ノラやって本を読んでいたら、
澪が話しかけてきた。
「律、家に帰らなくていいのか?」
「あー、しばらく帰ってないな。」
今、みんなは何してんだろ?
「家、近いし大丈夫!」
「バカ律!みんな心配してるぞ?」
澪に怒鳴られたのは久々だな。
「分かったよ、澪は一人で大丈夫か?」
「…誰もいない家で一人。」
「じゃあ、私はいくからな!」
「一人か、一人…」
「いってきます!」
「寂しい。」
梓に電話して澪のことは頼むか…
私は携帯を取り出して、
「もしもし?梓か?」
………
…
着いた。
私の家に。
自分の家なのに緊張するな。
澪が来てから、家には帰ってないし。
学校もほとんどサボってたし。
思い切ってドアを開けた。
「…た、ただいま~。」
あれ?
無視!?
「誰もいないのか?」
「いるけど…」
「…聡。」
「今、父さんとか母さんは仕事だから俺しかいないけど…」
「そうか…ごめんな。」
「別に…澪姉の家いけば…?」
「いいのか?」
「父さんも母さんもその辺は理解してるし。」
「なら…しばらくこの家には帰らないぞ?」
「誰もいない家に行くのは意味わかんねーけど、
学校休むなら無断欠席するなよ。
毎回、俺が電話でなきゃいけないの大変だから。」
「分かった、休むときは澪の家の電話かりるよ」
「絶対にそうしろ。」
「じゃあ、いってくる!」
「…俺だって澪姉がいなくなって悲しいんだからな。」
………
…
聡って以外と大人なんだな。
まぁ、このまま澪の家に行くのは駄目な気が…
「あ、律先輩?」
「お、梓じゃないか。」
「今、澪先輩の所に行く途中なんです。」
「じゃあ、私はコンビニとかでお菓子でも買って帰るよ。」
「それなら私もいきますよ。」
「いや、澪が一人だから。」
「そうですか、じゃあお願いします。」
そう、言うと梓は急いで澪の家に向かった。
よし!
お菓子を買いにいこう。
「どれにするかな。」
「あ、あの律さんですか?」
後ろから聞き覚えのある声がしたから振り返ると、
「憂ちゃん。」
「久しぶりです。
最近また学校に行ってないみたいですが、
大丈夫ですか?」
「たぶんな。」
「あの!」
「ん?」
「お姉ちゃんが律さんに会いたいって言ってたので、
良かったら今から私の家に来ませんか?」
………
…
「どうぞ、今からお茶準備しますね。」
「おじゃましま~す、ありがとな憂ちゃん?」
「その声は…りっちゃん!?」
「唯!」
………
…
言っちゃた。
唯は一番おおげさだからあまり言いたくなかったのに。
「澪ちゃんが幽霊!?」
「…うん。」
「澪ちゃんに会いたい!」
「…はぁ。」
「ムギちゃんにも話そう!」
結局、軽音部の全員に言うことになるのか…
学校に行かない理由をごまかしながら話したら、
憂ちゃんに嘘がバレた…
でも、まさか幽霊を憂ちゃんまで信じるとは思わなかった。
「とりあえず私は澪を待たせすぎたから帰るな。」
「じゃあね!」
ふと、時計を見ると4時間もたってるし。
急ごう。
………
…
「ごめん、遅くなった!」
「…遅すぎです、事故にあったんじゃないかし心配しました。」
「ごめんな、澪もごめん。」
「梓、今日は私が家まで送るよ。」
「あ、ありがとうございます。
律先輩、さよなら。」
「え?おい、澪!?」
バンッとうるさいドアの音が響く。
怒ってんのかな、澪。
仕方ない。
私は本を取り出した。
さっきまで読んでたノラやだ。
ノラは、わさび漬けが入っていた浅い桶で、ご飯をもらう。
最初こそは家の外だったけど、やがては屋内でもらうようになった。
…だめだ。
澪が心配で文字が頭に入らない。
しばらくすると、
梓からメールがきた。
律先輩、
澪先輩が律に、
心配させられたから、
今度は律に心配させてやるんだ。
…って言ってました。
今日は帰らないようですよ。
ちなみに私の家に泊まるので。
一応、澪先輩は律先輩に内緒にしてるので、
澪先輩が帰ってきたら心配してあげて下さいね。
「…はぁ」
何か呆れた…
のんびりとノラやの続きを読んだ。
ある日の午後家を出て行ったきり、
飼い猫であるノラは帰ってこなかった。
最初は冷たい態度を取っていたくせに、
いざいなくなってしまうと、
ノラが帰ってこないと言っては、
ひたすら泣いた。
………
…
「…?」
どうやら寝ていたみたいだ。
起きたら午前の6時だった。
澪は帰ってきたのか?
「おい、澪?」
言葉を放つも返事はない。
幽霊である澪が、
どんなふうに現れたり、
あるいは消えたりするのか、
私にはよくわからなかった。
詳しく聞けば教えてくれるのだろうけど、
はっきりさせるのが嫌だった。
今は曖昧なままでいい。
澪はいつまでここにいられるだろう。
もしかしたら、このまま消えてしまうかもしれない。
途端に不安が押し寄せてきた。
「澪、ねぇ!?
いるんだろ!?
返事くらいしろよ…」
「…律?」
「勝手にいなくなるなよ!?」
「…ご、ごめんなさい。」
「…許す!」
第5話「ノラや」おわり
最終更新:2012年10月16日 19:25