部室

ガチャ

律「おりょ、まだ誰も来てないのか?」

律「……いや、ムスタングと鞄があるから梓が来てたか。今はいないみたいだけど」

律「にしてもギター放り出したままどこ行ったんだろうなあ」チラッ

律「…………」

律「ちょっとくらい、いいかな?」


梓「ったく鈴木め。宿泊学習の予定決めてなかったとかふざけるなっつの」ブツブツ

梓「そりゃ気づかなかった俺も俺だけど」ブツブツ

ガチャ

律「あ」テンケテンケテンテンテンテンテンテンテン

梓「あ」

梓「……なんで俺のギターで禁じられた遊び弾いてるんですか」

律「つい、なんとなく?いっつもドラムばっかりだと飽きてくるし」

梓「はぁ……」

梓「てかギター弾けたんスね。律センパイ」

律「音楽の授業で習ってるからな」

律「実質これとスカボローフェアしか弾けないけど」

梓「なるほどです」

律「そいや、梓は好きなアーティスト誰だっけ」テンケテンケテンテンテンテンテンテンテン

梓「ポール・マッカートニーかジミー・ペイジっすね」

梓「あとウェザーリポートとか、邦楽だとポルノとヒロトとマーシーの二人とかも好きっす」

律「なるほどなー」

梓「そう言う律センパイは?」

律「あたしはキース・ムーンだわ」

梓「The Whoのですか」

律「そ」

律「中学の頃さ、澪とThe WhoのDVD見ながら、あたしら絶対あんなバンド組もうって言ったりしてさ」

律「それで今ホントにバンド組んじゃってるの」ニヒヒ

梓「そうだったんスか」

律「まあ、メンバーが若干多いんだけどな。ジミー・ペイジが一人分」

梓「いいじゃないスか。本物のジミーはキースとのセッション、気に入ってたらしいですし」


教室
梓「今日からセンパイ達は京都か……」

梓「俺一人部室にいてもしゃあないし、帰って自主連するか……」

純「そいや梓んとこ、センパイ達ごっそりいなくなったもんね」

梓「まーな」

純「ジャズ研もメインのセンパイ達いなくなって、今日からどうしよかってなってさー」

純「教師役のセンパイもいないし、あたし教えるの下手だしで、暇なら梓も手伝ってくれる?」

純「梓教えるの上手だし、それにこっちも都合つくからさ」

梓「オッケ。その代わり明日の昼飯、カツサンドとジンジャーエール奢れよ」

純「ほいきた」

純「で、さ」

梓「おう」

純「あそこで白くなってる子、どうにかしないとね」

憂「」

梓「お姉ちゃんラヴ病の末期症状だからなあ」

梓「唯センパイがたかが二日三日いなくなっただけでアレなら、一人立ちとかしたらどうするんだろ」

純「そこはあんたが色々慰めてあげるとか」

純「そう、色々と」

梓「冗談じゃなくてもぶっ飛ばすぞ」



憂「」ポロポロ

純「あ、あのさ!今日憂の家泊まりに行ってもいいかな!」

憂「え?」ピタッ

純「ほら!二人なら寂しくないでしょ!?」

憂「う、うん」

憂「ありがと、純ちゃん」

梓「(ナイス純)」

梓「(流石に俺じゃ、女の子と二人きりは無理だからなあ)」

純「うん、泊まりにいくよ!梓が!」

梓「って待てオイ!」

純「え?何?」

梓「なんで俺がなんだよ!」

