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高校二年の夏休みも残り数える程しかなくなり、しだいに秋が近づいてきた頃の事。
私は部屋で澪先輩と色々お話しをしていました。

私と澪先輩は、いつの日からかこうやってよく二人で遊ぶようになっていました。
自分でも何故こんな仲になったのかはよく分かりません。

もちろん、軽音部の皆さんと一緒にいる事が大半ですが、気が付けば澪先輩はいつも隣にいました。

今ではほぼ毎日、私の家で澪先輩と一緒に夏休みを過ごしています。

澪「じゃあそろそろ帰るな」

梓「はい、また明日です」

澪「忘れ物は…」

梓「あ、これ…CD一枚だけ忘れてます」

澪「おっと、ごめん。ありがと」

澪「じゃ、おやすみ梓。またな」

梓「おやすみなさい、澪先輩」

夜、いつものように澪先輩を玄関から見送って、私は部屋に戻ります。
そしてベッドにうつ伏せに倒れ込み、今日のできごとを振り返りました。

梓「はぁ…」

今日も言えませんでした

澪先輩。私の憧れの人。
真面目で、仲間思いで、強くて、優しくて、音楽を誰よりも愛していて。

なにより、澪先輩は後輩の私にも分け隔てなく親身に接してくれています。

ちょっとおっちょこちょいだったり、怖がりだったりするけど…でも…

私はそんな澪先輩の事が大好きです。

もちろん、軽音部に入部した頃はそんな風には思っていませんでした。
あくまでも先輩として、憧れていただけでした。

でも、こうやって澪先輩と友達のように接していくうちに、私の胸の中は澪先輩でいっぱいになっていました。

梓「澪先輩、好き」

この思いを伝えたくて、伝えたくて。

でも、いつになってもそれができない。
いつもタイミングを逃してしまう。

毎日、澪先輩と出会っては別れて、私は日に日にその思いを募らせていました。

梓「夏休みもあとすこしか…」

私が気持ちを伝える事が出来なくても、そのまま夏休みが終わってしまっても…
澪先輩とのこの関係はいつまでも続くのでしょうか?

夏休みが終わり、冬が来て年が明け…そして澪先輩は卒業してしまいます。

そうなっても、澪先輩は私の事を忘れないでいてくれるでしょうか?

梓「ん……」グスン

ヴーヴーヴー!

梓「あれ、澪先輩?」

澪先輩から電話です。
まだ何か忘れ物があったでしょうか?

梓「どうしたんですか?澪先輩」

澪『梓!大変だ!』

梓「え、なにがあったんです!?」

澪『うさぎ拾っちゃった!!』

梓「えっ…;!?」

・ ・ ・

梓「あ、澪先輩!」

澪「梓っ………うわわ、暴れるな暴れるな!」

ウサギ「………」ジタバタ

澪先輩が大きなウサギを抱えて私の家に戻ってきました。
私は玄関の扉を開けたまま、うさぎを抱える澪先輩を家に入れ、すぐに部屋へ行きました。

梓「そのダンボールに入れてください!」

澪「わ、わかった!」

ウサギ「……」ジタバタ!

