中野梓→→→

中学生の頃。
私には友達がいました。
クラスの人気者ってほどではありませんでしたが、十分楽しかったと思います。
音楽について語れる友達がいなかったのが玉に瑕ですが、それなりに愉快に過ごしていたと思います。

中学3年生の秋。
友達に連れられて桜が丘高校の文化祭にいきました。
そのステージで、とある演奏を聞きました。

とっても楽しそうで。
笑顔が溢れていて。
それでいて、観客を魅了するような迫力があって。
私もそれに加わってみたいと思ったんです。

あんな演奏をできるのだから、みんなもう練習してるんだろうな・・・。
高校三年間、遊べる時間が少なくなるのは辛いけど、あの人達に近づけるならいいかな・・・。
そう思い私は軽音部の扉を叩きました。

でも現実は・・・そう現実の軽音部は腐敗していたんです。
活動の実態はほとんどお茶を飲んでいるだけ。
練習はほんのすこししかしません。

上手なのはムギ先輩ぐらいで、唯先輩は問題外。
澪先輩と律先輩も上手とは言えません。
あの時の演奏はまぐれだったのでしょうか?

そんなわけで私は軽音部の空気に馴染むことができませんでした。

楽しそうににへらにへらと笑って私に抱きついてくる唯先輩も。
比較的練習に積極的だけどなんだかんだで雑談を楽しんでる澪先輩も。
やることなすこといい加減な律先輩も。
その3人をにこにこ見守っているムギ先輩も。
みんなみんな気にいらなかったんです。

そんな想いをかかえてたある日。
購買でパンを買った後、遠くに金髪が見えました。
きっとムギ先輩です。
そして、ふと閃いたんです。
もっと練習をするようにムギ先輩に頼んでみたらどうかなって。


練習をするように唯先輩や律先輩に言っても無駄なのは既にわかっています。
そして澪先輩は既に練習に積極的なので頼んでも効果は薄いでしょう。
そこでムギ先輩です。

お茶とお菓子を握っていて、いつもにこにこ見守っているムギ先輩。
この先輩が働きかけてくれれば、ちょっとは先輩たちも変わってくれるんじゃないか。
そんな思惑がありました。

ムギ先輩は小走りで駆けていったので、私も小走りで追いかけました。
教室に戻るのかなとも思いましたが、明らかに違う階段を登っていきました。
そして辿り着いたのは・・・屋上の扉でした。

