*
「でさ、ムギちゃんってやっぱりお嬢様なの?」
三日目(仮)、菖がまた軽い感じに話し掛けてきた。
流石にこれだけ長い時間一緒に居ると、菖の唐突な話題の切り出し方にも慣れちゃったな。
私はちょっとだけ苦笑してから、菖の質問に答えてやった。
「ああ、どうもそうらしいぞ。
高校の頃なんか、夏休みに別荘で遊ばせてもらってたりもしたんだぜ?
実家の方は忙しいみたいで、まだ遊びに行った事は無いんだけどな。
でも、多分、すっげー豪邸に住んでんじゃないか?」
「あ、やっぱりそうなんだ。
ムギちゃん無垢って言うか、穢れてないって言うか、
何だかちょっと浮世離れしてて、面白い子だからそうじゃないか、って思ってたんだよね。
前にムギちゃんに訊いた時は、上手くはぐらかされちゃったんだけどね。
そうそう、そう言えば、その節は晶がご迷惑をお掛けしました」
その節……?
すぐに思い当たる事が無かったから、私は首を捻って少し考えてみる。
ムギと晶が関係してて、私達に迷惑を掛ける事……?
十秒くらい今までの大学生活を振り返ってみて、やっと思い出せた。
菖はムギが晶に冗談を言われた時の事を言ってるんだって。
私は軽く首を振ってから、ちょっと笑ってみせる。
「まあ、それは別にいいよ。
晶も別に悪気は無かった……はずだしな。
でも、ムギってそういう人とは違う自分を気にしちゃってる所があるんだよな。
だからさ、あんまりその辺は弄らないでやってくれると助かるよ。
ムギの奴、あれでも結構庶民的になった方なんだぜ?
知り合ったばかりの頃は本当に完全なお嬢様って感じで、
どうやって付き合って行ったらいいのか迷ったもんなんだよ。
でも、長く付き合っていく内に、
ムギも私達と同じ女子高生で、面白い事が大好きな奴だって気付けたんだよ。
それで皆で楽しく部活をやってけるようになったんだよな。
勿論、まだ浮世離れした所はあるけどさ、
でも、そんなムギだからこそ一緒に居て楽しい私達の大切な仲間なんだ」
その私の言葉が終わっても、菖はしばらく何も反応しなかった。
やばい、ちょっと気障な台詞過ぎたか?
私としては本音を言ったつもりなんだけど、
そう言えばこんな私の一面を菖に見せたのは初めてかもしれない。
菖とは同じ学部だって事が分かってから凄く意気投合して、
どっちがボケでどっちがギャグなんだか、いつも立ち位置を変えながら付き合ってた。
毎日、面白いと思ったネタを話し合って、笑い合って、私達の間には笑顔が溢れていた。
悲しい顔や怒った顔なんて、皆で居る時はともかく、
二人きりで遊んでる時に見せた事なんて無かったはずだ。
笑顔以外の表情なんて、菖にはほとんど見せた覚えが無い。
うわっ、何だかすっげー恥ずかしくなって来たぞ……。
こんなのやっぱ私のキャラじゃなかったのか?
そうして何だか自分の顔が熱くなるのを感じていたら、
不意に菖が私の頭を真上側から両手でくしゃくしゃに掻いた。
腰を曲げて、私の顔に自分の顔を至近距離に近付ける。
「りっちゃんってさ、やっぱり仲間思いなんじゃん!
そういう所、もっとアピールしていこうよ!」
そう言ってから、イシシ、って擬音が付きそうな笑顔を菖が浮かべる。
多分、褒められてるみたいだけど、やっぱり何となく恥ずかしい。
私は照れ隠しに首を振って、掴んでいた菖の足の裏をくすぐりながら言ってやった。
「うっせ!
そんな事言ってると、肩車替わってもらうからな!
いいな! 恥ずかしい事を言うのは禁止だかんな!
言ったらもれなくこのお仕置きが付いて来るからな!」
「りっちゃんってば照れ屋さん……って、あうっ!
足はやめ、あははっ、やめてって、くすぐったいから!
