【第六話】


 ‐新幹線車両内‐


まき「おー、富士山だ!」

まき「反対側の窓だけど」

三花「帰りには見れるかな?」

とし美「帰りも三人席と二人席の位置は変わらないから、
 結局見れないんじゃない?」

三花「そうなんだ、残念」

まき「それでも、修学旅行って感じがしてきたね!」

とし美「そうね」

三花「私、夜更かしが楽しみになってきたよ〜」

とし美「……もっと違うところに楽しみを見出だせないの?」

とし美「しかもそれ、修学旅行じゃなくてもいいじゃない」

まき「違うよ、とし美ちゃん」

まき「修学旅行の夜更かし、
 それは普段の夜更かしと全く違ったものなんだよ」

三花「まくら投げ、暴露話、なんでも出来てしまう、夢の時間なんだよ〜」

とし美「……やっぱり修学旅行でなくても良くない?」

三花・まき「ノンノンノン」


  *  *  *


とし美「一日目はクラス単位での行動で、二日目が自由行動」

とし美「……この自由行動の計画、苦労したよね」

まき「主にエリちゃんがねー」

とし美「エリの仏像好きが、ここにきて爆発してたね」

三花「西側と東側、どっちを取るか悩んでたんだっけ」

まき「エリちゃんいわく」

まき「“皆で行くならメジャーな所がいいよね……”」

まき「“あーでも、西側も東側も行ってたら時間が無くなっちゃう”」

まき「“皆の意見は取り入れたい、
 だから私個人の行きたい寺巡りで時間を埋めるわけにはいかない”」

まき「“でもそうなるといくつかの寺は拝観できなくなる……”」

まき「“うわー、どうすればいいんだー!”って」

とし美「エリだけ個人行動すればいいんじゃないってレベルね」

三花「予定表出すとき、エリ言ってたよ〜」

三花「“ああ、一日が四十八時間だったら”」

とし美「寺何個回るつもりだったの!?」


  *  *  *


まき「そういえばエリちゃんたち、どこにいるんだっけ?」

三花「ほら、後ろで圭子ちゃんたちと話してるよ〜」



エリ「私が思うに、まきの小ささは中学生に匹敵すると思うんだ」

圭子「えー、それを言ったら、しずかなんて小学生だよー?」

しずか「ちょっと圭子!?」←前の座席に座っている

圭子「ほら、辛うじて席の背もたれから、ちょこんと顔を出せてる感じ」

エリ「これが限界なの?」

圭子「そう」

しずか「限界じゃないよ! もうちょい頑張れるよ!」

エリ「うん、これは負けを認めざるを得ないよ」

アカネ「どっちかというと、まきの勝ちじゃないの?」



とし美「今、まきって言ってなかった?」

三花「私も、それだけ聞こえたよ」

まき「なんでだろう、突然不安感に襲われてきたよ」


 ‐バス車内‐


まき「ねえねえアカネちゃん」

アカネ「ん?」

まき「さっき新幹線で私のこと話してなかった?」

アカネ「あれ、聞こえてたの?」

まき「私の名前が聞こえただけかなー」

アカネ「そっか」

アカネ「あのね、まきは小さいけど、
 流石にしずかちゃんには勝ってるよねって話をしてたの」

まき「なるほどー」

まき「そんな当たり前の話をしていたんだね!」

しずか「当たり前って言わないで!」←後ろの座席に座っている


  *  *  *


とし美「これから金閣寺だっけ」

三花「そうだよ〜」

とし美「はあ」

三花「どうしたの?」

とし美「どうせ二日目の自由行動で、寺はいくつも回るんだしさ」

とし美「一日目から寺を見なくても良くないかなって」

三花「私は金閣寺楽しみだよ〜?」

とし美「一応、私も興味あることはあるよ」

とし美「それに、歴史に触れることが無意味とも言わない」

とし美「でも私は、他の歴史に興味があるのよ」

三花「なんの歴史?」

とし美「マリオ」