「あら、梓ちゃん?」

「はい」

「何か用事かしら?」

ムギ先輩は不思議そうな顔をしています。

「ちょっと相談したいことがあるんですけど・・・」

「そうなんだ。
 お弁当を食べながらでいいかな?」

「屋上でですか?」

「ええ」

そういうとムギ先輩は鍵を取り出し、扉を開きました。

「ムギ先輩・・・?」

「ふふ、ちょっと鍵を融通してもらったの」

「・・・ムギ先輩って実は悪い人ですか?」

「うん、そうかも」

「意外です」

「さ、お弁当を食べましょう」

「はい」

ムギ先輩は自分で持ってきたお弁当を。
私は購買で買ったパンを食べ始めました。

「それで梓ちゃん、相談って?」

「あ、はい・・・」

「えっと、言いにくいことかしら?」

「そうでもないです。
 あの、部活のことなんですが」

「もうちょっと真面目に練習したい?」

「え、なんで」

「正解?」

「はい。
 でも、どうしてわかったんですか?」

「いつもの梓ちゃんを見ていればわかるわ」

「はぁ・・・」

「それで私に相談しにきたってことは、お菓子を練習と引き換えにして欲しいってことかしら?」

「あ、それは考えてません。
 でもムギ先輩なら何とかできるかなって思って」

「そっかぁ。
 うん、何か考えてみる」

「いいんですか?」

「ええ、軽音部の後輩の頼みだもの」

簡単に引き受けてくれたムギ先輩。
あまりにもあっけなくて拍子抜けでした。

話が終わるとムギ先輩はまたお弁当に向き合いました。
私もパンを一口齧ると――風が横切りました。

「いい風ねぇ」

「・・・はい
 あの、ムギ先輩はいつも屋上で食べてるんですか?」

「ううん。いつもは唯ちゃん達と教室で食べてるの
 でも月に1回か2回ぐらいここで」

「あの、どうして屋上に?」

私が訊ねるとムギ先輩は赤くなりました。
なんでこの質問で赤くなるのか。
私がさっぱりわからないでいると、ムギ先輩は教えてくれました。

「あのね、笑わないでね。
 昔読んでた漫画で見たの」

「え・・・屋上でご飯を食べるところですか?」

「ええ。それで高校に入ったら屋上でご飯を食べようって、
 それが夢だったんだけど、普段は立ち入り禁止だったから。
 さわ子先生に頼んで許可をもらったの。
 書類上は軽音部の活動のために使ってる・・・ってことになってるわ」

恥ずかしそうに語るムギ先輩。
ムギ先輩がこんなちっぽけな夢を叶えていて、そのためにちょっとだけ悪いことをしてる。
なんだかその事実が可笑しくて、私は笑いをこぼしてしまいました。

「あ、ごめんなさい」

「・・・いいの」

「本当にごめんなさい
 相談に乗ってもらったのに」

「そういえば梓ちゃんの笑ってるところはじめて見た気がするわ」

「そうですか?」

「ええ・・・やっぱり軽音部の活動はあんまり楽しくない?」

「・・・正直に言えば」

「そっかぁ、でも絶対に楽しくなるわ」

「えっと、ムギ先輩が練習するように仕向けてくれるからですか?」

「ううん。練習なんてしなくても絶対に楽しくなる」

「どうしてそう言えるんですか?」

「それはね――」

「・・・」

「軽音部には唯ちゃんがいるからよ」

ムギ先輩がなぜそんなことを言ったのか、私にはさっぱりわかりませんでした。
でも確信をもって言い放ったムギ先輩に、反論する気にもなれませんでした。

その日の放課後からさっそく、ムギ先輩は約束を守ってくれました。
お菓子を半分にわけて、半分は練習前に食べて、「もう半分を欲しかったら練習してね」という風にして。
特に唯先輩には効果バツグンで、楽器の準備を急かすぐらいでした。

ムギ先輩のおかげで毎日それなりの時間を練習に充てられるようになりました。
やり甲斐のある練習。
それなりに充実した日々。
それなのに何故か私の心は満たされませんでした。

軽音部が思っていたような場所じゃなかったから満たされないのか。
それとも私が自分の考えを無理に押し付けてしまったから満たされないのか。
理由はわかりません。
でもそれは仕方ないことだと割り切って毎日を過ごしていました。

唯先輩に抱きつかれて。
澪先輩と楽しくお話して。
律先輩をたしなめて。
ムギ先輩のお茶を楽しむ日々。
もちろん練習もしっかりと。

そんな変わらない日々。
でも、そんな日々を過ごしているうちに、私は少しずつ変わっていったんです。

はっきり自覚したのは、唯先輩が軽音部に遅れてきた日のことです。
「宿題の提出を忘れたせいで呼ばれちゃった」と笑いながら話した唯先輩。
それからいつものように私に抱きついてきた唯先輩。

