【第七話】


まき「朝だよ、みんなー」

エリ「うー……」

アカネ「ねむ……い……」

まき「もう、四人ともだらしないよー」

とし美「朝から……元気だね……」

三花「んー……子供は良く寝た方が、育つんだよ……?」

まき「わあ、そういう方面は朝から絶好調だね!」


 ‐外‐


さわ子「はーい、皆揃ってるわね? 今日は自由行動です」

さわ子「班ごとにちゃんと予定した見学コースを回るように」

さわ子「なにかあったら先生の携帯に連絡してくださいね」

さわ子「それから六時までには必ず戻っ……」



唯「でさあ、そこのお店で大安売りしてて〜」

律「それであんなにお菓子が鞄に詰まってたのか」

唯「そうそう」

さわ子「戻ってきなさい、そこ!」



まき「……うーん軽音部の行動パターンは未知数だね」

三花「澪ちゃんとムギちゃんは基本真面目なんだけどね〜」

まき「唯ちゃんとりっちゃんの占めるウェイトが大きいんだね」

とし美「意外と琴吹さんも悪ノリしてない?」

三花「それをいうなら、澪ちゃんも色々な悪ふざけを
 大目に見てる部分があったりするよね〜」

まき「総じて軽音部って面白い人たちなんだね!」


  *  *  *


エリ「寺巡りだー!」

まき「だー!」

アカネ「まずは三十三間堂?」

エリ「そうだよ」

エリ「三十三間堂といえば、一つに重要文化財の千体千手観音立像だよ」

エリ「これは実際見ればわかるけど、とにかく圧巻なんだよね!」

エリ「あと国宝の千手観音坐像も素晴らしいよ」

エリ「あの穏やかで上品な尊顔たるや……絶対見逃せないね!」

エリ「もちろん国宝の風神・雷神像、
 それと二十八部衆像も絶対見逃せない仏像であって」

アカネ「ごめんエリ、そこまで聞いてない」


 ‐三十三間堂‐


三花「……はあ〜」

とし美「どうしたの?」

三花「いやあ、まさか本当に千体いるとは思わなくてね」

とし美「ああ、なるほどね。あれには私も息を呑んだよ」

三花「エリがあそこまで釘づけになるのも、わかる気がするよ〜」



エリ「……」←じっと眺めている



とし美「……うっとりしてるね」

三花「じっくり見られて良かったね、エリ」


 ‐清水寺‐


エリ「景観、建造物、さらに修学旅行の定番という点で見逃せないのは、
 やっぱりここ清水寺だね!」

まき「それを踏まえてるからか、お土産屋も充実してるねー」

とし美「清水寺にも有名な仏像があったりするの?」

エリ「本堂本尊の千手観音立像は独特の形を持ってて有名だね」

エリ「左右一本ずつの腕を頭上高くに挙げて組み合わせてるんだ」

とし美「へえ〜」

エリ「まあ滅多に公開しなくて、今の時期は見れないんだけど」

とし美「そうなんだ、残念ね」

エリ「おっ、とし美も仏像の魅力に取り付かれたのかなー?」

とし美「ううん、ちょっと興味があっただけ」

エリ「ちえっ」


  *  *  *


まき「おー」

まき「良い眺めだねー」

アカネ「さすがに有名な清水の舞台ね」

まき「そういえば、“清水の舞台から飛び降りる”って言葉あるよね」

アカネ「思い切って決断することだね」

まき「……私も決断しなくちゃいけないのかな」

アカネ「下を見ながら言わないで」

まき「大丈夫、間違っても落ちたりしないよー」

アカネ「なにか決断することあるの?」

まき「うん」

まき「いい加減身長伸びないといけないかと」

アカネ「決断次第で融通きいたらいいのにね」

まき「全くだよー」

まき「まあ、もしくは」

アカネ「もしくは?」

まき「アカネちゃんの身長が縮めばいいと思う」

アカネ「なんで!?」

まき「その分、目標に近づくからねー」

アカネ「まきは私が目標だったんだ……なんて無謀な……」

まき「あれれ、今ちょっといらっときたよ?」


 ‐銀閣寺‐


三花「お〜」

三花「銀閣寺良いね」

まき「銀色じゃなくても良いねー」

まき「雰囲気が好き!」

三花「粋って感じがするよ〜」

まき「でもなんで銀閣寺なんだろ?」

エリ「呼んだ?」

まき「これから呼ぶとこー」

エリ「そっか」

まき「エリちゃーん」

エリ「なにー?」

三花「エリはなんで銀閣寺っていうのか知ってる?」

エリ「ああ、それは諸説あるんだよ」

エリ「元々銀箔を貼る予定だったけど諸事情で駄目になったとか」

エリ「光の加減によっては銀色に輝いて見えたとか」

エリ「金閣寺と対比されてそう言われたとかね」

まき「設立当初は銀閣寺って呼ばれてなかったの?」

エリ「そうだね。今でこそ銀閣寺で通るけど、
 ここには昔から“慈照寺”って名前があるんだよ」

エリ「そういえば過去に、慈照寺を銀閣寺と答えると
 間違いになる入試があったみたいだよ」

まき「そんなことが……」

三花「これは私たちの手で、
 銀閣寺の銀っぽさを向上させる必要があるね!」

エリ「えっ」

まき「レッツ、銀閣!」

三花「レッツ、銀色のスプレー!」

エリ「やめて! 昨日も言ったけど、やめて!」


  *  *  *


アカネ「はあ、あの子らはどこでも騒がしいんだから……」

とし美「風情もなにもあったもんじゃないね」

