(江戸時代のいつか、桜が丘町の、とある弱小農家)
子供たち「」ガタガタ
借金取り「…おい中島ぁ
ウチの酒屋から借りた50両、今日こそは、耳を揃えて返してくれるんだろうな」
信代父「……」
借金取り「黙ってちゃ分かんねぇだろうが、アア!?」ガシャン!!
子供たち「」ビクッ!
信代父「す、すみません
ご存じの通り、ここ数年の不作で、米がまともに採れないんです
あっしらも内職をして凌いでおりますが、正直、明日食うのにも困るありさまで」
次女「」(編み掛けのわらじを握りしめる)
借金取り「不作なのはどこも同じだろうが!
去年のうちに返せば25両で済んでたのに、倍に膨れ上がらせたのは何処のどいつだこの野郎!!」ゲシ!!
信代父「ぐあ!!」
次女「父ちゃん!!」
吉良「その辺にしておけ」
借金取り「は」スッ
信代父「吉良(きら)の旦那…」
吉良「私らだってね、貴方たちにこんな事言うのは気が咎めるんですよ?
父親は懸命に田んぼを耕し、子供らは健気に内職を頑張っている
特に、長女は奉公先から、盆暮の小遣いを実家に仕送って借金を返そうとしているそうじゃないですか
涙ぐましいじゃないか、なあ」
借金取り「…」コクリ
吉良「しかし、我々にも生活が、借金には“ 利 子 ”ってもんが御座いましてな
支払える見込みが無いのなら、相応の手段を取るまでですよ
……おい」
借金取り「おら、こっち来い!!」ガシ!
次女「きゃあ! 離して、離してください!!」
信代父「次女!!」
吉良「年頃の娘を花街に売れば、借金の頭金ぐらいにはなりましょうなぁ
“儲け”が出れば、利子の心配もしなくて良い」
信代父「! それだけは!! 娘だけは堪忍してください!
借金は何としてでも返しますので、お願いします!!」ガバッ
吉良「土下座されても困るのですがねぇ・・・
まあ、その想いに免じて、もうしばらくは待ちましょうかねぇ
ただし、待たせて頂いた分の利息は頂きますが、ね」ニタリ
借金取り「返せなかったら、本当に売っぱらってやるからな
覚悟しとけよ!!」
信代父「……っ」
(家の外。戸の隙間から)
信代「父ちゃん・・・」
(ナレーション:堀米先生←※テンション高い)
雪が溶けても春は来ぬ 桜咲けども春は来ぬ
(唯ちゃん、絃を咥えて引っ張る)
冷たい世間を耐えるなら 呑んで忘れろ花見酒
(りっちゃん、簪片手にキリッ)
それでも晴らせぬ恨みなら 晴らして見せよう仕事人
(ムギちゃん、右手をかざして握る)
江戸の世の悪党散らすのは 桜が丘の 徒桜かな
(澪ちゃん、日本刀で袈裟切り)
♪チャラチャー チャーラッチャチャチャー チャラチャチャー チャララララー
(テロップ)
番外編
ひ っ さ つ ! !