その時、私は嬉しいと思ってしまったんです。
そして、唯先輩が抱きついてくれなくて寂しいとさっきまで思ってたことに気づいてしまったんです。

ふと、数日前に純に言われたことを思い出しました。
「最近軽音部に行くのが楽しそうだね」って。

私はいつの間にか、軽音部のことが、唯先輩のことが、好きになっていたんです。

→→→

「お弁当を食べながらでいいかしら?」

「あ、はい。
 突然呼び出してしまってすいません」

「ううん。そろそろ呼ばれる頃だと思ってたから」

「・・・ムギ先輩ってエスパーですか?」

「違うけど、人よりほんのすこしだけ人の心を読むことに長けてるかも」

「そうですか。
 じゃあ、私が呼び出した理由も・・・?」

「ええ、私が言ったとおりになったんでしょう」

楽しそうに微笑みながら、エビフライを頬張るムギ先輩。
私も負けじとミートボールを口に突っ込む・・・と咳き込んでしまう。

「だ、大丈夫? 梓ちゃん。
 はい、これお茶」

「ごほっげふっ・・・っ・・・ふぅ、ありがとうございます」

「ふふ、梓ちゃんは負けず嫌いね」

「そうかもしれません」

「それで、私を呼び出した理由だけど・・・。
 なんで「唯ちゃん」だって私がわかってたか聞きたいのよね?」

「ほんとうになんでもお見通しなんですね」

「えっとね、私も同じだったから」

「同じ?」

「そう。同じ。
 私もね、梓ちゃんほどじゃないけど、あの空間に溶け込めてなかったの」

「それを変えたのが唯先輩・・・」

「ううん。私の場合唯ちゃんじゃなくてりっちゃん」

「え、律先輩?」

「ええ、りっちゃん。
 りっちゃんはね、何が本当に大切なことか知ってるの。
 そう、唯ちゃんみたいにね」

「律先輩が・・・」

「私を明るいほうに連れて行ってくれたのがりっちゃん。
 そして私にとってのりっちゃんが、梓ちゃんにとっての唯ちゃんだろうなって思ってたの」

「どうして律先輩じゃなくて唯先輩だと思ったんですか?」

「なんとなくかしら」

「やっぱりエスパーですか?」

「ふふ、そうなのかも」

軽く笑って今度は私のお弁当からミートボールを奪いました。
私も負けじとエビフライをムギ先輩のお弁当箱から奪って、今度は咽ないようにゆっくり食べました。

「まぁ、本当のことを言うとね、唯ちゃんが梓ちゃんを気に入っていたから、絶対そうなるだろうなって」

「私ってそんなに単純そうに見えますか?」

「え」

「抱きつかれただけで懐柔されちゃうみたいに・・・」

「梓ちゃん、それは違うわ」

「どういうことですか?」

「梓ちゃんが単純なんじゃなくて、唯ちゃんがすごいのよ」

「唯先輩が?」

「りっちゃんもそうなんだけどね。
 唯ちゃんたちは『与える側』なの」

「与える側・・・ですか?」

「ええ、本当に大切なことがなにかをわかっていて。
 だからこそいつもニコニコ笑いながら、躊躇いなく正しいことができるの」

「私に抱きつくことが正しいこと?」

「ええ、そのおかげで梓ちゃんは軽音部を好きになれたでしょう」

「まぁ・・・そうですが」

私が頷くと、ムギ先輩は笑いました。
その笑いは、ほんのすこしだけ切なそうに見えました。
黙ってお弁当を食べ始める先輩。
私もお弁当を片付けてしまうことにしました。

