曽我部さんを加えての朝食になった。これで昨日の幽霊騒動の人が全員揃った。
隣から漂ってくる赤だし味噌汁の匂いが心地良い。今日は目玉焼きまであった。
すると、女中さんが向こうからやってきた。

「何号室にお泊りですか?」

律「六号室と七号室です」

「ありがとうございます。朝食の用意まで少々お待ちください」

女中さんが大広間から出て行くと、曽我部さんは少しだけ声を潜めて私たちを見渡した。

恵「昨日のことなんだけど……」

紬「何かわかったことが……?」

ムギがそう訊ねると、曽我部さんは重々しく頷いた。みんなの顔に不安そうな影が走った。私も同じような顔をしているはずだ。怖い話は苦手だけど、私も昨日の騒動に関わった以上聞かないといけない。

恵「昨日、私たちがいたのは『明の湯』。インターネットで調べると、昨日私が言った怪談話がある温泉というのがどうもあの温泉らしいの……」

唯律「ええっ!?」

菖「そ、それで……怪談話というのは……?」

曽我部さんは一度咳払いをして、語り始めた。


昔、ある男女が村に暮らしていた。二人は仲睦まじく、互いに愛し合っていた。
ところが時が過ぎると、男は酒に溺れるようになった。仕事を放棄し、賭博や女に手を出して荒れ狂ってしまった。女は家を支えるためにとても貧しい生活を強いられ、その心労でかつての美貌は失われてしまった。僅かな銭を稼げども、すぐに男に奪われて酒に消えてしまった。
ある日、女が仕事で重荷を運んでいると、別の女を連れた男とすれ違った。女が頭巾を被って前屈みになっていたためか、男は女に気づかなかった。汚らわしい笑みを浮かべながら遊びふらつく男を見た時、女の中で何かが切れてしまった。
全てを呪い、怨念に取り憑かれた女は村から姿を消してしまった。男はかつて愛していた女が失踪したと聞くと、笑い飛ばして再び遊びにでかけた。
数日後、女が死体で見つかった。
血の湯に身浸かり、左手首を切り落としていた。酔っ払ったまま連れて来られた男は血で明るく染まった湯と女の死体を見ると、顔を真っ青にして正気を失ってしまい、そのまま狂人になってしまった。
そうした怪談話がその温泉にあるとされる……。


恵「……といった話だそうよ。あくまで語り継がれてきた話であって、本当にあった出来事なのかどうかは誰も知らないみたい」

曽我部さんは短く息をはいてからお茶を飲んだ。
本当かどうか誰も知らない? じ、じゃあ昨日私と曽我部さんが見たのは一体……。
とにかく本当に怖い話だ。晶まで少し怖がっているようにも見える。朝から気が滅入る話を聞いてしまった。気を紛らわせる意味でも、早く朝ご飯来ないかな……。

澪「……ん?」

『ティータイム』のメンバー……つまり、唯とムギと律と梓がじっと私の顔を見つめていた。何かあったのかな……。
今はそれよりもお腹が空いて仕方がない。


朝食が終わり、それぞれ部屋に戻って準備を始めた。
あと五分で『恩那組』のみんなと楽器店に行く時間だ。

澪「えーっと、財布以外に何か持って行った方がいいかな……」

紬「ねえ、澪ちゃん」

澪「なに、ムギ?」

振り返ると、唯とムギに両手を握り締められた。二人の目がきらきらと輝いている。

唯「すごいよ澪ちゃん!」

紬「完璧だったわ!」

澪「えっ、えっ?」

わけがわからない。二人が何にここまで興奮しているのかがわからない。
律と梓も笑いながら私たちを見ている。

律「澪の推論……いや、『推理』は曽我部さんの話と同じだったな!」

梓「あそこまで一致するとは思ってませんでした!」

なるほど、わかった。みんなが興奮しているのはそういうことだったのか。
しかし、私は反論しなければならない。あらぬ誤解をされては困る。

澪「私の推論は『たまたま』曽我部さんの話と同じようなものだったんだ。何も私が一から十まで解いていったわけじゃない」

律「そうか? 動機まで当てるなんて大したもんだぞ」

澪「いや、それはみんなの言った話を寄せ集めただけで……本当に偶然なんだ」

なぜか、このまま私が反論を続けてもあまり意味がないように思えてきた。何を言ってもいいように解釈されてしまう。水掛け論だ。
あの推論との一致は本当に偶然だった。うれしくないわけじゃないけど、今は困惑する気持ちの方が上だ。

