(置屋、唯の部屋)

梓「唯先輩、そろそろ寝ますよ」

唯「うん」(三味線を抱きしめて窓の桟に腰かけている)

憂「お姉ちゃん、ぎい太抱きしめてないで、早くお布団敷いてってば」

唯「うん」

梓「もう、生返事ばっかりして…
  早く寝ないと、またお寝坊しちゃいますよ」

唯「…あずにゃんはさー、」

梓「? 何ですか、唯先輩」

唯「……」

梓「……?」(眉をひそめる)

唯「……ううん、何でもない
  寝ようか、あずにゃん」

梓「……はぁ」

憂「?」





梓「ムニャムニャ…唯先輩そこはひじきじゃないですぅ…」

憂「」スー、スー

唯「……」

唯(そうだよね、やっぱり5人で放課後茶会だよ
  私とあずにゃんとムギちゃんとりっちゃんと澪ちゃんで放課後茶会)

唯(みんなは今の状態に賛成しているし、むしろ勧めてもくれた
  でもそれは、皆あずにゃんを裏稼業に巻き込みたくない一心であって、
  心の底では、一緒に演奏したいんだよ、やっぱり)

梓「」クー、クー

唯(あずにゃんだって、きっと……)

(唯、横になり梓から目を逸らす)

唯「私だって、一緒に演奏したいもん…!!」


ドタドタドタッ


ガラッ


律「唯ー!、大変だ!」

唯「! ど、どうしたのこんな時間に」ガバッ

梓「ムニャ…?」

憂「ふぇ…?」ムクリ

タタタッ

澪「律、どうだ?」

律「駄目だ、この辺にも居ないみたいだ」

澪「…くっ、思えば、夕方から何か様子がおかしかったんだよ
  …なぜ気づいてやれなかったんだ私は!!」

律「落ち着け澪!
  こんな所で自分を責めたって、見つかるわけないだろう!」

唯「居ないって…?
  誰か居なくなったの?」

澪「信代が…!」

澪「信代が、帰ってこないんだ!!」





(6時間前)


信代「ハァ、ハァ、ハァッ…!」タタタッ

信代(お守りを探していたら日が暮れちまった
   急いで帰らないと…!)


(芸者小屋“桜が丘”、厨房)


ザワザワ…!


しずか「1名様ご来店、りっちゃんをご指名です!」タタッ

さわ子「菊の間が開いていたからお通ししておいて!
    りっちゃんもそろそろ戻ってくるはずだから、すぐに向かわせて頂戴!!」

しずか「分かりました!!」バタバタ・・・

いちご「…姫子、刺身お願い
    今、手が離せない」トントントントントン

姫子「分かった、…って切り身もう無いよ! 誰か買ってきてないの!?」

さわ子「なんですって!? すぐに

(厨房の勝手口から)
ガラガラッ!


信代「すみません遅くなりました!!」

姫子「信代!」

さわ子「こんな時間までどこ行ってたの!」

信代「す、すみません!
   探し物があって、その…」

さわ子「言い訳は後で聞くわ!
    さっさと手を洗って厨房を手伝って!」

信代「は、ハイ!!」

姫子「……」

(信代が持ってきた荷物の中から)

姫子「……切り身、持っていくね」スッ

信代「……う、うん
   ごめん、姫子」

姫子「……」






(3時間前)

しずか「松の間、片づけました」タタッ

さわ子「そう。
    お客様も全員お帰りになったし、厨房を片づけたらもう終わりにしましょう
    私は置屋に用事があるから、あとはお願いしても良いかしら?」

いちご「…わかりました」

さわ子「助かるわ
    終わったらもうあがって良いからね、ゆっくり休んで頂戴
    ……特に、信代ちゃんは」

信代「……」

さわ子「買い物をすれば遅れてくるわ、料理の配膳を間違えるわ、お座敷のゴミを片づけ損ねるわ
    客商売では命取りの失態よ?
    一体どうしたの、まるで仕事に身が入ってないじゃない」

信代「……すみません」

(さわ子、ため息をつく)

さわ子「まあ、そんな日も偶にはあると思って、今回は大目に見るわ
    たぶん番頭も気づいてはいないでしょうし、私も知らないふりをする
    でも、それは普段の働きっぷりに免じての話
    次に同じような失態を演じたら、もう知らないふりはできないから、そのつもりでいなさい」

信代「…はい
   気を付けます」

(さわ子、信代たちに背を向ける
 躊躇ったように口を開くが、結局つぐむ)

さわ子「…それじゃ、お疲れ様」

いちご・しずか・姫子「お疲れ様でした」

信代「……お疲れさまでした」

(さわ子、立ち去る)

姫子「…信代、あとは私たちに任せて、もうあがんなよ」コソッ

信代「え…?」

いちご「…探し物、見つかったの?」

(信代、ゆっくりと首を振る)