お弁当を食べ終わった後、私はひとつ疑問をぶつけてみました。

「あの・・・ひとつ聞きたいことがあります」

「なぁに?」

「ムギ先輩は与える側じゃないんですか?」

「違うわ」

「でもムギ先輩は・・・」

「梓ちゃん、私はみんなが練習するように仕向けたでしょう
 でも、それで梓ちゃんは満たされた?
 軽音部を好きになれた?」

「・・・」

「ね、だから私は与える側じゃないの」

「・・・ムギ先輩は、与える側になりたかったですか?」

「どうだろう?
 それはわからないけど、今の私は幸せよ」

「幸せ?」

「ええ、だってりっちゃんがいてくれたから。
 今の私は軽音部のみんなが、軽音部のことが大好きだから」

屈託のない笑顔で言い切るムギ先輩。
でもその屈託のないはずの笑顔が、やっぱりほんのすこしだけ寂しそうに見えたんです。
だから私はある提案をしました。

「あの・・・ムギ先輩」

「どうしたの?」

「屋上で月に何度かお弁当を食べてるんですよね?」

「えぇ、そうだけど・・・」

「その時よかったら私も誘ってくれませんか?
 あ、邪魔なら全然いいんですが」

「う~ん。
 別に邪魔ではないけど・・・。
 梓ちゃんもここが気に入っちゃった?」

「それもあります。
 でも、それだけじゃないです」

「どういうことかしら?」

「たまにでいいので、こうやって二人でお話したいんです」

私がそう言うと、ムギ先輩は少し赤くなって、こう言いました。

「梓ちゃん、あなたも与える側なのかもしれないね」

私はその言葉を否定したけど、ムギ先輩は笑って流しました。

それから夏が来て、みんなで合宿にいったり。
秋がきて、文化祭で演奏をしたり。
冬がきて、また春がきて。
月日は流れていきました。

軽音部のみんなと過ごす日々は本当に楽しかったです。
憂と純のおかげもあると思うけど、それこそ中学時代が色あせて見えるぐらい。
本当に楽しい日々を過ごしました。

いつも抱きついてくれる唯先輩。
私を妹のように可愛がってくれる澪先輩。
いい加減だけどみんなを楽しませるために密かに頑張ってる律先輩。
そんな私達を見守ってくれるムギ先輩。

私はこの軽音部が――
この生活が――
大切でかけがえのないものだと、素直にそう言えるぐらい、本当に大好きになっていったんです。

ムギ先輩との屋上での密会は続いています。
ちょっとお話をして、お弁当を食べて。
特別何かするわけじゃありませんでしたが、楽しい時間でした。

ムギ先輩は不思議な人です。
なんでもお見通しのように見えて、実は単純なことがわかっていない。
大人っぽいのに、時々子供っぽいいたずらをする。
相反する二面性の由来はきっと、ムギ先輩の家庭の事情にあるのでしょう。