あぅんっ、駄目だってば! 私、足の裏、弱いんだって!
あはははははっ!」
そこまで言うんなら、足の裏をくすぐるのをやめてやるのはやぶさかじゃない。
これ以上、肩の上で暴れられると危ないしな……。
にしても、いくら私より細くて小柄って言っても、
体型はほとんど同じなんだから、ちょっとくらい肩車替わってくれてもいいじゃんかよ……。
まあ、見た目以上に意外と力が無いみたいなんだけどな、菖は。
菖もやり手のドラマーではあるんだけど、
その実はファッション大好きな女の子だから、普通はそんなもんなのかなあ?
そういや、ドラマーって別に力が必要なパートってわけじゃないって話を聞いた事がある。
力よりも周囲への細かい気配りとリズム感の方がずっと大切だとか何とか。
それが本当だとすると、ドラムこそが私に一番合ってないパートな気がしてくるな……。
梓達のバンドのドラマーも、力より気配りとリズム感に優れた子らしいしさ。
……やべっ、ちょっと落ち込んじゃった。
いかんいかん、今はそんな事で落ち込んでる場合じゃない。
それはともかくとして。
今、私が菖を肩車してるのは、この真っ白い空間の天井を調べるためだ。
一昨日、昨日と床と壁を隅々まで調べてみたけど、結局何も見つける事が出来なかった。
それで最後に残った場所は天井だけだったわけだ。
とは言え、特殊な光源のせいで、天井の高さがどれくらいなのか、私達にはさっぱり分からなかった。
とんでもなく高いように見えるし、意外と低いようにも見える。
だから、結局、自分達の手で届くどうか試してみるしかなかった。
そうやってさっきから十分以上菖を肩車してるけど、
手が届く場所を見つける事も出来ないどころか、天井の高さすら把握出来てなかった。
これだけくまなく三日間も探ってみて、見つけられた事は一つも無い。
この調子だと、天井の高さすら分からないままだろう。
投げる物が服しかない以上、何かを投げて高さを確かめるってのも無理そうだしな。
何も分かってないって事が、分かっただけだって事かよ……。
くそっ……。
まったく菖の言う通りじゃないか。
こんな異常な状況、何を調べたって分かるはずがない。
もしも何か変な物が出て来たとしても、
頭の悪い私じゃそれが何かも分からないんじゃないか?
結局、菖の言う通り、無駄に疲れて、無駄に焦りが募るだけだった。
何をやってるんだ、って思いだけが私の頭の中を支配しそうになる。
いや、私の事は今はどうでもよかった。
今、考えなきゃいけないのは菖の事だ。
菖は最初からよく考えて行動しようと言ってくれていた。
言ってくれていたのに、私はよく考えて行動する事が出来なかった。
自分の焦りを誤魔化したくて、そのために三日間も菖を付き合わせちゃったんだ。
私の勝手な我儘に。
申し訳無い気分で胸が溢れ出しそうになる。
情けなさで涙まで出て来ちゃいそうだ。
まだ完全に調べたわけじゃないけど、これ以上天井を調べても無駄かもしれない。
いや、何処を調べても無駄な気がするし、きっとそうなんだろう。
何か手がかりがあるかもとか、何処かに出入口があるはずだとか、
ここはそういう常識で測れるような場所じゃなかったんだ……。
口の中を強く噛んでから、それでも、私は菖と目を合わせた。
悔しさや不安に胸を支配されてる場合じゃない。
今はちゃんと菖に謝らなきゃいけない時なんだ。
私の我儘に三日間も付き合わせてしまった事を謝らなきゃいけないんだ、私は。
強い決心をして、菖の瞳を強く見つめて口を開く。
「なあ、菖、ごめ……」
その私の謝罪の言葉を最後まで言う事は出来なかった。
私が言葉を言い終わるより先に、菖が私の頭を楽しそうに弄り始めたからだ。
いや、頭ってより髪か?
