか。
…ずさ…
あずさ
澪「梓!」
梓「ひ、ひゃい!な、なんでしょう!澪先輩!」
澪「何度も呼びかけたんだぞ」
「それなのに梓、ボーっとしてるからさ…」
色々なことを考えていたら、外部からの刺激を自動的にシャットアウトしていたみたいだ。
先輩が目の前にいるというのに、なんだか申し訳ない…。
梓「す、スミマセン…」
「で、なんでしょうか…?」
澪「アイツらが来るまで、まだ時間かかりそうだし」
「よければ、ちょっと練習しておかないか?」
梓「あっ!…いいですね!やりましょう!」
むったんを整備しておいてよかった。
こういうときがたまにあるから、やっぱりむったんのお世話はこまめにしておくべきなのだろう。
梓「何やります?」
澪「そうだな…じゃあごはんはおかずあたりをやっておくか」
―――――――――――――ジャァーン…
梓「ふぅ…」
ギターとベースだけだと、やっぱり寂しい気もするけれど
一人でやるよりは、ずっと楽しいし、練習になると思う。
そんな風なことを考えてたら、澪先輩が話しかけてくる。
澪「梓、またうまくなったか?」
梓「えっ!そ、そうですかね?」
澪「うん、うまくなったと思うよ」
「特に、この辺とか…」
梓「あ、そこは苦手だったので、たくさん練習しました」
「練習の成果が出たみたいで、よかったです」
澪「ちゃんと練習してるんだな、偉いぞ」
澪先輩は、ちゃんとみんなのことを見てくれていると思う。
こういう風に、少し上達すると、すぐに褒めてくれる。
ムギ先輩にも、唯先輩にも…勿論律先輩だって。
まぁ、律先輩の時はちょっと照れ隠しとして、からかいも含まれている気がするけれど。
とにもかくにも、頑張ったところをほめられた私は
妙にうれしくなってしまったわけで…。段々楽しくなってきてしまって
梓「じゃ、じゃあ!次は五月雨やりましょう!」
澪「ん~…まだっぽいし、やるか」
一方の澪先輩も、ちょっとノってきたらしくて
色々な曲をどんどんと弾いていった。
4曲目の途中になって、また音楽室のドアが開かれた。
私のテンションが、ピークを迎えていた時の事だった。
入ってきたのは、唯先輩と律先輩、ムギ先輩。
それ以外誰がいるんだ!って話になるけれど、一応…。
まぁ、ともかく、私が一番、澪先輩とのセッションを楽しんでいた時に
唯先輩や律先輩が来てしまったのだ。
ムギ先輩を除く先輩方の顔が、ちょっと曇ったのが分かった。
その空気を感じた澪先輩と私は、そろってミスをした。
それを合図として、私たちは演奏をやめる。
澪「遅かったな」
律「んー…まぁ」
「掃除長引いちゃってさぁ~」
澪「そっか、私たちは先に練習してたぞ」
「ほら、律たちも練習しよう」
律先輩は、こういう空気に慣れているのだろうか。
こんな時には素晴らしいフォローをする。律先輩の顔も、ちょっとずつ晴れていく。
しかし他方、唯先輩は、ちょっと頬を膨らませて、あずにゃんがどうのこうのと言っている。
澪「ほら、唯も」
唯「ぶーっ…澪ちゃんばっかりずるい」
「あずにゃん独占しちゃってさぁ!」プンプン
澪「独占って…」
律「そうだぞぉ!梓はみんなの後輩なんだぞぉ!」
「それを一人で、独占しおってからにーっ!」
澪「馬鹿なこと言ってないで、早く練習するぞ!」
唯「えーっ、ちょっと掃除してきたから疲れちゃったよぉ」
律「そうだぞ!私たちは掃除をしてきたんだ!練習する体力などのこっていなぁい!」
澪「偉そうに言うな!」
紬「じゃあ、お茶にする?」
あ、まずい、この流れは…
律「お、さすがだぞぉ!ムギっ!」
唯「今日のお菓子はなぁにかなぁ~♪」
紬「今日はシフォンケーキよぉ♪」
梓「あのっ、練習は!?」
唯・律「「今日はおしまいですっ!」」
梓「先輩方は練習してないじゃないですかっ!」
律「…私は、水道を掃除して、リズム感を養いました」
唯「私は、重たいほうきを持つことで、体力をつけましたっ」
…今日の練習、おしまいの流れ。
まぁ、この流れによって、私のテンションは一気に下がり…。
なんとなく、私が先に不機嫌になってしまったのです。
唯「わぁ、おいしそう!」
紬「ここのシフォンケーキ、いろいろな味があって人気もあるの」
「いつか持って来ようとおもっていたのよ♪」
澪「美味しそう…」
いつの間にかちゃっかり澪先輩も、エリザベスをしまって
いつもの定位置に来ていました。
律「はいっ、私はマロンシフォン食べたいですっ!」
澪「あっ、ずるいぞ、私もマロン…」
唯「私じゃあイチゴ~」
梓「…」
「バナナで…」
いつもなら、甘いものを食べて幸せ、解決!の流れのはずなのだけれど
あまりにもテンションの落差があったので
私は変に意地を張ってしまったようです。
律「唯-、ほっぺたにクリームついてんぞー」
唯「えっ?うそ…」
今日は、私が澪先輩と一緒に楽しんでいたからか…
律先輩にクリームについて指摘されたのに
唯「あずにゃぁん、拭いて~」
よりにもよって、私に頼んできたのです。
勿論、私のテンションはほぼ最低。
テンションのせいにするつもりじゃないけれど…
