‐風呂‐
エリ「う〜ん、生き返るぅ〜!」
アカネ「……わざと言ってるの?」
まき「きっとこれが自然体なんだよー」
とし美「自然と親父キャラを定着させてるってわけね」
エリ「別に親父じゃなくても“生き返る”って言わない?」
三花「エリはわかってないよ」
三花「例えばまきが」
まき「生き返るよ〜」
三花「って言っても親父じゃないけど」
三花「エリが」
まき「生き返るよ〜」
三花「って言うと親父になるんだよ」
三花「わかった?」
エリ「まるでわからないよ!?」
‐バレー部班の部屋‐
まき「さっぱりしたねー」
アカネ「そうだね」
アカネ「……」
まき「アカネちゃん?」
アカネ「いや、髪下ろしたまきって珍しいなあって」
まき「だからって凝視しないでよー、恥ずかしいよー」
三花「うん、少しだけ大人びたように見えるね〜」
まき「そうかな?」
アカネ「うん」
アカネ「まるで高校生みたい」
まき「元々そうだよ!」
三花「まき、嘘は良くないよ〜」
三花「いつもは中学生でしょ?」
まき「私たち同級生のはずなんだけどなー」
アカネ「この見た目なら、あの子(後輩B)に年下扱い受けないかもしれないね」
まき「あっ」
アカネ「ん?」
まき「それは盲点だったよ、アカネちゃん!」
アカネ「えっ」
まき「早速試してみよー!」
三花「ちょっと待ってね」
三花「エリ、とし美! 写真撮ろ!」
* * *
三花「タイマーセット完了〜」
とし美「まきの珍しい姿を収められるね」
まき「なんか恥ずかしいよ」
エリ「んー、まきの髪下ろした姿も珍しいけどさ」
エリ「三花の髪下ろしたのも珍しくない?」
アカネ「あ、確かに」
三花「私はそんなに印象変わってないよ〜」
とし美「いや結構変わってない?」
エリ「うん」
エリ「まきが中学生から高校生になったとしたら」
まき「だから私たち同級生だよね?」
エリ「三花は高校生から大学生になったみたいな」
三花「なんか照れちゃうな〜」
まき「髪下ろすと印象変わる人って多いよねー」
まき「とし美ちゃんも大人びてる、というより印象が大きく変わってるし」
とし美「そう?」
まき「アカネちゃんは、少し大人っぽくなった……かな?」
アカネ「少し?」
三花「普段から大人っぽいから、アカネはそこまで変わってないんだよ〜」
まき「エリちゃんは全然変わらないよね!」
エリ「なんだか私だけ馬鹿にされてる気がする」
アカネ「……それにしても、シャッター下りないね」
三花「みんなの髪は下りてるのにね〜」
とし美「上手いこと言ってないで」
とし美「……ってこれ、ビデオじゃない」
三花「あれ、ホントだ」
三花「……保存っと」
とし美「するんかい」
三花「一応ね〜」
* * *
三花「無事写真は撮れたことだし……添付して、送信!」
アカネ「後輩たちに送信したの?」
三花「そうだよ〜」
三花「そして、まきがあの髪型でも年下扱いされるか、
あの子の返信の内容でチェックするよ」
まき「ふふ、期待大だね」
アカネ(正直そうでもない気がする……)
アカネ(……言い出しっぺは私だけど)
三花「おっ、返信きたよ」
【ちょっと京都のホテルの予約取ってきます】
まき「うわあ」
まき「悪化しちゃったね」
アカネ「やっぱり」
まき「えっ」
三花「やっぱりね〜」
まき「……やっぱりレベルの実験だったんだねー」
* * *
アカネ「それじゃ、電気消すよー」
まき「……アカネちゃん、消灯時間ってなんのためにあるんだろうね」
アカネ「寝るため?」
まき「違うよ」
アカネ「違くないよ!?」
三花「違うんだよ、アカネ」
三花「この時間帯はお互いノーガードの談議が出来る、
消灯後フリータイムなんだよ」
まき「おー、放課後ティータイムと被せてるんだね。上手い!」
アカネ「いや上手い云々じゃなくて、消灯時間なら寝ないと……」
とし美「アカネ」
アカネ「とし美?」
とし美「もう諦めよう」
アカネ「早くもとし美が陥落したー!」
エリ「先生たちの動きは扉に一番近い私が、この自慢の耳で探るよ」
三花「頼んだよ、エリ!」
アカネ「耳が自慢とか初めて聞いたんスけど……」
まき「アカネちゃん」
アカネ「ん?」
まき「諦めって肝心だよね」
アカネ「……頭が痛い」
* * *
三花「一つ目のお題、それは恋愛!」
まき「修学旅行では定番の話題だね!」
三花「なお、ここでする話は他言無用だよ。絶対外に漏らさないこと!」
三花「……というわけで、なにか話がある人〜」
エリ「さーて、誰の話を聞けるのかな!」
アカネ「……残念、私はなにも話せることが無いよ」
まき「同じくー」
とし美「私も残念ながら」
エリ「私もなんだよね」
三花「えっ、私もなにも……」