澪「あ、ちょっと!わー、もう…わかったから、わかったから!」

梓「う、うわ~…」

澪「はぁ、はぁ。あぁ、疲れたぁ…」

梓「お、お疲れ様です;」

梓「どうしたんですか?このウサギ」

澪「それが、帰ろうとしたらさ…このウサギが野良猫に追いかけられてて」

澪「足を引きずりながら必死に逃げてたから助けたんだ」

澪「野良猫を追い払うのに苦労したよ…」

梓「は、はぁ…」

ウサギを抱えながら野良猫を追っ払う澪先輩…すごい光景だったかも。ちょっと見てみたかったです。

澪「ご、ごめんな梓…夜遅いのに、こんなもの拾ってきちゃって」

梓「ふふ、大丈夫ですよ。別に」

梓「私もすこし興奮してます」

うさぎ「………」もふもふもふ

梓「こんばんは、うさぎ?」ツンツン

うさぎ「………」

澪「あれ、大人しくなったな」

梓「そうですね、さっきはすごく暴れてたのに」

うさぎ「ヒクヒクヒク」ぬっ

梓「わわっ、ダウンボールから出ちゃだめだよ!」

澪「うわぁ、二本足で立つとかなり大きく見えるなぁ」

梓「こ、このうさぎ、結構大きいですよね……ちょ、ほら…だめだってば。よしよし」

うさぎ「………」ヒクヒク

澪「ふふふ」

梓「ふぅ…」

梓「大きいと言うか…」

澪「すこしおデブちゃんだな」

うさぎ「………」ヒクヒク

うさぎ「バリバリバリ!」

梓「ん?」

澪「あっ…新聞紙食べてるぞ!?いいのかこれ?」

梓「わわっ、それ食べちゃだめだよ!それは中敷っ!」

うさぎ「バリバリバリ!モシャモシャ!」

梓「し、新聞紙じゃなくて…バスタオル!バスタオル取ってきます!」

澪「わかった!って…あぁっ、こらうさぎ!ダンボールの底を掘るな!」

うさぎ「バリバリ!ゴソゴソゴソ!!」

・ ・ ・

うさぎ「………」ヒクヒクヒク

梓「えぇ~と、うさぎにあげても良い野菜…」ポチポチ

梓「あ、ニンジンはあげ過ぎると良くないんだ」

澪「へぇ、そうなのか。うさぎといえばニンジンってイメージなのにな」

梓「そうですよね。ニンジンは少量なら大丈夫らしいです」

梓「あげてもよい野菜は、セロリ、ブロッコリー…」

梓「あとは野沢菜、かぶ、大葉なんかはうちの冷蔵庫にあると思います」

澪「へぇ、野沢菜…」

うさぎ「………」ヒクヒク

梓「とりあえず、ニンジンとセロリをあげてみましょうか!」

澪「あぁ、私も手伝うよ」

・ ・ ・

うさぎ「………」ヒクヒクヒク

澪「ほら、うさぎっ。野菜だぞ~?」

うさぎ「………」ヒクヒクヒク

梓「食べませんね」

澪「お腹すいてるんじゃないのか?さっきはあんなに必死に新聞紙食べてたのに…」

梓「やっぱりスティック状に切った方がよかったですかね」

澪「そうなのかな…」

うさぎ「………」ポリポリポリ

梓「あ、食べたっ」

澪「おぉ~」

うさぎ「………」ポリポリポリ

澪「ふふっ、かわいいなぁ~」ナデナデ

梓「けっこういい毛並してますよねこの子」ナデナデ

うさぎ「………」プイッ

梓「あれ、もういらないの?」

うさぎ「………」ウトウト

澪「なんだか眠たそう?」

梓「そうですね、目が半分閉じかけてます」

澪「そっとしておこうか」

梓「はい。はぁ~でもまさか澪先輩がうさぎを拾ってくるなんて」

澪「私も最初は無視しようと思ったんだけど、可愛そうだったからつい…」

梓「えへへ、やさしいですね。澪先輩」

澪「い、いやぁ…うん」テレテレ

梓「それにしても、どうしましょうか。このうさぎ」

澪「どうしよう…うさぎが街中にいるなんて珍しいよな。やっぱりどこかの家のペットなのかな」

梓「かなり綺麗ですもんね、おデブですけど」

澪「ということは幸せ太りってことか」

梓「それって結婚した後の事じゃ…」

澪「あ、そうか…」

澪「と、とにかく…こういう動物を拾ったときは、やっぱり保健所かな?」

梓「ですかね。でも野良でもなさそうだし」

澪「じゃあ警察署?」

