律「はあ、唯が風邪と」
梓「昨日の夜くらいから具合悪そうで、今朝にはバタンキューと。平沢の話いわく」
律「最近急に冷え込んでからな。あたしもこの前熱出したしさ」
澪「だな」
梓「あいつ世界の終わりみたいに心配してたんで、逆にこっちが心配になりましたよ」
紬「大丈夫かしら……唯ちゃん」
澪「帰りにお見舞い行くか?」
律「そうだな……」
紬「でも学祭三日前に風邪は痛いわ」
紬「この前にも律ちゃんが風邪やったし、合わせの練習は去年よりできてない」
澪「それよりも唯の風邪が長引いたら……」
梓「唯センパイが出られなくなる……」
梓「(全員出られなくなるのもあるが、リードギターが抜けたら大問題だ)」
梓「ムギセンパイ」
紬「どうしたの?梓くん」
梓「最悪、唯センパイが寝込んだままなら、俺が唯センパイのパートやりますわ」
梓「譜面はわかりますし、なんとかこの三日でモノにして……」
紬「梓くん」ズイ
梓「な、何すか?」
紬「余計なお世話」
梓「え?」
紬「私達は五人揃って軽音部なの」
紬「五人揃わなかったら、それは未完成品であって、そんなものを出すくらいなら辞退するわ」
梓「……」
紬「それに大丈夫よ。唯ちゃんは土壇場が強いんだから」
梓「……そう言うもんですかね」
紬「そう言うもんよ」ニコ
平沢家
唯「へろ~……」ゴホゴホ
澪「……思ったより大変そうだな」
梓「(……俺は思ってたより大丈夫そうだった)」
梓「(憂の慌てっぷり見てたら40度超える熱出てるかと思ったからなあ……)」
紬「はい、これ。お見舞いのゼリー」
唯「ありがと……ムギちゃん」ゴホゴホ
律「はやく風邪治せよな、待ってるぞ♪」
唯「うん……そうしたい」ゴホゴホ
唯「迷惑かけてごめんね、みんな……」ゴホゴホ
梓「別にいいっスよ。風邪なんていつかかるかわからないし」
澪「じゃあそろそろ御暇するか?」
律「だな」
梓「それじゃセンパイ、できれば文化祭の日に」
唯「あ、あずにゃん……」ゴホゴホ
梓「……何スか?」
唯「ギー太……とって?」ゴホゴホ
梓「ちゃんと休まないとダメっスよ。体に悪いし」
唯「……添い寝するの~」ゴホゴホ
梓「あ……そうですか。はい」ヒョイッ
唯「ギー太ぁ~ひんやりしてて気持ちいよ~♪」ゴホゴホ
ガチャ
梓「ギター始めてもうそろ十年、いろんなミュージシャンを知ってきたつもりですが」
梓「ギターと添い寝する人は今日はじめて見ましたわ、俺」
紬「唯ちゃんの持ち味だからね♪かわいいよね♪」
梓「かわいいっちゃあ、かわいいですけど……」
律「じゃあ、唯にお大事にって」
憂「はい。伝えておきます」
梓「あ、俺少し残りますわ」
律「……どうしたんだぁ?梓ぁ?」
律「もしや憂ちゃんとラブラブタイムを演じるつもりで……」
梓「だあああああああああああああっっ!!違います違います違いますってばっ!!」ブンブンブン
律「(なんか否定が凄い必死だな)」
律「(聡もだけど、男って恋愛関係になるととたんに全力で否定するのかな?)」
澪「ラブラブ……タイム……」
澪「」プシュー
紬「(澪ちゃんが恥ずかしがり性でオーバーヒート起こしてるわね……)」
澪「」プシュー
紬律「じゃあ、お大事に」
ガチャ
憂「……お姉ちゃん大丈夫だった?」ウルウル
梓「大丈夫だよ。少なくともお前が心配するほどの病状でもねえから」
梓「ほんっと、お前は途端にセンパイの事になると大げさになるからな」
憂「……そうかなぁ?」
梓「そうだっての。お前二言目にはいっつもお姉ちゃん、お姉ちゃんだろ。お姉ちゃんかわいいよねとか」
憂「だって本当にかわいいもん。アイスおねだりしてるお姉ちゃんとか、よだれ垂らして幸せそうに寝てるお姉ちゃんとか……」
梓「確かにまあ、世間一般的には……かわいい部類なのかもしれないけどさ」
憂「だよね♪」ニッコリ
梓「(……そんな笑顔されてもさぁ)でもまあ。大げさになる程の事じゃないからさ」
憂「そう言えば、なんで梓くんはうちに残ったの?」
