「みーおっ」


「ちょっ、律……」


二人きりの澪の部屋。
身体を寄せて澪のスカートの中に手を滑り込ませる。
いきなりアソコを狙ったりしない。
まずは内股と太股からじっくりと攻める。
焦れったいくらいが澪のお好み。
柔らかくて揉み心地のある太股に人差し指を這わせた。


「あっ、駄目……。
駄目だってばりつぅ……」


へへっ、やっぱりだ、澪はやっぱり太股が弱い。
細かい作業が苦手な私だけど、澪の太股だけは繊細に扱ってみせる。
這わせて、撫でて、擦って、くすぐって……。
その度に我慢しようとする澪の声が漏れるのが面白い。
私以外の前では決して誰にも聞かせない澪の甘い声。
太股を触ってるだけでも十分に面白い。
こうして澪の反応を見てるだけで一時間は潰せるけど、それだと後が怖いしな。

ある程度で太股を触るのを切り上げると、私は澪のスカートを外しに掛かった。
太股だけでかなり気持ちよくなってたんだろう。
いつもは結構抵抗するのに、今回は簡単に下半身をパンツ一枚にしてやれた。


「あはっ」


思わず笑い声が漏れる。
予想通りだ。
アソコには全然触ってないのに、澪のパンツはエッチな液でぐっしょり濡れていた。
すぐに脱がして御開帳させたい気持ちもあったけど、まずはパンツの上から触れてみる。


「あっ、ああっ……!
激しいよ律……、激しいってばぁ……」


「んー?
こんなの全然序の口だぞー?」


言いながらも指の動きは止めない。
すっごいな、パンツの上から触ってるのに手のひらが濡れちゃってるよ。
しかも濡れてるのに冷たくなるどころか熱くなるばっかりだ。
濡れ過ぎだろ、澪……。

直接触ったらどうなんのかな?
そう思った時には澪のパンツの中に手を滑り込ませていた。
今まで何度も触って来て手に馴染む澪のアソコ。
人差し指を穴の入口に滑り込ませて、親指でクリトリスを弄る。
澪のクリトリスの位置はもう指先が覚えてる。
それくらいには私も澪とエッチな事をして来てるんだもんな。


「あっ! ひゃっ……!
駄目……、いきなりそんな所っ、ああっ、ああんっ……!」


「聞こえないよーだ」


「き、聞こえてるじゃ……、あっ、ひゃんっ!」


澪の奥から溢れ出す液を右手全体で感じる。
もう私の手は、手のひらどころか手首までぐっしょりだ。
初めての時よりずっと感じやすくなったもんだよな。
へへっ、結構嬉しい。
何だか私のパンツも少しずつ濡れて来ちゃってる感じがする。
澪の気持ちいい顔、エッチだもんなー。
これで私に濡れるなって言う方が無理な話だよ。

でも自分で触っちゃうのも勿体無い。
ここは我慢して澪を気持ち良くさせるのに専念した方が得策だ。
気持ち良くなるのはその後でも出来るもんな。
私は自分のアソコに伸びそうだった左手を止めて、澪のパンツの端に指を掛ける。
パンツの中に滑り込ませていた右手も取り出し、両手で水色の縞パンをずり下ろしていく。


「おーっ……」


つい漏れちゃう感嘆の声。
だって縞パンが澪のアソコに貼り付いて、これでもかと糸を引いてたんだもんな。
こんなに感じちゃってたんだな、澪。
これからもっともっと感じさせてやるから覚悟しろよ?


「うーっ……」


澪が顔を左腕で隠しながら唸る。
パンツを完全に下ろすと、まだ毛が生え揃ってない澪のアソコが目に入った。
こんなに濡れてるのに、アソコが閉じ切ったままってのが逆にエッチだ。

ごくり。
唾を飲み込んでから澪の両脚を抱える。
顔を股間に寄せると澪のエッチな匂いが私の鼻をくすぐった。
閉じたままのアソコをこじ開けてやりたい。
そんな開拓者みたいな衝動が私の胸に湧いて来る。
唇を澪のアソコに近付ける。
数秒そのままで居た後、我慢出来なくなった私は澪のアソコに舌を伸ばした。