♪デデデン
(芸者小屋“桜が丘”内、とある茶室にて)
(開け放ったふすまから、夕日が差し込んでいる)
(紬が軽やかに琴を奏でると、律が締太鼓を打ち鳴らす)
(唯の三味線と澪の琵琶がそれに続く)
唯「君がいないと、何もできないよ
君の、ご飯が食べたいよ」
紬「♪」シャララン
唯「もし君が帰ってきたら、とびきりの笑顔で」
男1・男2「」(顔を見合わせる。男2が頷き、男1も頷く)
唯「抱き着くよ」
律「♪」タンタンタンタン
唯・澪「君がいないと、謝れないよ
君の声が聴きたいよ」
(男2人、歌に合わせて手を合わせる)
唯・澪「君の、笑顔が見れれば」
(桜の花びらが数ひら風に舞い、唯の眼前を通り過ぎる
追う視線が澪と交差し、二人は微笑みあう)
唯・澪「それだけでいいんだよ」
唯・澪「君が、傍に、いるだけで
いつも、勇気、貰ってた」
(男2、男1に酒を注ぐ)
男2「如何ですかな、私の呼び寄せた芸者たちは」
唯「何時まででも、一緒に居たい」
唯・澪「この気持ちを伝えたいよ」
男1「うむ。中々どうして悪くない
容姿は粒ぞろえで良し
演奏はさほど上手いとも言えんが、聞き苦しいほどではない
むしろ楽しさが伝わって、こっちも明るくなってくるわい
これなら、ウチの旦那様も気に入るだろう」
唯・澪「雨の日にも、晴れの日も」
男2「それはよろしゅうございました
特に、あの黒髪の娘…ええと、澪と申しましたか
あの娘が一番人気でして、歌や琵琶の他に、三味線なども達者でございます」
男1「なるほど
あの娘で考えてみるか」
唯・澪「君は、傍に、居てくれた」
男2「上手くいった暁には……」
男1「分かっておる
旦那様のお気に入りになれば、お前さまの米屋との取引が盛んになるであろうな」
男2「……へへ
よろしくお願いしやす」
唯「目を閉じれば、君の笑顔、輝いてる」
・
・
・
(置き屋にて)
※置き屋:芸者さんの住居
律「ふぃー、終わった終わった」
紬「お茶が入りましたよー」コトリ
律「おお、これはかたじけのうござる」ズズ…
紬「ふふ、お侍さんみたい」
唯「お侍!?」
(本を丸めて)
唯「りっちゃん、天誅ぅ!!」グオオオ!
律「なんの!」ガキイイイン
唯「ぬう!?」
律「不意打ちとは、武士の風上にもおけぬ卑怯者め
だぁが、りっちゃん流免許皆伝の私に襲い掛かったのが運のつき
不届きものなど、ここで成敗し
澪「本で遊ぶな!!」
ゴチン!!
律「あで!!
……くう、なんで私だけ」ヒリヒリ
澪「律、また太鼓走りすぎてたぞ
あれほど言ってるのに、まったく…」
紬「澪ちゃん、お茶どうぞ」スッ
澪「ああ、すまないな、ムギ
…お、みたらし団子じゃないか
私好きなんだよなぁ、これ」ハムハム
澪「おいひー」ホワワン
律「口に入れたまま喋るなってぇの」
唯「それでも口を手で隠してるあたり上品だよね、澪ちゃんは」ホムホム
律「お前も隠せよ、ていうか何器用に喋ってんだよ地味にすげぇよ」
紬「あ、唯ちゃん頬っぺた」
唯「ん? あ、お団子付いてた
ありがとう、ムギちゃん」
紬「どういたしまして」
澪「(モグモグ)ひひかひふ、わはひはひはほほへほへはひへひひへひふはへひは、
…ゴクリ
もっとしっかりしてくれないと困るんだからな」
律「…わかってるよ。裏稼業なんざ、私だってやりたくないし」
唯「…澪ちゃん」
紬「りっちゃん…」
唯「(澪ちゃんの言ってること、分かった?)」ヒソヒソ
紬「(空気を読めばなんとか…でも自信無いわ)」ボソボソ
唯「(幼馴染って凄いね!)」ヒッソオ!
紬「(素晴らしいわね!)」ボッソォ!
ガラッ
信代「休憩中ごめんよっと」
唯「あ、信代ちゃんおいっす!」
信代「おいっす!
澪、あんたにご指名だよ
揚屋(あげや)の一番奥の茶室にお待たせしてるから」
※揚屋:芸者が客をもてなす場所
ここでは、揚屋と置屋が一体になっている
澪「ありがとう
今、行く」
律「おお、休む間もなくお客様がいらっしゃるとはさすが澪しゃん
人気者は大変ですなぁ」ニヨニヨ
澪「他人事のように言うけど、お前も芸者なんだからな
指名が入らないと、この仕事続けられないぞ」
律「わ、わかってるよ
練習だってちゃんとしてるし」
信代「なぁに、心配するこたないさ
いざとなったら、アタシが奉公先を紹介してやるさね
もちろん、働く先は此処
先輩として、キリキリこき使ってやるよ?」
律「は、はは…考えとくよ」
さわ子「ちょっと澪ちゃん!
