がたんごとんとリズミカルな音を立てながら、私たちの乗る電車は暗いトンネルの中を進んでいく。それにしても随分と長いトンネルだ。暗い場所は私を不安にさせる。昔の私なら一人で怖がって耳でも塞いでいたかもしれない。
単調な景色が続くので、ぼんやりとそんなことを考えていた。ガラスに反射して見える向こうの私の顔は少し疲れているようにも見えた。この長い移動の疲れもあるかもしれない。
同じボックスシートにいる他の四人は今も楽しそうに話続けている。
助手の唯とムギ。これまでの事件を通して仲良くなった
律と梓。私たちはこの五人でバンドを組んでいる。
……といっても、あくまで趣味程度だけど。
やっぱり仕事が第一のつもりだ。
唯「ねえ、まだ着かないの〜?」
律「今どこだったっけ?」
紬「あと八駅進めば到着ね」
唯「八駅……お腹空いたよ〜……」
紬「あともう少しだからがんばって、唯ちゃん!」
梓「しっかりしてくださいよ、もう……」
出発の時からずっとこの調子だ。普段と変わらない。そんないつもの光景に私は安心した。
不意に眩しい光が車内に差し込んだ。長かったトンネルを抜けたようだ。私は思わず腕で顔を覆って、目を細めた。外の光景に唯と律が息を呑むのが聞こえた。
律「ほら見ろよ、海だぞ!」
唯「わぁ〜! ひろーい!」
窓の外には広大な海が広がっていた。遥か地平線の彼方まで眺めてみても、何も存在しない。紛れもない海だ。海を見慣れていない私たちにとってはこの景色を見ただけで、自分たちは旅行しているのだと実感できる。
澪「はしゃぎすぎじゃないか……?」
唯「だって海なんてめったに見ることできないんだよ?」
律「そうそう、写真撮っとこうっと!」
梓「二人とも小学生みたいですよ」
紬「まあまあ」
今だに小学生でも通りそうな顔立ちの梓が言った。そうは言っても、梓の表情もどこかしうれしそうだ。ムギの目も子どもっぽく純粋に輝いている。きっと私も同じような顔をしているんだろうな。はしゃぐ二人と外の景色を見ていると、私もどこかうきうきとしてきた。
私たちは今、温泉旅行に出かけている。
◇
一ヶ月前
澪「温泉旅行券?」
空き時間を利用して『秋山探偵事務所』のホームページ作成を検討していると、警察の制服姿の律が事務所を訪れてきた。またパトロール中にサボって来たんだろう。相変わらずふまじめだ。
目の前に差し出された券を見て私は首を傾げてみせた。
律「ああ、この前の『桜が丘演芸大会』で私たち優勝しただろ? その優勝賞品だってさ。ほら、五人分。三食までついてるんだってさ!」
唯「温泉っ!?」
紬「いこういこう〜♪」
澪「温泉旅行って……」
私はデスクに向かってホームページ構成を考えるのに集中していたかった。
しかし、今は律が誘惑を解き放った。既に唯とムギは旅行に関心が向いている。この状況は「一応」勤務中の探偵事務所としては好ましくはない。その思いが顔に出たのか、律が顔を覗き込んできた。
律「あんまり嬉しそうじゃないな。どうかしたのか?」
澪「いや……」
ホームページ作成は急いでいるわけではない。
いや、宣伝のためには急がないといけない。けど、何がなんでもというわけではなかった。
……それに残念なことに今の私たちには仕事がない。時間は充分にあった。
唯「『山と海の温泉巡り』! すごいね〜!」
紬「どんな所なのかな?」
律「あ、それならパソコンで調べてみようぜ」
当然、ノートパソコンを操作している私に視線が集まる。
澪「うっ……」
私は少し呻き声を漏らした。
まさか旅行の話がこうも話が弾み、パソコンまで使えなくなるとは思ってもいなかった。ケータイを勧めても、「パソコンより見づらいし、遅いし、めんどくさい」と返ってくるのが目に見えている。ため息をついてから顔を上げた。
澪「わかったよ……」
