未来は樹枝のよう。
あっちこちに広がりそして終わりを向かえる。
その樹枝のような未来は結晶のように固まり、決して折れる事は無い。
私の未来はどんな未来?
それは楽しい未来?
そらともツラい未来?
そう、最初はそれが知りたかっただけ……。
ある日、私は凄く大きな木を見付けた。
その木は枝をうんと伸ばし青々とした葉っぱが気持ち良さそうに風に揺られていて、その葉っぱのあいだからは青い空がチラチラと見えた。
触れてみたい。
動くことが出来ないこの木に私は強い生命力を感じた。
その生命力に触れてみたい。
手を伸ばして木に触れる。
瞬間、私は知らない場所にいた。
菫「お嬢様?紬お嬢様?」
紬「こ、ここは?」
菫「どうされました?」
紬「あれ?私、さっきまであの大きな木の前にいたのに……」
菫「大きな木?」
まず疑ったのは今私は夢を見ているんじゃないと言うこと。
どうやら夢では無いらしい。
菫が私の手を握るこの感触。
とても、暖かい。夢ならこんなリアルに菫の手の感触を感じない。
では、私は大きな木を見付けた夢を見ていたの?
確かめる術もないし、そう思うのが自然だった。
不思議な違和感。
この違和感は菫の手から感じる。
いや、手だけじゃない菫の顔、背丈、声、それにこの場所。
大きなキーボードが隅っこにある。
あれは私の大事なキーボード。
あれがあるって言うことはここは私の部屋?
そう思えば見覚えがある物があちこちにある。
家具や色んな物が変わりすぎて気が付かなかった。
紬「菫……こんなに手大きかった?」
菫「え……?紬お嬢様には負けますが私も紬お嬢様のキーボードをよく触らせて貰ってましたから手だけが成長しちゃったかもしれませんね。フフフ」
紬「そう……」
菫「冗談ですよ!紬お嬢様の手は大きくないですよ!」
紬「落ち着いた声ね。それに綺麗になったわね。お化粧してるの?」
菫「あ、ありがとうございます」
紬「私の部屋。いつの間に模様替えしたの?」
菫「えーと……はっきりと覚えていませんが確か三年前です。紬お嬢様が成人してすぐに模様替えしたのは覚えているんですが……」
紬「成人?三年前?私まだ成人してないわよ?」
菫「もう、今度は紬お嬢様の番ですか?その冗談面白いです」
紬「冗談とかじゃなくて……私まだ18歳よ?」
私の言葉に菫は戸惑っている。
どちらが夢か分からなくなってきた。
菫に手鏡を持って来て貰って自分の顔を確かめる。
手鏡には少し大人びた顔をしている私がいた。
紬「どう言う事なの?」
普通に考えれば夢を見ている。
普通に考えなかったら、私は今未来にいる。
そう……夢じゃかったら私は未来にいる。
紬「タイムスリップしちゃった……」
菫「は、はぁ……」
紬「私、タイムスリップしちゃった!」
菫「よ、よかったですね!」
元々、私はおとぎ話が大好きだ。
ガラスの靴や不思議の国のアリス。
ひょっとしてあの木の近くに穴があって私はその穴に落ちてタイムスリップしちゃったのかもしれない。
タイムスリップしたなら、聞きたい事が沢山ある。
紬「みんなは?みんなが大人になった姿見たい!」
菫「みんな?」
紬「唯ちゃんや梓ちゃん!澪ちゃんにりっちゃん!」
菫「でも、会わなくなったって言ってませんでしたっけ?」
紬「え?」
菫「前に、言ってましたよね?自然と会わなくなったって……」
紬「自然と会わなくなった?そんな事ない!だって私達仲良しだもの……」
段々と自分の声に力が弱まっていく事が分かった。
ここは未来の世界、いくら現時点で私達が仲良しでも環境が変われば交遊関係も変わる。
そうなれば、みんなとも会う機会が無くなり自然と会わなくなる。
そして残るのは、あぁこんな友人いたなぁ……元気にしてるかなぁ……と言う考え事だけ。
それは多分、みんな経験している事。
いくら楽しい思い出を作っても、バンド活動してても、一緒に死体を探しに行っても……環境が変われば全てが変わる。
紬「……嫌だ」
だけど、みんなは放課後ティータイムのみんなは……私の大切な親友。
ずっとみんな一緒にいる。
そんな関係がずっと続くと思っていた私は無意識にある言葉を口走っていた。
紬「……嫌」
菫「はい?」
紬「こんな未来嫌よ!」
そう、こんな未来は私は望んでいない。
私が望んでいるのは、ずっとみんなと一緒にいる未来。
視界が白く染まり、暖かい日差しが降り注いだ。
気付くと私はあの木の前にいた。
パキッと小さな音が聴こえた。
音がした方を見ると木の枝が落ちている。
きっと、あの木の枝が折れたのだろう。
……さっき私がみたのはなんだったんだろう?
