【第二話】


 ‐三年二組教室‐


アカネ「ふう……」

三花「ハロ〜!」

アカネ「ああ三花、おはよう」

三花「ノンノン。ハローって言われたらハローって返さなくちゃ!」

アカネ「なにその理屈……」

三花「いくよ? リピート、アフタ、ミー!」

三花「ハロ〜!」

アカネ「……は、はろ〜」

三花「イエース、グッド! ベリーグーッド!」

アカネ「本当に何がやりたいの」

三花「全く、アカネはわかってないなあ。
 多種多様の挨拶に対応出来てこそ、今を生きる現代人だよ?」

アカネ「そんなスキル、現代の女子高生に求められてるとは思えないんだけど」

まき「おはよー」

三花「あっ、まき、はろ〜!」

まき「三花ちゃん、はろ〜」

三花「……ねっ?」

アカネ「さも自分が正しいみたいな顔しないでよ」

まき「ねっ?」

アカネ「まきもよくわかってないのに乗ってこないの」


  *  *  *


三花「というわけで、バレー部の新しい挨拶を作ろうと思うの」

アカネ「ゴメン、どこに作る理由があった?」

三花「私たちはもう三年生、つまり部全体を引っ張っていく立場でしょ。
 それなら、引っ張っていくための合言葉を一つぐらい開発した方がいいかなって」

アカネ「それで挨拶に行き着けるのは流石と言っておくわ……」

三花「そこで、なにか質問のある人はいるかな?」

まき「はい!」

三花「まき、どうぞ!」

まき「その挨拶は本当に必要ですか?」

アカネ「早速核心に触れてるね」

三花「うん、必要だよ〜」

三花「何故なら私たちはバレー部」

三花「どんなくだらないことにも、
 必死に立ち向かう人たちの集まりなんだから!」

アカネ「そんな集まりだったの!?」

まき「なるほど……」

アカネ「そして納得しちゃうの!?」


  *  *  *


三花「よし、まず朝の挨拶を決めよっか!」

アカネ「最低でも三つの挨拶を作る気なんだね……。
 頭痛くなってきた……」

アカネ「……いや、というかだよ。
 もはや私が話し合いに参加しなくても、大丈夫だよね?」

まき「えぇっ!?」

アカネ「そんなに驚くことなの!?」

まき「同じバレー部とは思えないよノリだよ……」

アカネ「ああ、やっぱり私達はノリの良さで集まってることになってたんだね」

三花「大丈夫だよ、まき。
 こう見えて最終的にはノリノリになるのが、アカネだから」

まき「そうだねー」

アカネ「えっ、私って、そんなキャラだった?」

三花「自覚無いんだね、それでこそアカネ!」

アカネ「あー、はいはい。
 そうやってテキトー言って、私のこと乗せようって魂胆でしょ?」

アカネ「私だって、そんな単純な策に嵌まるわけ……」


  *  *  *


アカネ「……やっぱり、朝の挨拶は爽やかさが大事だと思うよ」←ノってきた

まき(アカネちゃん……)

三花「じゃあ例えばこんな感じかな?」

三花「ハロッす!」

アカネ「何それ?」

三花「ハローと、爽やかな後輩の挨拶“おはようっす”の組み合わせだよ〜」

アカネ「男の子っぽいかな」

まき「女子校なのに?」

三花「でも、この前、柔道部の一年生がこの挨拶使ってたよ?」

まき「女子高生なのに?」

アカネ「それは流石に失礼だよね」

まき「まあ爽やかさを求めるなら、あれだよ。
 暑い夏すらを感じさせない、そんな涼やかさが必要だと思うよ!」

三花「暑さを感じさせない……つまり寒いことを言うの?」

アカネ「行く度寒い言葉をぶつけられる部活、なんか嫌だな……」


  *  *  *


三花「審議の結果、朝の挨拶はこれでいくことにしました」

三花「……“ハロッ”!」

まき「はろっ!」

まき「おー、確かにたったの二文字の挨拶なら、
 忙しい朝でも簡単に出来るかもしれないね」

まき「しかも爽やかさも忘れずに盛り込めてるよー」

三花「でしょ? ハロッ!」

まき「はろっ!」


 「ガチャッ」


とし美「二人とも、おはよー」

三花・まき「ハロッ!」

とし美「え、えっと……」

とし美「……はろー?」

三花・まき「ノンノンノン」

とし美「……どういうこと?」

アカネ「私に聞かないで」


  *  *  *


とし美「なるほどね、部を引っ張っていくための合言葉を」

三花「うん、そうだよ〜」

とし美「……それで三花、新しい練習メニューは考えてあるの?」

三花「へっ?」

アカネ「こら部長」

とし美「挨拶より、そっちを優先してほしいな」

とし美「出来れば二年生用のメニューは二年生と一緒に考えてさ。
 来年三年生の子たちに、ノウハウを教えておきたいでしょ?」

三花「……もうとし美が部長で良いような気がしてきた」

まき「ああ、三花ちゃんが私より小さくなってるよー……」

アカネ「いや、それはないよ」

とし美「ないね」

三花「ないない」

まき「みんなして何が言いたいの!?」


  *  *  *


とし美「私たちは五月後半に、インターハイ予選を控えてるんだからね。
 あまり時間は残されていないよ」

三花「先に顧問と相談した方がよさげだね。
 部活が本格的に始まる前に、いくらか話はしておくよ」

とし美「ん、お願いね。
 新入生のメニューはこっちである程度決めても大丈夫?」

三花「良いよ良いよ〜、どんどんやっちゃって〜」

とし美「りょーかい」

まき「……」

アカネ「どうしたの、まき。急に黙り込んじゃって」

まき「インターハイで、三年生は引退なんだよね」

アカネ「そうだね」

まき「最後まで勝ち上がったとしても、夏でおしまい。
 本当、思ったより時間が残ってないんだなって思うと……」

アカネ「まき……」

まき「私の身長も限界なのかな……」

アカネ「えっ」

まき「高校生活でどれだけ伸びるのか、期待してたのに……」

アカネ「……」

アカネ「あのさ、まきにはとっても言い難いことなんだけど」

アカネ「女子の成長期って、十六歳ぐらいまでよ」

まき「……えっ?」


  *  *  *


エリ「おはよー!」

アカネ「おはよう、エリ」

まき「……」

エリ「まき? どうしたの?」

まき「エリちゃん、私はもう駄目だよ……」

エリ「なにが?」

まき「私のバレー生活は、これまでってことだよ……」

エリ「えっ!?」

まき「これ以上の成長が無いんじゃ、バレーを続ける意味もないよ!」

アカネ(身長伸ばすためにバレーやってたの!?)

エリ「まき、そんなこと言わないで」

まき「でも!」

エリ「聞いて」

エリ「私たちは二年間、ここまで一緒に頑張ってきた。
 だからさ、まきの色々なことも沢山わかるんだ」

まき「一体、私のなにがわかるの……?」

エリ「それはね……」

エリ「その小さな身体に秘められた、大きな可能性だよ」

まき「……」

エリ「……」

アカネ「……」

エリ「……あれっ?」



まき「エリちゃんの馬鹿ーーー!!」

エリ「えぇっ!?」

アカネ(あーあ……)



第二話「桜高バレー部の小人」‐完‐




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最終更新:2014年04月06日 15:19