梓「だと思います」

澪「でも今日はもう夜だし、どこも閉まってるよな」

梓「そうですね。ひとまずここで保護するしかなさそうです」

澪「いいのか?梓」

梓「一晩だけなら。明日、一緒に警察署に連れて行きましょう!」

澪「うん。ほんとごめんな梓」

梓「だから大丈夫ですって!むしろちょっとワクワクしてます。なかなか無いですよ、こんなこと」

澪「たしかに」

うさぎ「……zzz」

梓「ところで、澪先輩。日付変わっちゃってますよ…;?お家のほうは大丈夫なんですか?」

澪「お家?…うわっ、大変だ!」

・ ・ ・

澪『うん…ご、ごめんなさい…!』

澪『わかった。はい。はい。うん…』

澪『ありがとう、じゃあお休みママ』

うさぎ「…zzz」

梓「………」ツンツン

うさぎ「…zzz」モゾモゾ

澪「うぅ、すごい怒られた…」

梓「泊まっても大丈夫でした?」

澪「うん。いいって」

梓「えへへ」

そんなこんなで、私たちは猫に襲われていたおデブなうさぎと一晩を共にすることにしました。

・ ・ ・

澪「梓、お風呂ごちそうさま」

梓「あ、はい」

澪「うさぎは?」

梓「澪先輩がお風呂に行った後に目が覚めたみたいで、バスタオル引っぺがしてまた新聞紙食べてました」

澪「あはは、梓がお風呂に入っているときはぐっすり寝てたくせに」ツンツン

うさぎ「………」のっしのっし

梓「このデブうさぎ!」ツンツン

うさぎ「………」シュン

澪「ぷふふっ…!」

梓「えへへ」

澪「ん、ふわぁぁ~…」

梓「あ、もうこんな時間」

澪「もう寝ようか」

梓「そうですね」

澪「じゃあ私は床で寝るよ」

梓「え、ダメですよ!私が床で寝ますから」

澪「いや後輩を床で寝かせるわけには…。ここ梓の家だし」

梓「後輩とか関係ないです!澪先輩は大切なお客さんですから!」

澪「で、でもなぁ…私が急に押しかけてきたようなものだし…」

うさぎ「………」ヒクヒクヒク

梓「じゃ、じゃあ…澪先輩…一緒に寝ませんか?」

澪「えっ…」

梓「ちょっとベッド狭いですけど」

澪「う、う~ん…梓がそれでもいいのなら」

梓「わたしだけベッド使うわけにはいかないので」

澪「じゃあ…」

梓「さ、寝ましょう」

澪「うん…お邪魔します」

うさぎ「………」ヒクヒクヒク

澪「梓、狭くない?大丈夫?」

梓「大丈夫です。じゃ、消しますよ?」

澪「うん、おやすみ」

梓「おやすみなさい」パチ

澪「………」

梓「………」

うさぎ「ゴソゴソゴソ!バリバリバリ!」

澪梓(またダンボール掘ってる…)


翌日、すぐに私たちは警察署に電話をしました。
うさぎを保護している事を伝えると、警察の人は嬉しそうに「そういう届け出が一件きている」と答えてくれて、私たちはすぐにうさぎを警察署に持っていくことにしました。

警察官A「どうされました?」

澪「あ、あのっ先ほど電話で伺いました…うさぎの件で…」

警察官A「あぁ、はいはい!そのカゴがそうですね?」

梓「はい」

警察官B「じゃあちょっと見せてもらえますか?」

梓「どうぞ」

うさぎ「………」ヒクヒク

警察官A「あぁ~たぶんこれだねぇ」

警察官B「間違いないですね」

澪「飼い主の人から届け出があったんですよね?」

警察官A「そうです。ほらこの写真、このうさぎだと思いますよ?」

梓「あ、そっくり…というか模様も同じですね」

警察官B「ね、この耳の辺りとか」

うさぎ「………」モソモソ

警察官B「いやぁよかったですね。昨日の夕方くらいに届け出がありましてね」

警察官A「さっき飼い主さんにも連絡しましたから。すぐにいらっしゃるそうですので、手続きだけこちらで」

警察署にあったケージにうさぎを移し、ちょっとした書類手続きを済ませたあと、私たちは飼い主の人が来るまで待つように言われました。
少ししてから飼い主と思しき中年女性とその旦那さんが来てうさぎを受け取り、私たちにお礼をくれました。

