【第一話】


 ‐講堂‐


エリ「ねえ、アカネ」

アカネ「うん?」

エリ「今日さ、ちょっと付き合って欲しいんだけど」

アカネ「時間空いてるし、いいよ。どこに行くつもりなの?」

エリ「本屋に行こうと思ってるんだけどねー」

アカネ「えっ? なんて言ったの?」

エリ「だーかーらー、本屋だよ! 本屋!」

アカネ「……エリ、なにか根本的に勘違いしてない?」

エリ「えっと、なにを?」

アカネ「だって、本屋にコーラは売ってないんだよ」

エリ「いや知ってるよ」

アカネ「それと大仏も売ってないんだよ」

エリ「流石にどこにも売ってないよ!」


アカネ「だってエリの趣味って、それぐらいでしょ?」

エリ「流石に三年生だし、勉強の一つぐらいするわ!」

エリ「それに、私の趣味はコーラと大仏だけじゃない……。
 私たちは二年間、アレを続けてきたじゃないか!」

アカネ「部活のこと?」

エリ「そう、私たちは誇り高き、桜高バレー部!」

エリ「……そうでしょ?」

アカネ「まあそうだけど。“誇り”があったかは別としてね」

エリ「伝統ある部活だし、“埃”はあるかもね!」

アカネ「……」

エリ「……」

アカネ「……あー、積もるほうね」

エリ「アカネ、冷たいよ!」

アカネ「あんたのギャグの方がよっぽど寒いよ……」

エリ「まあいいよ。そんなクールビューティなアカネには」

アカネ「聞いてる?」

エリ「我ら桜高バレー部が総力をあげて、熱い青春を過ごさせてあげるからね!」

アカネ「いや、私もバレー部なんだけど」

エリ「細かいことは気にしないもんさ」

エリ「カモン! 桜高バレー部!」

アカネ「えっ?」


 「ガタッ」


三花「遅いよ、エリ〜。待ちくたびれちゃった〜!」

アカネ「わざわざ待機してたんだ……」

とし美「でも、ついにこの時が来たのね……!」

アカネ「感慨深げなところ申し訳ないけど、なんの時?」

まき「大丈夫だよアカネちゃん、心配しないで。
 きっと、なんとかなるから!」

まき「……きっと!」

アカネ「その言葉のおかげで余計に心配だよ」

エリ「ふふ、アカネがいい具合にノリノリになってきたところで、
 メンバー紹介といこうではないか!」

アカネ「どちらかといえば引いてるんだけどなあ」

エリ「一人目! 我らが桜高バレー部の部長!」

エリ「ツインテールがトレードマーク!
 その髪色に負けないほどに明るく、人懐っこい性格のー……」

エリ「佐伯三花ー!」

三花「ども〜!」

アカネ「本当にこのまま紹介始めちゃうの……?」

エリ「続いて二人目!」

エリ「おっとりしてて、おおらかな性格!
 それなのに、いざ怒らせてしまえば、まさに鬼神のような……」

エリ「中西とし美ー!」

とし美「よろしくお願いしまーす!」

アカネ「とし美、今こそ怒ってもよかったんだよ?」

エリ「お次は三人目!」

エリ「お団子頭に、幼さを残した顔立ち。
 その身長ももちろん小さい! バレー部随一の子供の〜」

エリ「和嶋まきー!」

まき「どうもどうもー」

アカネ「まきも間違いなく怒っていい」

エリ「続いて四人目は!」

エリ「頭脳明晰、容姿端麗……だったら良かった!
 コーラと仏像とバレーを愛する元気少女……」

エリ「そう私! 瀧エリでございます!」

アカネ「ああ、仏像好きの部分で確実に引かれてるよ……」

エリ「そして最後はこの人!」

アカネ「えっ、私がトリなの?」

エリ「綺麗な黒髪に、大人しい顔立ち。
 さらに長身で、色々と羨ましい要素が詰まってる子!」

エリ「ついでに私の一番の仲良し!」

アカネ「ちょ、ちょっと!」

エリ「それこそ、佐藤ア〜カ〜ネ〜!」

アカネ「え、えーと……」

アカネ「……どうも、佐藤アカネです。
 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」