ノートパソコンをたたんでから律に手渡そうとした時、ある事を思い出したので手を止めた。
律「ん?」
澪「あっ、ちょっと待って」
インターネットエクスプローラーを開き、あるサイトを「お気に入り」に保存した。私はここを参考に構成を考えていた。
それは、とある「探偵事務所」のサイトだった。それぞれのページが丁寧にまとまっていて無駄が無く、几帳面さがうかがえた。その探偵のプロフィール覧を見ると、私たちと歳が近いらしい。仕事も順調らしく、ブログには日記も付けられていた。今の自分と見比べてみると、少し悲しくなる。
澪「ごめんごめん。そっちのテーブルでみんなで見よう」
唯「澪ちゃんもノリノリだね」
唯がいたずらっぽい笑みを浮かべながら言った。
まあ、たまにはこういう気晴らしもいいだろう。私は自分にそう言い聞かせた。
その後、梓にも連絡を取り、正式に旅行に行くことが決定した。三泊四日のよくある温泉旅行だ。この旅行を機に仕事が増えることを祈ろう。
そんな淡い期待を私は抱いていた。
◆
長い移動を終えて、旅館に到着した。既に日は傾いて、時刻は夕方になっていた。
駅からは旅館運営のマイクロバスでの移動だった。その最中もはしゃぎ続けた唯は少々乗り物酔いになったようだった。しかし、晩ご飯の話題になるとかなり顔色が戻っていたので心配することもなさそうだ。
すぐに手続きを済まして部屋を目指した。部屋は角部屋の『七号室』だった。長い廊下が続く。
唯「ご飯まだかなぁ……」
唯は力なくお腹の辺りをさすっている。よっぽどお腹を空かしていたんだろう。
律「もうすぐで来るって」
梓「あっ、この旅館は大広間で夕食だそうですよ」
律「そうなのか?」
梓「はい。すぐ横に厨房があるから、だそうです」
律「へえ。ま、こうも広いと大変だよな」
紬「みんな、先に温泉か晩ご飯どっちにする?」
唯「ご飯!」
梓「私も少しお腹が空きました」
律「じゃあ、先に晩ご飯にするか。いいよな、澪?」
澪「うん」
唯ほどではないが、私もお腹が空いていた。温泉は晩ご飯の後に少し休んでからでも問題はないはずだ。
私たちは荷物を部屋に置いてから大広間に向かった。
広間には真新しい畳が敷き詰められていた。交換して日が浅いのか、なんとも独特で和風のいい匂いだ。脚の短い長机と座布団が並んでいる。
私たちが座ると、すぐに女中さんがやって来た。私たちと同じくらいの歳なのだろうか。随分と若く見える。
「お伺いします。何号室に宿泊中ですか?」
澪「七号室です」
「七合室……っと。おしぼりになります」
おしぼりが差し出された。適当に拭いていると、次にお茶を持ってきた。
「もうしばらくお待ち下さいませ」
そう言ってから頭を下げて広間から出て行った。
律「若いな」
紬「私たちと同じくらいなのかな?」
梓「女中さんって五十代くらいの人がやってるイメージだったんですけどね……」
澪「しっかりしてそうだな」
私は……しっかりできていそうにはない。
未だに仕事はあまり入ってこない。このまま何も行動を起こさなければそんな生活が続くだろう。この旅行中に何か案を練るべきかもしれない。
年の近いであろう女中を見て、そんな気持ちに駆られた。
唯「ご飯楽しみだね〜♪」
律「いやいや唯。この旅行は温泉旅行だぞ」
唯「あ、そっか」
そう、この旅行の目玉はやはり温泉だ。温泉は六つあり、そのそれぞれに特徴がある。 ……と公式サイトに説明があった。
一の湯こと、「入の湯」
正統派かつ王道な温泉と言ってもいいのかもしれない。普段私たちがイメージするような普通の温泉だ。掲載していた写真では岩の間から湯が流れ出ていた。
二の湯こと、「静の湯」
暗い洞穴の中にある温泉で、写真で見ると照明は他の温泉と比べると少なく思える。音のない空間でゆっくりと浸れるかもしれない。
