『ここまで我々をコケにするとはな……忌々しいやつらだ』
『だがもう遅い!ウルトラ兄弟め、まとめてここで道連れにしてくれる!』
『なにッ?』
『集まれガディバ!すべての闇を――我に集めよ!!』
ゴォォ…………!
ゴゥン……ゴゥン!
『うぉぉぉ……!!』
どす黒い闇のオーラが、ヤプールの身体へと結集していく。
澪「なんだあれ……寒気がする」
唯「ど、どうなってるの?」
律「変貌……」
唯「え?」
律「あいつ、溜め込んだ負のエネルギーを……すべて出し切るつもりだ」
そして闇が晴れた時、そこにいたのは。
『フハハハハハッ!!』
梓「な……!?」
機械のように無機質などす黒い身体。
両腕には巨大な鋏。
有り余るほどの重量感を誇る――邪悪の塊。
『――グランドキング!?』
梓「ゾフィーさん、光太郎さん……あいつは?」
『この世界の悪意を結集させた恐ろしい存在だ。かつて我々兄弟も戦った事がある』
『ヤプールめ、自らを憑代にするとは……なんて奴だ!』
『滅べ……ホロベ!!』
グランドキングは開幕早々、両手の鋏からレーザーをめちゃくちゃに打ち出した。
『デッ……!』
『ジュアッ!?』
避けきれずに何発かをまともに喰らい、両者共に怯むが、グランドキングはそんなことでは止まらない。
倒れたタロウ、ゾフィーにさらにレーザーを浴びせ続ける。
その勢いは、さながら嵐のようだ。
『破壊だ……ハカイダ!!』
『デュアッ!!』
なんとかレーザーから逃れたゾフィーは、突進してグランドキングにつかみかかるが……ピクリとも動かない。
膝蹴りやローキックを数発いれても、どこ吹く風と言わんばかりに弾き飛ばされた。
『トァァァッ!!』
続けてタロウが飛び蹴りを入れたが、グランドキングはさしたるダメージも見せない。
逆に鋏で掴まれ、派手につまみ出されてしまった。
梓「うぁぁっ!?」
『梓ちゃん、大丈夫か』
梓「うぅ……あの怪獣、なんて固さなんですか」
『正攻法じゃじり貧だ……タロウ!一気にいくぞ!』
タロウとゾフィーはお互いに頷きあうと、それぞれの必殺光線を発射した。
『ストリウム光線!!』
『ハァァ……デュアッ!!』
ダブル光線がグランドキングの腹部に直撃し、爆炎が巻き起こる。
……だが。
『ハハハハハッ!効かんわ!』
「うそ……!?」
炎の中から、まったく元気そうなグランドキングが姿を現した。
『くっ……やはり奴の体表は固すぎる!』
梓「光太郎さん、どうなってるんですか……?」
『奴の使い魔――ガディバの仕業だ。生物の情報を取り込み、強化して再現すると聞いたことがある』
『おそらく、奴は怪獣墓場でガディバに怪獣の魂を盗ませ、この世界に呼び出したんだ。この世界を侵略するために』
『だがタロウ、それを運用するには途方もなく膨大なマイナスエネルギーが必要なはずだぞ』
梓「まさか、それで律先輩を――あいつ!!」
『ハハハハハハ――キエロォォッ!』
再び、グランドキングの両手からレーザーがめちゃくちゃに発射され始めた。
『ウルトラフリーザー!!』
『ウルトラフロスト!!』
『グォルルル!!』
タロウとゾフィーが足止めに放った冷凍光線を軽々と受け止め、レーザーを打ち返すグランドキング。
『タロウ、立ち止まるな!的になるぞ』
『はい……!』
入れ替わり立ち替わり打撃を当てるものの、相手にうまくいなされる。
あまりの重量感に突き崩すこともできず、まるで要塞のようだ。
『シェアァッ……!』
『ンンッ……デッ』
『フハハハハハッ!つまらんぞウルトラ兄弟!
その程度の力でこのグランドキングを倒すなど、思い上がりもいいところだ!』
悔しいけれど、ヤプールの言う通りだ。
おぞましい闇のエネルギーに包まれた装甲を前に、目立ったダメージすら与えられていないのだ。
ピコン――ピコン――
『くそっ――エネルギーが!』
梓「はぁ……はぁっ」
『諦めるな!我々兄弟はこの世界の希望だ!ここで倒れるわけにはいかん!』
梓「く……!」
諦めたくない。
こんなのに、私達の放課後を奪われたくない。
全身から力が抜けていく中、その一点だけが心の支えになっていた。
だが、カラータイマーも鳴り出し、身体は言うことを聞かない。
ゾフィーの檄がむなしく聞こえてくる。
澪「ウルトラマン、頑張れぇーっ!!」
紬「立って!!まだまだこれからよ!!」
(澪先輩……ムギ先輩)
律「負けんなーっ!!」
唯「頑張れ頑張れやればできる絶対できるだから諦めないでーっ!!」
(律先輩――唯先輩)
憂「梓ちゃん……」
純「――信じてるよ」
(憂……純!!)