梓「この前代わりに買ったギー太用のポリッシュ渡しそびれたんだ」ヒョイッ
梓「ギー太ってよく脂でぐしゃぐしゃになってるから、ポリッシュ欠かせないんだよ。代金は後からでいいんだけど、文化祭に脂と汗まみれのギターで出られても困るし」
憂「あはは……お姉ちゃんよくギー太と添い寝とかしてるからね」
梓「その現場もさっき見てきたよ」
憂「それじゃあ今お姉ちゃんのお茶淹れるから、その時に一緒に行こうか?」
梓「だな。病人のいる部屋をあんまバタバタできないしな」
憂「っと」コポポ
梓「…………」
梓「なあ憂」
憂「なに?」
梓「生姜とおろし金あるか?」
憂「あるよ。今取るね」
憂「はい、梓くん」スッ
梓「サンキュ……っと」シュコシュコシュコ
梓「あとハチミツかなんかあるか?なけりゃ砂糖でもいいんだけどさ」
憂「それもあるよ」スッ
カポッ カチャカチャ
梓「……よし」
憂「あ、これって……生姜紅茶?」
梓「ムギセンパイが律センパイが風邪から復帰した後に、みんなの風邪予防って淹れてたの見てさ。風邪の時にはこれがいいかなって思ったんだよな」
憂「……」
梓「……あれ?まずかった?もしかして唯センパイ生姜苦手とか?でもこの前飲んでたし……」
憂「ありがとっ!」ニコ
梓「(すげー眩しい笑顔……)」
文化祭当日 音楽室
梓「結局、唯センパイは来なかった……か」
紬「憂ちゃんはなんて言ってた?」
梓「それが……朝から見てないんっスよ」
澪「……出番まであと一時間切ったぞ」
律「……今から和に辞退入れてくるか?それとも……」
梓「……限界まで待ちましょう」
紬「梓くん……」
梓「……どうせあの人の事だから、いつもみたいにギリギリに来ると思いますよ」
律「そうだな」
バタンッ
唯「ごめんっ!みんなっっ!」
澪「唯っ!?」
律「風邪治ったのかっ!?」
唯「うんっ!ごめんね!心配かけて!」
梓「(あれ?)」
律「よし!唯が揃ったし、最後の合わせ行くぞっ!」スチャッ
律「ワンツースリーフォー!」
ジャーーン!!!
律「凄い……今までと全く違うみたいだ……」
澪「確かに。なんて言うか新しい世界が見えてきたみたいだった!」
唯「ほんとだよ!凄いよ!」
紬「……その通りね」チラッ
梓「……ですね」チラッ
唯「え?どうして二人共こっち見てるの?」オロオロ
梓「もう芝居はいいぞ。憂」
唯?「えっ?な、何のこと!?」
紬「顔も声も唯ちゃんそっくりだけど、そのギター、唯ちゃんのギターの弾き方のクセと全く違うのよ」
紬「唯ちゃんは譜面にできるだけ沿って弾くけど、あなたの弾き方は違う。聞こえ方がいいように譜面をある程度アレンジして弾いてる」
紬「あなたのは梓くんの弾き方のクセそっくりなのよ」
梓「で、唯センパイに入れ替わることが出来て、俺と同じクセの出る弾き方する奴って言えば、俺がギターを教えてる憂しかいないってことだよ」
唯?「ちっ……違うよ梓くっ――」
梓「本物はあずにゃんって呼ぶぞ。常に」
憂「あっ……」
紬「(梓くん、調子に乗って色々喋っちゃってるわね)」
梓「ほら、わかったらとっとと髪直せ」
憂「うん……」
澪「憂ちゃん、本物の唯は?」
憂「家を出るときはまだちょっとだるそうに寝てて……枕元でたくあんがどうとか言ってましたけど……」
律「(たくあん?)」
梓「……しゃあねえな。この時間じゃもう辞退も無理か」
澪「だな。梓、リードギター頼む」
梓「……オーライっす」
紬「……仕方ないわね」
律「うん」コクリ
憂「……私じゃダメかな?」
梓「悪いけど、な」
憂「そう……」シュン
アムバッキナユーエスエスアー ユーアラキユアー
澪「……誰の携帯だ?」
梓「……すんません。俺っす」
澪「(ビートルズ好きなのか?梓は)」
律「学校ではマナー入れとけよ。見つかったら一週間は没収されるぞ」
梓「昨日Youtubeで海外のヒットチャート曲聞いてて……」カチカチ
梓「は?」
律「どうした?」