お客様がお待ちよ、早くして!!」
澪「さ、さわ子さんすみません、今行きます!!」バタバタ
さわ子「まったくもう…
貴方たちも。
油売っている暇があったら、少しでも教養を身に着けるべく努力なさい
芸事だけが、芸者の仕事じゃないんだからね」
律・紬・唯「はーい」
さわ子「ほら信代ちゃん、こっちに来て料理作るの手伝って頂戴」
信代「はい、只今!
…じゃね」
ガラガラ ピシャリ
紬「行っちゃったね」
律「澪もそうだけど、信代も結構忙しいんだよな」
紬「奉公人の中では年長者だし、頼りにされているのかもね」
律「働きぶりが一番良いってさわちゃんが褒めてたっけ
いやぁ、友達としては誇らしいね」
唯「りっちゃん、他人事は良くないよ
少しは危機感を持とうよ」モグモグ
律「何となぁくお前には言われたくないなその台詞
つか、おい! お前ちょっと団子食い過ぎだろ
アタシの分は!?」
唯「へ? これ一本目だよ」お茶ズズ…
律「ムギ!?」
紬「私も一本だけ…
全部で4本しか無かったから、あとは…」
律「…みみみ…」ワナワナ…
律「みぃおおおおおおおーーー!!」ギャース!
・
・
・
(夜、廊下)
澪「や、やっとお仕事が終わった…」ヨレヨレ
澪「ああ、疲れた…
早くお風呂入って寝よう…」テクテク
<ひゅおおおおおおおおん
澪「……ん?」
<ひゅおおおおおおおお どろろろろろろろろ・・・
澪「な、なにこの不気味な音
それに、何か寒気がするよ?」ブルルッ
<うーらーめーしーやー
澪「ひっ!」
<う゛~らめーしーや゛~
澪「お、おい止めろよ律冗談が過ぎるぞ律なんだろなぁ」
<にっくき仕事人めぇ、よくも私を…
澪「ま、まさか…! ち、違う私は悪くないぞ?悪人を懲らしめただけだぞ悪くないぞ」ガタガタ
<ガッシャーーン!!
澪「ひ、ひぃ!!」
律「殺してくれたなあああああああ!!!!!!!」
澪「きゃぁああああああああああああああああああああ!!!!!!」
澪「」チーン(あるある探検隊)
唯「ありゃりゃ、気絶しちゃったや」(割れた皿片づけ)
紬「やり過ぎちゃったかしら」(団扇装備)
律「ふん、団子の恨みだ」(太鼓装備)
さわ子「そのまま連れてきなさい
最近この子さぼりがちだったから、いい薬よ」(笛しまう)
さわ子「さぁ、“仕事"の"打ち合わせ"を始めるわよ」
・
・
・
(物置小屋)
(ろうそくの明かりが一本)
さわ子「…なるほど、周囲に変化は無し、か」(眼鏡なし)
律「なぁさわちゃん、そんなに慎重にならなくていいんじゃね?
どうせバレやしないって」
さわ子「…てめぇ、忘れてんじゃねぇだろうな
アタシらのもう一つの顔、その意味を」ギロッ
律「っ!