大地を踏みしめ、立ち上がる。
まだ倒れるわけにはいかない。
梓「――絶対に、守る!!」
『ふふ……しぶといやつめ』
梓「はぁぁぁぁぁっ!!」
なおも気合を入れてパンチや光線を連打していくが、一撃ごとに気が遠くなっていく錯覚に陥る。
『グォルルル!!』
梓「うぁぁぁッ!?」
グランドキングの全身がスパークし、発せられた衝撃波に吹き飛ばされる。
地面に派手に叩きつけられ、背筋を強打した。
『フンッ……デァァッ!』
『フハハハハハッ!!何が守るだ!自分の心配をするんだなァッ!!』
『シュワッッ!!』
ゾフィーがもう一度必殺光線を放つ。
だがその一撃もグランドキングには届かず、レーザーをまともに食らってしまった。
『ジュアッ……!!』
梓「うぅ……ぁ……」
駄目だ。
目の前がゆらゆら揺れて、何もわからなくなっていく。
守りたい。負けられない。
そんな思いが先立つばかりで、身体が役に立たないのが悔しかった。
『しっかりしろ!タロウ、梓!その身体はお前たちだけのものではないのだ!』
目の前でなおもゾフィーが戦いながら檄を飛ばす。
だが、このまま行けばゾフィーもエネルギーが切れてしまうだろう。
そうなれば、この世界は終わりだ。
『ハハハハハハッ!!!フハハハハハッ……!!』
ヤプールの嘲笑がさらに心を突き刺す――
――
―
――
―
紬「ひどい……なんて強さなの」
唯「さっきの怪獣と全然違うよ……!」
律「……くそっ!!」ダッ
澪「律!?どこ行くんだ!」
律「ウルトラマンを、梓を助けるんだよ!このままじゃあいつら死んじまうぞ!?」
澪「助けるって、どうやって!?あんな戦い、私達には応援くらいしか」
律「それじゃあもう嫌なんだよ!!」
澪「え?」
律「私はな!何が何だかわからんうちにあんなバケモノの手伝いしてたんだぞ!」
律「それで梓にもウルトラマンにも迷惑かけて、その二人に助けられた!」
律「それなのに……あいつが傷つくのを、ただ見てるだけなんて……情けないだろ!」
紬「……りっちゃん」
澪「気持ちはわかるよ……でも」
律「でもってなんだよ!梓はなぁ、ウルトラマンになってんだぞ!?」ガッ
唯「やめなよりっちゃん!」
律「私だって……私だって!!」
純「――同感ですよ」
澪「……鈴木さん?」
純「私も――いえ、みんな思ってるはずです。ウルトラマンを、梓を助けたいと」
律「ああ……でも、どうやって」
憂「弱気にならないことです」
紬「え?」
憂「私達が弱気になったら、本当にこの世界は闇に染まります。それこそがヤプールの目的」
純「梓があの悪魔とここまで戦えたのは、私たちがあの子を信じて応援してたからだと思うんです」
澪「信じる……?」
律「信じるったって……二人とも、どうしてそんな落ち着いてられんだよ」
純「知ってるからですよ。――この戦いの結末を」
憂「こういうのって、最後はヒーローが勝つじゃないですか?」
純「私たちは、梓を信じてます。梓ならきっとやってくれるって」
憂「その想いは、きっと梓ちゃんに通じてます。絆で繋がってるんです」
純「その繋がりがある限り――私達は、絶対に負けません!!」
――パァァァァッ!!
唯「ふぇ!?」
澪「なんだ!?地面から、光が――」
紬「――光がいっぱい!」
唯「ウルトラマンに……向かってく」
律「まさか――そういうことなのか」
澪「え?」
律「憂ちゃん!鈴木さん!協力するぜ!」
憂「――律さん!」
律「みんな集まれ!この光とつながるんだ!」
紬「……わかったわ!」
唯「了解です隊長!」
澪「頑張れ梓――」
律「奇跡を――起こす!」
(……う?)
突然、闇の中に光が生まれた。
初めはぽつりぽつりとだったのが、やがて仄かながら確かな光となり、私の中へ流れていく。
梓(この光は……)
光の奔流を受けて、重かった身体がだんだん動き始めた。
『光が……満ちていく』
戦っていたゾフィーの動きもキレが増していく。
その光は、人なら誰しもが持っている――希望の象徴。
そして、その源は。
律「梓……聞こえるか」
唯「もう、あずにゃんは一人じゃないよ」
紬「憂ちゃんと純ちゃんに教わったの。私達みんな、梓ちゃんと繋がってるって」
澪「私も戦いたい――梓と一緒に」
梓(皆さん――)
純「梓……いくよ」
憂「この光……受け取って!」
梓(――ありがとう!!)