三の湯こと、「涅の湯」
またしても特徴は色で、黒色の湯だ。見た目の通り、かなり珍しい温泉だそうだ。見た目とは裏腹にアルカリ性で肌の汚れや角栓を落とす効果がある、とのことだ。
四の湯こと、「明の湯」
この温泉の特徴は湯の色にある。何と言っても血のように赤い。“血の湯”の異名を別に持つらしい。詳しくは載っていなかったけど、昔からの伝わる話もあるらしい。……正直、この温泉は怖い。
五の湯こと、「浄の湯」
“涅の湯”とは真逆の白色の温泉だ。こちらは硫黄成分が含まれていて酸性らしい。肌をすべすべにしてくれる、らしい。酸性、アルカリ性で何がどう違うのかまでは載っていなかった。見た目通り美白効果はありそうにも見える。
六の湯こと、「天の湯」
広い海を見渡すことのできる露天風呂だ。晴れていれば、夜には星空が見える、と書いている。星が見えなくても、波の音を聞いていればゆったりくつろげそうだ。この湯なら良い詩が浮かぶかもしれない。
旅行出発前に私たちは一の湯から入ろうと話し合っていた。順番も割り振られているのだから反対する理由も無かった。
そんな風にしゃべっていると、数人の女中さんが私たちの方へとやって来た。おぼんの上には豪華そうな夕食が並んでいる。唯の顔をちらりと窺うと、これ以上ない幸せそうな顔をしていた。
私はコップにジュースを注いで回していった。注ぎ終えると右手でコップを握り、四人の顔を見つめた。四人も私の顔を見つめていた。
澪「えー……今回は幸運にも演芸大会で優勝できたので、私を含めこの五人での温泉旅行が実現しました」
少し緊張しているせいか喉に違和感を覚える。咳払いしていると、律が野次を飛ばしてきた。
律「幸運じゃないぞー!」
唯「実力だよ!」
澪「……それじゃあ、もっとうまくなるために練習しようか」
唯「ええ〜!」
律「それとこれは別だろー!」
梓「けど、二人はせっかくの練習時間でも遊びすぎですよ」
唯「だってムギちゃんの持ってくるお菓子がおいしいんだも〜ん。ムギちゃん、いつもありがとね!」
紬「ううん、よろこんでもらえるなら私もうれしい!」
澪「……まぁ、何より今回の旅行は『音楽を始めたこと』がきっかけで実現したんだ。私たちに始めるきっかけを作ってくれてありがとう、梓」
梓「いえ、そんな……」
私が礼を述べると、梓は肩を寄せながら俯いた。どうやら照れているようだった。そのどさくさに紛れて唯は梓に抱きついた。
唯「おかげでギー太にも出会えたしね〜♪」
澪「そして、律」
律「私か?」
澪「私たちのバンドに入ってくれてありがとう。律がいなかったらここまで来れなかったよ。ありがとう」
一瞬、呆然としていた律の顔が見る見る内に赤くなっていった。
律「……なんだよ、急に。照れ臭いなー……」
唯「りっちゃん顔赤くなってるよ?」
紬「あっ、本当だ!」
律「なななっ……!」
梓「おでこまで真っ赤ですよ」
律「中野〜! この野郎、言うようになりやがって!」
律は顔を赤くしたまま梓にチョークスリーパーをかけた。梓は律の腕をポンポンと叩きながらも、うれしそうな顔のままだった。
梓「プッ! 苦しいですよ〜!」
じゃれ合う二人を見て微笑ましくなった。まるで、学生みたいだ。
澪「……そして、唯とムギ」
唯紬「えっ?」
急に名前を呼ばれた二人は固まった。私はずっと思っていたことを二人に告げようと決めた。
今、この場で伝えよう。
澪「こんな私について来てくれて、ありがとう。探偵事務所が私一人だけだったら、きっとどこかで諦めていたと思うんだ。二人には本当に感謝してる」
心からの感謝の気持ちを伝えた。
律と梓もいつの間にか微笑みながらこちらを見つめている。唯とムギは顔を見合わせてから笑顔になった。