純「なんでだろうねえ?」スットボケ

梓「無理あるだろ!女の子二人のいる家にヤロー放り込むとか、無防備にもほどがあるだろ!」

純「いや、ウチさ。結構そゆとこ厳しいから」

梓「じゃ最初っから言うなよ!」

憂「え?梓くん来てくれないの?」

梓「行けねえよ!どう考えても行ったら犯罪だよ!」

憂「うう……」ウルッ

梓「……」

梓「わあったよ!わあったから!寝るまでいるだけならいいから!」


平沢邸

憂「美味しいね、このナポリタン」

梓「そうだな」

梓「(てかウチの母さんのより全然美味いよ……)」

梓「(憂はぜったいいい嫁さんなれるな……)」

憂「ジャズ研の練習も面白かったよね」

梓「俺は疲れたけどな」

憂「ずっと教えっきりだったもんね」

梓「まーな。結構飲み込み良くて助かったけど」

梓「……ついでに秋山澪ファンクラブや中野梓ファンクラブなんてもんの存在も知ったわ」

憂「だってかっこいいもん、梓くん」

梓「そんな事ねえって。世の中にはもっといい男死ぬほどいるっての」

憂「……わたしは、かっこいいって思ってるよ」

梓「だから……」

憂「去年のソロギター弾いてる梓くん、すごいかっこよかった」

憂「ギター教えてくれる梓くんもすごいかっこいい」

梓「……」

憂「梓くん、自信持つべきだよ」

梓「そう、か?」


憂「じゃあおやすみ、梓くん」

梓「おー、また明日学校でな」


梓「(あんな真剣な憂の顔、初めて見たな)」

梓「(しかも、唯センパイの事でなく、俺の事でとか)」

梓「(……なんか調子狂うな)」

アイバッキンザユーエスエスアー

梓「ん?メール?」

梓「誰だよ、こんな時間に……律センパイか」

梓「しゃれこうべ…………って何なんだ?」


部室

唯「進路相談って、何て書けばいいのさぁ」ペンクルクル

律「だよなぁ……」ペンクルクル

梓「……まーた進路相談用紙突っ返されたんですか?」

澪「そうみたいだな」

紬「今度はなんて書いたの?」

唯「これ……」

澪紬梓「……」

第一希望:ミュージシャン

澪梓「これは突っ返されて当たり前だろ」

唯「ひどっ!」


紬「漠然とした大学でいいから書いてみたら?」

律「思い浮かばないってば、そんなの」

唯「漠然と……」カリカリ

梓「って言われて、適当に思い浮かんだ大学名をそのまま書いてもダメですからね」

唯「何故それを!?」

梓「身の丈合わない有名私立大の名前を書こうとしてるの見たら、誰だってわかりますよ」

紬「昔の将来の夢を思い出してみるとか」

唯「あ、それなら幼稚園の先生とか!」

唯「よし決めた!それにしよう!」

澪「それじゃあ、教育大とかどうだ?唯ならギリギリ入れるかもしれないぞ」

唯「そうしてみる!教育大……っと」カキカキ

律「そういや、梓は大学決めてるのか?」

梓「決めてますよ、XX大」

紬「そんな有名大狙ってるの?梓くん」

梓「入試に数学が無いし、英語の配点結構大きいらしいんで。進路指導のセンセに勧められて」

澪「なるほど……英語得意だもんな、梓」

梓「……ちなみに憂はさらに上の大学勧められたらしいですけどね」ヘッ

