(吉良邸、地下牢)


信代の妹「――いや! 止めてください!!」ジタバタ

牢屋番「良いじゃねぇか、少しぐらい!!
    いずれ水揚げするんだ、今日犯ろうが明日犯ろうが同じだろうが
    ちょっとくらい味見させろよ!」

(両手を縛られた信代の妹を牢屋番が押し倒し、股を開かせようとする
 信代の妹、力いっぱい足を閉じ必死に抵抗する)

服部の妻・娘「……」

女1~5「……」

(両手両足を縛られている女達、力なく気まずそうに視線をそらす
 服部の娘が、頬に青あざを付けたまま震えている)


(隣りの牢屋から)

信代の弟「お姉ちゃん!!……止めろおおお!!」


牢屋番「(隣りに向かって)…五月蠅ぇぞ糞餓鬼!!
    あんまり騒ぐと、手前も酷い目に遭わせるぞ!」

服部の娘「!!」ビクッ!

服部の妻「……っ」

信代の妹「(このままじゃ弟が……!)
     分かり、ました……」

(信代の妹、抵抗を止める)

牢屋番「……お? 大人しくなったな
    へへ。最初からそうすれば、こっちだって優しくしてやるのにな
    そら、ご開帳っ――



―― ペンッ




牢屋番「――あん?」

~♪

(廊下の方から、三味線の音色が聞こえてくる
 BGM挿入、“一発勝負”※)
 ※:必殺必中仕事屋稼業、殺しのテーマ

牢屋番「……何だ?
    おい、誰かいるのか!?」

~♪


牢屋番「……チッ……
    おい、ここで大人しくしてろよ」

信代の妹「……」

牢屋番「……ったく、良いとこだったのによ」スッ

カタンッ ガチャッ

(牢屋を出て、鍵を掛ける)





(廊下)

~♪

牢屋番「……」スラッ

(刀を抜き、警戒しながら進む)







「――」

(薄く紅を引いた女が、三味線を爪弾いている。
 白く細長い指が無駄の無い動きで弦を抑え、合わせて、撥(ばち)が白い弧を描く)





(曲がり角)


さわ子「――」

(曲がり角の先、大きな木箱の上に腰かけ三味線を爪弾くさわ子)

牢屋番「……おい、そこで何をしている」

(さわ子に刀を突き付ける
 彼女は微動だにしない)

牢屋番「……」トットッ

(早足で近づく
 刃先がさわ子の喉元を撫でる)

さわ子「……」

~♪

牢屋番「答えろ」

ピタッ

(演奏が止まる)

さわ子「……」

牢屋番「……」

さわ子「……。
    ――、――」

(さわ子、小声で何かを呟く)

牢屋番「――!!」

牢屋番「――まさか、貴様!!」バッ!!

(刀を振り上げて、さわ子に切りかかる)

さわ子「――!」

カン!

(さわ子、三味線の棹で受け流す)

牢屋番「――!!」

さわ子「――」

ブォン!!

(すぐさま撥を振り上げ――)

ザシュ!!

(――牢屋番の喉笛を掻っ裂いた)

牢屋番「――ぐぇ……っ!」

――ドサッ

さわ子「……」

(木箱を開け、牢屋番を押し込んで蓋をする)





(地下牢)


全員「……」

カタンッ

信代の妹「」ビクッ

さわ子「……」

(眼鏡をかけたさわ子、そっと牢屋の前に立つ)

信代の妹「……?」

服部の妻(誰……?)

ガチャッ ギィ…

さわ子「……私の仲間が、牢屋番を引き付けています
    今のうちに逃げてください、私が案内します」

一同「!!」

服部の妻「……貴方は、一体……?」

(服部の妻に近寄り、縄を解く)

さわ子「余計な詮索は無しですわ
    それより今は、逃げる事だけを考えるべきです
    ――早くしないと、“間に合わない”かも知れませんよ?」

服部の妻「!」コクン

(服部の妻が頷き、皆の縄を解いて回る
 解かれた人が、また別の人の縄を解いていく)




(吉良我ノ助の座敷)

澪「……」

(澪、三味線の演奏が終わる)

吉良「……ふむ。
   今のは、物悲しい雰囲気の調べだったな
   名は何と申す?」

澪「……」

(澪、軽く俯いたまま押し黙る)

吉良「……澪奴?」

澪「……“おとうさん”
  先ほどのお話、お受けしとうございます」

吉良「……? お、おお! ウチの芸者になってくれるのか!
   それは願っても無い話しだが、急にどうしたのだ?」

澪「簡単な話ですわ」スッ

(澪、吉良に擦り寄る
 後ろからそっと抱きしめる)

