いつも通りのティータイムが行われる中
普段では全く聞くことのない単語が話題にあがる
いつもとは違う日常が今始まろうとしていた

澪「サッカーの試合?」

さわ子「そうなのよ、雷門中っていう中学校とサッカーの試合をすることに
なってそれで軽音楽部として参加するのはどうかなってね」

澪「それってサッカー部がやればいいんじゃないですか」

さわ子「それがね、サッカー部はその日ちょうど大事な試合があってね
それで暇そうって理由で軽音楽部がやればいいじゃないっていわれちゃって…」

梓「私たち、そんな風に思われてたんですね…」

ガタン!
唯「楽しそう!やってみようよー!」

律「おお!そうだな唯隊員! 相手は中学生だし軽く相手してやろうぜ!」

澪「そんなこといって練習はどうするんだ? 
サッカーしてたら楽器の練習ができなくなるぞ」

梓「そうですよ!ただでさえ暇だと思われてサッカーまで始めたら何部か
わからなくなっちゃうじゃないですか!」

さわ子「意見が二つに分かれたわね…ムギちゃんはどう思うの?」

紬「私は参加したいでーす」

律「多数決で3対2! 決まりだな!」

澪「全くいつもこうだ…」

紬「やるなら作戦を決めたいわ、さわ子先生、何か資料ってありませんか?」

さわ子「それが、まだ相手の顔写真とポジションの情報しかないのよ、細かい情報は明日持ってくるわ
じゃあ、私用事があるからもう、行くわね」

律「なんだよー! せっかく盛り上がってきたのに」

唯「へえ、この子たちなんだ、なんだか小さくて可愛いね」

澪「やることもないみたいだしこのまま…」

唯「アイスでも食べにいこうか!」

梓「少しは練習しようとしてくださいよー!」

紬「まぁまぁ、もう下校時間だし、帰りましょう」

律「よし! アイス屋に突撃だー!」

唯「突撃ー!」

紬「おー!」

澪、梓「結局練習できなかった…」


通学路

唯「アイスはすごいよ♪ないと困るよ♪むしろアイスが主食だよー♪」

梓「そんなにはしゃがないでくださいよ」

律「ははは、しっかりと前をみて歩けよ」

紬「うふふ、唯ちゃんったら…もうあんなに遠くに…」

澪「全く、こんな調子じゃ高校最後の文化祭も不安になるよ」

律「って 唯あぶない!」

唯「へ?」

澪「トラックだ! 逃げろ!」

梓「スピードを下げずに突っ込んで来ますよ! あっ!人が乗ってない!
坂道だからどんどん加速してきます!」

唯「あわわわ」

紬「唯ちゃん…! 腰が抜けて動けなくなってるんだわ! 助けなきゃ!」

律「くそ! でもこの距離じゃ間に合わない!」

梓「いやああああああああ!! 」

?「ゴッドハンド!」
唯とトラックの間に橙色のバンダナを巻いた少年が立ちふさがり
右手から巨大な手の形をした壁をつくりだす
キキキーーー!
ブレーキをかけた時のような嫌な音があたりに響き
ゴムの焼けるような匂いが辺りに漂い始める
少年は僅かに押させるがさらに力を入れる
巨大な手が消えると同時にトラックはそのまま力をなくし動きを止める