律「……それは、まあ、しゃーない」


平沢邸

ジャーーーン

梓「……」

憂「どうかな?」

梓「俺よりうまくなってないか?憂」

憂「そんなことないよぉ」

梓「(期末の試験勉強の前に、まさかギターの練習するなんてな……)」

梓「(期末の次の日、商店街のかくし芸大会で唯センパイと憂がギターやるなんて言われてもさぁ……)」

梓「(まー憂の学力なら期末はなんとかなるだろうけど、なんにせよ唐突すぎんだよな……)」

憂「でもよく見つけてくれたよね、この曲」

梓「商店街の年寄りに受けそうで、ギター二本で弾ける曲と言われたら、昔アレンジ譜面書いたこの曲ぐらいしか浮かばなかったからな」

梓「ほんっと、こいつはポール最高の曲だよ」

憂「ね」

梓「なんだ?」

憂「かくし芸大会、来てくれる……かな?」

梓「……もちろん行くに決まってんだろ」


かくし芸大会 会場

澪「唯と憂ちゃんが演奏するのか……なんか他人事ながら緊張するな」

紬「ところで、何を弾くの」

梓「『ヘイ・ジュード』っす」

律「なるほど、ポール=マッカートニーって事は梓の入れ知恵か」キラーン

梓「……余計なことを」チッ

パチパチパチパチパチ

唯「どうもこんにちわ、平沢唯と」

憂「平沢憂です」

憂「今日はみなさんに、わたしの大好きな人が好きな、懐かしいあの曲を送りたいと思います」

梓「」カアアアアアアッ

澪「(梓がオーバーヒートしてる……)」

憂「……」ジャラーン

唯「へーいじゅー……♪」ジャララーン

律「……発音やべえな」

紬「唯ちゃんの歌声は舌っ足らずっぽいのが魅力だから、むしろ発音はこのくらいがいいんんじゃないの?」

紬「ねえ、梓くん」

梓「」カアアアアアアッ

律「ああ、こりゃしばらく話せないかもな」


教室

梓「……」ペラペラ

梓「(……NYかぁ、行きてえなぁ)」

梓「(ぜひともライブハウス回りまくってみたいもんだわ)」

純「あずさぁ、何読んでるわけ?」ヒョイ

純「……地球の歩き方、ニューヨーク……またすごい本を」

梓「文化祭の模擬店の参考資料だよ……ホットドック屋の細かい内装任されちまったからな」

純「あ、そういやそうだったもんね」

梓「とりあえずあと二日で内装案上げないと進行状況やべーって急かされてるからな。俺も必死なの」

純「そーいや、結構準備遅れてるもんねー。うちの模擬店……」


憂「梓くん、純ちゃん、一緒にご飯食べよ?」ヒョイ

純「おぉ!もうそんな時間か」

梓「昼飯かぁ……」

梓「やべ、朝購買でパン買ってくんの忘れた」

純「あんた今日も購買?」

梓「うっせえ。弁当作れるほど料理スキルねえんだよ」

梓「二人共、今からダッシュでパン買ってくるからちょっと待っててな!」ダッ

ダダダダッ

梓「しっかし、改めて感じるが、どこのクラスも気合入ってんな……」

梓「2週間前なのにもうこんなに準備してるって、中学の時の学祭とは大違いだわ……」

梓「この気合の入れ方、ぜひ軽音部にも分けて欲しいとこだ……」ダダダッ

ガパンッ

梓「え?」

梓「バケツ……?」グラッ

ガゴゴゴゴゴゴドンガラガッシャアアアアアアンン!!!


