梓「え、うそ……どうして」

頭が混乱している。
いったいぜんたい、どういうことなのか。

梓「ど、どこにいるんですか!?っていうか、そもそもここはどこで私はいったい」

『落ち着いて。手のひらを見てごらん』

言われた通りに手のひらの方を見る。そこには。

梓「……!!」

なんと真っ赤な手のひらの上で、律先輩を始めあの場にいた全員がこちらを見上げていた。
……って、え?

梓「ええぇぇぇっ!?」

ふと前を見れば、目線は屋上にいた時よりも遥か上にある。
この赤くて大きな手、暖かい光、もしかしてだけど――

梓「私が……ウルトラマンタロウに!?」

ウルトラマンタロウが蘇った。
その事実が霞むくらいの驚きだった。

梓「うそ……夢じゃない!!でもなんで!?だって光太郎さんあのとき――」

『確かに僕はあの時怪獣に負け、エネルギーのほとんどを失った』

『実体すら維持できなくて、空を漂っていた……でも、僕は死んでいなかった』

『君たちの中に、邪悪に立ち向かう強い心が生き続けていたからだ』

梓「私の、中で……」

『君の強い心が、僕たちを再び引き合わせたんだ。ありがとう……梓ちゃん』

梓「――――はいっ!!」

タロウは皆さんを優しく地面に下ろすと、怪獣を鋭く見据えた。

『キュルルルルル……!!』

梓「で、でかい……」

『心配ない。身体を動かして戦うのは僕だ』

『だけど、そのエネルギーは君の強くて優しい心にある』

『梓ちゃん――僕と共に、戦ってくれ!』

梓「――やってやるです!!」


『トァァァァッ!!』


タロウはいきなり派手に跳び上がり、空中で捻りを加え勢いをつけた飛び蹴り――スワローキックを繰り出した。
そうして怪獣の懐に飛び込むと、怒涛の勢いでパンチの連打を叩き込む。

『キュルルルルル!!』

怪獣に苦し紛れに手で振り払われるが、体勢を整えて怪獣に食らいついた。

『デァァッ!』

怪獣の腹に生えたフックのような爪が脇腹を襲うが、タロウはそれにも怯まない。
膝蹴り数発で距離を取り怪獣の肩を掴むと、地面におもいっきり引き倒す。

そしてそこに、飛び上がって威力をつけたかかと落としを叩き込んだ。


梓「すごい……身体中から、力が湧いてくる」

『梓ちゃん、疲れはないか?』

梓「平気です!このまま一気に畳み掛けて!」

『トァァァッ!!』

再び中空に飛び上がり、捻りを加え勢いをつける。
そして、キックの体勢で放つ足先からの破壊光線――フット光線が炸裂した。

『キュルルルルル……キュルルルルル!!』


………
……

唯「澪ちゃん……あのウルトラマンタロウは」

澪「ああ……梓だ。梓が戦ってるんだ」

律「あ、梓が!?」

唯「絶対そうだよ!だって、タロウからあずにゃん分がしたもん」

律「お、おう……なんだそりゃ」

紬「でも、わかる気がするわ。梓ちゃんがウルトラマンになれた理由」

律「え?」

憂「梓ちゃんは誰よりも近くでウルトラマンを見ていたんです」

純「だからこそ、絶望的な状況でも立ち上がれた」

澪「そしてお前を悪魔から救うために、自分にできることを精一杯やったんだ」

律「梓が、私のために――」

紬「きっと、神様がご褒美をくれたのよ」

律「そうか……そうだったのか」

『トァァァッ!』

律「――ウルトラマァァン!!頑張れぇぇーっ!!」

純「タロウーッ!いけぇぇっ!!」

憂「私達が応援してるよーっ!!」

「「――頑張れぇぇっ!!」」

……

『キュルルルルル!!』

怪獣の放った強力な熱線がタロウを襲う。

『フンッ!』

タロウは念力で壁を作り、熱線を防ぐが――熱線の威力に耐えきれず、壁が壊れてしまった。

『デァッ!?』

熱線が肩を撃ち、体勢を崩して倒れ込む。
なんとかかすり傷で済ませたものの、それでもその衝撃は凄まじい。
こっちの気力を削られるような一撃だった。

「くぅ……っ!」ギリッ

『梓ちゃん!大丈夫か!?』

「大丈夫……ですっ!」

『よぉし、その意気だ!』

体勢を立て直し、ファイティングポーズを取る。
向かってくる怪獣をすれ違い様にチョップでいなし、向きを変えたところに前蹴りを叩き込む。
そして、怪獣に再び組み付こうとして――

バシュゥンッ!!

