SCENE. 7 【午前7時50分】 ~私立桜が丘女子高等学校の生徒玄関~
春菜「――だからね、マドンナの『ライク・ア・ヴァージン』はそういう解釈も出来ると思うの」
圭子「ははぁー……///」
しずか「そ、そうなんだ……///」
ちづる「やっぱ彼氏持ちは言う事が違うねー///」
唯「おっはよー!」ブンブン
憂「おはようございます」ペコリ
春奈「あっ、おはよう。平沢さん」
ちづる「おはよー」
唯「んじゃ、憂。またねー」
憂「あっ、お姉ちゃん。今日は寄り道無しで早く帰って来てね」
唯「大丈夫! わかってるってー! 今日は特別な日だもんね!」
憂「うん。楽しみにしててね」
唯「楽しみだなー。じゃあねー」トコトコトコ
憂「またね、お姉ちゃん」スタスタスタ
憂(よーし、今日は腕によりをかけて作っちゃお。お姉ちゃん、喜んでくれるといいなぁ)スタスタスタ
ドンッ
憂「きゃっ! す、すみません!」ペコペコ
姫子「あっ、こっちこそごめんね。よそ見してたから―― って、唯の妹さん?」
憂「え? あ、お姉ちゃんのお友達ですか?」
姫子「一応ね。席が隣ってだけだけど」クスッ
憂「お姉ちゃんがいつもお世話になってます」フカブカ
姫子「いや、そんな丁寧に……」
憂「いえ、お姉ちゃんの事だから、何かご迷惑をかけているんじゃないかなって思いまして」
姫子「迷惑だなんて、そんな。でも、唯は妹みたいに思えるからさ、ついつい面倒見てあげたく
なっちゃうんだよね」
憂「それ、わかります」クスクス
姫子「じゃあ、また―― えーっと……」
姫子「そっか。憂ちゃん、またね」
憂「失礼します」ペコリ
姫子(いい妹さんだなー。ウチのもああだったらねえ)スタスタスタ
ピリリリリリ ピリリリリリ
姫子「おっと、バイブにするの忘れてた。……ん? アラーム? なんでこんな時間に?」ピッ
唯 誕生日 27日
姫子「メモしてタイマーになってたんだ。なんでだろ? っていうか27日って…… 今日じゃん!」
姫子「そっかー。唯、誕生日なんだ。おめでとう、って言ってあげなきゃ」
姫子「んー、やっぱプレゼントあった方がいいかな。あ、でも、普段から一緒に遊ぶほど
仲いいワケでもないし、プレゼントなんてしたら逆に迷惑かな…… そもそも用意
する時間も無いよね……」
姫子「あーあ、こんな事ならもっと早く計画してればよかった…… なんでこれ聞いた時に
すぐ思い立たなかったんだろ……」ショボン
ドンッ
姫子「うわっ!」
キミ子「あっ! ごめん、立花さん!」
姫子「なんだ、巻上さんかぁ。ビックリしたよ。どうしたの? そんなに慌てて」
キミ子「そ、その、お昼ご飯買ってたら遅くなっちゃって…… 響子を待たせっ放しだったし……」
姫子「そうなんだ。朝から大変だったね」クスッ
キミ子「えへへ…… じゃあ、お先に……」タタッ
姫子「うん、また教室でね」
姫子「んん……?」クンクン
姫子「巻上さんの残り香がジャンクないい匂い…… どうしよう。まだ一時間目も始まってないのに
おなか空いてきちゃった」グウウウウ
SCENE. 8 【午後3時45分】 ~商店街~
唯「ええっと…… しいたけでしょ、しらたきでしょ、それと砂糖。あとは牛脂ももらったし、
憂に頼まれてたものはこれでオッケー!」トコトコ
唯「部活も休んじゃったし、今日は何となくゆっくりだねー。たまにはこういうのもいいかも」トコトコ
唯「……ん?」ピタッ
唯「へー、こんなとこにレストランが出来たんだ。イタリアンのお店かぁ。家庭的であったかそうな
雰囲気のお店だなー」
唯「お品書きも小さな黒板に手書きでかわいいっ。えーと、なになに……?」
Dario Argento bistecca ~ダリオ・アルジェント・ステーキ~ ☆生生焼けがおすすめ!