ピーーポーーピーーポーー


病院

澪「しかし、災難だったな。梓も」

律「バケツに足引っ掻けて階段から転げ落ちて両足複雑骨折だっけ?」

梓「全くですよ。Anotherなら死んでましたわ」

紬「でも一ヶ月は入院なんでしょ?」

梓「すいません。本番前にこんな迷惑かけちゃって」

唯「偶然の事故なんだからあずにゃんは全然悪くないってば」

梓「今回、ひょっとしたらセンパイ達四人だけの演奏になるかもしれませんし……」

梓「肝心なとこで役たたなくてすいませんね」シュン

唯「あずにゃんはむしろ今まで頑張ってきたんだから、そんなこと言わないで」

律「そうだぞ、梓」

律「今回くらい、あたし達に良いとこ見させてくれよな♪」

梓「…………」クスッ

梓「じゃあ、お願いしますよ。センパイ」



紬「あ、そうだ。梓くん、なにか持ってきてほしいものある?」

梓「え?」

紬「暇潰しの道具ぐらいないと、そのうち病院にいるのが苦痛になってくるわよ」

梓「……それじゃ、俺の鞄とムスタング頼みます。どっちも教室なんで」

紬「了解したわ」ニコ

ワハハハハハハハ

梓「昼間の再放送バラエティなんて見ててもなぁ……しかもこれ前に憂の家で見たやつだし」

梓「ムギセンパイの言った通りだけど、やる事ねえんだよなあ……」

相部屋の患者「……」トントントン

梓「(隣のオッサンも結構辛抱足らねーみたいだな)」

梓「(あっちも右足の複雑骨折みてーだけど)」

ガララ

お見舞いの少女「お父さーん」

梓「(ん?)」

梓「(うさぎ山の制服……隣のオッサンの見舞い客か?)」

お見舞いの少女「どう?どんな感じ?」

相部屋の患者「どうもこうもあるか。体が鈍ってしょうがないに決まってるだろ」

相部屋の患者「それより店は?」

お見舞いの少女「おじーちゃんが切り盛りしてるし、もち蔵も手伝いに来てくれてるから大丈夫だよ♪」

相部屋の患者「なんだとぉ!!たまこ!そりゃどういう事だ!」ガバッ

梓「(おお……オッサンが立った……)」

たまこ「駄目だよ!安静にしてなきゃ!」

相部屋の患者「ぬうぅ……」

梓「(唯センパイに似てると思いきや、意外にしっかりしてるな。この人)」

たまこ「じゃあそろそろ帰るね。お父さん」

相部屋の患者「おう。気ィつけて帰れよ」

たまこ「あ。忘れてた」

たまこ「これ、お土産ね」ホイッ

相部屋の患者「おう」

たまこ「??♪」イソイソ

たまこ「……あ」

梓「……あ。どうも」

たまこ「お父さんの相部屋の人?」

梓「あ、はい。昨日から」

たまこ「そうなんだ。それじゃあお近づきの印に……」

たまこ「食べてってよ、つきたてのおもち」ニコ



梓「っと」シャッシャッシャッシャ

梓「内装案はこれで上がりかな?」

ガラララ

純「梓ぁ、生きてる?」

梓「当たり前だ。早々死んでたまるか」

梓「おら、内装案。今上がったとこだ」

純「オッケー、んじゃ明日にはクラスに届けるわ」

梓「……あれ?」

梓「おい鈴木、憂は?」

純「……ああ、それがね」

純「なんかタチ悪い風邪で休んでるんだって」

梓「タチ悪い風邪……」

純「……って言っても多分大したことないだろうから。それじゃね」

カラララ

梓「(……大丈夫か?)」

梓「(アイツ責任感強いし、唯センパイがアレだから、無理押して家事して倒れたりとか……)」

梓「……電話。いや、かえって迷惑か」ボソ

相部屋の患者「…………」

カラララ

澪「梓、会いに来たぞ」

梓「あ、どうも。センパイ達」

律「どうだ?退屈してるか?マンガ貸してやるぞ♪」

梓「ありがとうございます。あ、この前の返しますね」

梓「……あれ、唯センパイは?」

紬「ああ。唯ちゃんは……」

澪「…………憂ちゃんが倒れて、その看病にな」

梓「倒れたって……!」

律「昨日お見舞いに行ったら結構辛そうだったからな。だから大事とってってことで……」

梓「……何にも知らなかったのは、俺だけってことかよ」

澪「梓は学校にいなかったから、仕方ないよ」

梓「仕方なくなんか、無いっすよ」

梓「憂が一番辛いときに、俺は何やってるんだよ……!」

紬「梓くん……」

律「それじゃあな。梓」

カララララ

梓「……ったく、なんなんだよ。俺は」

梓「肝心なときに骨折なんて下らない理由で、何にもできないなんて……!」

梓「ちっくしょ…………!」ドン!

相部屋の患者「…………」

相部屋の患者「おい、隣のボウズ」

梓「え?」

相部屋の患者「こっちはお前の愚痴なんか聞きたくねえんだ。そんなに心配なら電話でもかけて来い」

梓「……迷惑なだけですよ。風邪ひいてる中で電話なんて」

相部屋の患者「バカかお前は」

相部屋の患者「お前らの話聞いてる限りじゃ、そいつはお前の電話を迷惑がったりしねえよ」

相部屋の患者「むしろ心のどっかで待ってると思うぞ。お前の声を」

梓「…………」

梓「ありがとうございます」コク

カチカチッ

看護師『はいナースステーション』

梓「すいません。電話かけたいんですけど……車イスお願いできますか?」

看護師『少々お待ちくださいね……』

梓「顔に似合わず結構詩人っすね、北白川さん」

北白川「余計なお世話だ」



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