公園の砂地に足で引いた陣地をあらそって
 男の子たちがじゃれ合っているのを、このベンチでずっと見てた。

 手出しをしあって突き飛ばしたり転んだりしているくせに、
 けらけらと楽しそうで、
 小さい頃の私はついにあんな風に泥だらけで遊ぶことなかったなって考えたりする。

 成田空港の本屋さんで試しに買ってみた
 ベストセラー恋愛小説の文庫本は、十数ページで飽きてしまった。
 そこに私がいなかったからだ。
 感情移入して泣けるって聞いてたから、
 少しは期待したのに。

 でも感情移入というのも、ああやって土煙を立ててもがいてみて、
 初めて生じる感情なのかもしれない。

 うわ、いま短パンの子が水飲み場の蛇口をふさいで水をかけだした。
 坊主頭の子のシャツが水びたしだ。
 それ反則じゃん、
 って言いたくなるけど言う相手がいなかった。
 そもそもルールがよく分からないのに反則もなにもない。

 携帯開いた。
 新着メール、ゼロ。
 バイブが鳴ってないんだから当たり前だ。
 それでも、手持ちぶさたに何度も開いてしまう。

 ふと、ベンチに背中を寄っかけて身体をそらしてみる。
 自然と腕を前に伸ばして、ううんと息がもれた。
 枝に覆われた空は思ったより低く見えた。
 灰色の雲にふさがれていて、手を伸ばせば触れられそう、
 って思ったときにはもう腕が伸びていた。

 ……ああ、発想うつったのかな。

 ぷふ、って変な笑いが出る。
 あの人のくせや、考え方や、センスや、
 声のはずみかた、リズムをとる指の動き、他のいろいろが
 私に多少流れ込んでいる、影響をうけている、
 って考えたら、
 もうなんだかたまらなくなる。

 携帯開いた。
 ああ、うん、そりゃあまだだ。

 今日、私は学校を休んだ。
 というか物理的に行けなかった。
 親の付き添いでまたアメリカに行くことになって、
 成田に着いたのが今朝の十一時だったのだ。
 電車を何本か乗り継いで家につくころにはもう昼過ぎで、
 部活にだってろくに参加できそうにない。

 予定通り律先輩に欠席の旨を伝えると、
 おみやげ割り増しを要求されたので適当にスルーして
 昼の三時頃、ベッドに入った。でもなぜか寝付けなくて、
 着替え直してからふらふらと外に出てみたのだ。
 ああ、
 不審者か浮浪者みたいだ。

 もう少し人が少なければ、
 うちから三分のこの公園にギターでも持ってきて、
 しゃらしゃらとつま弾いてみたのかもしれない。

 最近はエレキばっかいじってるけど、アンプラグドも良いものだ。
 さてなにを弾こう?
 って想像したら、想像の中ですら私の声がじゃまをした。

 ……どうせ、どうせね。

 そこで私は歌うたいを頭の中に呼んでみる。
 するとどうだ、
 私の弾くギターにあわせて隣の空いた席でゆらゆらと歌うあの人の姿が。

 ヨーグルト味の飴を舌の上でころがすみたいに、
 あまったるくてちょっぴり酸っぱい歌声が広がる。
 あの人はふらふらと笑顔を香水みたいにふりまきながらうたってくれるだろう。

 そこでひとしきり暴れてお互い疲れて休戦状態に入った男の子たちだって、
 あの人の歌声を聴いたら
 いっぱつでころりとやられちゃうはずなんだ。
 そういう人なんだ、私のあいする人は。

 想像上のセッションは大成功して、誰にも聞こえない拍手喝采のなか、
 私はまだベンチにひとりきりだった。

 携帯を開く。
 届いてるわけもない。ああ。
 つい十数分前にここに来るってメールをもらったばかりなのに、
 さっきから何度ぱかぱかやってるんだろう。

 私は携帯を裏返して電池パックのふたを開けて、
 そこに貼られたプリクラを撫でてみた。
 パスポート写真みたいにカタい顔して居心地わるそうな私じゃなくて、
 隣のあの人の横顔を、髪を、頬を。