梓「…知らないです。自分で拭いてください」
と、ぶっきらぼうに答えてしまいました。
これが、きっと追い打ちになったのでしょう。今のこの空気の悪さは、きっとこのとどめによるものです。
唯「…わかったよぅ」
と言った唯先輩は、しぶしぶ自分でクリームを拭いたのでした。
その時の空気が、今に至るまで続いているのです。
―――――――――――――――――現在
原因は、澪先輩と一緒に楽しくセッションしていたことに対する嫉妬から始まった
負の連鎖にあるのだろう、と私は考えたのです。
…なんて、冷静に分析をしている暇なんてありません。
いつの間にやら、私たちは私の家の前に来ていました。
まぁ、ある時から、唯先輩は私の家の方まで送ってくれるようになりまして…。
空気が悪かった今日も、例外ではありませんでした。
唯「…」
梓「…」
家の前で沈黙するのは、ちょっと、なんか耐えがたい。
なんて考えて
私が唯先輩の方を向いたとき――――――――
ドンッ
梓「きゃ」
風景が流れていき
背中に衝撃が走り…
目の前には唯先輩の、いつもとは違う顔。
な、何が起こっているのか、わからなかったけれど
心の奥底に残っていた冷静さをひっぱりだして整理すると
…私は、私の家の玄関の扉に、唯先輩によって押し付けられているようでした。
押し付けるという割には、力は入っていないのですが。
唯「…」
梓「い、いきなりなんですかっ、先輩」
「外ですよっ、人にこういうところ見られたらっ」
唯「関係ないよ」
「…」
唯先輩は、ちょっと怒っているようです。
怖いけれど、ちょっとかっこよくもあります。
ちょっと沈黙が流れたかと思うと
唯先輩はゆっくりと口を開きました。
唯「…私の…」
梓「…へっ?」
唯「私の方が、あずにゃんの、いろんな表情知ってるもん…」
梓「ゆ、唯先輩…一体何を…?」
唯「澪ちゃんと、一緒に演奏してた時の顔」
「すっごく楽しんでる顔だったよね」
梓「…」
「楽しかったですけど…」
唯「うん…だよね」
「それなのに、私が来たら…」
唯「むすっとした、不機嫌な顔になった」
梓「それは…練習楽しかったのに…」
「練習が終わっちゃったから…」
唯「…私といるよりも、練習の方が楽しいの?」
梓「ちょ、ちょっと待ってください!」
梓「なんだか、よく意味が分からないんですけれど…」
唯「…」
ふと、唯先輩の顔に目をやると
先輩の目には涙がたまっていた。
梓「ちょ、何泣いてんですかっ!」
唯「だ、だってぇ…!あずにゃんがぁ、あずにゃんがぁ!」
唯先輩の声がだんだんと大きくなる。
この状況、ご近所さんにみられたら、まずい!
と思った私は
梓「と、とりあえず中に入ってください!」
家に入ってもらって、落ち着いてもらってから
事情を細かく聞くことにした。
―――――――――――――
梓「つまり、唯先輩は」
「私が楽しそうに澪先輩とセッションしているのをみて、悔しくなってしまって」
梓「私が、唯先輩たちが来てからあからさまに不機嫌そうな顔をしたので」
「なんだか悲しくなってしまって」
梓「本当は、その程度で怒るのはどうかと思って、言わないように、表情に出さないようにしていたけれど」
「わ、私の…その、拭いてあげないという発言で、耐えられなくなってしまった…と」
唯「…う、うん…グスッ」
梓「…」
「…嫉妬ですか?」
唯「うん…しちゃった…嫉妬…」
梓「…そうですか」
私の推理は大体あっていたみたいだ。
でも、実際に先輩の口から嫉妬してしまった、という言葉を聞くと
嬉しさがこみあげてきた。
…私に嫉妬してくれたのかーって。
梓「せーんぱい」
ぎゅ、と先輩の身体を抱きしめる。
梓「嬉しいです…先輩が私のことで嫉妬してくれるなんて…」
唯「…こどもみたいじゃない?」
梓「そんなこと言ったら、私だって子供です…」
「練習ができなくなってしまったからって、不機嫌になってしまって」
梓「それは…ごめんなさい」
唯「…ぅん…」
梓「でも、練習はしなきゃ、駄目ですよ!」
唯「…きょ、今日は…掃除したら疲れちゃいまして…」
梓「掃除の無い日も練習してないじゃないですか」
唯「…へへ、ばれちゃってた…」
梓「…もう」
梓「あ、あと、心配しなくても」
「私は、先輩と一緒にいるときが、一番好きですよ」
唯「…そっか」
梓「なので、もし、私が他の先輩と楽しそうにしていても」
梓「そのたびに悔しい思いをするなんてことにはならないようにしてくださいね」
唯「…がんばる」
梓「…ありがとうございます」
私は、唯先輩の頭を、ゆっくりと撫でた。
それに反応するように、唯先輩の身体がぴくっと動く。
あれ?
そういえば、私も…唯先輩と同じ気持ちになったんだ。
和先輩と、唯先輩が勉強してるって聞いたとき
私は、嫉妬していたんだ。間違いなく。
それならこんな風に、偉そうに言える立場じゃないよなぁ。
なんて思いながら
私は、唯先輩にしか見せない表情を、彼女に向け
唯先輩は、私の表情に、優しく応えた。
(終わり)
最終更新:2013年04月01日 22:45