唯「……ううん、感謝するのは私たちもだよ。解決するためにいつも全力で一生懸命がんばる澪ちゃんがいるから、私たちも一緒にがんばれたんだよ」
紬「だからこれからも一緒にがんばろうね!」
澪「……!!」
予想もしていなかった唯とムギの言葉に私は動揺した。
二人の笑顔は私に衝撃を生み、その衝撃は波のように広がって私の心を大きく揺さぶった。ふと、目頭が熱くなる。しかし、私はそれを鼻をすすってごまかした。
澪「……じゃあ少し遅れたけど、『桜が丘演芸大会』における私たちの優勝を祝って」
私はコップを持つ右手を掲げた。同時にコップを手に取った。
大きく息を吸ってから、
澪「かんぱーい!」
唯紬律梓「かんぱーい!!!!」
五つのコップがぶつかり合い、音が鳴った。私たちの顔から笑顔がはじける。
みんながいるから、がんばれる。
部屋
夕食を終えて、私たちは部屋でごろごろとくつろいでいた。五人とも同じ部屋にしてもらった。部屋は充分に広いので、窮屈ではない。
横になると、長い間電車に乗っていたせいか、体が一定のリズムで揺れているような気がする。さらにお腹がいっぱいで、なんだか眠気もする。
律「そろそろ温泉に行くか?」
梓「そうですね。少し休めましたし」
そうだ。私たちは「温泉」旅行に来たんだ。ここで寝てしまってはせっかくの旅行の意味がない。
澪「そうだな。そろそろ行こうか」
唯「いこういこう〜!」
紬「まず最初は“入の湯”ね!」
ムギが両手を胸元に寄せながら意気込んだ。期待度の高さが窺える。そんな様子を見ていると、私まで期待が高まる。
タオルと浴衣を持って、温泉へと向かった。
『入の湯』
律「唯、温泉だぞっ!」
唯「温泉だね! りっちゃん!」
梓「広いですね……」
温泉からは湯気がよく立ちのぼっていた。この「入の湯」がよくある温泉とそう変わりはないとわかっていても、旅行気分は存分に味わえる。こうなると残りの温泉が楽しみになってきた。
紬「あったか〜い!」
ムギがしゃがんで、手でお湯をすくった。私もムギにならってお湯をすくってみた。すると、指先からじんわりと温かさが伝わってくる。
私はタオルを置いて、ゆっくりと湯に浸かった。痺れるような熱さだ。家のお風呂とは全然違う。肩まで浸かると、目を閉じた。
澪「はぁ……」
唯「いいお湯だねぇ……」
長い息をはいた。全身の疲れが浄化されるような心地よい気持ちだ。この瞬間だけは、永遠のように思える。
横を見ると、唯たちも同じように肩まで浸かりながら至福の表情を浮かべていた。この顔を見ていると、お茶をしている時のような落ち着いた気持ちになる。
日頃の仕事の悩みが薄らいでいくようだ。
この旅行は私の心を安らかにしてくれるに違いない。のんびりとそんなことを思った。
部屋
紬「気持ちよかったね〜」
梓「はい。家のお風呂とはやっぱり違いますね」
律「はーさっぱりした」
澪「ふう……」
広々とした温泉だったので、心まで清々しい気分になった。一番目として「入の湯」はやっぱり正解だった。こうなると、残りの温泉がどんな様子なのかが気になる。柄にもなく、少しわくわくとした気持ちになってきた。
紬「今から何かする?」
律「うーん……」
唯「あっ、トランプとか!」
律「この年でトランプが出てくるとは思わなかった……」
唯「え〜? せっかく持ってきたのに……」
梓「テレビもおもしろそうなのはなさそうですね……」
澪「じゃあ今日はもう寝よう」
唯「もう寝るの?」
澪「今日はもう移動で疲れたよ……」
律「年だなあ……」
澪「うっ……」
唯「でも、まだ眠たくないよ〜……」
梓「そんなこと言っても……」
その時、視界の端でムギがこちらに背中を向けて白い何かを抱えているのが見えた。
あれはもしかして……。
そして、ムギは立ち上がって私たちの方へと向き直った。
唯「みんなも眠た……いっ!?」
ボフッ!