菖は指で私の髪を何度も梳きながら楽しそうに笑った。
「さっきから思ってたんだけど、りっちゃんの髪ってサラサラだよね。
羨ましいぞ、このー!」
菖が何の話を始めようとしているのか分からない。
私は戸惑いながら、菖のその言葉に応じる事しか出来なかった。
「い、いや、そうでもないと思うんだけど。
大体、伸ばすのが面倒だから、短くしてるような髪なわけだしさ。
そんなサラサラって程じゃないだろ」
「いやいや、謙遜しないでってば!
今はちょっと乱れてるけど、私、乱れてても分かるもん。
りっちゃんの髪質、すっごいサラサラだって。
実は私、りっちゃんの髪には前から目を付けてたんだよねー。
ちょっとリンスを変えて髪を伸ばせば、
もっと色んな髪型を試せるし、今以上にすっごく可愛く出来るのにって」
「それは……、えっと……、ありがとう……か?
まあ、私は今の髪型が気に入ってるしなあ……。
て言うか、私の事なんかよりさ、菖の方こそ可愛い髪型してるじゃん。
パーマも当ててしっかりファッションに気を遣ってて、出来る女の子ーって感じ。
私ってばその辺弱いからさ、そういう事が出来る菖が羨ましいぞ?」
私らしくない台詞だったかもしれないけど、それはお世辞じゃなかった。
似た所があるって皆から言われてる私と菖だけど、細かい所ではかなり違ってる。
当人同士だからこそ、それがよく分かる。
菖は可愛い。
小柄で元気で流行に敏感で、ドラムも私よりずっと上手い。
性格は素直だし、こんな時でも落ち着いて物事を判断出来てる。
正直な話、羨ましいな、と思っちゃうくらいだ。
なのに、菖は少し寂しそうに苦笑して首を振った。
「駄目駄目。
私ってね、実はそんなに髪質が良くないからパーマ当ててるんだよね。
パーマで誤魔化しちゃってるわけですよ、律さん。
だから、律さんみたいなサラサラの髪質に憧れてるわけですわよ?
ううん、髪質だけじゃなくて、律さんの色んな所、羨ましいのでしてよ?」
変な口調だったけど、その口調だからこそ、菖が嘘を言ってないような気がした。
本音だからこそ、わざと口調を変えたんじゃないか、って何となくそう思った。
何だかおかしな話だ。
二人が二人とも、お互いの事を羨ましく思ってるなんてさ。
私は何を言うべきなのか迷った。
菖が私の事を羨ましいと言ってくれる以上、謙遜するのも場違いで失礼な気がする。
だったら、私はどうするべきなんだろう?
そう思った瞬間、私は自分でも予想してなかった行動も取っていた。
「あふんっ!
だ、だから、足の裏をくすぐるのは駄目だってば!
あははっ、弱……、駄目っ、足弱い、そこは弱い……っ!
あんっ……! 足は駄目だったら、りっちゃん……!」
どうして、自分が菖の足の裏をまたくすぐったのか、私自身にも分からなかった。
羨ましいと菖が言ってくれるのが照れ臭かったのかもしれないし、
ひょっとしたらもっと他の理由からだったのかもしれない。
例えば、こんな時にでも笑顔で居てくれる菖の事が私は……。
いや、それはともかく。
それから私はもう少しだけ菖の足の裏をくすぐった後、天井の探索を続けた。
途中、何度も調べるのをやめようと思いかけながらも、
菖の笑顔に押し切られる形で最後まで調べる事が出来た。
菖は文句も言わずに、私に付き合ってくれた。
肩車こそ替わってはくれなかったけど、それでも私は嬉しかった。
菖はきっと私に一つの心残りも残さないようにしてくれたんだろう。
この部屋から出る手掛かりは何一つ見つからなかったけど、
それでも、菖がそういう子なんだって気付けただけでも、十分な収穫だったと思う。
*
四日目(仮)。
私と菖はまた肩を並べ、壁を背もたれにして話をしていた。
これまで三日間調べたけれど、私達はこの空間の出口どころか、正体を掴む糸口すら見つけられていない。
これ以上調べてみた所で、多分、何も出て来ないだろう。
だから、私達は話をしていた。
話す事しか出来なかった。
他に何が出来なくなったって、話す事と考える事だけはやめちゃいけないと思ったからだ。
私達はまだここに居る。
どんな形でも、ここに居る。
この空間から脱け出せなくたって、私と菖は二人でここに居るんだ。
話す事と考える事をやめてしまったら、私達はきっと孤独と不安でどうにかなってしまう。
だからこそ、私達は話さなきゃいけないんだ、色んな事を。
とは言っても……。
「じゃあ、『ふわふわ時間』って澪ちゃんが作詞したんだ?」
「まあな。意外だったか?
