澪「おい、そろそろ練習するぞ」

律「えー!もうちょっとゆっくりしてから〜」

澪「十分ゆっくりしただろうが」ビシッ

律「いてっ」


口では文句を言いつつ、実は練習を楽しみにしてたんだ。
正確には練習ってより、ね。
それを勘付かれないようにこうして練習嫌な振りしてるんだけど。
りっちゃん名演技。アカデミー賞とれちゃうぜ。


唯「りっちゃん何ニヤニヤしてるの?」

む、危ない油断してた。

律「な、なんでもねーって」

唯「あ、分かった!りっちゃんってもしかしてどえむ?」

律「ちげーわ!!」


澪がちらっとこちらを見る。
早く楽器用意しろってことか?
そんなに睨まれるとぞくぞくしちゃうだろ。
……って、私はMじゃないからな。


ささっとドラムのセッティングをすませ、じーっと前方を見つめる。
今からが本番。

澪「よいしょっと」

澪はちょうどベースをかけるところで、
ピックを口にくわえて、ベースのストラップを少し浮かせ、髪を、

 バサッ

そう、この瞬間。
私の心は澪の髪に全て奪われる。

やばいやばい!澪の髪まじやばい!!!
はぁ、なんて綺麗ななびき方…!
やわらかく重力を受け流れていく。

ふれれば全く抵抗を感じずにさらーんと髪先までなぞれるような黒髪ロングストレート。
何これ世界遺産かよ。
澪の髪は完璧だ。


紬「……大丈夫りっちゃん?」

律「へっ?!?」

紬「なんかぼーっとしてたから」

律「あ、うん全然へーき!!」

唯「どうせりっちゃんのことだから今日のケーキ美味しかったな〜とか考えてるんでしょ」

律「それは唯だろっ!」

唯「えへへ」

梓「もう先輩たちは……はじめますよ」

律「へーい。みんな準備できたよな?じゃあ……1、2!」


演奏中といってもやることはひとつ。
リズムに合わせてちょこちょこ揺れる澪の髪たまらないです。
ドラムが後ろでよかったって心から思うよ。
こうしてずっと見つめててもばれないし!

演奏に集中しなきゃってのは分かる、分かるけど……
しょうがないよね!
そこに髪があるから!キリッ


帰り道

律「ふ〜!今日も頑張ったなー」

髪を眺めることをね!

澪「ほとんどティータイムだっただろ……」

律「いやでも濃い密度の練習できたっしょ!」

澪「確かに最近律、リズムキープちゃんとできてるよね」

律「まじ!?やった」

澪の髪をじっと見つめることで正確なリズムを刻めるようになっていたとは。
恐るべき澪の髪。


律「ねぇ、今日澪の家行っていいー?」

澪「まぁいいけど、なんで?」

律「澪の持ってた漫画読みたい!で、読んだあと澪と語り合う!」

澪「あ、いいね」

律「やったー!じゃあ今日澪んち泊まりで!」

澪「泊まりかよ。ちゃんと親に連絡しておけよ〜」

律「分かってるって」


澪の家ついてから早速漫画を貸してもらって、私は床に横になりながら漫画読んでた。
その間澪は宿題やってたみたい。さすが澪。
あとで写させてもらおう。

家ではいつも澪、髪をゆるく結んでるんだよね。
私が一番好きなのはもちろん髪下ろした状態なんだけど、たまに違う髪型を見るとまたドキドキしてしまう。
髪結ぶとうなじ見れるし。ぺろぺろ。


律「読み終わったー!」

澪「お、早いな。どうだった?」

律「すっげぇ熱い!!」

澪「だよな!私4巻の……」

澪母「みおー、りっちゃん、ごはんできたわよー」

律「あ、ごはんだって」

澪「じゃあ食べてお風呂入って寝る準備してからたっぷり語ろう!」

律「おう!……ん?」

澪「どうした律?」

律「お風呂!!」

澪「お風呂がなんだよ」

律「一緒に入ろう!」

澪「何言ってるんだバカ」

律「えー!髪洗ってあげるのに〜」

澪「やだよ」

律「ちぇー」

澪「律変なことしてきそうだし」

律「しないって!じゃあせめてお風呂上がりドライヤーかけさせて!」

澪「え?やってくれるの?なんか怪しい……」

律「違うよ!ただ私は澪の髪を堪能したいだけで!」

きゃっ。言っちゃった。

澪「はいはい」

流された。

でもこれで澪の髪をドライヤーで乾かしてあげるという夢が叶う…!
この気持ち、胸の高まり、世界中に伝えたい……!


