【第4話】
律「ちっちゃくなっちゃった」



ジリリリリリン!!!

朝。目覚まし時計が鳴る音に気づき私は目を覚ました

律「ん……朝か…ふわぁ~」

あくびをするのもほどほどに 私は目覚まし時計を止めようと手を伸ばした

しかし、伸ばした手は一向に 目覚まし時計のボタンにかかる気配はなかった

律「あれ?届かないな?」

寝返りでも打った拍子に時計がベッドから落ちてしまったのだと思い私は辺りを見回した

律「えっ!!!!」

周囲を見回した瞬間、驚きのあまり私は大声を上げてしまった

律「え!?な、どうなってんだ!?枕も、布団も、時計も!みんな巨大化してるぞ!!」

視界に入るもの全てが巨大だった

律「ま、待て。これは夢なんじゃないか?そうだきっとそうに違いない!」

冷静に考えてこんなことありえるはずがなかった

つまりこれは夢。なんだよまぎらわしい

妙にリアルな夢だな、と若干の気味悪さを覚えつつ 再び私は眠りにつこうとした

ガチャ

が 私が横になるとすぐに扉が開く音がした

澪「おーい律ー、来たぞー…」

澪「…あれ?いないのか?」

今日 遊ぶ約束をしていた澪が部屋に入ってきた

律「み、澪!?って、でか!!!」

澪の姿を見て私は目を丸くして叫ぶ

澪「ん?なんだ律いるのか?おーい、どこに隠れてるんだー?」

律の声に気づき澪も部屋全体を見回す

ほどなくして澪はベッドの上で動いている小さな物体を発見した

澪「…?なんだあれ、ぬいぐるみか…?」

澪はそれを手にとろうと近づく

律「澪まででっかくなっちまって一体どうしたんだ…?」

澪がそれを手にしようとした時 小さな物体は声を発した

しかも澪にとって馴染みのある声である

澪「なんだ最近のぬいぐるみは喋ることもできるのか。高性能だなぁ」ヒョイ

律「のわぁ!」

そういうと澪は私を手に取る

澪「なんだこのぬいぐるみ、律にそっくりじゃないか。あれ…?でもこれよく見たらぬいぐるみじゃないぞ?」

澪の手のひらの上に乗せられた私は 必死に澪に訴えかけた 

律「ていうか私だよ!澪!気が付いたらみんな大きくなっていたんだ!」

澪「え…?律……?お前が…?……まさかぁ~」


澪は冗談っぽい口調で言った

だってそんなことあるわけないじゃないか

律「本当なんだって! 朝起きたらこんなことになってて…」

手のひらの上で訴えかけるその様はまさに律そのものだった

え、嘘だろ…? いや、まさかそんな

澪「本当に…りつ…なの…?」

私はおそるおそる聞いてみた

律「その通り!りっちゃんです!」

律は澪の手のひらの上でVサインをしながらそう言い放った

え…?律が…?小さく…!?

澪「えっ!?えぇー!?」バタン

びっくりした私は驚きのあまり意識を失ってしまった


…おー!みおー!!


…?私を呼ぶ声…?