澪「よし、行こう」

このままだとキリがないと思い、立ち上がって話の流れを止めた。
部屋を出ると、ちょうど晶たちも部屋から出てきたところだった。菖がにこりと笑った。

菖「揃ったね〜。じゃ、めざせ楽器店!」


楽器店は歩いて少し下ったところにあった。こんなところにもあるものなのかと妙に感心した。
中に入ると、いつものように感嘆の声が漏れてしまった。

澪唯「わあ……」

ずらりと楽器がならんでいる! この光景はいつどこで見ても新鮮な心地だ。
音楽を始めた身としてはわくわくする気分にもなれる。

唯「わああ……っ! ギターがいっぱいだよー!」

晶「そういえばお前はギターだったっけか」

唯「うん! 梓ちゃんもだよ!」

晶「一度、『ティータイム』の演奏もどんなものなのか聞いてみたいな」

澪「い、いや……プロを目指すバンドからすれば聞き苦しいと思うけど……」

菖「まあまあ! まだプロになったわけじゃないから!」

紬「じゃあ今度、演奏したものを送ろうよ!」

唯「おおっ!? 本格的だね」

幸「みんながどんな演奏なのか楽しみだね」

菖「うんうん」

横を見ると、ギターの弦もずらりと並んでいる。何がどう違うのかは私もあまりわからない。
晶が腕を組んで弦を眺めていた。

晶「もうちょっとでギターのメンテナンスしないとな……」

唯「え?」

晶「ん? ギターのメンテナンスだよ。してるだろ?」

唯「え……ギターのメンテナンス……?」

晶梓「え?」

唯「メンテナンスって何するの?」

晶「そりゃお前……弦を張り替えたりとかだな」

唯「え、弦って交換するものなの?」

晶「なにぃーっ!? お前、弦張り替えてないのかっ!?」

唯「う、うん……」

梓「そうだったんですかっ!?」

唯「だって知らなかったんだもん……」

晶「まったくお前ってやつは……。私と同じギターなんだったっけ? いいギターなんだから大切にしろよ!」

唯「してるもん! 服を着せてあげたり、添い寝してあげたり!」

晶「た、大切にするベクトルが違う……」

幸「晶の負けだね」

晶「はあ……」

怒りを通り越して、呆れ果てた晶は力が抜けてしまったようだった。
たしかに、唯はギー太を愛している。演奏技術は劣るかもしれないけど、愛情の深さなら誰よりもすごいのかもしれない。

ベースのコーナーに行くと、レフティモデルのベースが置いてあった。左利きの私にとっては感動的だ。

幸「もしかして左利きなの?」

澪「ああ、うん。右利きのものと比べてあまり置いてないから珍しいなって」

幸「一人だけ左利きだと、ステージで映えるだろうからかっこいいね」

澪「そ、そうかな……」

目立つのはいやだ……。文字を書いているだけでも「左利きなんだね」と言われてきたので、私にとってはつらい世の中だ。

澪「幸の方がかっこいいよ。背が高くて……」

話しながら幸の方を見ると、なぜかどんどん猫背になっていた。
もしかして……

澪「……背が高いの気にしてる?」

幸「ちょっとね。今のは冗談だよ」

そんなに気にすることかな。
いや、その人にはその人の事情がある。私が勝手にあれこれ言っても仕方がない。
でも、幸の演奏は偽りなくかっこよかった。

そんな調子で楽器を見ながらみんなで話していると、二時間近く時間が経っていた。
一旦、旅館に戻って昼食を済ませた後に五番目の温泉である『浄の湯』に入ることにした。

『浄の湯』

目に見えるのは真っ白なにごり湯だった。あの赤いお湯じゃない!
それだけでも安らぐ気持ちだ。
今日は三日目。温泉に浸かるのも今日が最後だ。時間が早く過ぎているような気がする。
ふと、ずっとこのままがいいと思ってしまった。