飼い主「本当にありがとうございます…ほんとに、もうなんて言ったらいいのか」

澪「いえ、べつに…そんな」

飼い主「これ、どうか受け取ってください」

梓「えっ」

飼い主の女性は縦長の茶封筒を私たちに差し出しました。
どう見ても中身はお金なのですが、うさぎを届けただけでお金を受け取るなんて…私たちにはできませんでした。

でも…

警察官B「さ、受け取ってくださいね」

飼い主「どうぞ。ほんとうにありがとうございます」

澪「え、うぅ…じゃあ…ありがとうございます」ペコリ

梓「あ、ありがとうございますっ!」ペコリ

飼い主の女性の嬉しそうな表情に押されて、何故か警察の人にも受け取るように促され。
私たちは茶封筒を貰い、警察署を出ました。

澪「でもよかったなぁ、あのうさぎ。飼い主の所へ戻れて」

梓「はい、ホントによかったですね」

澪「飼い主のおばさん、うれしそうだったよなぁ」

梓「もう泣きながら何度も何度も感謝されましたもんね。多分相当大事にしてたんでしょう」

澪「うん。よかったよかった」

澪「で、問題はこれだな」

縦長の茶封筒。

梓「中身、見てみます?」

澪「う、うん…」ペリ

梓「………」ゴクリ

澪「………」ペリペリペリ

澪「………」

澪「ぇ…えぇっ!?」

梓「ど、どうしたんですか?」

梓「お金ですよね?」

澪「お金はお金だけど…」

梓「?」

澪「普通は五千円くらいなんじゃないのかな?こういうのって…」

梓「え?」

梓「いくら入ってたんですか?」

澪「さ、さんまんえん…」

梓「ぇ…えぇっ!?」

・ ・ ・

お礼の封筒に入っていたお金はなんと三万円でした。
二人で山分けにしたとして一人一万五千円。

高校生の私たちにとってはかなりのお小遣いですが…さすがに気がひけます。

澪「どうしようかこれ。本当に貰っちゃっていいのかなぁ…」

梓「うさぎを届けただけなのに…こういう時って、これくらいが相場なものなのでしょうか?」

澪「どうだろう?でも三万円はさすがに貰い過ぎだと思うなぁ…」

梓「ですよねぇ」

封筒を持つ澪先輩の手が少し震えています。

澪「でも、貰っちゃった物はしかたがないしな。これは二人で半分にしないか?」

梓「いいんですか?元はといえば澪先輩が拾ってきたうさぎだから、澪先輩が…」

澪「でも保護したのは梓の家だぞ?あんまり食べてくれなかったけど、餌も梓が用意したんだ」

梓「そうです…けど…」

澪「とにかく、細かい事言ってたらキリが無いし」

澪「ほら、一万五千円」

梓「ど、どうも」

澪「でもやっぱり、使い辛いよな」

梓「はい。いっそのこと部費に献上します?」

澪「私もそれは考えてたけど…」

梓「こういう貰い物は私たちで使うべきですよね。多分」

澪「多分な…」

梓「でもなんだかすごく悪いなぁ~」

澪「金額が金額なだけにな」

梓「やっぱり部費にします?」

澪「うーん…」

澪「あ、そうだ梓」

梓「?」

澪「使い辛いなら、これはお互いのために使おう」

梓「お互い?」

澪「うん。私が持ってる一万五千円は、私が梓のために使う」

梓「じゃあ私が持っている一万五千円は、私が澪先輩のために使えばいいんですね?」

澪「そういう事」

梓「たしかに、それならなんだか悪い気はしませんね」

澪「ふふふ、そうだろ?」

澪「なんでもいいからさ。本でも食べ物でも」

澪「何かに使っていこう。少しずつでも」

梓「わかりました」

うさぎがくれた、ちょっとしたお小遣い。(正確には、飼い主のおばさんがくれたお金だけど)
私たちは大切に使っていく事にしました。

でもそれ以上に、澪先輩とこんな経験ができるなんて。

一緒にうさぎの世話をして、一緒に一晩過ごした事で澪先輩との仲がさらに深まった気がして、私はあのうさぎにとても感謝していました。

・ ・ ・

それから何日か経ち、秋も深まってきた頃。

私たちはまだあのお金を一円も使っていませんでした。
あのお金はなにか特別な事に使いたくて、二人ともその特別な事をずっと考えていて、少しも使えずにいました。

澪「結局、何に使えばいいんだろう」

梓「うーん」

梓「澪先輩、そういえば…」

澪「ん?」

梓「この前、観光に行きたいって言ってましたよね」

梓「えぇ~と“天空城”でしたっけ?」

澪「あぁ、竹田城跡だな」

澪「テレビで観てさ、一度は行ってみたかったんだ」

澪「城から景色を見下ろすと、石垣がまるで空に浮いているみたいでさ」

梓「とっても眺めがよさそうですよね」

澪「うん」

梓「で、その…」

梓「行きませんか?二人で」

澪「竹田城に?」

梓「はい。澪先輩がもしよければ、このお金で」

澪「うーん……」

澪「なるほど、旅行か。いいかもな!」

梓「じゃあ…!」

澪「うん、このお金は二人で旅行に使おう」

ということで私たちは、うさぎから貰ったお金を使って観光をする事にしました。
予定は澪先輩が立ててくれて、二人でいく一泊二日の小旅行になりました。

うさぎがくれた、澪先輩とのちょっとした二人旅です。


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最終更新:2013年09月18日 22:04