【第四話】


 ‐三年二組教室‐


エリ「アカネはウィキペディアって知ってる?」

アカネ「えっ?」

エリ「あれ、まさか知らないの?」

アカネ「いや、今更なにを質問するのかなーって。
 知ってるよ、たまに使うし」

エリ「そうだよね、たまに使うよね」

アカネ「うんうん」

エリ「あのマジカルバナナーご用達サイト」

アカネ「ごめん、そのウィキペディアは知らない」


  *  *  *


エリ「では私の知るウィキペディアを教えてあげよう」

アカネ「いや、別に興味ないんだけど」

エリ「えっ……」

アカネ「え?」

まき「……あー、アカネちゃんがエリちゃんを泣かせたー」

アカネ「えっ」

エリ「うう……」

まき「可哀相なエリちゃん……」

アカネ「私が悪者なの? 何で?」

まき「ううん、違うよ。アカネちゃんは悪者なだけじゃないよ」

まき「エリちゃんを慰められる唯一の存在だよ」

アカネ「大層な役割押し付けた挙句、結局私を悪者にしてるよね?」

まき「別に大層な役割じゃないよ?」

アカネ「そっちを否定するんだね」

エリ「……ねえ、そろそろ慰めてくれない?」

エリ「私一人が勝手に落ち込んでるみたいで、寒いじゃん!」

アカネ「エリにとってはいつも通りでしょ」

エリ「……うえーん、本当にアカネが虐めるー!」

アカネ「どうすればいいのよ、面倒な……」

まき「アカネちゃん、ファイト!」

アカネ「全力で責任を丸投げしてきたね、まき」

アカネ「……あー、エリの話がとーっても気になるなー」

エリ「……」

アカネ(流石に棒読みすぎたかな……。こんなんじゃ、エリも満足してくれな……)

エリ「よっし、教えてあげよう!」

アカネ「良かった、エリはエリだった」


  *  *  *


エリ「ウィキペディアのページには、多数のリンクがあるのはいいかな?」

アカネ「説明文中に沢山あるね」

まき「私、そっちのリンクが気になって、
 元々の調べ物が手につかないことあるんだよね」

エリ「あそこは良くも悪くも情報の宝庫、
 まきみたいに釣られてしまうのは仕方ないことだよ」

まき「どうにか誘惑に負けないようにはしてるけど……」

エリ「ふふっ、それが高度な知的生命体に生まれた、
 私たちの悲しいサガってもんよ……」

アカネ「突然で悪いけど、サガって漢字で書ける?」

エリ「えっ?」

アカネ「えっ」

まき「えっ」

エリ「……」

アカネ「知らないなら正直に言いなよ?」

エリ「わ、私が知らないわけあるもんか!」

アカネ「本当?」

エリ「……これだっ!」


 【差我】


アカネ「……どうしてそんな字を自信満々に書けるの」

エリ「違うの!?」

アカネ「知らないならそう言えばいいって言ったのに……」

エリ「……ま、まあ、それはさておき!」

まき「さておきー。“性質”の“性”だけどさておきー」

アカネ「まき正解」

まき「やったね」

エリ「二人とも性格悪いよ!!」


  *  *  *


エリ「それでウィキペディアは、この多数のリンクを辿って、
 全く別のページから目的のページに行くサイトなんだよ」

アカネ「そういうサイトではないわけだけど、例えばどうするの?」

エリ「例えばスタート地点をコーラのページにして……」

エリ「まき、何でもいいから目的のページを言ってみて」

まき「んー……バレーボール!」

エリ「おお、私たちらしいゴール地点だね!」

まき「えへへ……」

アカネ「それで、コーラのページからリンクを辿って、
 バレーボールのページまで行くってこと?」

エリ「そそ、理解が早くて助かるよ」

エリ「ただ闇雲に辿るのはダメ。どうやれば最短で着くか、考えるんだよ」

アカネ(だからマジカルバナナなんだ……)