唯「ずっとこのまま温泉にいたいね〜……」

澪「帰ったらまた仕事だぞ。私たちももっと宣伝していかないといけないからな」

唯「まあまあ。温泉に浸かっている間くらいは仕事のことは忘れようよ」

澪「…………」

まあ……たしかにそうだ。
私は肩まで浸かってから少し上を向いた。

律「あ、そういえば澪の名推理の話はしてたっけ?」

菖「えっ、なになに!?」

律「澪の出した推論が、曽我部さんの話してくれた怪談話とほとんど一致してたんだ!」

澪「!!」

菖「それってすごくない!?」

律「だろ?」

おのれ律め……人が油断している時にまたその話をするとは……。
早くも温泉から逃げ出したくなったけど、三人の好奇心の視線からは逃れられない。

幸「どんな推論だったの?」

紬「まず、みんなでわかっていることを言って、それから一つずつ話し合ったの。時刻とか、場所とか……」

梓「そして、最後に澪さんが結論を出してくれたんです。結論はたしか、『命を投げ打ってまでして怨んでいる人に強くて恐ろしい印象を焼き付けたかったから』ですね」

唯「あの赤い温泉を見ただけでそこまで言い当てたんだよ!」

菖幸「おおっ」

また話が一人歩きしていきそうだ。ここらで食い止めないといけない。

澪「いやだから……あれは偶然当たってただけだよ」

晶「その推論が『偶然』のものだったとしてもさ、せっかく当たったんだからそれはそれで素直によろこんでもいいんじゃないか」

澪「…………」

まあ、当てることができたことくらいはよろこんでいいかもしれない。晶の言う通りだ。
それに、晶の一言で話が収まった。これでまた安心できる……。

菖「あっ、そうだ! みんなは明日で帰るんでしょ?」

唯「うん」

菖「じゃあさ、せっかくだから日が沈んだら肝試ししない? 昨日の幽霊つながりでさ!」

律「おもしろそうだな!」

紬「やろうやろう〜♪」

……まだ安心できそうにはないか。


私が念じたにも関わらず太陽は沈んでしまい、街灯のない道は真っ暗になってしまった。肝試しにはふさわしい暗さだ。
私たちは旅館から離れた場所にあるトンネルの前にたむろしていた。
今回の肝試しは二人組で行動する。この薄暗くて長いトンネルの向こうには海があるらしい。その海沿いの道に神社があって、そこにお賽銭をしてから別のルートで旅館に帰って終了……だそうだ。幸いにも、驚かせる人はいないので、ただ“夜の怖い道を歩くだけ”だ。

ペア決めはくじ引きで行われた。
ムギと幸、唯と菖、律と晶、私と梓……の組み合わせと順番になった。なぜか最後の組になってしまった。くじ引きの巡り合わせが悪いのは小学校の時からだと思う。
五分間隔で次のペアが出発する。不思議なもので、あっという間に自分たちの順番がやって来た。「怖がって腰抜かしたりするなよ?」と笑いながら出発した律の顔が記憶に新しい。

梓「じゃあ行きましょうか」

澪「う、うん……」

静かに私たち最後のペアがスタートした。
トンネルに入ると、すぐさま静寂が訪れた。外と比べてまったく音がない。私と梓の歩く音だけが聞こえる。

澪「…………」

梓「澪さんはこういうの苦手なんですか?」

澪「え、ああ……怖いのは苦手かな……」

梓「そうですか? 私が依頼したあの事件の方がよっぽど怖かったと思いますけど……」

澪「ああ……」

今となっては懐かしい事件だ。梓を付きまとうストーカーを直接捕まえようと奮闘したことがあった。
ただあれは……

澪「あれは仕事だったから……。ふだんの私は怖がりだよ」

梓「うーん……たしかに怖がりかもしれません。けど、いざという時の澪さんは本当に頼りになりますよ」

澪「そうかな……」

梓「そうですよ。あんな武器を持った男の人に立ち向かうなんて、ふつう怖くてできませんよ」

澪「…………」

探偵になってからは自分の意外な姿に驚かされることがあった。
梓の言ってくれたストーカー事件の時もそうだし、誘拐犯から人質を救うために現場に駆けつけたり、音楽を始めたりもした。探偵を始める前の私には想像できなかったことばかりに違いない。
そんな怖がりな私がここまでがんばってこれたのは……