つーか、うちのバンドの作詞は大体澪がやってるよ。
私は苦手だし、ムギは作曲だし、唯の奴は変な歌詞を書いて来るしな。
まあ、澪の作詞が変な歌詞じゃないのか、って訊かれたら、そうだとしか言えないんだけどな」
「あっ、りっちゃん、ひどーい」
「ひどくねーよ。
そう言う菖は自分のバンドであの歌詞の曲を演奏したいのかよ?」
「うっ……、それを言われると……」
「だろ?
私も最初は嫌だったんだけど、何かもう慣れちゃったんだよな。
澪がメルヘンなのは昔からだし、あいつを作詞担当にしたのは私達なんだ。
だったら、同じバンドのメンバーである以上、ちゃんと澪の歌詞を受け入れないとな。
それに感覚が麻痺しちゃってんのかな?
『ふわふわ時間』の歌詞もそんなに悪くない気がしてんだよな、最近。
自分でもちょっとやばい気はしてるけどさ」
「それは感覚が麻痺してるかもねー。
でも、そう言う私も『ふわふわ時間』は好きなんだけどね。
何か聴く度に癖になるって言うか妙な中毒性がある気がする。
そうそう、晶もさ、
ああ見えて『ふわふわ時間』がお気に入りみたいなんだよね」
「マジで?」
「マジマジ。
本人は隠してるつもりみたいだけど、たまに部屋で鼻歌歌ってたりするもん。
りっちゃん達が思ってる以上に、晶ったらりっちゃん達の事を気に入ってるみたいだよ」
「そうなのか?
唯達にはともかく、晶の奴、私にだけ厳しさが取れない気がするんだが……。
何で私にだけ厳しいんだ、あいつは……。
しかし、いい事を聞いたな。
今度、晶の奴の耳元で『ふわふわ時間』の鼻歌を歌ってやろう。
弱味を握って、いいように操らせてもらうぜ!」
「お手柔らかにねー。
晶ってば、意外な所で打たれ弱い所があるから程々にね」
「わーってるって」
私が悪役っぽく笑ってやると、菖も釣られて悪い笑顔を浮かべてくれた。
晶の奴はいつかぎゃふんと言わせてやりたいんだよな。
さっきから私達が話してるのは、そんな他愛の無い雑談ばかりだった。
お互いの仲間の事や、これまで話した事が無かった裏話、
バンド結成の経緯とか、たくさんの事を止め処無く話し続けた。
本当はもっと話さなきゃいけない事がいっぱいあった。
この妙な空間の事。
外の世界がどうなってるのかって事。
何よりも今の私達自身の身体の事。
特に私達の身体の事については、絶対に話しておかなきゃいけなかった。
この空間に閉じ込められて今日で四日目だけど、私達は一口も食べ物を口にしていない。
だけど、空腹感は全然無かったし、疲労も全く感じてなかった。
トイレにも一度も行ってないし、身体中が汗臭くなってもいなかった。
それどころか汗一つ掻いてないんだ、私達の身体は。
三日間、この空間の中を調べ回っていたのに。
必死に調べ回ってたのに。
これが意味するのは……。
こんな話、切り出せない。
口にしてしまうと、それが現実になってしまいそうで怖い。
切り出せるもんか、こんな怖い話なんか……。
「どしたの、りっちゃん?」
不意に菖が私の顔を覗き込んで訊ねた。
きっと私が心底不安そうな顔をしてたんだろう。
私は何も言わずに菖の顔に視線を向けてじっと見つめた。
真っ白い空間の中、菖の鮮やかな金髪はよく映えて見えた。
まるで輝いているみたいに見えた。
瞬間、菖は気付いてるんだろうか、って私は思った。
この空間より何より、私達の身体の異常な状態の事に。
気付いてないわけがない。
菖は私よりずっと気配りの出来る奴だし、注意力だって私よりずっと上なんだから。
同じ不安を胸に抱いてるはずなんだ。
でも、菖はやっぱり笑ってる。
私に楽しそうな笑顔を向けて首を傾げてる。
それが菖って奴なんだって事は分かり始めて来たけど、やっぱり私はそれが疑問だった。
菖はどうしてこんなに楽しそうに笑えてるんだろう?