確か……この木に触れた途端、私は違う場所にいた。
しかも、その場所は未来で、私はみんなと会わなくなった事にショックを受けていた。
紬「ほんとになんだったのかなぁ……」
まさか、こんなとこで寝てたわけじゃ無いと思うし……。
もう一度木を見上げる。
なんか、変に疲れてしまったし、少し休もう。
木に背を預けると、私はまた知らない場所にいた。
澪「なぁ……笑えないか……笑えるよな凄く」
紬「……まただ」
澪「なんでこんな事になってしまったんだよ!!!」
体が飛び上がった。
すぐ横には澪ちゃん。
凄い怒ってる。
澪「望んでなかった……こんな事……」
紬「み、澪ちゃんどうしたの?」
こんなに怒った澪ちゃんは見たことなかった。
だからここはどこ?なんて聞けないし、今は西暦何年とも聞けなかった。
一つだけ分かった事は、私はまたタイムスリップした。
何でタイムスリップしたかは分からないけど、これだけは確かだ。
律「おっまたせー!」
唯「ごめんごめん!この衣装着るの難しくって」
梓「早くしないとみんな待ってますよ!ほらムギ先輩、澪先輩そこの上に早く!」
慌ただしく三人がやってきて、りっちゃんから背中を押された。
律「ほら、ステージが上がるぞ!みんなポーズ!」
唯「がってん!」
私達五人が立ってる場所が上へと上がっていく、眩しい光。
凄く大きな歓声。
今更だけど私はフリフリの服を着ていた。
澪「みんなぁーおまたせ☆みおみおだよー!」
紬「みおみお?」
澪「今日はみんな放課後ティータイムのライブに来てくれてありがとー☆」
唯「もーぅ唯みんなの事好きになっちゃいそー」
梓「みんなサイリウムは持ったー?」
律「今日は私達、放課後ティータイムの五周年ライブだぞー!」
紬「………………」
梓「ほら、次ムギ先輩の番ですよ!」
紬「…………え?」
紬「わ、私の番?」
いきなりこんな場所に立たされて何が私の番なのか、いまいち分からない。
それに、凄い人の数。
うぉぉぉぉ!とかいぇぇぇぇい!そんな大声が響いている。
唯「ムギちゃん台詞忘れちゃったの?ほら……それじゃあ一曲目ふわふわ時間いっくよーだよ!」
紬「え?え?えぇーっ?」
澪「早く!みんな待ってるだろ!アイドルとして意識が足りてないぞ!」
紬「え……えっと。そ、それじゃあ一曲ふわふわ時間いっくよー……」
始まった。
どうやらこの未来では私達はアイドルらしい。
唯ちゃんが歌ってる横で私は色々考えた。
多分、ここは……武道館。
私達は夢の武道館でライブをしている。
いや、ライブじゃない。
ただ、誰かが演奏してる中で私達は歌って踊っている。
誰も楽器を持っていない。
誰も……。
何がどういった経緯で私達はアイドルになったのか知らないけど、私達はきっと妥協したんだろう。
バンドとして武道館には立てない。
だけど、アイドルとしてなら……。
一曲目が終わると梓ちゃんに手を退かれ私はステージの端へと連れてかれた。
梓「もうどうしたんですかムギ先輩!ボーッとして……」
紬「ご、ごめんなさい……」
梓「みんなの夢、武道館でのライブなんですからしっかりしてください!じゃないと偉い人から嫌われますよ!」
紬「偉い人?」
梓「プロデューサーですよ!折角、気に入られたのに……」
誰かから肩をポンッと叩かれた。
振り向くと、小太りのオジサンが笑顔で私を見ていた。
梓「プロデューサー!おざーっす!」
紬「おざーっす???」
プロデューサーは挨拶のつもりか梓ちゃんの肩に手を置いた。
そして、一言。
これが終わったら近くにホテルがある。
そこで待ってるよ。
ゾッとした。
プロデューサーは去って行った。
梓ちゃんの顔からは笑顔がきえていた。
梓「酷いですよね。夢を見ている気分だったのに、一言で私達を現実に引き戻すんですもん。悔しいですよね。自分達で演奏出来るのにさせてもらえないなんて……」
観客の歓声が大きくなる。
梓「さぁ!二曲目ですよ!」
紬「…………」
さっきのプロデューサーと私達がどんな関係なのか分かった。
そしてどんな事をしてこの武道館でライブを行う事が出来たのかも……。
紬「ねぇ……梓ちゃん」
梓「はい?」
紬「もし、私達がまだ高校生で今のこの未来を知ったとしたら。それは嫌な未来?嬉しい未来?」
梓「……嫌な未来です」
紬「えぇ……私もこんな未来嫌だわ」
いつの間にか私は大きな木の目の前にいた。
紬「あ……戻ってきた」
二回も私は不思議な体験をしてしまった。
でも、なんで私は未来を見ることが出来るのか?
答えはすぐに分かった。
この木のおかげだ。
またパキッと音がして折れた枝が地面に落ちる。
二回ともこの木を触り二回も未来へ連れてってくれた。
この木は不思議な魅力がある。
それは多分、未来を知らせてくれるから。
私は知りたい、どんな未来が私を待ってるのかそれは楽しい未来なのかツラい未来なのかどんな未来なのか知りたい。
もしその未来が気に入らなかったら、気に入らないと言ってしまえば、その未来は消え枝が落ちるだけ……。
そして新たな未来が私を待ってる。
そう、この無数に伸びた枝は未来。
様々な私の未来。
私は木に触れる。
最終更新:2012年10月13日 21:52