私は棒を手に、心を落ち着かせようと深呼吸を一つした。

「澪ちゃん、頑張ってね」

 私を応援するムギの声が響く。
元はと言えば、このムギの要望が発端だった。


 西瓜を貰い過ぎて食べきれないからと、唯を通して和から誘われたのだった。
和の家に集まった私達は、その西瓜の膨大な量を見て驚いた。
確かに、援軍を求めたくもなる量だ。

「圧巻でしょ?幾つかは西瓜に使えるくらいだよ」

 西瓜を見せながら唯が言うと、早速ムギが食い付いた。

「西瓜割りって、なぁに?」

 棒で西瓜を割るゲームだと、律が教えていた。
続いて私が、目隠しをする、目が回った状態でチャレンジする、
という派生ルールの補足を行った。

「面白そう。やってみたいわ」

 ムギは目を輝かせて、希望を口にした。

「じゃ、皆でやろうか」

 それに対し、和が同意を示す。
私としては食べ物を粗末にする真似は避けたかったのだが、
所有者の和が了承した以上、反対する事は憚られた。

 それに和にしてみれば、少しでも西瓜を減らしたい思いがあるのだろう。
その思いを私は慮る事にして、賛成を口にした。

 結果、ジャンケンに負けた私が、西瓜割りの一番手という事になった。

 けれども私は、やはり食べ物で遊ぶ事に抵抗がある。
和の為を思ってゲーム自体に反対はしないけれど、破砕は他の人に譲りたい。
そこで私は、目が回ったフリをして、律に抱き付く事に決めた。
自分の欲望を満たしつつ嫌な事はしない、一石二鳥の策だ。
それにどうせ次は律の番だ。ついでに棒を渡してやればいい。


「ああ、任せてくれ」
 回想を終えた私は、自信たっぷりにムギへと返した。
そうして棒を額に載せて、くるくると回り出す。
ルールは7回転、どうにか平衡感覚は保てそうだ。

 だがいざ回ってみると、思っていたよりも足元が覚束なかった。
舐めていた。
それでも律に近付こうと試みるが、私は西瓜に躓いてバランスを崩してしまった。

 回る視界に、ああ私は転ぶんだと、理解した。
受け身を取ろうと試みるが、目が回っているせいで上手くいかない。

「澪っ、危ないっ」

 けれども私の身体は、床と激突する事を免れた。
律が支えてくれたのだ。

 律に抱き付くと言う事は上手くいかなかったけれど、
それ以上に嬉しい思いをした。
この西瓜のおかげだ。

 私は西瓜を引き取る事で、西瓜割りを止めてもらった。
だって、西瓜に恩返し、したかったから。


<FIN>

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