澪「それもみんなのおかげ。私一人だけじゃないからがんばれるんだよ」

梓「……よかったです。澪さんの志が変わってなくて」

梓は笑顔でそう言ってくれた。

梓「ずっとそのままでいてください」

澪「努力するよ」

ついにトンネルを抜けた。
外に出て少し歩くと、波の音が聞こえてきた。海が近いらしい。少し風が強い。
しばらく進むと、前方左手に鳥居が見えた。あそこか……。急に足が重くなった。
鳥居まで来ると、今度は長い階段が見えた。風を受けて木がざわざわと騒いでいる。

梓「のぼりましょうか」

一つ年下の梓に手を引かれた。我ながら情けない。怖さのあまりついつい手に力が入ってしまう。
恐怖から意識をそらすために階数をかぞえていたけど途中でわからなくなってしまった。何も手がつかないくらい集中できない。

梓「着きましたね……」

澪「あ、あとはお賽銭か……」

あと少しで終わる……。
梓も緊張しているみたいだ。梓と二人でお賽銭箱に近づいたその時、

「わっ!!」

梓「きゃっ!」

澪「うわっ!」

突然の大声に心臓が止まってしまうかと思った。握っていた梓の手を離してしまい、そのまま尻もちをついた。恐る恐る顔を上げると、律が立っていた。晶までいる。

梓「ど、どうして律さんと晶さんがここに!?」

律「いやーせっかくの驚かせるチャンスだからな! もったいないから晶と待ち伏せしてたんだ!」

梓「ズルイですよもう……」

晶「私が旅館に戻ろうって言っても聞かなくてさ。『澪を驚かせるんだ!』って」

梓「まったく……」

最後にしてやられてしまった。律の性格はわかっていたはずなのに……。
晶の手を借りてやっと立ち上がった。
お賽銭を済ませ、鈴を鳴らしてから拝礼した。

晶「よし、早いとこ旅館に帰ろう」

梓「はい」

早く晩ご飯を食べて温泉に入りたい……。
それにしても、さっきから木がざわついている気がする。先程までとはまた違った不気味な気配だ。階段の方を見ると、人影が見えた。

澪「あ」

暗いので姿がはっきりとしない。ただ、シルエットを見ただけでわかる。あれは髪の長い女性だ。
今もこちらに迫っている。木のざわめきの音で足音が聞こえなかった。

律晶梓「あ」

三人もその存在を認識したようだった。既に私の体は恐怖に支配されて動けなくなってしまった。心臓がばくばくと動悸している。
間違いない! あの幽霊だ!

律「あ、あ……」

律は言葉が出てこないようだった。
そして幽霊は私たちの目の前で立ち止まった。膝が震えて仕方ない。幽霊がゆっくりと両腕を律に伸ばした……

「見ぃ〜つ〜け〜た〜……」

律「ぎゃあああああああああ!!??」

梓「きゃあああああ!!!!」

晶「うわああああああっ!!!!」

私はまたしても腰を抜かしてしまった。今朝みた夢と同じだ! 私たちは幽霊に呪い殺されてしまう!
もうだめだと思ったその時、

「やっと会えたわね、あなたたち」

律「…………え?」

「もう旅行中では会えないんじゃないかって思ったわ」

な、何がなんだかわからない……。幽霊じゃない……?