「ひゃあああああんっ!」


一際大きい澪のエッチな声が耳に心地良い。
いい声してるよな、澪。
エッチな声も歌声も素敵だ。
いつかバンドを組んだ時はボーカルやってほしいけど、照れ屋だから無理かな?
そう思っている間にも舌と唇の動きは止めない。
周囲を舐め回した後にクリトリスを吸う。
最近分かった澪が弱いコンボだ。


「あっ、はあ……はあっ、律っ……、りつぅ……っ!」


澪は初めての時より甘い声を出すようになった。
濡れ方も感じ方もちょっと前とは比べ物にならない。
きっと私達の身体の相性が抜群って事なんだろう。
この前、初めてアソコとアソコを擦り合わせた時なんて、言葉に出来ないくらい気持ち良かった。
これから先、澪とまだまだ凄い事が出来るなんて、ワクワクしてアソコがぐしょぐしょに濡れてくる。
へへっ、私もかなりエッチになったもんだ。
最初の頃はもうちょっと照れもあったはずなんだけどな。

あれ……?
最初から照れとかあったっけ……?
私はアソコを舐めるのを中断して、澪の残った制服を脱がしながら首を捻ってみる。

私と澪がエッチな事をするようになったのは、中学に入ってすぐの事だ。
きっかけは単純だった。
大きくなり始めた澪のおっぱいをふざけて揉んでたんだよな。
ちょっとだけ揉んだらやめるつもりだったのに澪の反応が面白くて、
お返しとでも言いたいのか澪も私の胸を揉み返して来て、お互いに引っ込みが付かなくなった。
そうしてたっぷり二十分は揉みあっている内に変な気分になって、気が付けばパンツがぐっしょりと濡れていた。
それまで何度か変な気分になってアソコに手を伸ばした事はあるけど、
何となく怖くて触る気にはなれなかったし、だからエッチな液がパンツまで濡らしたのも初めてだった。
きっと澪もそうだったんだと思う。
いつの間にか私達はパンツまで脱いで裸になっていて、お互いのアソコを触り合っていた。
相性も良かったんだろう。
私はイクって感覚をその初体験で初めて知った。

それ以来、私と澪は隙を見てはエッチな事をしている。
体育館倉庫でした事もあったし、バレンタインのお返しにした事もあった。
何度か家族にバレそうになった事もあったけど、どうにかまだ隠し通せている。
隠せてる……よな?

ちなみにエッチな事の主導権は大体私だ。
澪は照れてるのか私を攻める事はあんまりなかったし、
私も澪を気持ちよくさせてやる方が楽しくて性に合った。
二人で気持ち良くなれるのが楽しかった。
幼馴染みの澪に対する最高のスキンシップを覚えられて嬉しかった。
エッチな事は楽しいし、幸せな気分になれる。
来年高校生になっても、皆に隠れて澪を気持ち良くさせてやれたらいいよな。


「律……?」


私が何もしなくなったのを不安に思ったんだろうか。
真っ裸にしてやったばかりの澪が上目遣いに私を見ていた。
おっといけない、今はエッチな事の最中だった。
私もそろそろ気持ち良くなりたいし、まずは軽く澪をイカセてやろう。


「何でもないぞー、みーおっ!」


言い様、澪のおっぱいの先っぽにむしゃぶりつく。
初めてエッチな事をした日からも、澪のおっぱいはどんどん大きくなってる。
私が揉んでるおかげかな?
でも揉んだら逆に脂肪が燃焼するって聞くし違うのか?
ま、どっちでもいいか。
とにかく澪が気持ち良ければ何でもいい。
私も大きいおっぱいを揉むのはちょっと悔しいけど楽しいしな。


「あっ、ひゃん……っ!」


左手でおっぱいを揉んで、口でおっぱいを吸って、右手でアソコを弄る。
必殺の三点攻撃だ。
これで澪がイカなかった事は今まで無い。
三回連続でイカセた事だってある。
これで一気に気持ち良くしてやろう。
それに正直言って私も限界が近いんだよな。
パンツがぐっしょり濡れちゃって、触りたくて仕方無いくらいだ。
早くイカせて澪に触ってもらおう。
澪と一緒に気持ち良くなって、また二人でイッちゃおう……!