律「唯! 無事か! 何をやってんだ!」

唯「りっちゃん怖かったよ〜!」

紬「もう大丈夫よ、泣かないで、ほらつかまって、怪我はないからしら」

唯「ありがとう、ムギちゃん、大丈夫だよ。よいしょ」

梓「…唯先輩がひかれちゃうのかと思いました
心配ばかりかけないでください…ううう」

唯「私は無事だからね、あずにゃん泣かないで、ね」

梓「別に私は…って澪先輩はどうしたんですか」

律「澪ならここで気絶してるぞ」

?「あのー、大丈夫ですか」

唯「あっすいません、助けていただいたみたいで…
あれ?どこかで会いませんでした?」

?「いや、俺はちょっと覚えがありませんけど…」

澪「はっ! 唯! 大丈夫か!」

律「やっと目が覚めたか、唯なら無事だよ
ほらあそこにいる、バンダナの子がトラックを止めたんだ
信じられないと思うけどすごかったぜ」

澪「おいおい冗談もほどほどにしておけよ…
ってあの子、雷門中のゴールキーパー円堂守 じゃないか!
ほら、さわ子先生の資料にあった!」

唯「あっそうか! 円堂くんだ! そうか写真で見たんだった!」

円堂「はい、俺が円堂守です、ってどうして俺のこと知ってるんですか」

唯「うん、資料を見たからね!
円堂くんがゴールキーパーなんだよね!
あの手がバーンって出る奴すごかったね!」

円堂「ゴッドハンドのことですか! あれはじいちゃんが遺してくれたキーパー技なんです
今までの試合ゴッドハンドとともに戦ってきて色々なシュートを止めてきました
俺にとってはすごい大切な必殺技なんです!」

唯「すごいね! あれならどんなシュートも止めちゃうよ!
そうだ…あのね、私達、雷門中のサッカー部と試合するんだよ!よろしくね!」

円堂「そうだったんですか! ってことはあなたたちは桜が丘高等学校の方なんですね!
俺、次の試合も楽しみにしてるんですよ! 
高校生と試合すると初めてなので!
おっと…そろそろ帰らないと
監督も心配してると思うんで…試合楽しみしてますよ!」

唯「じゃあねー!」

梓「行っちゃいましたね」

澪「なあ、ムギ、梓、あの子がトラックを止めたって本当なのか」

紬「そうなのよ! 手を目の前に突き出しと思ったら大きな手が出てきて
トラックを止めたの」

梓「話だけ聞いて信じられないのもわかりますよ、
この目でみた今でも信じられないですもん」

澪「そうだったのか、ムギ、梓、ありがとう」

律「な! だからそう言っただろ!」

澪「…」

律「どうした澪」

澪「…ちょっと考え事をしてたんだ」

唯「何のアイスを食べるか考えてたんだね! 澪ちゃんは食いしん坊さんだねえ」

梓「そんなのは唯先輩だけですよ…」

紬「今日はアイスはやめましょう
唯ちゃんは念のため病院に行ったほうがいいと思うし…
多分何もないと思うけど、用心を重ねたほうがいいと思うの」

律「そうだな! 唯の体も心配だし今日は解散するか!」

その日は唯が走って病院のほうへ向かっていくのを見守った後に
HTTメンバーは一人ずつ分かれていく
その間澪は常に何かを考えたままだった


次の日
学校に来たメンバーはいつものように授業を受けていた
いつもと全く変わらない日常、しかしどこか不自然な日常
そう、誰も昨日のできごとについて話をしなかった
唯一違う点は澪が何かを考えているということだった

唯「音楽室に到着!」

梓「あっ、先輩達」

唯「あずにゃーん!会いたかったよ! あずにゃん分補給ー!」

梓「いきなり抱きつくのはやめてくださいよ っと体は大丈夫だったんですか?」

唯「うん! みんなにはもう話したけど何も異常なしの健康体だよ
だからあずにゃんを強く抱きしめても大丈夫なんだ!」

梓「もう、少し強く抱きつきすぎですよ、全く…」

律「唯たちは相変わらずだな」

紬「みんなお茶とお菓子の準備ができたわよ、今日のお菓子はザッハトルテよ」

唯「おいしー! あずにゃん!あずにゃん!これおいしいよ! ほらアーン」

梓「もー、自分で食べれますよ、モグモグ、あっおいし…」

律「うん、こりゃあうまい」

紬「どうしたの澪ちゃん、お茶もお菓子も手をつけてないみたいだけど
気に入らなかったのかしら」

澪「いや、そういうわけじゃない、モグモグ、うん、これはおいしいな」

律「澪」

澪「…」

律「何か言いたいことがあるんだろ、朝から見てればわかるさ
何年一緒にいると思ってるんだ」

澪「全く律にはかなわないな…じゃあ、みんな聞いてくれ
昨日のサッカーの試合についての話だ」

空気が凍る
あえて全員が避けてきた話題
なごやかだった部屋は急にしずかになり
時計の針の音が大きくなったかのようにすら感じられる

澪「試合は棄権しよう…」

律「なっ! おいおい昨日は試合に出るって言ってたじゃないか!」

澪「何も知らなければな」

澪「私は見てなかったけど
唯を助けた円堂君はトラックを止めたんだろ
あのトラックは小型だったけどそれでも最低でも2トンはあったと思う
それを片手で止めたんだぞ!謎の必殺技を使って!
そんな人とまともな試合ができるわけないだろ!
試合しても相手に迷惑をかけるだけだし、私達も怪我するかもしれないんだ!
いや…怪我じゃすまないかもしれないんだぞ!」

