【律side】
クリスマスイブの夜。
部室でクリスマスパーティーを開いてから家に帰ると、予想外の展開が待っていた。
律「……」
いちご「お帰り」
律「……」
いちご「座ったら」
律「どうしてお前が私の部屋に居るんだ」
いちご「?」
律「いや、そこは首を傾げる所じゃないだろ」
いちご「来たかったから」
律「よく分かる答えをありがとな」
いちご「うん」
律「って、そうじゃねーって!」
いちご「?」
律「いちいち首を傾げるなっつーの、可愛いな畜生!」
いちご「可愛い?」
律「前から言ってんだろ、お姫様みたいに可愛いって!」
いちご「そうだったわね」
律「それよりどうやって私の部屋に侵入したんだよ」
いちご「家の人が上げてくれたけど」
律「帰った時のあのにやけ面はそういう事かよ、お母さん……」
いちご「お茶とお菓子も頂いたわ」
律「たまには自分の娘にもそれくらいのおもてなしをしてほしいもんだ……。
それよりその恰好で何も言われなかったのかよ?」
いちご「その恰好?」
律「そのサンタ服だよ、サンタ服!
何でそんな服を持ってるんだよ!
さわちゃんか? さわちゃんの差し金かっ?」
いちご「部活で使ってる服だけど」
律「マジか……」
いちご「ええ」
律「凄いな、うちのバトン部。
そこまで多方面にアピールしてんのか……」
いちご「クリスマス付近のイベントで結構使うのよ」
律「へー……、ってそれはともかくとして。
そんな恰好で誰にも何も言われなかったのかよ?」
いちご「誰にもって誰に?」
律「うちのお母さんとか」
いちご「特に何も言われなかったけど」
律「お母さん……。
アレか? 唯で耐性が付いてんのか?
あいつ妙な服も平然と着こなすからな……」
いちご「……そうね」
律「どうした?」
いちご「何が?」
律「いや、何かちょっと不機嫌に見えたから」
いちご「別に」
律「別にって感じじゃないんだが……」
いちご「それより律」
律「何だよ?」
いちご「クリスマスパーティーをして来たの?」
律「分かるのか?」
いちご「脇にプレゼントをたくさん抱えてるじゃない」
律「あっ、そりゃそうか。
うん、いちごの言う通りだよ。
軽音部の部室で軽くクリスマスパーティーをやってきたんだよな」
いちご「受験生でしょ」
律「息抜きだよ、息抜き。
つーか、それを言うならサンタ服を着てるいちごだって受験生じゃんか」
いちご「息抜きよ」
律「さいですか……」
いちご「楽しかった?」
律「クリスマスパーティー?」
いちご「ええ」
律「おう、楽しかったぞー。
久し振りに後輩達のセッションも聴かせてもらえたしな。
これで受験に向けて頑張れるってもんだ」
いちご「よかったわね」
律「うん、すっげーよかったよ」
いちご「……」
律「……」
いちご「他には?」
律「何が?」
いちご「クリスマス、律は他に予定はあるの?」
律「いや、特に無いぞ。
って、それくらいいちごも知ってるだろ?
前に私からいちごにクリスマス何すんの? って訊いたじゃんか。
無いならクラスの皆で軽いパーティーしようぜーって」
いちご「そうだったわね」
律「でもいちごはクリスマスに予定があるって言ってたから、誰かと過ごすのかと思ってたんだが」
いちご「誰かって?」
律「友達とか家族とか、彼氏とか?」
いちご「彼氏なんて……、居ないわ」
律「そうなのか?
意外だなー、いちごなら何人か彼氏が居そうだと思ってたんだけどな。
何せ可愛いもんなー、お姫様みたいにさ」
いちご「うち女子高じゃない」
律「それでも、だってば。
学外にイケメンな彼氏でも居るもんだと思ってた」
いちご「居ない」
律「そっか……。
じゃあ予定ってのは何だったんだよ?