澪のママありがとう。ごはん美味しかった。
けど食事中も、そのあと先にお風呂入ってる間も、澪がお風呂入ってる今も考えるのは澪の髪のことばかり。

ふざけて澪の髪をさわることはよくあるけど、いつも自重して少ししかさわれないからな。
好きなだけ梓に抱きついてる唯が羨ましいぜ。
あれ梓も喜んでそうだけど。


澪「おまたせ〜」

律「澪!こっちこっち座って!」

澪「気合い入ってるなぁ。じゃあよろしく」

律「まかせて!」

こんなことがいつ起こってもいいようにと持ち歩いていた洗い流さないタイプのトリートメント、オイル等を取り出す。


澪「なにそれ?」

律「髪のダメージとか抑えるやつ」

澪「さっきから思ってたんだけど、律って髪にこだわりあるんだな。私はそんなの使ったことないよ」

律「澪せっかくいい髪なんだからもっと頑張って!!シャンプーもメ◯ットなんて……私のおすすめの美容院で使ってるようなやつあるから今度教える!!このトリートメントもあげるから澪毎日使って!ドライヤーかける前とか朝髪セットするときとかやってね!!」

澪「お、おう、ありがと……」

律「じゃあドライヤーかけるね。熱かったら言って」

澪「うん。なんか律にこうしてもらうなんて不思議」

律「毎日でもやってあげるよ」

澪「一緒に暮らす気かよ」

律「それもいいかもね」

澪「もう……」


だんだん乾いてきた。
この指の間から零れ落ちるようなさらさらな髪。
ドライヤーの風に髪がなびいていく。
なんて自由に軽やかに宙を舞うんだ。
幸せすぎて、今なら死んでもいいよ私……!


澪「律、律……!」

律「え、なに??」

澪「律ずっと話しかけても気付かないんだもん。そんなよかったか?私の髪」

座ってる澪が私を見上げてちょっと意地悪そうに微笑む。
ったく、私の澪は……


律「ああ、最高だった」

澪「きもい」


……痺れるぜ。


このドライヤーイベントがおわったあとは普通に漫画について語って、気付いたらお互い寝てた。
次の日が土曜で学校休みだったから朝はゆったり起きて、お昼頃に一緒に駅まで出て遊んで夕方ごろに解散ってかんじ。
もちろん朝私が澪の髪とかしてあげたぜ!
愛してる澪の髪!!


月曜日。

週末澪の髪いっぱいさわったせいで、今日は一日中澪の髪が気になってしょうがなかった。
授業のときは私の方が席前だから澪の髪眺めてられなくて辛い……!
休み時間のたびに澪のとこ行って髪さらーん分を補給してたけどね。
そんなことしてるうちに放課後。


みんな帰り仕度をしている。
うちのクラス、澪以外にも髪長い人それなりにいるよな。
黒髪ロングストレートじゃないけど、いちごの髪もけっこう私好みだったりする。
本当にお嬢様みたいな髪してるんだもん。


律「いちご!」

いちご「なに?」

律「いちごって髪パーマかけてるの?」

いちご「ううん、癖っ毛なだけ」

律「まじか。よくそんな綺麗にくるくるなるな」

軽く触ってみる。
あ、すっげぇやわらかい。

いちご「前は自分のこの癖っ毛嫌で、毎朝コテ使ってストレートにしてたんだけど面倒になっちゃって」

律「そんな髪痛んじゃうようなことを……!」

いちご「うん。だからもうやめた」

律「私はいちごの髪すごくいいと思うよ!!」

いちご「律きもい」

律「うっ……」


澪に続いていちごにまできもいって言われちゃったぜ。
でもいちごの頬がほんのり赤い気がする。
そうか、照れてるんだよね。可愛いなぁーはは……


いちご「律は彼女の髪だけさわってればいいじゃん」

律「え?彼女って??」

いちご「付き合ってるんだよね?秋山さんと」


んん??
付き合ってる?秋山さんって……澪??
一瞬まじで頭が真っ白になったんだけど。


律「いやいや!ないって!澪とはただの幼馴染だし」

いちご「そうなの?律いつも秋山さんのこと見てるし、もう付き合ってると思ってた」

律「ありえねーし!!」

いちご「好きなんでしょ?」

律「そりゃ友達なんだから好きだけど……」

いちご「そうじゃなくて恋愛感情で」


またいちご訳の分からない単語を。
恋愛って言ったらそれは……あれ、私澪のこと…?
普通友達じゃこんな髪見つめてどきどきしないのかな??
でもあんな綺麗な黒髪ロングストレートだからしょうがないというか……


いちご「もしかして律……はぁ、これだから」

律「なんで私ため息つかれてるの??」

いちご「律を好きになった人は大変だよね」

律「もっと分かりやすく頼む!」

いちご「ひとついいこと教えてあげる。澪もいつも律のこと見てるよ」

律「それって……」

いちご「あとは自分で考えてね。じゃあ」


謎のプリンセスいちごはそう言って本当に帰っちゃった。
でもなんとなく分かったぞ。


澪は……

澪の席の方を見ると座って学級日誌を書いていた。
そういや今日日直だったような。
髪が視界に入って邪魔だったのか、耳にスッとかける。
うひょーたまらん…!
横から眺める澪の髪も素晴らしいぜ!