『な……まだ立ち上がるだと!?』
梓「はぁぁぁ――」
光が、力が満ちていく。
この拳に、威力を込めて――
梓「――にゃあぁぁぁっ!!」
『アトミックパンチ!!』
『ぬぁ……ッ!?』
鈍い音を響かせ、グランドキングがよろめいた。
『ぬぅ……なぜだ!?なぜこんな力が!?』
さらに続けて左の一撃を打ち、もう一度右のストレート。
火花が散り、グランドキングが倒れ込む。
『くそっ、どうなっている!?』
溢れんばかりの光が、この戦場に収束していく。
『ヤプール!わからないのなら教えてやる!』
梓「この力は、私達の希望」
『お前が闇によって強くなるのなら――』
梓「私達も、この力で強くなれる」
収束した光が、雨嵐のように大地に降り注ぐ。
そして、今。
梓「それが――絆よ!!」
新たなる光の巨人が、この世界に降り立った。
『デアッ!!』
純「――ウルトラマンティガだぁっ!」
律「み、見たことあるぞ!あのウルトラマン!」
憂「ティガって、純ちゃんが人形持ってたやつだよね!」
紬「ほ、本物よね!?」
純「うん!あの紫と赤の色具合、絶対本物ですって!」
澪「夢みたいだ……」
律「夢じゃないぜ、澪」
唯「私達の光が、ウルトラマンになったんだよ!」
紬「ティガ――頑張って!」
「――頑張れぇぇっ!」
『ハァァ……デアッ!』
光の巨人――ウルトラマンティガはカラータイマーに手をかざすと、タロウとゾフィーに光を放った。
身体が溢れんばかりのエネルギーで満たされ、カラータイマーが鳴り止む。
梓「ありがとう……」
ティガは無言で頷いた。
このウルトラマンを詳しく知ってるわけではないけれど、不思議と想いが伝わってくる。
――それが、ウルトラマンだ。
『ぬうぅ……何が絆だ!たかが一人増えたくらいで調子に乗るなぁッ!』
『トァァッ!!』
タロウは向かってきたレーザーを跳び上がってかわし、必殺の飛び蹴り――スワローキックを見舞った。
『シェアッ!!』
ゾフィーがそこにタックルをかまし、前蹴りを当て反動で距離を取る。
『テァァッ!』
後ろに回り込んだティガが、すれ違い様にグランドキングの頭を掠めるようにチョップを入れた。
『ぐぬぅ……なんだこの威力は!?』
ヤプールが苦しげに声を荒らげる。
動きが重いという弱点を装甲の分厚さで補っていたグランドキングも、
僅かながらでもダメージが通るようになってはこの波状攻撃にたじたじのようだ。
『グォルルル!!』
グランドキングの鋏からヤプールの火の玉が次々と打ち出され、その中の一つが向かっていったゾフィーの頭を掠めた。
『ゾフィー兄さん!?』
『気にするな!!』
なんと、ゾフィーは頭を熱で痛めながらも突進をやめず、ヘッドバットでその熱を打ち消したのだった。
梓「すごい度胸です……」
『この程度、慣れている』
『このぉ……!!』
グランドキングはなおも鋏から火の玉を連打するが、今度はタロウがすべて腕で受け止めきった。
そして、腕のブレスレットを放電させてグランドキングに投げつけた。
『デアッ!』
そこにティガが両腕を後ろに引いて前で交差させ、徐々に開いてエネルギーを集約させる。
『――ハァッ!!』
その直後、L字に組まれた両腕から光の奔流が放たれ、痺れの残るグランドキングに追撃をかけた。
『シュワッ!』
『ストリウム光線!』
それを見たタロウとゾフィーも一斉に必殺技を放ち、ティガに加勢する。
3つの光は混ざりあって1つになり、グランドキングの体表で大爆発を起こした。
唯「いいよー!効いてるよー!」
律「すげえ、さっきより動きが断然よくなってる!」
紬「もう一声よ、梓ちゃん!」
澪「負けるなー!ウルトラマァァン!」
『トァッ』
『シュワッ』
『デアッ』
三人のウルトラマンがお互いに顔を見合せ、一斉に頷く。
もう、恐れるものは何もない。
『タロウ!受け取れ!』
『ハァァッ!』
ゾフィーとティガが一斉にエネルギーをタロウの角に送り込んだ。
ゾフィーの静かながらも澄んだ光。
ティガの希望に満ち溢れた輝かしい光。
そして――その中に、あの放課後の暖かい光。
様々な光が混ざりあい、私の中に入ってくる。
梓「光が……光が、私の中に!」
二人のウルトラマンがタロウと一つになる。
数多の光を受けて、全身が太陽のように輝き出した。
『おのれェェ!どこまでも邪魔しやがって!!貴様ら……絶対に許さんぞ!!』
梓「それはこっちのセリフよ!私達の大切なものを踏みにじって!!」
最終更新:2014年03月28日 07:53