律「だ、誰だ……?」

「あら? 気づいてなかったの? わたしよ、わたし!」

幽霊……いや、その人は前髪を揃えた。その瞬間、私は勢いよく立ち上がって指差した。

澪「ああーっ!?」

さわ子「そうよ! 山中さわ子よ!」

幽霊の正体はなんと、事務所のあるビルの管理人、さわ子さんだった。
全身から力が抜けていくのがわかった。本当の幽霊じゃなくてよかった……。

梓「それよりも、どうしてさわ子さんがここに……?」

さわ子「あんたたちが演芸会で優勝して温泉旅行が当たったでしょ? 羨ましいから私も行きたいなーって思って!」

律「どうして私たちに一言くれないんだよ!」

さわ子「いきなり登場して驚かせようって思ってね〜!」

梓「まあそれは成功したみたいですけど……」

律「じゃあ、どうしてここの神社に?」

さわ子「ここの神社は成功の運気を高めるそうなの。宿で聞いたから時間は遅いけど行こうかなって思って!」

澪「はあ……」

晶「この人はお前たちの知り合いなんだな?」

梓「そうです……」

晶「ったく、お前たちといると本当にバタバタするな……」

晶が深いため息をつきながら言った。
それには私も心底同意する……。私たちはいつも全力疾走しているみたいだ。

律「まあまあ、楽しかったからいいだろ?」

晶「お前が言うなよ」

澪「帰ろうか……」

梓「はい……」


澪「ただいまー……」

旅行に到着すると、先に出発した四人が出迎えてくれた。

唯「おかえり、何かあったの?」

紬「遅いから心配したわ……本当に幽霊が出たんじゃないかって」

みんなに迷惑をかけてしまった。少し申し訳ない気持ちになる。
いや、それよりも言わないといけないことがある。

澪「……実は幽霊の正体がわかったんだ」

唯紬「ええっ!?」

菖「正体って!?」

唯とムギは私に詰め寄らんばかりに近づいてきた。明らかに期待の眼差しを含んでいる。私には苦笑いしかできなかった。

澪「幽霊の正体は……」

手で合図を出すと、さわ子さんが登場してきた。してやったりの笑顔をしている。

さわ子「やっほー!」

唯「さっさささ……」

紬「さわ子さん!?」

菖幸「……誰?」

澪「私たちの事務所のあるビルの管理人……」

菖「……へえ〜。澪ちゃんたちは知り合いが多いんだねえ……」

少しだけ皮肉が込められているような気がするけど、そこは否定しないでおこう。
今日も一日が長かったような気がする。ただ、これで幽霊の悪夢からは解放されたはずだ。


私たち一行は大広間に向かった。ここでの夕食も最後と思うと、名残惜しいものがある。
中に入ると、朝と同じように曽我部さんがいた。この人もあの騒動に関わっていたんだから一応報告しておかないといけないな……。

澪「曽我部さん、一緒にいいですか?」

恵「ええ、もちろん。みんなで一緒に食べましょう!」

紬「ありがとうございます!」

曽我部さんの正面に座った。なんだか緊張してくる。
幽霊に怖がっていたとはいえ、あの有名探偵の曽我部さんだ。私なんかがこんなに気軽に接していいものなのかと今でも思う。
でも、解決したからにはきちんと伝えないといけない。一人の探偵として、思い切っていこう。

澪「あの、曽我部さん」

恵「はい?」

澪「あの騒動のこと……幽霊の正体がわかりました」

恵「えっ」

曽我部さんの笑みが強張った。無理もない。あんなに不気味な出来事だったんだから。

恵「幽霊の正体……?」

澪「はい。単刀直入に言うと、幽霊は存在しませんでした」

恵「そんな……じゃあ一体あれは……」

澪「あれは私たちの知り合いの人でした。さっき、私たちが神社で肝試しをしていると、その人と偶然遭遇して判明しました」

さわ子さんが手を振ってきたけど、一度視線を送るだけに留めておいた。

恵「そう……じゃあ、本当に幽霊はいないのね……?」

澪「はい、いません」

私がそう言うと、曽我部さんは胸元に手を当てて安堵の表情を浮かべた。

恵「よかった……。いや、幽霊のことを調べて、自分が恐ろしい温泉に入ってたのかと思うと怖くなって……」

澪「あの話は迷信でしょうね……」

噂が誇張されていくのはよくあることだ。有名な昔話というのも、元にあった話が大きくなっていっただけなのかもしれない。
伝えたかったことは曽我部さんに伝えた。これで私も安心できる。

恵「わざわざ報告ありがとう。これで私も安心して眠れそうだわ」

澪「私もです」

思わず苦笑いが出た。もうあんなに怖い夢はごめんだ。あんな呪いにはもうかかりたくない。

唯「これで一件落着だね!」

澪「ああ」

律「いやーまさかさわちゃんだったとはなあ……予想外というか」

梓「ホントですよ」

「お料理お待たせしました〜!」

女中さんが夕食を持ってきてくれた。晩ご飯はすき焼きだ!

唯「おいしそう〜!」

紬「いい匂い〜!」

澪「それじゃあ、みんな」

手を合わせて、

澪「いただきます!」

「いただきまーす!!!!!!!!!」


6
最終更新:2014年03月13日 08:01