……じゃなくて!


律「澪!」

澪「あ、待たせてごめん。もう書き終わったから部活一緒に行こう」

律「うん」


澪と並んで歩いて部室に向かう。
それだけのことなのに意識しちゃうとなんか、どきどきする。
そしてモヤモヤする。
自分の気持ちにケリつけなきゃだよな。
……よしっ!


ジャジャーン♪

唯「ふぅ、今日も決まったぜ」

梓「なんの真似ですかそれ……」

唯「練習頑張ったらお腹すいちゃったよ。あずにゃん、今日帰り道にあるたいやき屋さん行かない??」

律「悪い唯、今日これから梓のことちょっと借りるわ」

梓「へ?」

律「2人で話がしたいから少し部室に残ってもらえるか…?」

梓「まぁいいですけど……」

唯「うわ〜ん、あずにゃんが浮気だ〜!」

紬「まぁまぁまぁ」

梓「誰が律先輩と!」

律「おい」

唯「りっちゃ〜ん」

律「告白じゃないから安心しろ」

唯「むむ……」

澪「それなら私たちはもう帰るな。律、鍵忘れるなよ」

律「はーい、分かってるって。んじゃな!」

澪「おう」

紬「ばいばい」

唯「あずにゃ〜ん、また会う日まで〜〜」

梓「なんですかそれ。さようなら」


ガチャ、バタン


梓「それで、話ってなんですか?」

律「ああ、うん……あの…え、っとさ……」

梓「え……………まさか本当に告白??」

律「ち、違うっての!!ちょっと梓にお願いがあって!」

梓「お願い……?無理じゃないことならいいですけど」

律「本当!?じゃあさ、髪のゴムとってくれない??」

梓「へっ??そのくらいなら……」


片方ずつ髪のゴムをスーッととっていく梓。
このゴムをとるときの髪が広がるかんじもたまらないな……!


梓「とりましたけど」

律「うん!じゃあ後ろ向いてくれる?」

梓「はい……変なことしませんよね?」

律「しないって!………ほぅ」


やばい、黒髪ロングストレート!!
澪とは違うけどこれはまた素晴らしい。


梓「あのぉ、律先輩?結局何がしたいんですか…?」

律「あ、ごめんごめん。私さ、実は……髪フェチなんだ」

梓「髪フェチ?」

律「なんていうか、梓みたいな黒髪ロングストレート大好きでさ…!」

梓「はぁ」

律「そんでやっぱ告白みたいなかんじになっちゃうんだけど……」

梓「げっ」

律「いや梓にじゃないから!………私澪のこと好きなのかもって」

梓「え……」

律「引いた?女同士で好きとか」

梓「いえ!そうなんじゃないかなって薄々思ってましたし」

律「はは、私って分かりやすいのかな」

梓「さすがに髪フェチってとこまでは気付きませんでしたけど、あれだけいつも澪先輩のこと見つめてたら……」

律「それもばれてたか〜」

梓「それで、ただ黒髪ロングが好きなのか澪先輩自身が好きなのか悩んでたってところですか?」

律「理解早くて助かる。そうなんだよ」

梓「私の髪見て分かりました?」

律「ちょっと試しに梓の髪さわらせてもらっていい?」

梓「あぁ、はいどうぞ」

律「……ふわぁ、さらっさらだ〜!!あ〜最高」

梓「あの律先輩?」

律「すまん……つい!」

梓「律先輩が髪フェチだというのはよく分かったので。肝心の恋愛感情の方はどうでしたか?」

律「う〜ん、もちろん澪に対してと梓に対して同じ感情を抱いてるわけじゃないんだけど、髪に関しては同じように好きだし、これが恋愛感情なのかどうか……」

梓「そうですか……」

律「なんなんだろうなぁ、ほんと」

梓「これは私の考えなんですけど……もしかして律先輩、恋って認めるのが怖くて逃げてるんじゃないでしょうか…?」

律「あー……言われてみればそうかも、しれない……」

梓「なんとなく、これが恋じゃないって理由を頑張って探してるようにも見えたので……」

律「うん……」

梓「でも律先輩次第だと思います。律先輩がどう思うか」


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最終更新:2014年02月04日 14:20