「…………」
まき「……三花ちゃん」
三花「ん?」
まき「私たちって、寂しいね」
三花「それは言わないでっ!」
* * *
三花「一つ目のお題からコケてしまったのは、
きっと、私たちの通う学校が女子高だからだよ!」
三花「……うん、そうなんだよ」
まき「頑張って自分を納得させようとしているのが見え見えだね」
とし美「……でも私、岡田さんが彼氏いるって話を聞いたことあるよ」
アカネ「あっ、それ私も聞いたことある」
エリ「それ、本当?」
アカネ「うん」
「…………」
とし美「……ホントごめん」
まき「いいんだよ、私たち、仲間だから……」
エリ「大学生になったら、大学生になったら……」
* * *
三花「それにしても大学生か〜……」
とし美「どうしたの三花」
三花「高校三年生特有の、ちょっとした感慨だよ?」
とし美「いや余計わからないんだけど」
アカネ「つまり言い表せない思いってこと?」
三花「お〜、良く分かったね〜」
アカネ「自分で言うか」
三花「だって今週末から始まるインハイが、私たちバレー部三年の最後の試合じゃん?」
アカネ「うん」
三花「私たちはそこに一つのゴールを置いているけど、
実際は受験、その後に新しい学校での四年間があるわけだよ」
三花「しかもその四年間を過ごすのは、大学。
今までの学校とは規模もシステムも大きく違うわけで」
三花「そこに放り出される自分が、みんなは想像できる?」
とし美「一つのゴールを迎えた直後の自分……ってとこね。
確かに想像することは難しいけど、三花。一つだけ訂正させて」
三花「んっ?」
とし美「私たちは、誰かに放り出されるんじゃない。
自分から立ち向かっていくんだよ」
とし美「その自覚を持たないと」
三花「お〜……」
アカネ「言うね」
エリ「とし美、さっすがー!」
とし美「……うわ、なんか恥ずかしくなってきたあああ……!」
* * *
とし美「……こほん」
とし美「まあつまり、私たちがインハイで勝つことを自主的に目指しているように、
大学も自主的な行動をしていけばいいんじゃないってことね」
アカネ「そうね。聞いた話だと、受動的だと大学は楽しめないみたいだし」
エリ「その点は私、自信あるけどね!」
アカネ「エリの不安要素は学習面だけだもんね」
エリ「うっ。図星だけど」
とし美「エリって高い所が好きなイメージがあるんだけど、
結局どのぐらい馬鹿なんだっけ?」
エリ「こら、せめてオブラートに包みきってから喋れ」
アカネ「エリは大体中の下ぐらいだったっけ」
エリ「ん、まあその程度。
出来れば中堅私立を安全圏に収めるぐらいに、成績を上げたいよ」
三花「私も、出来れば上を目指したいけどね〜。
なにせ、敵は全国にいるからさ〜」
とし美「怖い怖い」
アカネ「本当、全て自主的に動かないと、
スタート地点にすら立てないよね、大学は」
* * *
エリ「というか、今私が一番不安なのはインハイ予選だよ」
エリ「火曜から木曜まで修学旅行、それから二日挟んで、
日曜から予選開始って……」
とし美「改めて聞くと、凄いハードスケジュールね」
アカネ「こればっかりは、この時期に修学旅行を実施する学校を恨むよ。
間の二日が勝負かな……」
エリ「ま、普段から練習してきた私たちだし、二日間あれば余裕だね!」
エリ「……よ、余裕だよね?」
アカネ「大丈夫、エリならちゃんと試合に臨めるよ」
エリ「アカネー……」
アカネ「自分で言っておいて、なに言ってるんだか。
エリの普段の努力は私が知ってるから、問題ないって」
とし美「そうそう。多少勉強に支障が出ても、エリは部活に全力投球してきたでしょ?」
アカネ「全く、いつもは根拠もなく自信たっぷりなんだから、
根拠がある時ぐらい自信を出しなさいよ」
とし美「うん、それ確かに言えてる」
エリ「くっそー……二人してバカにしながらも、しっかり励ましてくるなんてー……」
エリ「嬉しいぞ、バカ野郎どもー!」
アカネ「はいはい」
とし美「……そういえば、さっきからまきの声を聞かないんだけど」
三花「あっ、それやっと気付いた?」
まき「すぅー……」
とし美「……寝てるね」
三花「うん、ちょっと前からね」
エリ「全く、可愛い寝顔でさっさと寝ちゃってさ」
とし美「あの子がまきを可愛がりたくなる理由、なんとなくわかっちゃうね」
アカネ「初日からはしゃいじゃって、疲れちゃったのかな?」
三花「うん、そうみたいだね。だから静かに、ね」
三花「成長ホルモンは寝ているときに分泌されるんだから」
エリ・アカネ・とし美「なるほど」
まき「む、むぅー……」
第六話「桜高バレー部の旅路の一」‐完‐
最終更新:2014年04月06日 15:28