「ひゃっ、あっ……! ああっ……! んあっ!」


響く澪の甘い声。
私の全身に馴染む澪の身体。


「ああんっ! あっ、あっ、あああああっ……!」


エッチな声。
聞いてるだけで幸せになれる澪の可愛い声。
私だけがこんなエッチな澪を一人占め出来るなんて最高だ。
なのに。


「り……つ……。りつ……」


あれ?
何でだよ、おかしいな?
こんなに思い切り攻められてるのに、こんなに気持ちいい声を出してるのに。
こんなにエッチな声を出してるのに……。
どうして澪はイカないんだ?
あれっ?
あれっ……?
私が下手になったのか?
澪の調子がおかしいのか?
それより澪はエッチな声を出してるはずなのに、どうしてこんなに悲しい顔をしてるんだ……?


「律」


混乱する私に澪が言った。
悲しそうな顔で、エッチじゃないよく響く声で言った。


「もう止めよう、律……」


それは何となく予想してた言葉。
予想してたけど実際に聞くとは思ってなかった言葉。
信じたくない。
信じられない私は震える声で澪に縋る。


「な、何でだよ?
みっ、澪だって気持ち良さそうだったじゃんかっ?
今日はちょっと調子が悪かっただけ、それだけだって!
ちょっと休んだらもっと澪を気持ち良く……」


「駄目だよ」


澪は私の言葉を遮る。
さっきまで見せてくれていたおっぱいを隠して、
気持ち良さそうに濡らしていたアソコも嘘みたいに渇かせて。
嘘みたいに。


「駄目だよ、律……。
こういうのは好きな男の人とするものなんだ……!」


澪が何を言っているのか分からない。
好きな男の人とする?
どういう事なんだ?
私達はただ気持ち良くなってただけだろ?
楽しいから一緒にいて、面白いからスキンシップして、
気持ちいいからちょっとエッチな事をしてみてるだけだろ?
私は澪の喜ぶ顔を、気持ち良さそうな顔を見たいだけなんだぞ?
それなのにどうして男の人の話が出て来るんだよ?
分からない……。
何を言ってるのか分からないよ、澪……。


「よく聞いてくれ、律。
私も律とこんな事が出来て嬉しかった。気持ち良かった。幸せだった。
律と一緒に居られる自分が誇らしかったんだよ、本当に……。
でも気付いたんだ、律と肌を重ねてて思っちゃうんだ。
こんなの変だって。こんなのおかしいんだって。
気持ち良いのに苦しくなっちゃうんだ……!
悲しくて悲しくて、気持ち良いのにイケないんだよ。
辛いんだ、このままだと律を嫌いになっちゃいそうで嫌なんだ!
すっごく嫌なんだ!」


澪が涙を流してる。
悲しませるつもりなんて無いのに。
気持ち良い事をしてたかっただけなのに。
一緒に気持ち良くなってただけなのに、どうして澪は泣いちゃってるんだ?
どうして……、私も泣きたくなってるんだ……?

そうして澪は叫んだんだ。
私の頭をハンマーか何かで殴るみたいな衝撃的な一言を。


「気付いたんだよ、これはおかしい事なんだって……。
やっちゃいけない事だったんだって……。
おかしいよ……。
女同士でセックスなんておかしいよっ!」


「えっ?」


思わず間抜けな声が漏れた。
それくらい衝撃的で、すぐには理解出来なかった。


「セ……、セックス……?」


確かめるように呟いてみる。
セックス。
その言葉の意味は私だって知ってる。
保険の授業で習ったし、その時に澪が赤面してたのも憶えてる。
言われなくても知ってる。セックスは男と女が子供を作る時にする事だ。
子供を作る時じゃなくてもする事もあるみたいだけど、それは男と女がする事だ。
だから私達にはまだ関係無い事だって思ってた。

でも澪は言ったんだ。
女同士のセックスはおかしいって。
女同士でするセックスがあったなんて知らない。
知らなかった。誰も教えてくれなかった。
女同士のキスをしてる友達は居たけど、女同士のセックスを見せてくれる友達は居なかった。
女同士でセックスみたいな事をしてる漫画を見掛けた事はあるけど、あれはスキンシップじゃなかったのか?
スキンシップの延長上にあるちょっとだけエッチな事だと思ってた。
あれが、セックスだったのか?
あれがセックスだとしたなら、私達がやっていたのは女同士のセックスだったのか?
おっぱいを揉んだり、アソコを触ったり、擦り合わせたりするあれが?