梓「私もそれがいいと思います
もともと私達が出る幕は無かったんですよ
普段運動もやってないのにサッカーの試合をするのが無茶だったんです」

律「梓まで! なあ、確かに相手は強いけどさあ
せっかく一度やるって決めたんだ せめて試合には出ようぜ
たとえ勝てなくてもやってみたいじゃないか!」

紬「負けないと思う…」

梓「ムギ先輩?」

紬「私たちなら負けないと思う
運動能力の差は私の家の
琴吹特訓場を使えば一週間もあればみんな強くなれるわ
それにサッカーはチームワークのスポーツでしょ
だから…私達五人なら誰にも負けないと思う」

澪「そうは言っても…
なあ、唯! 唯はどう思うんだ!?
昨日、トラックにひかれそうで怖かっただろ!
あのトラックみたいな威力のシュートが飛んでくるサッカーなんて
やりたくないよな!」

唯「…私は試合したいよ」

梓「唯先輩?」

唯「昨日、円堂くんと少しだけ話した時すごく楽しそうに試合のこと話してた
私はそれに応えたい」

梓「本気なんですね、唯先輩…」

紬「梓ちゃんはどうするの?」

梓「本当は私は楽器の練習がしたいし、試合には出たくないです
でも…一番怖い思いをした唯先輩があんなに真剣に試合しようとしてるなら
私だって…私だってやってやるです!!」

唯「ありがとう! あずにゃん!」

梓「ニャッ! 抱きつかないでください!」

紬「まぁまぁ」

律「で、澪はどうするんだ?」

澪「みんな本当にいいのか、怪我するかもしれないんだぞ
私はみんなが怪我をする所を見るのも嫌なんだ…」

律「大丈夫だ!澪、誰も怪我をしないさ
私が誰も怪我をさせやしない!」

澪「律…」

澪(全く律は強引でしょうがないな
でもこの強引さでいつも私に新しい世界を見せてくれた
今回も律と一緒なら違う世界が見れるかもしれない…)

澪「試合…参加するよ
律がまた無茶したら困るからな」

律「澪ならそう言ってくれると思ったぜ! 試合楽しみだな!」

澪「全くすぐに調子にのるんだから…」

紬「あらあら」

バタン!
さわ子「話はきかせてもらったわよ!」

澪「ひぃー!!」

律「うわぁ!さわちゃん急に入ってくるなよ!」

さわ子「ふふふ、実は今日は本当に試合に参加するかの最終確認をしようと思ったんだけど
その必要はなかったみたいね!」

唯「ってあれ? 和ちゃんもいる、どうしたの?」

和「ちょっと山中先生に呼ばれたのよ、みんなのサポートをするためにね」

さわ子「真鍋さんには選手をやりつつみんなの適正を見てもらおうと思ってね」

和「実は私もサッカーには少し興味があってね、試合をする雷門イレブンについて調べてきたのよ
調べてわかったわ、恐ろしいわね」

紬「何か変わったことでもわかったの?」

和「雷門イレブンは数々の必殺技を持っていて、毎回、能力も技も常に進化しているわ
さらに最新の試合で帝国学園を倒して全国大会への切符を手に入れてるわね」

律「帝国学園!?」

梓「律先輩何かしってるんですか?」

律「ああ、聡…私の弟が話してたんだけど、圧倒的強さで40年間優勝し続けてた強豪校らしい
最近負けたって話だけど…
勝った相手がまさか今回試合する雷門イレブンだったとはな」

澪「おいおい! そんなに強い学校なのかよ…」

さわ子「そのための真鍋さんよ、それに助っ人は真鍋さんだけじゃないわ!
入ってきて!」

ガチャ
唯「あっ!憂!」

憂「山中先生にお姉ちゃんがサッカーするって聞いて…
心配だし私も一緒に試合したいなって…」

唯「憂ならもちろん大歓迎だよ!」

純「私もいるよ!」

梓「うわっ! 純まで」

純「うわとはなによ!うわとは! なんかまた楽しそうなことしてるね軽音部!
山中先生に誘われたし、たまには私も参加させてよね!」

さわ子「さてとこれで全員そろったわね」

唯「あれ? さわちゃん! サッカーをやるのに8人しかいないよ!
これじゃ足りないよ!」

さわ子「これでいいのよ、ここにいるメンバーで試合をすることになるわね」

律「いやいや! おかしいだろ! 全国大会に出るような強豪相手に
運動部なしで8人だけじゃ試合にもならないだろ!
運動部のエリとか姫子とかいちごに来てもらおうぜ!」