そんなムギ先輩に、ある日尋ねられました。

「そういえば梓ちゃん、聞いてみたいことがあったんだけど」

「なんでしょう?」

「梓ちゃんって好き人はいるのかしら?」

私は食べていたきんぴらを吹き出しました。
なんてことを聞くんでしょうか。
ムギ先輩は何事もなかったかのようにきんぴらを拾い、ティッシュで包みました。

「そ、そんなにびっくりするようなことだったかな?」

「だ、だって好きな人ですよ」

「ええ・・・」

「そんなの・・・」

「その反応はいるんだ?」

「・・・いないです」

「そうなの?」

「はい」

「ふぅん。唯ちゃんのことが好きなのかと思ってたんだけど」

「唯先輩は女ですよ?」

「そっか、梓ちゃんはそういうの駄目なんだ」

「・・・そういうわけじゃないです」

「それなのに、唯ちゃんじゃないんだ」

「はい。唯先輩は私のこと、そういう意味で好きにならないでしょうし」

「どうして?
 唯ちゃんは梓ちゃんのこと大好きだと思うけど」

「あれはきっとそういうのじゃないと思うんです。
 唯先輩は与える側だからそういうことをしてくれます。
 でも、どこまでいってもLoveにはならないと思います」

「う~ん、どうなんだろう」

「私も・・・唯先輩のこと大好きです。
 そうですね・・・軽音部で誰が一番好きかと言われたら唯先輩を挙げます。
 それでも、そういう感情はないです」

「そっかぁ、じゃあ仕方ないね」

「・・・あ」

「どうしたの?」

私は閃きました。
なぜムギ先輩がそんなことを思ったのか。
私にとっての唯先輩はムギ先輩にとっての律先輩。
ならば、ムギ先輩は律先輩のことを・・・。

「もしかしてムギ先輩の好きな人って・・・」

「ふふ、梓ちゃんも最近鋭いね」

「そうなんですか?」

「どうだろう。自分でもわかんないんだ。でも・・・」

「・・・?」

「言葉にすることは絶対にないと思う」

「どうしてですか?」

「だって私は与える側になれないもの」

「・・・与える側じゃないと恋しちゃいけないんですか?」

「そんなことはないけど、りっちゃんにはもっと相応しい人がいると思うし」

「澪先輩?」

「ううん。唯ちゃん」

「え、唯先輩」

「ええ、あの二人、とってもお似合いだと思わない」

「・・・どうでしょう」

「梓ちゃんにとって、唯ちゃんとりっちゃんというのは少し複雑なのかな」

「・・・そうかもしれません」

「私とりっちゃんがもし付き合ったら、私が貰うばかりでバランスが悪くなると思うの。
 そういうのもありなのかもしれないけれど、私の方がきっと辛くなるから」

「・・・そういうものでしょうか?」

「ううん。本当のことなんてわからないのよ。
 私は一度も誰とも付き合ったことなんてないもの」

「私もです」

「うふふ。高校に入ったら一度ぐらい恋愛してみたいと思ってたんだけどね」

「・・・」

なら私とムギ先輩ならバランスがとれるのか、そう聞いてみたくなりました。
でも、それを聞く勇気は私にはありませんでした。

ちょっとした疑惑があった程度で、軽音部では特に浮いた話もなく日々が過ぎていきました。
そして5人で過ごせる最後の夏が終わり、最後の文化祭ライブが終わり、先輩たちが退部して。
軽音部は私一人になりました。

でも、寂しくはありません。
唯先輩は私を見かけるとしつこいくらいに抱きついてきますし。
ムギ先輩は時間を見つけては私にギターを教わりに来てくれまし。
澪先輩は私を見つけると嬉しそうに近づいてきてくれますし。
律先輩は相変わらずですし。

私は楽しい日々を過ごしていた・・・んだと思います。
もちろん不安はあります。
もうすぐ先輩たちは卒業してしまいます。

でも、それでも。
私は楽しかったと思います。
      • 本当のことを言うと、一年後に、私も先輩たちの後を追うつもりでいましたから。

でもそんな楽しい日々はある出来事を境に崩れてしまいました。
11月10日のこと。

その日、私はムギ先輩と屋上でご飯を食べていました。
私はパンで、ムギ先輩はお弁当でした。

ムギ先輩はお弁当を食べ終わると、切り出しました。

「ね、梓ちゃん、プレゼントがあるの」

「プレゼント・・・ですか?」

「うん。はい、これ」

「開けてもいいですか?」

立派な包装がされたそれを開くと、中から指輪が出てきました。
眩しいぐらい輝くきれいな銀色の指輪。

「こんな高価そうなもの貰っていいんですか?」

「ええ、梓ちゃんの誕生日だもの」

「私の誕生日は明日です」

「知ってるわ」

誕生日の前日に指輪をくれる。
それは特別意味をもつことだと思います。
みんなの前では渡せないものを、前日に渡したのですから。

「・・・これは、そういう意味だと受け取ってもいいんですか?」

「え、どういうこと?」

「だから、ムギ先輩が・・・」

「ご、ごめんなさい。勘違いさせたのならごめんなさい
 そういうことじゃないから」

慌てるムギ先輩。
どうやら違ったみたいです。

「そうですか・・・」

「ね、梓ちゃん、一応聞いておきたいんだけど」

「安心して下さい。
 ムギ先輩のことを愛してるなんて言い出しませんから」

「えっと・・・」

「もちろん嫌いじゃないですよ。
 なんていうか私も高校生ですし、恋ぐらいしてみたかったんです。
 それで、この指輪がそういう意味だったらいいかなって」

「そっかぁ。
 じゃあさ、唯ちゃんとかどうかな。あ、澪ちゃんでもいいかも」

「う~ん、自分から動くのはなしですね」

「どうして?」

「私も軽音部が本当に好きだからです」

「ふふ。ならしょうがないわ」

「はい」

その日はそれで終わり。
私とムギ先輩は笑って別れました。
指輪をどの指にはめようか、そんなことを考えながら教室に戻りました。
授業が終わり、軽音部に行きましたが、ムギ先輩は遊びにきてくれませんでした。
次の日の誕生パーティーにもムギ先輩は来てくれませんでした。
その次の日、さわ子先生が教えてくれました。



「ムギちゃんは家の事情で学校にこれなくなったの」






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最終更新:2013年11月12日 08:02