セックスは好き合っている相手がする事だって知ってる。
子供を作るんだもんな、当たり前だよ。
私だって澪が好きだ。
一番の親友だし、一緒に居ると楽しいし、気持ち良くもしてやりたくなる。
でも澪と子供を作りたいかと訊ねられたら、私は答えられない。
勿論例えばの話だ。女同士で子供が作れない事くらい知ってる。
だけどセックスってのはそういう覚悟でしなくちゃいけない事のはずだ。
家族になってもいい相手としなくちゃいけない事のはずだ。
少なくとも私の知ってるセックスはそういうものだった。
私はそれを澪に強要していたのか……?
気持ち良くしてやって、二人で幸せな気持ちになりたいだけだったのに……?

目眩がした。
布団の上に座っているのに立ち眩みがする気分だった。
何をしてたんだよ、私は。
何をしちゃってたんだよ、私は。
私は澪を泣かせるつもりなんて無かったのに。
楽しくスキンシップしてたいだけだったのに……。

恐る恐る視線を向けると、澪は大粒の涙を流していた。
いつもなら抱きしめて落ち着かせてやっていた。
それが私の役割だった。
だけど今は……。
出来ない……。
そんな事、出来ないよ……。
今の私に澪の柔らかさを感じる資格なんて無い。
澪の綺麗な黒髪を撫でてやる権利も無い。
きっと今の私どころかこれからもずっとそんな資格も権利も持てそうにない。
私は澪にそういう事をしちゃってたんだ。
それなのに澪は私を傷付けないように我慢していてくれたんだ……。


「……………っ!」


何も声に出来ない。
もうこの場所に居る事も出来ない。
居ちゃいけない。
私は外していたカチューシャを着けて、
乱れていた服装を少しだけ直して澪の部屋から飛び出した。
もう澪の涙を見ていられなかった。
慰める資格も無い自分が許せなかった。


——私は私のせいで、大切な親友を失くしてしまったんだ……。


全速力で家に帰る途中、その事だけが頭の中をぐるぐる回っていた。
涙を必死に堪えて、それだけずっと考えていた。
澪に見せられる顔なんて、もう無い。
傍に居てももう澪に嫌な気分をさせるだけだ。
もう近付いちゃいけない。
声も掛けちゃいけない。
そう決意した。

家に帰った直後。
家族に見つからないよう、私は風呂場で泣きながら吐いた。




それからの中学生活はひどく辛いものだった。
表面上では平静を装いながら、不意に泣き出したくなるのを堪える毎日だった。
同じクラスで必然的に目に入る澪から目を逸らすしかない自分が情けなかった。
澪がクラスの誰かと話す度に胸がざわざわする自分にも気付いた。
失って初めて分かった気がする。
子供を作りたいほどかどうかは分からない。
それでも私は確かに澪の事が好きだったんだって。
それで澪にエッチな事をして気持ち良くしてあげたかったんだと思う。
遅い遅い、やっと訪れた実感。
私の思春期が人よりちょっと遅れて訪れたんだって、その時にようやく分かった。
澪への恋心をはっきりと実感した。
もう今更ではあるけれど。

受験シーズン。
澪が桜高を受験するのは知っていた。
こうなる前からずっと志望校だって話は聞いてたし、
「律はどこを受けるの?」って友達連れだけど私に聞いてくれたから。
久しぶりに澪に声を掛けられた事を嬉しく思いながら、
「どうしようかな」って私は頑張って悪戯っぽい笑顔を見せた。
本当は心の中で決めていた。
桜高を受験しよう。
私の内申点じゃ難しいかもしれないけど、もし受かったら澪に声を掛けよう。
勿論エッチな事……セックスをしたいわけじゃない。
私のせいで壊してしまった関係だけど、少しでも修復したかった。
元の関係とまではいかなくても、少し親しいくらいの友達には戻りたかった。
あんな事をしてしまった私だけど、やっぱり澪の事が好きだから。
好きだって気持ちは胸の奥に秘めて、今度こそいい友達になりたい。
澪がそれを許してくれるなら。