さわ子「いえ、この試合は連携と合体技を中心に組み立てていくわ
その場合この8人が一番組みやすいのよ」

澪「無茶苦茶だ…」

和「あら、私は8人でも勝てる作戦を考えるつもりよ
そのためにはまず全員の適正を見ないといけないわね
ムギ、昨日話した特訓場への案内をお願い」

紬「わかったわ、片付けたら行くからみんなはぐれないでついてきてね」

唯「ムギちゃんの特訓場楽しみだね憂!」

憂「そうだね!お姉ちゃん! あっ、でもあんまりはしゃいじゃだめだよ
怪我したら危ないからね!」

唯「もうーわかってるよー」

紬「うふふ、私の筋力もその特訓場で鍛えたのよ」

澪「ムギのパワーの元か…期待がもてるな」
(ダイエットにも効くかな…)

律「澪ちゅわんは筋肉よりもお腹のお肉のほうが心配なんじゃないかしらー?」

澪「なっ! 何を言ってるんだバカ律!」
(こいつエスパーか!)

和「ほら、律!澪!遊んでないで早くいくわよ!」


特訓場!

唯「ほえー」

律「うわあ…試合ができそうなコートが二つか…」

梓「奥にも何かあるみたいですよ、すごい広さですね」

純(すごい所に来てしまった)

紬「この特訓場はサッカー専門だけど、その分実践的な特訓ができるように
色々な機械が置いてあるわ、みんな頑張ろうね!」

和「さてと、みんな遊んでる時間はないわよ、適性を図るために一つずつ訓練をしていくわ
まずは移動と訓練を兼ねてこのフィールドのここから端までドリブルをしていくわよ!」

唯「うえー、和ちゃんがスパルタだよ」

律「よし!じゃあやってやるか! ってあれ?さわちゃんは?」

紬「客間でくつろいでくるって言ってたわ」

澪「あの人は何しに来たんだ…」

憂「ほら、お姉ちゃん、行こうよ!」タッ!

唯「待ってよー、ういー、早いよー」ボテボテ

和「さすがに憂はそつなくこなすわね、唯は…最初だしこんなものかしら」

梓「やってやるです!」シュタタ

純「うわっ!速っ!」

和「へえ、梓ちゃんすごいわね、これはチームの起点となれるドリブルだわ」

10分後

唯「疲れたよー」

律「唯、いくらなんでもドリブル下手すぎだろ」

澪「蹴るたびに全然違う場所に転がるのもある意味すごいかもしれないけど…」

和(圧倒的スピードの梓ちゃんやミスをしなかった憂はともかく
ミスしかしなかった唯をどうするかが私の課題ね…)

和「さあ!次はシュート練習をするわよ」

紬「私から説明するわね、今からみんなの前に的がでるからそれを狙っていくの
ここから的までの距離は5メートルくらいかしらね
まとはボール3個分の大きさしかないから狙うのはかなり難しいわよ
ボールは全部で10個で当然全部あてるのが目的ね」

紬「じゃあ試しに狙ってみるわね えいっ!」ドゴオ! ブオオオオン!!

唯「ムギちゃんすごいスピードでボールが飛んでくよ!」

澪「スピードだけじゃない…パワーもだ… 
的には外れたけれど風圧だけでグラグラしてる…」

和「でも、あんなに外しちゃ意味ないじゃない…的から3メートルは離れてるわよ」
(あれだけ離れても風圧で動くあのパワー…コントロールがないのが惜しいわね)

紬「なんかうまく調整できなくて…」

純「てやー!」 バチーン!

純「よっし命中!」

憂「純ちゃん!すごい!! じゃあ私も!」 パチーン!

憂「やった!」

和(純ちゃんは中々のコントロールとパワーね…
憂はややパワー不足だけどコントロールはかなりのものね)


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最終更新:2013年08月05日 02:25