しずか「じゃあ今からでも遅くないよ、私たちも後で手伝うからさ」

姫子「そうそう、こっそり抜け出しちゃおうよ
   番頭※の堀込様にさえ見つかんなきゃ、大丈夫でしょ」
  ※番頭:使用人の中では最も位が高い

信代「みんな…ありがとう」

(厨房の外)

さわ子「……」


(厨房から聞こえる声)

しずか「いいのいいの、普段私たちの仕事も手伝ってくれているお礼ってことで」

姫子「そうそう
   仕事が終わった後、夜なべしてるの、知っているんだからね
   遅くまでちゃんと勉強してるんでしょ?
   堀込様から課せられた宿題も、ちゃんとこなしててさ
   奉公人の義務とはいえ、中々できることじゃないって」

いちご「立派になってお父さんを支えたい、って気持ち、ちゃんと伝わってる
    …信代は頑張ってる、私が保障する」

信代「うん…うん!!」グスッ

(厨房の外)

さわ子「…フフッ」

(さわ子、安堵したようにその場を去る)






(30分前、置屋、厠に繋がる廊下)

ガチャ

堀込「…ふぅ」

バタン

堀込「いやはや、最近は妙に近くなってきて敵わん」

スタスタ

堀込「心なしか尻も緩くなってきて、もう…
   ……私も歳かな(´・ω・`)」

堀込「……外の空気でも、吸うか…」(哀愁)

(勝手口)

堀込「草履ぞうり、と
   …ん?」

堀込(ひの、ふの、みの、…
   履物の数が足らぬな…)

堀込「……まさか、な」






(信代の部屋の前)

堀込「堀込だ、開けても良いか?」

「……」

堀込「……」

(襖をそっと開ける
 窓からの月明かりを頼りに、目を凝らす
 室内には誰もいない)

堀込「……アイツめ、抜け出しおったな
   こんな真夜中に、いったいどこへ
   ……ん? これは」

(部屋の中に入り丸い何かを手に取る)

堀込「毬のようだが、はて」

(行燈に火を入れて室内を照らす)

堀込「…!?
   丁稚の分際で、何てことを!!」

ガシャン!

(隣りの部屋)

姫子「…!」ガバッ




タタタッ

姫子「どうかした、…って堀込様!?」

いちご「……!」タタッ

堀込「信代はどこへ行った!」

いちご「……そ、それは…」

堀込「何か知っているのか!?」

姫子「…」グッ




(姫子、回想)

信代「嬉しいけど、アタシ一人で探すよ
   厨房の掃除を代わってくれるだけで十分さ」

姫子「信代…?」

いちご「…気にしなくて、いいのに」

しずか「そうだよ!」

信代「だってバレちまったら、アタシのせいでみんな怒られちゃうじゃん
   そんなの嫌だよ」

信代「だからさ、知らないふりをしといておくれよ
   ……出来れば、アタシのために、さ」ニコッ




姫子「……知りま、せん
   厨房を掃除した後、部屋の前で別れてそれっきりですから」

いちご「……」コクッ

しずか「ハアッハアッ…」タタッ

堀込「探しだせ! アイツは約束事を破った!
   もう丁稚はクビだ!」

いちご「…!」カチン!

いちご「…無断の外出くらいで、大袈裟なんじゃないですか?」ズイッ

しずか「(いちごちゃん…)
    そ、そうです! 無断で外出るくらい、私だってやりますよ
    ええ、しょっちゅうです!!」

姫子「ちょ、しずか!?」

堀込「はあ?
   何をいっとるんだお前たちは」

しずか「え…?」

(堀込、部屋から出てすぐさま襖を閉じる)

堀込「いいから探せ!
   信代には、じっくり話を聞かねばならんのだ!
   見付からなかったら、部屋の物ごと追い出してやるまでだ!」

いちご「!」

姫子「…探すしかないみたいだね、行こう」

しずか「」コクッ


タッタッタッ・・・


堀込「まったく…」

(深くため息をつき、襖を開けて覗き込む)

堀込「どうにかしてやりたいが…困ったものだ」




(10分前)

(律の部屋)

律「ふわああ~~~んんっ」(欠伸)

澪「…あふぅ(欠伸)
  ああ、もうこんな時間(深夜0時)か
  じゃ、明日からはまた仕事だし、そろそろ部屋に戻るよ」

律「あいよ、おやすみ~」ムニャムニャ

澪「おやすみ…って律、布団に入ってから寝なさいってホラッ」クイッ

律「んん~わっーてる、わーってる」モソモソ

(芋虫のごとく布団に潜り込む)

律「…んじゃ、おやすみ~」

澪「フフッおやすみ」

ガラッ

バタバタ・・・!

澪「ん…?」

(廊下)

しずか「探すってどこを!?」

姫子「分からないよそんな事、でもとりあえず、外に出てみるしかないよ」

いちご「…信代が買い物に行った経路を見てみるとか」

澪「…信代?」

律「……」パチリ






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最終更新:2014年03月24日 07:53