『ッ!?』

背後から衝撃が走り、体勢が崩れる。
その隙に怪獣がタロウを激しく打ち付け、巨大な尻尾で足を思い切り払った。

『ンンッ……デッ!』

『フハハハ!!ウルトラマンタロウめ、またも殺されに来たな』

空から漂ってきた赤い煙が、一点に集まる。
集まった煙は形を作り……その姿を現した。

梓「あ……あれは……」

背後からの襲撃者。
それは、夢に出てきたあの悪魔――

梓「ヤプール……!?」

『そうだ!私がヤプールだ!』

ヤプールは勝ち誇ったように豪語する。

『そんな小娘と融合したところで、死に損ないの貴様に本調子は出せまい』

『……!』

『ここが貴様の墓場となるのだ……!』

『キュルルルルル……!!』

『デァッ!トァァッ』

タロウは2体の動きに捕まらないように1体ずつと立ち回ろうとするが、

『ふんッ!!』

ヤプールが絶妙な位置に火の玉を放つせいで、攻めきれずに反撃をもらってしまう。

『フンッ……デッ』

怪獣に殴られ、尻尾で打たれ、ヤプールの火の玉をまともに食らい……ついに派手に倒れてしまった。
1vs2。こちらが明らかに不利だ。

『デァァッ……!』

梓「うぐ……うぅっ」

苦しい。
なんとか戦おうとするが、立ち上がるのも一苦労だ。

『ハッハッハッハ!!やはり所詮は死に損ないよ!!』

『貴様ごときがたった一人でこの我々に楯突こうなど、思い上がりもいいところだ!!』

梓「この……卑怯者!」

『卑怯もラッキョウもない、勝てば官軍――さあやれ!キングオブモンス!!』

『キュルルルルル!!』

『ンン……デッ』

梓「うぅ……!」

……ばれ……!
…がんばれ……!
ウルトラマン!!

『――ぬ?』

純「ウルトラマンが負けるもんか!」

憂「私達も、勇気をもらったんです!!」

唯「あずにゃぁぁーん!」

みんなの声が聞こえる。
誰もが、ウルトラマンの勝利を信じている。

『ふん……うるさいカトンボが。貴様らがキーキー喚こうが、我々の勝利は約束されたも同然』

純「バッッカじゃないの!?」

『ん?』

純「そのカトンボなんかに散々翻弄されたおバカさんは、どこの誰でしたっけー!?」

『……!』

純の声が聞こえる。
そう……敵わないわけじゃない。

梓「ウルトラマンのいない世界を我が物に――なんて、考えることが悪ガキそのものじゃない」

梓「はっきり言って、幼稚園児以下ですよね……」

梓「そんなお山の大将ごときに――私たちの世界を、壊させはしない!!」

勇気を乗せた正拳突きを、ヤプールに叩き込む。続けて、近づいてきた怪獣を後ろ蹴りで引き離す。
しかし、怪獣はすぐに体勢を整え、体当たりでタロウを吹き飛ばした。

梓「うぁぁっ!?」

さらに、倒れたところに踏みつけられ、蹴られて転がされる。

『デァァ……ッ!!』


憂「あぁっ……タロウ!」

純「こんなピンチなのに、応援しかできないだなんて……!」

紬「でも、応援しましょう!それしかないわ!」

唯「頑張れー!!ギー太だよ、ほら!応援してるんだよー!!」

澪「私も!エリザベスも!!」

純「私だってほら!!ウルトラマンの人形!お守りなんだから!!」

♪―――

(聞こえる……あの音が)

(私たちの――放課後が)

♪―――

律「ウルトラマァァン!!」

梓(……律先輩……)

律「私のせいで、あんたを散々な目に遭わせちまった!本当にごめん!」

律「でもな!!私が本当に望んだのは怪獣なんかじゃない!!」

律「私が本当に見たかったのは、どんな強敵にも負けない――無敵のヒーローなんだ!!」

律「ウルトラマンなら……絶対、勝って!!」

『――トァァァッ!!』

『キュルルルルル!!』

怪獣のキックを間一髪でかわし、小型のビームで迎え撃つ。
そして、側転で間合いを取り、再びファイティングポーズをとった。

『ほう……まだ立つか。虚勢など張らず、さっさと倒れていれば苦しまずに済むものを』

梓「そんな必要ない」

『む?』

ヤプールに向けて、力の限り言い放つ。

梓「苦しくなんかない……私には光太郎さんが、応援してくれる皆さんがいる」

梓「いや――皆さんの心が、私と一緒に戦ってるの!」

梓「私は、一人じゃない!』

『知るか!くたばれ、死に損ないが!!』

『キュルルルルル――!』

キュイイイイ――

紬「あれは……タロウを一度倒した技じゃない!」

憂「しかもヤプールまでなんか溜めてますよね!?」

澪「まずい!あんなの当たったら……!」

唯「でも、避けたら街がひどいことになるよ!」

梓「く―――――」

『死ねェェェェッ!!』

純「あずさぁぁぁぁッ!!」

大地を焼き尽くす轟音が鳴り響く――その瞬間。


『――シェァァァッ!!』


一筋の光が、天空を貫いた。

『キュルルルルル……!!』

澪「な、なんだ!?怪獣が倒れたぞ」

律「今の、何があった?」

唯「何かがぶつかったような――あ!」

『ぐわぁッ!?』

紬「赤い、玉……?」

光をまとった赤い球体が、怪獣とヤプールを切り裂いていく。

『――シュワッ!!』

赤い球体は突然眩く発光し、人の形を作った。

銀色の巨体に、赤いライン。
胸には数多の勲章。
燦然と輝く光の戦士――

『――ゾフィー兄さん!!』

「兄さん、ってことは」

『ああ。ウルトラ兄弟の長男――ナンバーワンさ!』

わっ、と歓声が巻き起こる。

『遅くなってすまない、タロウ。この異世界を探り当てるのにだいぶ時間を使ってしまった』

『兄さん……ありがとう』

『礼を言いたいのはこちらだ。ありがとう――中野梓

梓「へ、私!?」

『君のおかげで、タロウや君の仲間を始め多くの命が救われたのだ。本当にありがとう』

梓「い、いえそんな……」

ゾフィーは改めて敵に向き直った。

『さあ、共に戦おう……この世界を守るために』

『はい!』

梓「やってやるです!!」

揃ってファイティングポーズを取る二人の戦士。
勝負はまだ、一回の表だ。


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最終更新:2014年03月28日 07:51