 私は猫耳とヒゲを落書きされていて、
 さらに周りじゅうにハートマークをちりばめられて恥ずかしいことになっている。
 どおりで居心地わるそうなはずだ。
 あの落書き、制限時間のことなんて聞いてなかったから、
 あわてちゃってロクなもの描けなかった。
 だいいちこの写真、いきなり頬にキスされてるんだもの。

 純にだけはバレないようにしよう、
 ともう一度固く誓って電池パックを閉じた。
 ついでに、憂に黙っておくよう改めて念押しすることもだ。

 と、足下で何かが当たった。

 サッカーボールだった。
 それを拾い上げると向こうから坊主の子が走ってくるのが見える。

 私はそれを蹴ろうとして、
 手渡そうかとも思って、
 結局投げた。

 投げても男の子たちの居る方まで届くとは思えなくて、
 わざと数メートル先の地面でバウンドさせた。
 意外と遠くまで跳ねたボールを
 短パンの子が体当たりするようにキャッチすると、
 坊主の子がまだ高い声でなにか云い、手を振って背中を向けた。
 残されて妙にむなしさがこみあげた。
 いっつもこうだ。

 律先輩なら迷いもせず声をかけて蹴っとばせるだろうし、
 澪先輩なら坊主の子が追いつくまで待って手渡しただろう。
 ムギ先輩なら?
 あの人、ひょっとするとボール持って男の子たちの中に入って行っちゃったりして。
 さすがにそれはない、ってことは言えない人だ。

 じゃあ、あの人は?
 携帯を……開こうとして、
 手を止めた。

 私は文庫本と携帯電話を傍らのバッグに押し込むと深く息をついた。
 かさついた唇から流れた息とともに、
 自分の中のなにかまで落としてしまった気がして、
 足下に目を落とす。

 私の影は傾いた陽によってベンチの裏側へと追いやられ、
 引き延ばされている。
 音がしない、と思ったら
 子供たちが水飲み場近くで別の携帯ゲームをはじめていた。

 自分の細い右脚のつま先を伸ばして、地面に自分を囲むような線を引いてみる。
 左側から右に向かって円を描くように、できるだけ広く。
 けれども体の小さな私に引ける半径なんてたかが知れていて、
 自分のテリトリーの狭さにわらってしまいそうだった。

 眺めていた子供たちの景色がかすんで痛みでうるんだのは、
 目も乾いていたからだけど、その目をこすりながら、
 水族館のガラス越しに映る生き物たちが屈折して少し歪むのを思い浮かべたりする。

 もう一度手を伸ばしてみた。
 脚だけでなく腕のリーチも短い私は、
 自分で引いた国境線さえ突き破れないのを知った。

 夏の盛りをとうに過ぎて、
 ため息のように熱の抜けた弱い風さえ吹き始めた頃だ。

 明るくて暗ったるい寝ぼけたような空の下で、
 たまに頭上の葉がかさかさと音を立てて揺れたりして、
 水飲み場の蛇口がまだ鈍く光っている。

 廃品回収の車のアナウンスが遠く聞こえて、近づくことなく消えていった。
 現実感のなさを感じながら、
 けれども指でなぞってみたベンチの塗装はざらざらと剥がれかけているようで、
 爪でひっかけて破片をつまんでみたりする。
 見下ろした指先は赤茶けた色に汚れていて、指紋が目立たないほどだ。

 汚れた人差し指をもう一方の手にとって、親指でそっとなぞってみた。
 そんな風にして、あの人がいつだか私の小さな指をなぞったのを思い出す。

 この指はすでに数え切れないほどあの人に触れてきた。
 けれど私のすきな人は触れる度に形を変えるから、どこまで深く近づいても水のようにつかめない。
 きらきらと水しぶきが撥ねて指先にぴりりと染み込み、
 その小さな痛みがいとおしくて傷口を何度も撫でるような、
 そんな大切な苦しみをたくさんもらった。