アカネ「私たちバレー部は見てのとおり、くだらないことをしたりします。
 ですが、練習はかなり真剣です」

アカネ「楽しい雰囲気も忘れず、一生懸命で素敵な部活ですので……、
 ちょっとでも気になった方は、是非来てみてください!」


 「ぱちぱちぱちぱち」


和「はい、バレー部の皆さん、ありがとうございました。
 では、次の部活紹介に……」


 ‐三年二組教室‐


三花「みんな、お疲れさま! 結構良かったんじゃない?」

エリ「三花もそう思う? 実は私もなかなかの出来だと思ったんだよね〜」

アカネ(……確かに無事、新歓祭での部活紹介は終わった。
 それなりに盛り上がってくれたし、悪くは無かったように、見える)

まき「どうしたのアカネちゃん?」

アカネ「ただ……」

まき「タダ?」

アカネ「“ついでに私の一番の仲良し!”なんて台詞、台本には無かったよ!?」

エリ「……あれー、そうだったかなー?」

アカネ「アドリブは収集つかなくなるから出来るだけ止めてって、言ったよね!」

とし美「エリのことだから、もっと前から決めてたんじゃない?」

エリ「おっ、とし美は良くわかってるね」

エリ「そうなんだよアカネ」

エリ「実は私の心の台本には、その台詞がしっかり書いてあったんだよ……」

アカネ「どっちにしろ、前もって相談して欲しかったよ!
 本当に私、恥ずかしくて台詞飛びそうになったんだからね!?」

まき「そっかー、エリちゃんとアカネちゃんは本当に仲良しだからねー」

アカネ「へっ?」

まき「あれ、違うの? だって言葉自体の否定はしなかったようなー……」

アカネ「……え、えっとね、それは確かに、否定するような内容じゃないけども……」

三花「……まき、グッジョブ〜!」

まき「おー、ぐっじょぶ!」

アカネ「うー……」

とし美「……さて、二人の仲が再確認できたことだし、帰ろっか?」

三花「そうしよっか。ほらアカネもしっかりして。先に行ってるからね?」

アカネ「……」

エリ「おーい、アカネー? 早くしないと先に帰っちゃうよー?」

アカネ「……ふ、ふふ」

エリ「ん?」

アカネ「いや、なんでもないよ。なんでも」

エリ「本当? なら、いいんだけどさ」

アカネ「大丈夫だよ。じゃあ帰ろうか、“一番の仲良しさん”」

エリ「ぐおっ!」

アカネ「なにその反応?」

アカネ「い、いやいやそのね……」

アカネ「……改めて言われると、なんか恥ずかしいもんだね!」

アカネ「ああ、そのことかー。別に気にしなくていいんだよ?」

アカネ「“一番の仲良しさん”!」

エリ「ねえアカネ、そろそろご勘弁を……」

アカネ「ほら、三人とも教室出て行っちゃうよ、“一番の仲良しさん”?」

アカネ「早く行かないと置いてかれちゃうよ、“一番の仲良しさん”?」

エリ「もう止めてってば! 恥ずかしい、恥ずかしすぎるから!」

三花「……まだ終わらないの〜? 早くしないと本当に先に行っちゃうよ?」

アカネ「あっ、待って!」

三花「全く、いい加減にしなよバカップルども〜」

エリ・アカネ「はあっ!?」

エリ「いやいや、私達いつの間にバカップル扱いなのさ!?」

三花「新入生の前で大胆告白したじゃ〜ん?」

エリ「あれは違うってば!」

三花「へえ、そうなんだ? じゃあエリにとってのアカネは、何なのかな〜?」

エリ「え、えーとそれは……」

エリ「……アカネ?」

アカネ「えー……ここで私に言わせるの?」

アカネ「そうね……」



アカネ「一番の“親友”?」



三花「……」

とし美「……」

まき「……」

エリ「こ……」



エリ「……この場でトドメを刺すなあああ!!」



第一話「桜高バレー部の新歓」‐完‐




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最終更新:2014年04月06日 15:04