三花「個人旅行で触れるべきだね」


 ‐金閣寺‐


まき「金ピカだよ!」

三花「もうちょっと近づけると思ったけど、そうでもないんだね〜」

まき「銀閣寺はもっと近づけるらしいよ?」

三花「でも銀閣寺は言うほど銀じゃないし……」

まき「色を取るか、距離を取るか。難しい選択だねー」

三花「……あっ、良い方法を思い付いたよ!」

まき「なになに?」

三花「銀閣寺を銀色に染めればいいんだよ〜!」

まき「おお、それなら色も距離も完璧だね! レッツ銀閣寺!」

三花「レッツ、銀色のスプレー!」

エリ「止めてえええ!」


 ‐北野天満宮‐


エリ「北野天満宮といえば……」

アカネ「私たちの味方、学問の神?」

エリ「そう! 受験生である私たちが訪れない手はない場所だよ!」

三花「私、今だけなら神さまを心から信じられるよ〜」

アカネ「なんて現金な……」

エリ「それでも、こうして信仰を集めるだけの力が、ここにはあるんだよ」

とし美「……あっ、あそこにも露骨に信仰してる人たちが」



和「ほら、このお宮のあちこちに牛がいるでしょ。
 この牛の頭をこうやって撫でるとね、頭が良くなるって言われてるの」

唯・律「へえっ!」

和「……?」

唯「よしよしよし!」

律「ほーれほれほれ、ここかーここかー!」

澪「お、おい律……」

さわ子「コラあッ!」

唯・律「ひい!」



三花「……軽音部は面白い人たちで一杯だね」

まき「噂では後輩も同じぐらい面白いらしいよー」

アカネ「それは後輩が先輩たちに毒されたのか、元々そうだったのか……」

エリ「素質はあったんじゃない?」


  *  *  *


三花「絵馬買ってきたよ〜」

アカネ「それじゃ、みんなで書き込もっか」

エリ「うーん」

とし美「どうしたの?」

エリ「受験とバレー、どっちを取るべきか悩んでるんだよ」

とし美「ああ、確かに難しい問題だね」

まき「……それならこうすれば?」


  *  *  *


エリ【大学合格! 満足のいく結果を!】
アカネ【志望校合格】
三花【志望校に合格! 新しい道へ前進できますように】
まき【志望校合格&無病息災】
とし美【志望校絶対合格する!】



一同【バレー部のみんなが楽しく過ごせますように】



まき「欲張りすぎたかな?」

アカネ「ううん、これぐらいが私たちにはピッタリだよ」

まき「……そうだね!」


 ‐旅館‐

 ‐バレー部班の部屋‐


エリ「ふ〜、到着!」

三花「みんなお疲れ様〜」

とし美「アカネ、この後の予定わかる?」

アカネ「一時間自由に過ごしたら、食堂で晩御飯ね」

エリ「お菓子食べよー?」

まき「いいよー」

アカネ「あんたら人の話聞いてる?」


  *  *  *


エリ「んー、食った食った〜」

アカネ「あれだけお菓子食べておいて、良く入るね」

エリ「このお腹にとって、お菓子は別腹だからね」

アカネ「お腹見せないの、みっともない」

三花「エリは家の中では親父っぽくなる人なんだね」

エリ「えっ」

とし美「ああ、外と家の中じゃ、キャラがまるで違うっていうね」

アカネ「あるある」

まき「多分エリちゃんはお風呂入った瞬間」

まき「ぷはあ、生き返るわあ〜」

まき「って言うタイプだよね」

アカネ「定番ね」

三花「良かったねエリ、これで順調にキャラが定着するよ〜」

エリ「もとより親父キャラを定着させる気はないよ!」

とし美「ほら、この“自称”女子高生は置いといて、さっさと準備しちゃいましょ」

エリ「私は生粋の女子高生だってば〜!」


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最終更新:2014年04月06日 15:28