 いま、
 人差し指のささくれに気づいてしまって、
 汚れた指を舐めるわけにもいかず、ちくちくといじって痛みをもてあそびながら、
 こんな気持ち誰にも伝わらないんだろうなって息を大きく吐き出した。

 入り口の方でブロンドの女性が見えた。ムギ先輩ではない。
 もっと年上の人で、赤毛の男の子を連れている。

 外国人の二人を見て、
 一瞬ここがニューオリンズのオーデュボン公園かと思いそうになる。
 十数時間前に過ごしたあの街も、言われるほど治安が悪いとは思わないけれど、
 言葉のさほど通じない国でひとり残されたりすると不安にもなる。

 赤毛の子はきょろきょろとこちらを見渡して、
 すぐお母さんの足下へ駆け戻ってしまう。
 私も昔はああだったのかな、と思ってすぐ、今もさほど変わらないな、
 とあきらめて笑うしかなかった。

 私があのぐらいの頃は今よりずっと人見知りで、
 ずっと両親の足下に隠れてびくびくしているような子で、
 そのくせなつくと理由をつけてはくっついて離れないというめんどくさいやつだった。

 両親の仕事の都合で転校が多く、海外旅行も何度もしたせいで、
 自己紹介なら場数を踏んで慣れていったはずだ。
 でもレコードや楽器に囲まれて育った同年代の子なんてそうそういなくて、
 たいていは友達に話せないことを抱え込んでばかりいた。
 たまに自分の好きなことを話してみるものの、
 相手は苦笑いを浮かべるか目を白黒させるばかりで、ますます思い知らされてしまう。

 人見知り気味だった私が身につけた武器は「ギターの中野さん」だ。

 小四ではじめたギターは、
 いろいろと不器用で小回りがきかない私にしては珍しく、
 身体になじんで染み込むようにして上達していった。

 楽器というのは便利だ、
 ザッパもディランもコルトレーンも知らなくたって音だけで「弾ける」ことだけは伝わる。

 どうせ伝わらないのだからと
 物静かで落ち着いた子になっていった私にとって、
 「ギターの中野さん」は都合の良いプラカードだった。
 そうそう悪い扱いもされなくて、たまにほめられたりもして、そこそこに気持ちもよかった。

 小学校の卒業式で当時流行っていた曲の合唱にギター伴奏した時なんかは、
 周りの大人や子どもたちからもきらきらした眼差しを向けられて、
 多少は居心地わるくもあったけれど、
 本当はそこまで悪い気分でもなかった。

 マイ・ネーム・イズ・アズサ。マイ・ホビー・イズ・ギター。
 それは一種の壁で、小さな私を母親のように守っていてくれて、
 私はその壁を強く固く広げながら育った。

 シューゲイザーバンド、
 マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの名盤『ラブレス』みたいに、
 空間系のエフェクターを積み重ねて作られた厚みと暖かみのあるノイズを、
 人は「音の壁」と呼ぶ。

 私がギターサウンドに求めたのはたぶんそういう類の壁で、
 四、五年かけて一通り構築してみたものの、
 皮肉にもラブレスの名のためか、音の壁は幻の産物で、
 鳴り止んでしまえば自分一人が取り残されるだけの脆い存在だった。

 それでも私は壁に寄りかかってばかりいた。
 そこで今も赤毛の子がママの脚にすがりついているように。

 丸まった背中をそのままに、
 半開きの目でぼんやり見やる世の中は、このベンチからとても遠く感じる。


 と、次の瞬間うしろから伸びた腕が私を引き寄せた。

 ひっ、と驚いて息もできない声も出せない。
 でもその腕の正体はすぐわかった、
 私はこの熱を肌の感触をこんなことする人を知っている!
 あいかわらず声なんて出ないでいる私の右肩にかわいい頭を乗せて
 ベンチ越しに肩をぎゅうって抱きしめながら、
 そう、
 私のあいする人が言った。