季節が過ぎて春。
奇蹟的になるんだろうか?
私は桜高の受験番号を合格通知の中に見つけていた。
私にしては精一杯勉強してきたつもりだ。
不純な動機からの受験勉強だったけど、合格は嬉しかった。


「律も合格したんだ」


私が小さくガッツポーズを取っているのに気付いたらしい。
クラスの友達と合格通知を見に来ていたらしい澪が私に声を掛けてくれた。


「まあな!
流石は才色兼備のりっちゃんだよな!」


泣きそうになるのを誤魔化して澪に笑い掛ける。
澪も私のしてしまった事を気にしないようにしてくれてるみたいだ。
それがとても嬉しかった。
高校ではもう一度澪と親友になるんだ。
なってみせるんだ。
それが私の過ちを償う一つの方法のはずだ。


「四月からは高校でもよろしくな、律」


「おう!」


二人とも笑顔になって握手。
久しぶりに触れた澪の手のひらは温かくて優しかった。
もう澪の笑顔を消すもんか。
泣かせるもんか。
強く強く、誓った。




「……居た」


澪の姿を見つけて心臓が大きく鼓動する自分に気付く。
澪はまだ私の姿に気付いてないみたいだ。


「大丈夫だよな……、大丈夫……」


自分に言い聞かせる。
桜高に入学してからずっと狙っていたこの時間。
今日こそ私はずっと考えていた計画を実行するんだ。
もう一度澪と親友になるために。


「澪ー、クラブ見学行こうぜ!」


駆け寄って私は澪の前に立ち塞がる。
入学式が終わってから、澪に話し掛けるのはこれが初めてだった。
だけど澪はちょっと驚いた表情を浮かべながらも普通に反応してくれた。


「クラブ見学?」


「軽音部だよ、軽音部!」


「でも私文芸部に入るつもりだし」


「えっ?」


「入部希望の紙も書いたし」


そう言って澪が私に入部希望用紙を見せる。
そりゃそうだよな。
二人でバンドやろうって話し合ったのは、澪とそうと知らずにセックスをしてた頃の話だ。
まだ二人の未来がこんな風になるなんて思ってなかった頃の話なんだ。
急に私が軽音部に入部しようなんて言っても、澪にとっては寝耳に水だろう。
迷惑だろうなとも思う。

でも私は諦めたくなかった。
諦められなかった。
このチャンスを逃したら、本当の意味でもう澪の傍に居られなくなる。
そんな気がしたから。
私は澪の入部希望用紙を奪い取って、唇を尖らせて、


「びりっ」


わざと冗談半分みたいに破いた。
怖かったし、私の背中には冷たい汗が流れてた。
強引過ぎると思われなかっただろうか。
もっと私の事を嫌いになりはしなかっただろうか。
私はそれを想像するだけで泣き出しそうになっちゃってたけど、


「あーっ!
何すんだよ、律ぅ!」


澪は少し叫んで困った表情になるだけだった。
私の強引な性格がちょっと戻って来たって思っただけなのかもしれない。
「まったく律は……」、そう言いたげな、
ついこの間まで見ていたはずの澪の表情だった。
それだけで私は飛び上がりたいくらい嬉しかった。
少しずつ関係を戻せてるってそんな気がした。
だから私はもう少しだけ積極的になってみる事にした。


「ほら、行くぞっ!」


澪の手を握る。
とても久し振りに感じる澪の手のひらの感触。
女同士でセックスをするような普通じゃない関係じゃない。
友達が極自然にそうする様な、普通の友達関係みたいに。
私達は触れ合った。


「早く早く!」


「ちょっとぉ……!」


澪の手を引っ張って駆け出して行く。
まずは部室に向かおう、その後で職員室だ。
強引な気がするけど、強引なくらいがきっと私らしい。
それにもう一つ、私には澪の手を引っ張らなきゃいけない理由があった。
手を引く形なら澪には気付かれないはずだから。
涙がこぼれ落ちそうなくらい、私の瞳が潤んでる事に。


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最終更新:2013年11月16日 07:54