怖くないんだろうか?
怖さも楽しさに変えられるタイプの奴なんだろうか?
気付けば私はそれを菖に訊ねてしまっていた。
訊ねちゃいけない事だったはずなのに、訊ねずにはいられなかった。
「なあ、菖?
変な事を訊くみたいだけど、訊いていいか?」
「いいよ、何?」
「軽いな……。
じゃあ、訊かせてもらうけど、菖は怖くないのか?」
「怖いって?」
「今の状況の事だよ。
こんな変な所に閉じ込められて三日も経って、
出口は見つからないし、何の手掛かりも見つかってないし、
それに三日以上、私達……」
「そりゃ怖いってば。
こんな変な状況で落ち着いてられるほど、私だって図太くないよ?
今だって結構ビクビクしてるんだよ?」
「そうは見えないんだが……」
「だって、りっちゃんが一緒に居てくれるじゃん?
一人じゃないんだから、怖くないでしょ?」
菖がそう言って屈託も無く笑った。
私は何も言えずに、口を開いちゃうだけだ。
菖の表情を見る限り、その言葉は冗談でも誤魔化しでも無さそうだ。
何だよ……。
菖は私と一緒に居るから、こんな状況でも怖くないってのか?
そりゃ私だって、菖が居るからかなり救われてる所があるけどさ……。
でも、私なんかが傍に居るってだけで、そんなに安心出来るもんなのか?
私なんかにそんな価値があるだなんて、とても思えない。
私の釈然としない表情に納得がいかないのか、菖が急に私の頬を掴んで軽く抓った。
自分の頬を少しだけ膨らませてから続ける。
「あっ、信じてないね、りっちゃん。
傷付くなあ、本気で言ってるんだよ、私。
私だって怖かったけど、りっちゃんが傍に居てくれたから安心出来たんだよ?
ここから脱け出す方法も積極的に探そうとしてくれたしね」
「でも、結局、何も見つけられなかったじゃんか……」
「いいんだって。
探そうとしてくれただけで、私は嬉しかったんだから。
私なんか誰かが外から開けてくれるのを待つしかない、って最初から諦めてたた所があるしね。
でも、そんなのじゃ駄目だよね。
例え無駄でもさ、自分の目でちゃんと確認しなくちゃ。
そうしようとしてくれたりっちゃんの姿が私は心強かったんだよ?」
「そうか……?」
「そうだよ」
そう言って、菖がその輝く金髪と一緒に輝く笑顔を見せてくれた。
眩しい奴だな、と思った。
本当に眩しい。
何だか悔しかった。
澪や唯、ムギ達に負けるのはそんなに悔しくない。
あいつらは私と別の方向で頑張ってる奴らだから、比較する事自体が間違ってる。
でも、菖に負けるのは違う。
菖はドラマーで考え方も私に似ていて、性格も似た方だと思う。
そんな菖に負けるのは悔しかった。
菖がどうのこうのじゃなくて、同じ方向を向いて負ける事だけはしたくない。
私も菖に負けないように心を強く持たなきゃ……!
それは単なる意地だ。
情けない私のたった一つ絞り出せる見栄っ張りな意地だ。
でも、今の私を支えられる物は意地しかないから、その意地でどうにか立ってやろう。
私が本当の意味で菖を支えられるように。
最終更新:2012年12月20日 23:44