【第三話】


 ‐三年二組教室‐


三花「おはよ〜!」

とし美「三花、ハロッ!」

三花「えっ?」

とし美「……嫌な予感はしてたよ」

エリ「おっはよー!」

三花「おおエリ、オハロ〜!」

とし美「いやいやいやー……」


  *  *  *


三花「今日はバレー部のキャッチフレーズを作ろうよ」

とし美「挨拶はさっさと捨てていたのに?」

三花「……遥か昔より桜高バレー部は続いてきた」

とし美「えっ?」

三花「それは一人でも多くの部員を集めようと努力した、私たちの先輩の功績だ」

とし美「……まあその通りだね」

三花「つまり私たちも守らなくてはいけない。このバレー部を……!」

とし美「それで?」

三花「バレー部のキャッチフレーズを作ろうよ!」

とし美「挨拶の時もそうだけど、よくそんな発想になるよね」

エリ「ちっちっちっ。とし美はわかってないよ。
 印象に残るキャッチフレーズは、非常に重要なんだよ」

三花「例えば囲碁部だよね〜」

エリ「うん、囲碁部のキャッチフレーズは深いよ」

エリ「“囲碁とは、宇宙である”……!」

三花「か〜っこいい〜!」

とし美「……ま、まあ、印象深いキャッチフレーズで、
 新しい部員を引き付けるっていうのは、アリかもしれないね」

三花「でしょ? 流石とし美、理解が早いんだから〜!」

とし美「でもそれ、新歓祭の前に考えるべきだったね」

三花「あっ」


  *  *  *


三花「うーん……」

とし美(思った以上にショックを受けてしまっている……)

三花「惜しいことをしてしまったよ……」

とし美「えっと、キャッチフレーズのことだよね?」

三花「これじゃ私、部長失格だね」

とし美「なにもそこまで深刻に受け止めなくても」

三花「とし美は優しいね……。でも、これは私の責任なんだよ」

エリ「三花、一体なにをするつもりなの……?」

三花「私、最低でも今の二年生以上の一年生を集めたい。
 そのための案を、これから必死に考えることにするよ」

三花「どれだけ私の時間が削られようとも!」

エリ「そんなに本気なんだね……」

とし美「……三花、ちょっと待って。
 部員を集めたいという気持ち、それは私も同じよ」

とし美「三花が必死になるなら、私も必死になる。
 だって、私も同じことを成し遂げたいと思ってるからね」

エリ「うん、私も。出来る限り、三花を手伝うよ」

三花「そんな、二人に付き合わせるのは悪いよ……」

とし美「三人集まればなんとやらって言うでしょ」

とし美「エリ程度の頭脳でも、頭数には含まれるはずだしね」

エリ「……んっ?」

とし美「どうしたのエリ?」

エリ「いや、なんだか……釈然としないというか……」

エリ「……まあいっか。私も協力するよ、三花」

三花「二人とも、本当にありがと!」


  *  *  *


とし美「よし。それじゃ具体的な目標から立てようか」

とし美「今の二年生の数は七人。
 つまり三花の理想を目指すなら、最低で八人を集めないとね」

エリ「八人かあ……」

とし美「そこで、まず第一の案だけど……」

唯「三花ちゃーん!」

三花「んっ、どうしたの、唯ちゃん?」

唯「お届け物だよ〜」

三花「お届け物? 誰から?」

唯「教室の前にいた子たち。一年生だったよ〜」

とし美「へえ、一年生が?」

唯「うん! 教室に入るのに緊張してそうだったから、
 私が代わりに受け取ってあげたんだ〜」

とし美「えーと、入部届けね……」

とし美「……ん? “入部届け”?」

唯「良いなあ、こんなに後輩が入ってきてくれて!
 一気に八人だよ、“八人”! 」

三花「えっ」

とし美「……」

エリ「軽音部はまだ一人も入ってきてないの?」

唯「うん。でも、今の五人だけでも、
 十分なんじゃないかなあとも思ってたりして〜」

エリ「そっかー。そういう考え方も、あるかもね」

唯「それでも去年よりパワーアップするからね!」

エリ「よーし、期待してるよ、軽音部!」

唯「バレー部も、期待してるからね!」


  *  *  *


エリ「ふう、一先ず部員が集まって安心だね」

三花「……」

とし美「……」

エリ「あれ、二人ともどうしたの?」

三花「……この気合のやり場を、どうしたものかと思ってね〜」

とし美「うん、なんというかね。タイミングがね」

エリ「んー……それなら、部活で発散すればいいんじゃない?」

三花「部活……」

とし美「部活、ね……」


 ‐体育館‐


まき「……」

後輩A「あの、まき先輩」

まき「なにー?」



三花「うりゃああああ!!」

とし美「そりゃああああ!!」

三花・とし美「おんどりゃああああ!!」



後輩A「あの二人には何があったんですか」

まき「さあ……」

まき「でも、一つだけわかることは」



まき「二人はもう、私たちの手に負えないってことだよ」

後輩A「ああ、それならわかります……」



第三話「桜高バレー部の気合」‐完‐


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最終更新:2014年04月06日 15:22