エリ「ちょっと考えさせてね」

エリ「うーん、今回はまず……」

アカネ「……」

エリ「んと……」

アカネ「……」

まき「勉強にもこれぐらい真剣に取り組んでくれたらなー」

まき「……って思った?」

アカネ「良くわかってるね」

まき「アカネちゃんのことだからねー」

アカネ「案外私も単純なのかもね、ふふっ」


  *  *  *


エリ「はいっ、整いました!」

まき「では。コーラとかけまして」

エリ「バレーボールとときます」

まき「その心は?」

エリ「どちらも私が大好きでしょう!」

まき「おー、確かに」

エリ「ふっ、これが私の実力というもんよ……」

エリ「で、アカネどうだった?」

アカネ「えっ?」

エリ「今の謎掛け、どうだった?」

アカネ「いや、どうしようも無いよ……。元の話題と関係無いじゃん」

エリ「ちっちっちっ」

エリ「そうでもないんだよね、これが」

エリ「だって仮に“瀧エリ”というページがあれば、
 私は最短でバレーボールのページに辿り着けるじゃない?」

エリ「つまり謎掛けはマジカルバナナと同じ発想なんだよ!」

まき「なるほどー!」

アカネ「……で、エリのページなんてあるの?」

エリ「ないね」

アカネ「結局謎掛けにはなんの意味も無かったよね!?」

まき「……コーラ、清涼飲料水、スポーツドリンク、スポーツ、バレーボール」

まき「の順番で行けないかなー?」

エリ「まきは天才か……!」

まき「いえいえ、それほどでもー」

エリ「……では、いざアクセス!」


  *  *  *


エリ「着いたー!」

アカネ「うん、お見事」

エリ「まき、凄いよ! クィーン・オブ・ウィキペディアと呼ぶに相応しいよ!」

まき「なんか、あまり嬉しくない称号だね」

アカネ「誤った知識も沢山蓄えてそうね」

まき「独自研究を一般論みたいに発信しちゃったり?」

まき「あっ、私、日本版を使ってるから尚更かも?」

エリ「マジカルバナナーご用達サイトを悪く言うな!」

アカネ「だからそのウィキペディアは知らないって」

アカネ「あと聞き過ごしてたけど、マジカルバナナーってなに?
 伸ばすことに意味はあるの?」

まき「スイマー、みたいな?」

アカネ「ああ、そういうことか……」


  *  *  *


三花「それでマジカルバナナ専用サイトの話してたんだね〜」

アカネ「……もうそれでいいや」

エリ「今度はバレーボールから仏像に、どうやれば行けるか模索中なんだよ!」

三花「“瀧エリ”ってページがあれば一瞬だったのかな?」

エリ「全く、惜しまれるよ」

エリ「もし私が世界デビューしていたら、現代の世界三大美少女として、
 ウィキペディアにページだって作られていたろうに」

アカネ「えっ?」

まき「エリちゃん……」

エリ「そんな憐れむような目で見ないでよ! 冗談に決まってるじゃん!」

三花「むしろ、一大傲慢少女にはなれそうだよね〜!」

まき「流石エリちゃん!」

エリ「どんなに馬鹿でも、馬鹿にされてることは気付くからね?」


  *  *  *


とし美「それで、そんなしょうもないことを?」

エリ「失礼な! 私たちは真剣なんだよ!」

アカネ「えっ」

三花「えっ」

まき「えー」

エリ「えっ?」

アカネ「いや、私は含まないでよね」

三花「私も別に真剣じゃないかな〜」

まき「私も三花ちゃんに同じく!」

エリ「……」

とし美「真剣に?」

エリ「……わ、私は真剣なんだよー!」

とし美「あまりに哀れだよ、エリ……」

とし美「しかも、その程度ならバレーボール、日本、仏教、仏像」

とし美「の順番でいけるんじゃない?」

まき「バレーボールから日本に飛べるの?」

とし美「日本版だしね」

アカネ「もはやマジカルバナナ専用サイトとしての立場も、危うくなってるね」

三花「元々そんなサイトじゃないしね〜」

アカネ「どの口が言うの」

とし美「ま、こんな所でこの話題は終了しよ。
 それよりも部活のことで話があるんだけどさ……」

エリ「……み」

アカネ「どうしたのエリ?」

エリ「認めてたまるかあああー!」

アカネ「何を!?」

エリ「とし美! 今日の部活に特別ルールを盛り込むからね!」

とし美「えっと……、なにをどうするつもり?」

エリ「今日の練習試合、マジカルバナナを並列させて行うんだよ!」

エリ「ルールは簡単。相手のコートに返す度にその言葉を言うだけ」

エリ「ただしマジカルバナナ専用サイトを馬鹿にしたとし美と違い、
 私はウィキペディアを資料として用いることを認める!」

とし美(自らに有利なルールを)

三花(自ら用意したゲームで)

アカネ(作っちゃったよ……)

エリ「決行は今日。覚悟しなよ、とし美!」

エリ「ハーハッハッハッ!」


  *  *  *


アカネ(エリは席に戻っていった)

アカネ(まるで勇者の凱旋みたいな雰囲気を漂わせて)

アカネ(今も誇らしげな顔で自席に座っている)

まき「アカネちゃん、アカネちゃん」

アカネ「ん?」

まき「ウィキペディアを用いながらバレーボールって」

まき「実は普通にするより不利だよね?」

アカネ「うん、まあ携帯電話片手だからね」

アカネ「……でも、エリはいいんだよ」



アカネ「あの子は何も考えちゃいないから」

まき「なるほど、エリちゃんなんだねー」



第四話「桜高バレー部の用語」‐完‐


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最終更新:2014年04月06日 15:23