あぢさゐって本を読んでいたら、
梓が私の前に現れた。
「すいません、待たせましたか?」
「いや、私も来たばかりだぞ?」
あれ、梓が緊張してるのか?
「とりあえず行くぞ、近くだからな。」
………
…
「ただいま、澪。」
「おじゃまします…」
今日は澪と約束した日。
澪が前に梓に会いたいって言ってたからな。
「その人が梓ちゃんなのか!?」
「そうだよ。」
後輩ができると嬉しいからな。
澪がはしゃいでるような気がするな。
梓「初めましてです!」
澪「よ、よろしくな!梓ちゃん。」
梓「呼び捨てでいいですよ。」
澪「あ、梓でいいのか?」
梓「はい!私も澪先輩って呼んでいいですか?」
澪「…先輩///」
何か梓って澪と話してて嬉しそうだな。
やっぱり、梓には澪のこと言っといて正解だな。
澪も先輩って呼ばれて嬉しそうだし。
………
…
「梓、澪のことって知ってるか?」
「澪?…律先輩の親友の人ですか?」
「そうだよ、今度さ会いにいかないか?」
「で、でも唯先輩とかムギ先輩はその人は…」
「いるよ、ちゃんと。」
「…亡くなったって聞きました。」
「いるんだってば!」
「いるわけないじゃないですか…」
「…幽霊だけどな。」
「…え?」
………
…
最初は信じてなかったくせに。
私を置いて澪と楽しみやがって!
「お腹すいたー!」
「そうだな、律。」
「…え?私に言ってますか?」
「澪が梓の手料理を食べたいって!」
「お、おい!私はただ律の意見に同意しただけ…」
結局、澪と梓で作ることになった。
「私も手伝うことないのか?」
それを聞いた澪はやれやれって感じでため息をついた。
「先輩として梓に話があるから。」
「私は邪魔なのか!?」
「うん。」
「…ひどい。」
そうして、澪と梓はキッチンへ消えてしまった。
…何か落ち着かない。
私はしばらく、うろうろした。
我慢の限界がきてキッチンにひょこと顔を出して、
「私も手伝う!」
「先輩として梓に話があるって言ったぞ。」
わぁ、澪が冷たい…
「私と梓で十分うまくいってるよな?」
「そ、そうですね。」
梓、戸惑ってないか?
「律は本でも読んでろ!」
「…納得いかないな、梓!」
戸惑ってる梓にわざとらしく話をふる。
「で、でも幸せじゃないですか?」
「何が?」
「親友と後輩の手料理が食べられるんですよ?」
梓が言い切ったって顔してるし。
「…本でも読むか。」
しばらくして、
「ご飯できたぞ!」
たくさんのごちそうがテーブルに並ぶ。
三人で食えるのか?
………
…
「これで澪のこと信じたよな?」
「はい。でも幽霊には見えないですね。」
確かに見ることができて、お腹とか減って、ご飯を食べたり、作ったり。
それに…
「幽霊が寝るとは思わなかった。」
「私もです。」
あの後、澪はご飯を食べて散々はしゃいで寝てしまった。
おかげで片づけも私と梓で二人で大変だった。
今は、こうして梓を家まで送っているところだ。
「でも、澪先輩っていい人ですね。
大人でカッコいいし、
澪先輩が軽音部にいてくれたら、
もっと楽しくて…」
「大丈夫だ、梓。」
「だって…」
「澪もここまで想ってくれる人がいて幸せだろ?」
「…ありがとうございます。」
あいつは本当に幸せだよ。
私が梓にお礼が言いたいくらいに。
「あぢさゐ」って作品は最初はよく理解できなかった。
芸人と芸者の恋話のせいか、
男も女も移り気で、一途とはほど遠い。
それでも彼らは、相手のことを真剣に思い、
時には殺してしまいたいとさえ口走った。
だけど、精一杯生きて、誰かを思っている。
それは、幸せ…だよな。
第4話「あぢさゐ」おわり
最終更新:2012年10月16日 19:23