「あずにゃん、おかえり!」

 ついでに、右の耳たぶにちゅって痕まで付けてから。

 私の胸が音を立てた。
 耳から熱い毒針でも撃ち込まれたみたいに、
 身体が熱くなってふるえそうになる。

 やった、やっと会えた。
 どうしよう、心臓がばくばくいってる!
 もうあの人なんてことするの、私まだ何の準備もできてないのに……
 頭の中が急にいろんなものではじけ出してるのに
 この人は勝手にすっと私を離すと、
 裏側からステップ踏むようにして現れて、いつもの制服姿で私の前に立つと、
 ふにゃって笑いかけた。


 そこに唯先輩がいる。


「……お久しぶりです、せんぱい」

 間の抜けたことを私が言った。
 もう、息をもらすのと変わらないぐらいの言葉だ。
 なにかぱっとしたことを言いたいししたいのに、
 頭の中で準備してたことなんて全部吹き飛んじゃう。
 身体中に唯先輩の毒がまわってしまう。
 唯先輩がいる。
 あの人が私に向かって片手を伸ばして、
 「さ、いこ?」って感じで私の手を待っている。

 私は動けないまま、
 五日間ずっと思い描いてた姿と、明るい色の髪の毛と、大きな瞳と、
 私を濡らした唇と、いとおしい指先と、もうそれ以外見えなくなっていて、

 じれったくなった唯先輩が
 私の引いた地面の線上にカバンを落として
 ギターをよっかけると、一気にベンチに踏み込んで、
 勢いのまま抱きしめた。

 唯先輩がきた。
 あずにゃんだあ、本物だあ、
 なんてばかなことを言ってる。

 シャンプーの香りの奥に感じる唯先輩の匂いがなつかしくって、
 毒がまわってくらくらしている私をよそに、
 唯先輩がベンチに登って押し倒しそうな勢いで私のことを
 何度も抱きしめなおして
 あずにゃんあずにゃん言ってる。

 テンションMAXの唯先輩にいいようにされながら、
 自分でも唯先輩の柔らかな髪を撫でてみたりしながら、
 ようやく胸が落ち着いていくのを感じていた。

 同時にもっと深いところから
 何かがじわじわとこみ上げてくるのに気づく。
 とりあえず、
 先輩の背中に腕をそっと回した。
 手の置き所に迷って制服の縫い目に指を当てたりして、

 ほんとぎこちないな、と自分にあきれた。


「……あの、先輩。そろそろ落ち着きましょう」

 えー?と顔を上げて私をまっすぐ見た不満げな唇、
 それすらたまらなくなるけど、私は唯先輩の肩を押しやった。

 すると先輩は
 ふふんあずにゃんかわんないねと含み笑いしながら
 ギターとカバンを背負いなおして、
 左手をもう一度突きだす。
 その手を今度こそ取ると、
 先輩はここから引きずり出すように強く私の手を引いた。

 少しよろけながら立ったせいでつんのめってしまって、
 地面の線が消えてしまった。


「ほら、いそがないと!」

 なにか企んでる時の半笑いで口の端をゆるめながら、先輩が手を引く。

 なにかやってるんですか、と早歩きで追いつつ聞くと、
 そこの駅前通りでクレープの販売車を見かけたという。
 なんだそんなことか、
 そういえばあの夜もチョコバナナ味のを買って食べたっけね、
 と早歩きを緩めようとする私を唯先輩は許さない。