わ、分かってるよそれぐらい
ちゃんと証拠は残さないように“仕事”をしているつもりだよ」
さわ子「どうだかね…
“この世の晴らせぬ恨みを晴らし、許せぬ人でなしを消す”裏稼業の“仕事人”が、
不特定多数の客を相手にする芸者なんぞに化けること自体、とてつもなく危険な行為だって
分かってて言ってるんだろうね?」
律「それは…」
澪・紬・唯「…」
さわ子「もっとも、幕府の“仕事人狩り”から逃げてきたあんた等を匿ったのは私だ
だがね、私だって“上”からの圧力で止む無く芸者どもの世話役をやらされ、
あんた達を芸者に仕立てあげたのさ
理由も知らされぬまま、な」
紬「…」
さわ子「あんた達が仕事人になった経緯なんて知りもしないし、その気も無いがね、
どうしようもない状況への理解と対処はできるんじゃないか?」
紬「“芸者の皮を被った仕事人”を演じつつ、足を洗える機会をさぐる、ということですか?」
(さわ子頷く)
さわ子「だからこそ、誰にもバレちゃいけねぇんだ
“客”にも、“身内”にも、な
“仕事”を見られちまったら、分かってんだうな」
律「……」グッ
律「殺す、さ
それを含めての、“仕事”、だから、な」
澪(律…)
紬・唯「……」
・
・
・
(唯の部屋の前)
唯「…はぁ、毎回あの集会に参加すると気分が重くなるや…」テクテク
唯「せめて、さわちゃんが鬼の形相するの辞めてくれればな…
もうね、デスデビル※だよ、あれは」
※デスデビル:こまけぇこたぁ(ry
唯「でも大丈夫!!
なんたってこの戸を開けば、愛し妻のあずにゃんが満面の笑みで迎えてくれるはず
あ、なんか考えたらワクワクしてきた♪」
唯「わぁい、あずにゃん分補給だ~♪」ガラッ
15 名前: ◆tyTXROdtXc Mail: sage 投稿日: 2013/05/04(土) 22:27:11 ID: D2VHIgGg0
梓「……」(無表情)
唯「……」
梓「……」(無表情)
唯「……」
ガバッ
梓「……なんで土下座してんですか、唯先輩」
唯「い、いや何となく」(起き上がろうとする)
梓「…今、何時でしょうか」
ガバッ
唯「し、子九つ(午前0時)、です」
梓「そうですね
して先輩、こんな遅くまで何を」
唯「し、仕事です(嘘は言ってないから大丈夫だよ!!)」
梓「あれぇ? 変ですねぇ?
つい先ほど、和先輩にお会いしましたよ?」
梓「亥4つ(午後10時)に終わったそうですねぇえええ!!」フッシャアアアア!!
唯「ひぇえええ(やっぱり駄目だったよ!!)」
・
・
・
梓「だいたい唯先輩はだらしないんです!
ようやく地方芸妓(じかたげいぎ)※になれたばかりなのに、練習もまともにしないで!
せっかくさわ子さんのご厚意で、こんな広い部屋に住まわせてもらっているのに、顔向けできないじゃないですか!
そんなんじゃ、すぐに干されちゃいますよ!?」ガミガミ
※地方芸妓:歌や演奏を行える芸者
唯「うう…反論できなひ…」(正座)
梓「昼は稽古事、夜はお座敷でお忙しいのは分かります
ですが、その上で夜遊びまでされては、2人の時間がまるで無いじゃないですか
これじゃ結婚した意味が無…て何言わせるんですか!!」
唯「いやあずにゃんが勝手に言って
憂「もう、お姉ちゃん言い訳しないの、めっ」
唯「ちょ、憂まで」
憂「梓ちゃんの言い分はもっともだと思うな
せっかく嫁いでくれたのに、そんなんじゃ三行半突きつけられちゃうよ、良いの?」
梓「べ、別にそこまでじゃ…はっ!
つ、突きつけるです!!」
唯「そ、それは嫌だよぉ…
(でも本当の事も言えないよぉ…)
頑張るから許して、あずにゃん」
梓「わ、わかれば良いんです
さ、朝も早いし寝ますよ先輩」
唯「はぁい」ノソノソ
梓「ちょっ、四つん這いで歩かないでくださいよ見っとも無い」
唯「ずっと正座してたから、足が痺れるんだよう」シビシビ
梓「…はぁ、もういいです」
唯「」ノソノソ
梓「(しかし…)」チラッ
憂「(梓ちゃんの手前、ああは言ったけど…)」チラリ
唯「」ノソノソ
憂「(四つん這いでノソノソ動くお姉ちゃんキャワワワ///)」デレ~
梓「(憂はあんなだし・・・)」
梓「私がしっかりしないと!!」フンス
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最終更新:2013年10月23日 12:12