梓「唯センパイから俺ら宛のメールっス。『家出たよ!』って」
澪律紬「え?」
澪律紬「……」ゴソッ カチカチカチカチ
紬「本当だわ……」
澪「『生姜紅茶で風邪治ったよ!今行くから待ってて(`・ω・´)!』だって……」
律「唯の家からなら……今からならギリギリ時間に間に合うかもな!」
憂「お姉ちゃん……」ウルッ
律「よし!じゃあ講堂に行くぞ!」
澪紬梓「了解!」
ブーブーブーブー
澪「ん?」カチカチカチ
澪「……はぁ」カチャン
律「どうした?」
澪「『家の鍵締め忘れちゃった。遅れるかも……(`;ω;´)』だって……」
律「……間に合うのか?」
澪「ボーカルは私がやって、リードギターは何曲かさわ子先生にヘルプ頼むか……」
講堂
♪~~~
澪「ふでぺーんふっふー ふるえーるふっふー」
さわ子「♪~」ギュイーン
梓「(あの人、意外に上手いんだな。何の躊躇もなく完璧に弾いてる)」
梓「(で、それはいいとしてだ)」
梓「(なんで俺以外はさわ子先生の持ってきた振袖みたいなの着て弾いてるんだ?)」
さわ子「♪~」チラッ
さわ子「♪~」キラリーンッ
梓「(本当にようわからん。この部)」
澪「かなりほんきよーおー」
紬「(唯ちゃん、来るかしら……)」チラッ
律「(もうすぐで最後の曲だぞ……)」チラッ
梓「(これでまだ来ないなら……やるしかないっすね。あの作戦)」
澪「(梓……頼んだぞ)」
梓「(承知っス)」
憂「(お姉ちゃん……)」
ジャーーーン!!!
梓「(曲は終わった。しかし唯センパイは来ない)」
澪「……」
澪「……えー、では次の曲で最後の曲とさせて頂きます」
澪「ふわふわ時間、桜高祭ライブミックス!」
梓「……」スタスタスタ
梓「……」ペコッ
チャラリーン
梓「…………」ジャララララーン
律「(よし、行くかっ!)」スッタンスッタン
梓「……」ジャラララッ!
澪「(和にあらかじめ時間を貰って、即興のイントロで時間を引き伸ばして、唯が来るまで待つ作戦……)」ボボーン
さわ子「(ジャズに詳しい梓くんならではの作戦ね。ただ問題は……)」ジャララーン
梓「(唯先輩がタイムリミットまで来るかと、俺達の即興がどこまで通じるか……だな)」ギュイーン!
女生徒「ねえ、いつになったら歌始まるのかな?」
女生徒「そう言えばずーっとイントロだけねえ……」
女生徒「でもちょっとかっこいいかも。あのギター弾いてる男の子」
憂「梓くん……」
憂「やっぱ梓くんのギター、すごいね……」ホゥ
ジャズ研「凄い……息のあった即興弾き……」
純「……本当に凄いですね。みんなぴったり合わせていってる」
ジャズ研「……やっぱり、ああ言うのが中野くんの性分なんでしょうね」
さわ子「(残り5分……ホッチキスを削ったとは言え結構ギリギリね)」ギャギャギャ
律「(と言うかイントロで3分以上持たせるとか奇跡じゃない?)」スッタンスッタン
紬「(ジャズやプログレじゃ10分越えるのも結構普通よ)」ピロピロピロピロ
梓「(間に合え……!)」ギャイイーーン
バアアンッ
澪律紬梓さわ子「!?」
唯「はー……はー……」
憂「お姉ちゃんっ!」バッ
唯「お待たせっ!みんなっ!」
梓「真打ちは遅れて来るってか……」テケテケテケ
ザワザワザワ
ズダダダダダッ
さわ子「あとは任せたわ!」シュバッ
唯「ありがと、さわちゃんっ!」シュバッ
梓「(前座もここで終了っと。俺には過ぎた大役だったけどな)」
ギュイイイイーーーン!!
梓「あとは主役の出番っスよ!」
唯「がってん!」
デケデデケデケデッデン デッデンデッデン
唯「きみをみてるとっいつもはーとどきどきっ」
憂「お姉ちゃんっ!がんばれーーっ!」
梓「(できれば俺も応援して欲しかったなぁ……)」ギャギャギャ
憂「梓くんもがんばれーーーっ!!」
梓「」ズガッ
律「(あ、梓が音外した)」
紬「(憂ちゃんの応援で動揺してるわね。梓くん)」
澪「(なんて解りやすいんだ)」
最終更新:2014年01月21日 14:56