吉良「……んん?」

(満更でもない様子で、にやつく)

澪「どんなに言い繕った所で、そこに居るのは男と女。
  “おとうさん”の小屋が建てば、水揚げをしない“桜が丘”など、忽ち潰れてしまうでしょう」

吉良「はは、当然だ。
   綺麗事などで、この世は渡れぬわ」

(澪、目を見開き、両手で口を押える)

澪「私も同じことを考えておりました!」

(澪、顔を寄せて、身体を吉良の視界から隠す)

澪「―― 本当にこの世の中、綺麗事ばかりではありませんよね」

ス…

(右手を懐に潜りませ、そっと短刀を取り出す)

澪「私、“おとうさん”とは、上手くやっていけそうな気がしますわ」

(逆手にして袖の下に隠す)

吉良「ああ、私もだ。
   お前とは、末永い付き合いになりそうだな」

(澪、再び後ろから抱きしめる)

澪「……私の“旦那”には、なって下さらないのですか? 
  そうすれば、先ほどの曲の名も、お教えできますのに」

(吉良、意趣を汲み取ったように肩を揺らす)

吉良「くくく、ますます面白い女子だな、お前は
   ……良いだろう。先の演奏に免じて、その話に乗ってやる
   今宵より俺は、お前の“旦那”だ」

澪「ふふ、ありがとうございます、“旦那様”」

(吉良、上機嫌に鼻をならす)

吉良「して、あの調べは何と申すのだ、ええ?」

澪「はい、あの調べの名は――」

シュッ!

(右の袖から短刀を滑らせて鞘を掴む
 間髪入れず左手で引き抜き、吉良の鳩尾へ――)


――ザシュ。





澪「――恨み、晴らして候」

(BGM挿入、“恨み晴らして候”)
 ※:必殺仕事人、殺しのテーマ


吉良「な……! あ……!!」

澪「……」

(吉良、ゆっくりと下を見やる
 震える指で、澪の手を短刀から引きはがそうとする

澪「…」スッ

(澪がそっと指を離す)

吉良「っ!!」

(機を逃すまいと柄を掴み、引き抜こうとする吉良の手を――)

澪「――っ!!」グッ

ドスッ!!

吉良「――ゴハァッ!!」

(――すかさず握りしめ、さらに深く押し込んだ)

澪「――! っ――!」

(吉良の腹を、さらに横へ切り裂いていく)

ズブシュッ! ザク!!

吉良「ああああああ!  がああ!」

吉良「あ、あ゛あ゛あ゛…」ガクガク

(澪、吉良の耳元で、重く、静かに囁く)

澪「……アンタに伝言があるよ」

(澪、そっと眼を閉じる
 BGM、一時フェードアウト)

澪「この――」


(回想、瞬間的にフラッシュバック)


―― おいっす!
   澪、あんたにご指名だよ


―― …! 子供泣かすような、人でなしに、…この! 聞く耳なんかないね!


―― 3つ下なんだけどさ、アタシに似ず器量良しなんだわ、これが
   母ちゃんに似たのかな、はは


―― ど、どうしても実家の借金を返したかったんです!
   藪入り※の時に頂いたお小遣いでは到底足りなくて、少しでも稼ぎが欲しかったんです
   お許しください!!

―― 父ちゃんが、アタシを守ってくれたんだ
   アタシは父ちゃんを守れなかったのに!!
   何も! 何もしてあげられなかったのに! 



―― あたしと父ちゃんの恨み、晴らしておくれよ……




(澪、目を大きく見開く
 涙の粒が、ハラりと零れ落ちた)




  「 ―― ひとでなし。」

ズバシュッ!!

(BGM、フェードイン)

吉良「~~~!  」

(思い切り横に凪ぎ、止めを刺す)

ドサッ

澪「――」

(澪、血糊をふき取り、襖を開ける)

澪「……」

スイッ

(廊下に出ようとし――ふと、振り返る
 腹を抱えるように蹲り絶命している、吉良我ノ助)

澪「……。
  ひとでなし、か……」

(澪、少しの間うつむき、また何事も無かったかのように座敷を後にした)





(廊下)

澪「……りつ」

律「……」

澪「……」

律「……帰ろっか、澪」

澪「律、お前聞いて――」

ギュッ

(律、そっと澪の手を握る)

澪「……!」

律「帰ろう? みお。
  もう、終わったんだよ」

澪「……ああ、そうだな」

(優しく握り返す)

澪「帰ろう、律。
  みんなと、一緒に」

(両手を繋ぎ合ったまま柔らかく微笑む2人
 青白い月が、見守るように優しく照らす
 BGM、フェードアウト)








男1「――終わった?
   ……そうさ。お前たちは、もう終わりだ」








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