「だって私あのお店みつけたの久しぶりなんだよ?!
 あずにゃんだってそうでしょう?」

 いや、うちの近所は結構よく来るんで、
 とは言えない真剣な目だった。


 しばらく公園の外を見渡して、もう販売車が去ってしまったことを確かめると、
 唯先輩は駐車場の青い金網に背中をもたげて
 長い長いため息をついた。

 がっかりだよあずにゃん、
 せっかく今日こそはって思ったのにさ。

 少し口をとがらせて、あからさまに眉を下げてみせる。
 思わずつられて、私といるのにがっかりしないでください、
 ってうっかり言ってしまう。するとすぐに顔を上げて

「そうだねっ、
 あずにゃんはさみしがり屋さんだもんねえ」
 とにこにこされてしまった。不覚だ。

「何か買ってきましょうか。そこのビッグエーで」
 指さすと、先輩は
「いいよそんなの。
 私が買わなきゃ意味ないんだよ。
 それよりアメリカの話でもしてよ」と土産話をせがんだ。


 市道を歩きながら、私たちはそれぞれの五日間について四方山話を交換した。

 滞在中も眠る前にはメールを重ねたから、新しい話はほとんどなかった。
 向こうの日中がこちらでは真夜中だったりで、
 お互いに眠気から文面が適当になったりして、
 あのメールのとき寝てたでしょなんて、
 携帯の画面を見せ合って詰問しあってはくすくす笑った。

 時差の関係で先輩が眠る頃に私が起きるのだと言ったら、
 吸血鬼みたいだねと変な比喩を使った。
 先輩が吸血鬼なんじゃないですか、いつも寝てるから。
 そういうと、
 いつもは寝てないよ最近は寝てないよと慌てて中途半端な否定をした。

 通りの交差点で、私たちは別れる。

 ちょうど市と市の見えない境目があって、
 信号の向こうでセブンイレブンの看板が光っている方が唯先輩の住む町だ。

 看板の白い光で、陽が沈みかかっていることに気付いた。
 もう夜の六時近くだというのに、
 雲が去っていたことさえ全然気付かなかった。
 夕方になって増えた車のヘッドライトが目にちかちかする。
 信号はちょうど赤のまま。
 先輩の指は、私の手汗で汚れてしまっているだろう。

 帰り道、ここで別れそうになるとき
 「今日どうする」なんて聞いてくれたりする。私から言うこともある。
 今日はまた仕事で遅いらしいんで、うちで練習でもしていきませんか。
 そんな白々しい声を出すようになったのか私は、
 と責めさいなむ自分自身を必死で聞き流しながら。

 でも、今は唯先輩の言葉がない。
 時差ボケで眠いからちょっと会って話してすぐ帰る、
 なんて自分から言ってしまったから。

 先輩はこういう時、強がる。
 年上らしく余裕ぶろうとしてみせる。
 だから振り向きもせずに「明日きてくれるかなー?」なんておどけた声を出した。

「その番組、来年春には終わるらしいですよ」

「じゃあ次なにやるんだろう」

「どうせ似たような番組ですよ。たくさん出てきて」

「見たら意外とおもしろいかもよ」

 県道をまたぐ道路はなかなか青にならない。
 なにか言おうとしても、
 トラックが大きな音を立てて通り抜けた拍子に言葉をかき消してしまう。
 風の冷たさを感じたりする。
 自分の手の熱がもどかしくて、
 今すぐどうにかしてしまいたかった。

「恋人になるって、すごいね」

 急に唯先輩が言う。

 私に向けられた言葉だと思えず、続きを待った。

  あずにゃん、私、小学校の頃からずっとこの道を通ってきたんだよ。
  せんぱいってそこの西中でしたよね。
  うん、前に話したよね。

 先輩は続ける。

「でも、二人だと、全然違って見えるんだ」

 先輩はいう。
 他の人とも一緒に歩いたはずの道が、私と居ると違う景色に映るという。

 そう言った顔は見えなくて、
 セブンイレブンの看板の光が眼にまぶしかった。

 ぞっとするほど青黒い空に、
 はるか遠くの街灯みたいな星がぽつぽつ刺さっていて、
 天頂の小さなのぞき穴から胸の奥まで見透かされる気がした。

 私の手が先輩をにぎったまま、
 固まって動かなくなる。


2
最終更新:2014年03月21日 10:50