Lucio Fulci burger ~ルシオ・フルチ・バーガー~
500yen latte scuote ~500円のミルク・シェイク~
唯「ご、500円!?」
唯「書き間違えじゃなくて? だってさ、ただのシェイクだよね? マックなら100円なのに!」
唯「何か特別なものが入ってるのかな。あまおうとか、夕張メロンとか、宮崎県産マンゴーとか」
唯「んむむむむむ、気になる…… すごーく気になる…… 500円のシェイクってどんなの
なんだろう」
唯「お財布の中には700円くらい入ってたはずだし、時間も部活休んだ分の時間があるから、
サッと飲んでサッと出ればすぐ帰れる。大丈夫、憂に怒られない」ブツブツ
唯「は、は、はっ、入ってみよっかな…… シェイク、頼んでみよっかな……」ドキドキ
唯「ちょ、ちょっと待って。ホントに700円入ってたよね……? いち、にー、さん、しー……」コソコソ チャリチャリ
唯「よし……!」ドキドキ
カランカランカラン
?「イラッシャイマセー」
唯(わっ! 外人さんだ! 店員さんが外人さんだ! イタリアの人かな)
?「コチラヘドウゾ」
唯「は、はい。ありがとうございます」ギシッ
唯(わわっ、なんか三人くらい外人さんが来た! き、緊張するよぅ……)
Enzo「Buon giorno、イラッシャイマセ。私ハ料理長ノEnzo Gorlomiデス」
唯「ご、ごろーみさん?」
Enzo「モウ一度。Gorlomi」
唯「ごるろぉーみ」
Enzo「Gorrrrrlooomii」
唯「ごぅるるるぉおおおみぃ」
Enzo「Gorlomi」キリッ
唯「ごるるぉおみ」キリッ
Antonio「ハジメマシテ。給仕長ノAntonio Margheritiデス」
唯「まるがりーてさん?」
Antonio「モウ一度。Margheriti!」
唯「まるがりーてぃー!」
Antonio「モウ一度!」
唯「まぁるぐぁりいてぃいいい!」
Antonio「モット音楽ニ乗ルヨウナ響キデ!!」
唯「まぁぅるるるぐぅぁるぃいいいてぃいいいいい!!」
Dominick「近所ニ住ンデイルDominick Decoccoデス」
唯(なんかめんどくさくなってきた……)
Dominick「ハイ、Dominick Decocco」
唯「どみにく・でこっこ」
Dominick「ナンテ?」
唯「どみにく・でこっこ」
Dominick「素晴ラシイ!」
唯「あ、あのー、そろそろ注文を……」
Antonio「コレハ失礼致シマシタ。menùヲドウゾ」
唯「ええっと、この“500円のミルク・シェイク”っていうのをひとつ」
Antonio「カシコマリマシタ。500yen latte scuoteヲオヒトツ。オ味ハvaniglia? cioccolata?」
唯「ゔぁ、ゔぁにぃぅりゃ」
Antonio「トテモ良イ発音デス。少々オ待チクダサイマセ。スグニオ持チ致シマス」
唯「ふー、何だか疲れた……」
唯「……お? へー、厨房はガラス張りなんだね。作ってるとこが見えるんだ。ごるるぉおみさんが
手振ってる。やっほー」ヒラヒラ
唯「まず、ミキサーにアイスクリームと牛乳を入れるんだね。うぃんうぃんうぃーん」
唯「ん? 途中で入れたあれは何だろう……? かき氷みたいな? あ、まだミキサーで
うぃんうぃんするんだ」
唯「グラスに移してからの……? おおー、ホイップクリームが山盛り! やったー! 素敵!」
唯「最後は…… てっぺんにサクランボ! いいねー!」パチパチパチ
唯「おっ、来た来た! 待ってました!」ウキウキ ワクワク
Antonio「大変オ待タセ致シマシタ。500yen vaniglia latte scuoteデス」スッ コトッ
唯「ありがとう! まぅるぐぅぁるぃいてぃさん!」
Antonio「デハ、失礼致シマス」サッ
Dominick「ゴユックリ、ドウゾ」
唯「いっただっきまーす!」チュー ジュルルルルル
唯「んんっ! おいひい!」
唯「味が濃い! すっごく濃厚! でも甘過ぎない! 香りもいい! 何これ!? 最高!」
唯「うぃんうぃんしてただけで特別な作り方してなかったし、アイスと牛乳が違うのかな?
たっぷり600mlくらいあるし、これなら500円でも納得! 憂や軽音部のみんなにも
教えてあげよう!」ジュルルルルル
唯「でも、そんなに頻繁には来れないなぁ…… 月一回、いや、せめて月二回……!」フンス
SCENE. 9 【午後11時30分】 ~姫子の自宅~
姫子「はぁ、すっかり遅くなっちゃった…… あの子、もう寝てるよね」ガチャリ
姫子「リビングもキッチンも真っ暗…… そりゃ、そうか……」
姫子「ん? 何だろ。このラップした皿。それに、このメモ……」スッ
お姉ちゃん おかえりなさい
電話ではひどいことばかり言ってごめんなさい
今日はわたしがハンバーグを作ってみました
食べてみてね
それと お姉ちゃんはすごくいいお姉ちゃんだよ
わたしの自まんのお姉ちゃんです
姫子「あの子ったら……」ジワッ
姫子「どれどれ…… ありゃりゃ、焦げ焦げハンバーグ…… ん、でも美味しい」モグモグ
姫子「いい妹を持って幸せだな……」
姫子「妹…… 妹……? あれ? 私、なんか忘れてるような…… 妹……」
姫子「あっ! そうだ、唯に……!」ハッ
姫子「でも、どうしよっかな…… そういえば私、唯の電話番号もメルアドも知ってるけど、
連絡した事は一度も無いんだよね…… 夜も遅いし……」
姫子「うーん…… いいや、電話しちゃえ!」
姫子「寝てるかな…… 迷惑かも……」ピッ ピッ
トゥルルルルル トゥルルルルル ガチャッ
唯『はーい、もしもーし。姫子ちゃん?』
姫子「う、うん。こんな夜遅くにごめんね。寝てた?」
唯『ううん、大丈夫だよ! どしたの? 珍しいね、電話なんて』
姫子「う、うん、ちょっとね」
唯『あ! そうそう! 聞いて聞いて!』
姫子「えっ? 何、どうしたの?」
唯『今日ね、学校帰りに新しく出来たイタリアンレストランに行ってきたの。そしたら、
風子ちゃんとなっちゃんとおかあさんと一緒になってね』
姫子「うんうん(おかあさん? ……ああ、佐久間さんの事か)」
唯『風子ちゃん、すごいんだよ! イタリア語でごあいさつして、イタリア語で注文してたの!