律「みおー!おい!起きろ!!」ペシペシ

澪「ん、あぁ…」

私を呼ぶ声と鼻が叩かれる感覚に気づいて ようやく私は意識を取り戻した

澪「あぁ…律、本当はどっかに隠れてるんだろ。出てきてくれよ」

正直 私はまだ鼻をペシペシ叩いているチビ助が律だとは認めたくなかった

律「だから私だって言ってるじゃんか!澪こそなんでそんなに大きくなってるんだよ!」

しかしそのチビ助は口調 声質 顔立ち どれを見ても明らかに律であった

澪「認めたくないけど…やっぱりこのちっちゃいのが律なのか…」

律「え?ちっちゃい…?」

律はすぐには澪の言葉の意味を理解することができなかった

澪「そうだよ!なんでそんなにちっちゃくなっちゃったんだ、律!」

更なる澪からの言葉の応酬を受け ようやく私は自分の身に何が起こっているのかを理解することができた

私以外の物が大きくなったのではなく 私自身が小さくなっていたのだった

律「えぇえ!!?なんでわ、私小さく…?」

衝撃だった。体が縮むなんてことがまさか私の身に起こるなんて考えたこともなかったからだ

澪「私が聞きたいよ。ホントこれ、夢じゃないんだよな…?」

そう言うと澪は自分のほっぺたをつねってみる

澪「…いはい……どうやら夢じゃなさそうだな」

律「…そうみたいだな」

どうやら私が手のひらサイズに縮んでしまったことは間違いなさそうだった

澪「しかし一体なんでお前はそんなになっちゃったんだ?」

澪は私の頭を人差し指で突っつきながら質問した

律「わかんない。なんか寝て起きたらこうなってた」

本当に原因は自分でもさっぱり分からなかった

別に謎の組織に薬を飲まされたわけでもなかったし、懐中電灯のような未来の道具の光を浴びた
わけでもなかった


澪「でも…なんかかわいいな///」

澪は頬を染めながらつっつきを加速させていく

律「ちょ…かわいいって…って!いて!痛いって!やめろぉ!」

律は澪の人差し指を力一杯叩いてみたが 澪には全く効果がないようだった

澪「効かないぞ~、あー、ちっちゃくてかわいい奴だな!」

今度は澪は手のひらで律の頭をなででやった

律「ちょ…けっこう重いから…その辺で…!グエッ」バタッ

澪「あ」

時計をみると もうすでに一時間が経過していた

澪も私にかまうことをひと段落させ、これからどうすればいいのか考えている様子だった

澪「うーん、どうすれば元に戻るんだろう…」

律「うーん…」

私も策を考えてみるが いい案はまったく浮かんでこなかった

澪「…とりあえず、いろいろやってみるか」

律「…それしかないか……」

正直何をされるか不安だったが、様々なことを試してみることになった

澪「まずは引っ張ってみるか」

律「え!!?」

そういうと澪は私の頭と足をつかんで…

律「待て待て待て!澪!!それ絶対痛いよ!やめてよ!」

私は必死になって懇願した



澪「冗談だよ。なんか食べれば元に戻るんじゃないかな?」

律「なんだよ冗談かよ!澪が言うとなんか冗談に聞こえないって!」

律「でも食べるっていったって何を食べれば…?」

澪「ヒマワリの種でも食べたらどうだ?」

澪は冗談交じりに…

澪「ヒマワリの種がいいと思う。異論は認めない」

は話さずに あくまで真顔で言い放った

律「って今度はマジなのかよ!」

私は焦った 今の澪なら本当に食べさせかねなかった

律「本当に勘弁してください。ハムスターじゃないんで」

澪「そうか…ヒマワリの種を食べる律 絶対かわいいのに…」

澪は残念そうに言った

澪「じゃあこのマーブルチョコレートをあげよう」

そういうと澪はカバンからマーブルチョコレートを取り出した

律「それならいいぜ」

私も起きてから朝ご飯を食べていないので 空腹を満たすにはちょうどよかった

澪「じゃああげるぞ、律」

そういうと澪はチョコレートを一粒 律にわたす

ひまわりの種を食べるちっちゃなりっちゃんは確かにかわいいだろうなww

律「ってでけえな!オイ!」

前言撤回。空腹を満たすどころか口に入るかどうかすら怪しいと私は思った

律「っほ!かてえ!んむ!!」カリカリ

必死にチョコレートと格闘する私を見て 澪はベッドの上で笑い転げた

澪「あははは!律!頑張れ!あはは!!」

人が必死になって食べているのに失礼な奴だと思った


30分ぐらいかけてやっと完食することができた

律「あー…やっと食べ終わった…この体だと食事するのもつらいぜ」

澪「お疲れ様、律。チョコレートをカリカリ食べてる姿なかなかかわいかったぞ!あはは!」

澪が私をからかう

律「うるせー!」ポカポカ

澪の笑いへの反撃を試みたが 無駄な抵抗だった


澪「律、ごめんって!でも、やっぱり…あはは!」

澪はすっかり笑いのツボにはまってしまっているようだった


律「もういいよ!こんな時はもう寝ちゃお寝ちゃおー!」

澪にからかわれるのに嫌気がさした私は寝てしまうことにした

頑張って手足を動かして もぞもぞと布団にもぐりこむ

澪「…?律、なんだ、寝るのか?」

澪は思い出し笑いをやめ、私に質問してくる

律「……」

少し不機嫌になっていた私はあえて質問に答えなかった

澪「寝ちゃったのか?ちっちゃいから疲れもたまりやすいのかもな」

そういうと澪はティッシュを折りたたんで私の頭の下に枕がわりに置いてくれた

澪は布団をかけ直しながら私に語りかけた

澪「律…ごめんな?律が頑張ってるのに笑っちゃったりして」

律「…」

ふーんだ、何をいまさら

澪「はじめて見たときはびっくりしたけど、ちっちゃい律もかわいいなって思ってちょっといたずら
してみたくなっちゃったんだ。ごめんな?」

律「…」

……いいよ別に 私は気にしてないから

澪「はやく元に戻るといいな」

そういうと澪は私の枕元に小さく砕いたマーブルチョコレートを置いてくれた

律「…!」

口には出さなかったけど、いい友達を持ったと思った

・・・・・・

律「ん、ぁあ…?」ゴシゴシ

私が目を覚ますと 窓からは夕日が差し込んでいた

律「あれ…?みおは…?」

といいながら体を起こすと隣に澪が寝ていることに気づいた

律「あ…澪も寝ちゃったのか…」

私は澪を起こしてやることにした

律「みーおー!起きろー!もう夕方だぞー!夜眠れなくなるぞー!」ユサユサ



ほどなくして澪は目を覚ました

澪「ん…寝ちゃってたか…って律!!!」

澪は起きるなり 驚いた表情を見せた

澪「律…!よかった!もとに戻ったのか!!」

律「え?」

言われてみて気づいた

私の体はもとの大きさに戻っていた


澪「あーあ、元に戻る前に写真撮っておけばよかったかな」

澪は少し残念そうに私に語りかけてきた

律「いやでもホントに元に戻れてよかったよ!もうあんな大変な思いをするのは二度とゴメンだぜ」

澪「そうだな」

私と澪しか知らない 本当に不思議な体験だった

澪「じゃあ律も元に戻ったことだし。私も帰ろうかな」

そういうと澪は帰り支度をはじめる


澪「…ふふっ♪」

床に落ちていたマーブルチョコレートの欠片と袋を拾い上げたとき 澪の顔に笑みがこぼれた

澪「じゃあな、律。またちっちゃくなるなよ」

律「もうなりたくもねーやい!」

澪「あはは!また明日学校でな!」

扉を丁寧に閉め 澪は律の部屋を後にした

律「…一体なんだったんだろうな」

私にはいまだに何が起こったか実感がわかず まるで今日一日夢を見ていたような気分だった


ふとベッドを見ると小さく折りたたまれたティッシュが目に入った

律「まぁ…なんでもいっか!」

私はそう言うと そのティッシュを大切に机の引き出しにしまった



おわる


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最終更新:2013年06月22日 22:42