私の家に来てる暇なんてあるのか?」
いちご「予定はあるわ」
律「ほら、あるんじゃん。
彼氏は違うとして、家族と一緒に過ごすのか?」
いちご「違う」
律「じゃあ何をするんだよ?」
いちご「予定は今実行中」
律「え」
いちご「実行中」
律「予定って私の家に来るって事だったのかよ!」
いちご「悪いの?」
律「いや、悪くはないけど」
いちご「それならいいでしょ」
律「いや、いいんだけどさあ……。
でもいきなり来られても何もおもてなし出来ないぞ?」
いちご「おもてなしならもうお母さんにして貰ってるわ」
律「いやいや、私がいちごをもてなせないって事だよ」
いちご「気にしないわ」
律「私が気にするんだよ」
いちご「私が勝手に来たわけだから、律も気にしないで」
律「そう言われてもなあ……。
って、今更だがこの部屋寒くないか?」
いちご「大丈夫よ」
律「大丈夫とかそういう問題じゃないだろ……。
あ、やっぱ暖房動かしてないじゃんか。
何やってんだよ、部屋の中とは言え風邪ひくぞ?」
いちご「勝手に暖房使ったりなんて出来ない」
律「どうしてそんな所で律儀なんだよー……。
いいから暖房点けるぞ?」
いちご「大丈夫だって」
律「そんな薄着のいちごを放っておく方が私の精神的に大丈夫じゃないんだよ」
いちご「……」
律「ほら、つけたからな。それにこれ羽織ってろ」
いちご「毛布?」
律「私が使ってるやつだけど我慢しろよ。
風邪ひくよりはマシだろ?」
いちご「律の毛布……」
律「受験も近いんだからさ、体調管理はちゃんとしようぜ?
万全じゃない体調で挑んで後悔したくないだろ?」
いちご「……」
律「私が後悔したくないってのもあるけどな。
私の部屋でいちごを風邪にさせたなんて、後悔してもし切れなくなるって。
気持ち良く卒業したいじゃんか、お互いにさ」
いちご「律……」
律「どうした?」
いちご「ごめんなさい」
律「いいよ、それより体調には気を付けろよな」
いちご「……うん」
律「そうだ、温かい飲み物でも取ってくるか?」
いちご「……ありがとう」
律「いいってば。
あ、それより前に一つ訊かせてくれるか?」
いちご「何?」
律「どうしてそんな恰好で私の部屋に来たんだよ?
何かのサプライズとか?」
いちご「……」
律「秘密だって言うんなら無理して訊かないけど」
いちご「律は」
律「?」
いちご「クリスマスってどう思う?」
律「パーティーをする日……とか?」
いちご「そうね、それも正解。
クリスマスはパーティーをする日でもあるわ。
だけどパーティーをする以外の意味を持たせる人も居るの」
律「どういう事だ?」
いちご「クリスマスは大切な人と一緒に……」
律「一緒に?」
いちご「……」
律「……」
いちご「くしゅんっ」
律「くしゃみかよ!」
いちご「だ、大丈夫だから……」
律「だから大丈夫って言うなってば、私だって心配なんだから。
うーん、これは早く身体を温めた方がいいよな……。
よーし!」
いちご「?」
律「温かい飲み物もいいけど、先にうちの風呂に入ってけよ。
身体をしっかり温めてからさ、温かい飲み物でもっと温まろうぜ」
いちご「そんな……、悪いわ」
律「悪くないっての、嫌でも連れてくからなー!」
いちご「い、一緒に入るの……?」
律「一人だと入らないかもしれないからな、しっかり監視させてもらうぞ?」
いちご「着替えも無いから……」
律「心配すんなって、いちごの体格って私と同じくらいだろ?
だから私の下着とか貸してやるよ」
いちご「り、律の下着……」
律「それがクリスマスプレゼントって事でいいよな?」
いちご「律の下着が……?」
律「違うわ!
そうじゃなくて一緒にお風呂に入る事が、だよ。
勿論私からじゃなくて、いちごからのプレゼントって事だぞ。
いちごの体調が心配な私をお風呂に一緒に入らせてくれる……。
それがいちごから私へのクリスマスプレゼントって事で!」
いちご「……」
律「いいよな?」
いちご「……分かった」
律「よーし、そうと決まればさっさとお風呂に入っちゃおうぜ?」
いちご「ええ」
律「グフェフェフェ……。
いちごの髪、触ってみたかったんだよなー」
いちご「下品」
律「バッサリだー!」
いちご「律」
律「何だよ?」
いちご「ありがとう」
律「どういたしまして。
私がプレゼントを貰う立場なのに変な話だけどさ」
いちご「そうね」
律「でさ、お風呂から上がったら聞かせてくれるか?
さっきの言葉の続き」
いちご「……」
律「……」
いちご「ええ、言うわ。
いいえ、言わせてほしい」
律「ありがと、いちご」
いちご「どういたしまして」
律「おっし、んじゃ風呂行くかー」
いちご「ねえ、律」
律「どうした?」
いちご「一つだけお風呂の前に言わせて」
律「いいぞ?」
いちご「メリークリスマス、律」
律「ああ、メリークリスマス、私のサンタさん」
最終更新:2013年12月24日 04:46