店員さんのごるるぉおみさんが発音が素晴らしいって拍手してたんだよ!』
姫子「へえ、そうなんだ。でも、唯も発音上手いじゃない」クスクス
唯『えへへー。そ、そう?』
姫子「うん、上手いよ」
唯『ありがとう、姫子ちゃん。でねでね-―』
~15分経過~
唯『それでね、スパイダーマンは変身してスパイダーマンになるけど、スーパーマンは生まれた時
からスーパーマンで-―』
姫子「ちょ、ちょっと待って、唯。そろそろ12時になっちゃうからさ」
唯『あ、ホントだ。もうこんな時間。ごめんね、遅くまでお話ししちゃって』
姫子「いや、そうじゃなくて…… あのさ、唯って今日、誕生日でしょ? どうしても日付が
変わる前に“おめでとう”って言いたくってさ。唯、誕生日おめでとう!」
唯『えっ?』
SCENE. 10 【午後12時35分】 ~3年2組の教室~
唯&律「おかあさーん!」ドタドタドタ
英子「あらあら。二人とも、そんなに慌ててどうしたの?」
唯「お願い! 5時間目の数学の宿題、見せて!」ヒシッ
律「澪が意地悪だから見せてくれないんだよー!」ダキッ
英子「あらあら、困ったわねえ」
澪「だーれーがー意地悪だってー?」ビキビキ
律「出たー!」
澪「人をお化けか何かみたいに言うな! 佐久間さん、迷惑かけちゃってごめんね」ヒョイッ
律「くそー! 離せー!」ジタバタ
唯「助けてー! おかあさーん!」ジタバタ
英子「あらあら、まあまあ…… そんな猫の子みたいに首根っこを掴んじゃかわいそうよ」
澪「で、でも…… あっ!」
律「隙あり!」バッ タタタッ
唯「脱出!」バッ タタタッ
澪「お前ら、また佐久間さんに甘えてー!」
英子「困った子達ねえ」ニコニコ
唯「おかあさぁん」ゴロニャン
律「あっかんべー」ベー
澪「こんのぉおおおおお……!」イライライラ
紬「お、落ち着いて! 澪ちゃん!」
和「ちょっと失礼するわね。三文芝居の途中で申し訳無いんだけど」
律「たまーに身も蓋も無い言い方するよな、和って……」ズーン
和「律、講堂使用許可願の用紙が提出されてないわよ。10月27日までって言ったじゃない」
律「え……? 10月27日っていつ?」
和「今日よ」
律「あちゃー」
澪「あちゃー、じゃない。早く書いて提出しろ!」
律「へーい……」トボトボ
唯「んじゃ、私はおかあさんに宿題を……」
澪「唯!」
唯「はいぃ! すみませんでしたー!」ピュー
英子「あらあら」ニコニコ
唯「ちぇー、澪ちゃんのけちんぼー」トボトボ
姫子「ねえ、唯。よかったら私のノート――」
曜子「唯ちゃーん。妹さんが来てるよー」
唯「ほえー? はーい」クルッ タッタッタッ
姫子「あららら……」ガクッ
唯「どしたのー?」
憂「あのね、足りない材料があったの忘れてたから、帰りに商店街で買ってきてほしいんだけど
大丈夫かな」
唯「うん、いいよー。憂は作る方に集中してほしいもん」
憂「ありがとう、お姉ちゃん。じゃあ、これがメモで、これがお金。よろしくね」
唯「おっけー。しいたけ、しらたきと…… ええと、う、うし、し……? んー?」
曜子「んん?」ヒョイ
唯「ん」ピラッ
曜子「ああ、これはね、“ぎゅうし”って読むの。牛脂。牛の脂肪、脂身の事ね」
唯「あー、あの白いやつだね。ふーん、牛さんの脂肪かー」
曜子「もしかして唯ちゃん家、今日はすき焼き?」
唯「うん! 今日はね、月に一回の特別な日。すき焼きの日なのでーす!」
キミ子「すき焼き……」ジュルリ
THE END
最終更新:2013年11月26日 05:31