白い物体が唯の顔に直撃した。その正体はムギが投げた枕だった!
ムギは満面の笑みを浮かべていた。
律「おっ!」
梓「ムギさん!?」
まさか……枕投げが始まろうとしている……?
唯も唯で自分の顔に当たった枕を手にしながら、怪しい笑みを浮かべている。
唯「ふふふ……なかなか良い球を投げる、ねっ!」
澪「わっ!」
唯の投げた豪速枕は私の顔に直撃した。その合図を皮切りに律が大声を出した。
律「よーし! 今夜は枕投げ大会だっ!」
唯紬「おーっ!」
梓「ええっ!?」
私も梓に同意する。 ……普段なら。
今回は温泉旅行だ。多少羽目を外すのもいいかもしれない。
澪「くらえっ!」
律「おぅっ!?」
投げた枕が律の側頭部に直撃した。律がくぐもったうめき声を上げて倒れた。
私の思い切った行動に、梓まで驚いている。
梓「澪さんまで!?」
唯「梓ちゃん、ここはもう戦場だよっ!」
紬「油断すれば後ろからやられてしまうわっ!」
梓「なんですかその緊迫感のある設定!」
律「受けてみよ! この……枕を!」
梓「ひゃっ!」
身軽にも、梓は律の投げた枕を寸前のところでしゃがんで避けた。枕は壁に直撃し、大きな音を立ててから落ちた。
律「なにぃ!?」
梓「強く投げすぎです……よっ!」
紬「やった!」
ムギは情けを知らないのか、律に抗議している梓の顔に枕を投げた。無防備だった梓はまともに衝撃を受け、腕を突き出しながら上半身を反らした。
唯「梓ちゃんの仇!」
紬「きゃっ!」
律「こしゃくな〜!」
なんだろう……この高揚感は……。
まるで小さい頃に戻って遊んでいる時のような気分だ。みんなではしゃいで、笑って。こうなれば職業も年齢も関係ない。
この旅行中は思う存分満喫しよう!
そう思い立ち、枕を手に取ったその時、
コンコン
ドアからノックの音が聞こえた。
瞬く間に私たちの間に静寂が忍び寄った。
唯「な、何……?」
律「まさか先生かっ!?」
紬「そんな!」
梓「そんなわけないでしょう。多分、私たちが物音を立てて騒ぎ過ぎたんですよ」
律「あー……」
コンコン
再びノックが鳴った。そのままドアを見つめていると、視線を感じた。
四人が私を見つめていた。
澪「な、なんだよ……」
律「すまん澪! 私たちを代表して謝ってくれ!」
澪「ええっ!? どうして私だけなんだよ……」
律「“ティータイム”のリーダーだろ? 頼むよ〜……」
……まあ、いい年した社会人が周りの迷惑も考えずに羽目を外したのは確かに問題だ。私も調子に乗ってしまった事は言い逃れできない。仕方ないといえば仕方ない。
澪「……わかった。その代わり、ムギも一緒に来てくれないか?」
紬「え、わたし?」
澪「うん」
ムギを選んだのにはちゃんと理由があった。
ムギのぽわぽわした雰囲気があれば、相手が怒っていてもなんとかなるような気がする。その効果は謝る側の私にもある。ムギが隣にいれば、私もあまり緊張せずに謝ることができそうだ。
紬「わかった!」
澪「ありがとう」
いざ、二人でドアの前へ。
ノックの音の感じでは怒ってはいない……と思う。そう思いたい。
ドアノブに触れる直前、唾を飲み込んだ。我ながら情けない状況だ。せめて誠意を持って謝ろう。
意を決してドアノブを捻った。
最終更新:2014年03月13日 07:58