とし美「……ま、いつも通りなのはなによりだけど」

アカネ「そうだね」

とし美「それに、エリも満足そうだしね」

アカネ「なんでエリが出てくるの」

とし美「アカネはエリの保護者でしょ?」

アカネ「いつからそんな疲れそうなポジションに……」

アカネ「……親友だとは思ってるけど」

とし美「二人で京都旅行を計画しちゃうぐらいね」

アカネ「聞いてたの!?」

とし美「聞こえたの」

アカネ「まあ聞こえててもおかしくないか……」

とし美「今から受験後の話なんてね」

アカネ「そっちの方が余程おかしいって?」

とし美「いいや……。いいと思うよ」

とし美「ただ、皆で一緒にいられる期間って、意外とそんなに残ってないんだなって」

とし美「昨日の話でもそうだけど、改めて思い知らされちゃった」

アカネ「とし美は大学進んでも、バレー続けるの?」

とし美「多分ね。アカネは?」

アカネ「私は、どうだろう。四年制の大学に進むなら、そうするかもしれないけど」

とし美「それ以外の選択肢があるんだ?」

アカネ「うん」

アカネ「将来は美容師になりたいんだ、私。
 だから専門学校にも行ってみたい」

とし美「親はなんて言ってるの?」

アカネ「親は四年制の大学を奨めてる。でも、最後は自分で決めて、だって」

とし美「……確かに、専門は厳しい点が多いよね」

とし美「アカネは今の所、どっちに行くかはわからないの?」

アカネ「そうだね」

アカネ「はあ、高校なんて地理条件と成績でかなり絞れたのに、
 大学ってなんでこんな難しいんだろ」

とし美「……それだけ私たちは求められてるんだよ」

とし美「そしてそれだけ、私たちは社会に飛び出す寸前にいるんだと思う」

アカネ「そっか……。私たちはまさに、あれなんだね。
 えーと、確か、マージナル・マン……だっけね」

とし美「……レヴィン?」

アカネ「そう、それ」

とし美「倫理のその分野って、まさに私たちのことだよね」

アカネ「大人なりに、私たちへ課題を出してるのかもね」

とし美「そうかもね」

アカネ「……ありがと、とし美」

とし美「なにが?」

アカネ「話を聞いてくれたこと。それだけで気持ちが凄い楽になったよ」

とし美「力になれたのなら、どういたしまして」

三花「とし美〜、アカネ〜! もうそろそろ宿に戻ろ〜!」

とし美「わかったー!」

とし美「じゃあ行こう」

アカネ「うん」


 ‐旅館‐

 ‐脱衣所‐


エリ「いい湯だった〜」

アカネ「今日も親父っぽさを発揮してたね」

エリ「むっ」

アカネ「冗談だって」

三花「二人とも〜、あっちに卓球台見つけたんだけど、一試合してみない?」

エリ「おっ、いいねえ。風呂上りのコーラを賭けて勝負しよう」

アカネ「私もコーラ飲もうと思ってたし、いいんじゃないかな」

三花「じゃあ私はコーヒー牛乳を賭けるよ〜!」


 ‐遊技場‐


とし美「あっ、来たね」

エリ「そうだ、まきたちも今のうちに飲みたいもの決めときなよ」

まき「なんで?」

三花「エリの提案で、ドリンク一本を卓球で賭けることにしたんだよ〜」

まき「なるほどー。じゃあ私はね」

アカネ「あっ、まきは牛乳でしょ?」

まき「なんでわかったのかなー」

三花「とし美はそこの自販機のドクターペッパーでいいよね」

とし美「……よりによって?」

三花「あっ、いま全国のドクターペッパーファンを敵に回したね」

とし美「だって、全然美味しくないし……」

とし美「ところで、どうやって勝負するの?
 シングルスだと時間かかるし、ダブルスにしても一人余るし」

三花「大丈夫、この旅館は暇人だらけだからね〜」

とし美「それは確かに」


  *  *  *


三花「ほい、暇人一丁〜」

しずか「えっ」

三花「どうしたの?」

しずか「あの、私がそんなカテゴリで連れてかれたとは思って無くて」

エリ「大丈夫! この旅館には、そんな人間しかいない!」

とし美「うん、それは確かに」



圭子「もうボロ勝ちしちゃいなよ、しずか!」

春菜「頑張ってー!」

ちずる「ちっちゃくても大丈夫だよー!」

しずか「最後余計なお世話!」



とし美「……三人もギャラリーがいるみたいだし」

アカネ「圭子ちゃんたちも試合するの?」

三花「ううん。話をしたら、色々手伝ってくれるって言ってくれたんだよ」

アカネ「ああ、それは申し訳ないことを……」

圭子「大丈夫、こっちは乗り気だよ!」

アカネ(本当だろうか……)


  *  *  *


圭子「……第一回、桜が丘高等学校卓球対決、in温泉旅館!
 いよいよ開催でーす!」

アカネ(思ったよりノリノリだー!)

圭子「実況はこの私、佐野圭子と」

春菜「私、岡田春菜がお送りします」

圭子「なお、現場には島ちずるさんがいます。ちずるさーん!」

ちずる「はーい、こちら試合会場です」

とし美(試合会場と実況者の立ち位置が殆ど同じなんだけど……)

ちずる「今回はダブルス、三つのチームに分かれて戦ってもらいます」

ちずる「なお優勝チームには、ドリンクを一本プレゼント!
 いかにドリンクへの執着心を発揮するかが、勝敗の分かれ目ですね」

圭子「なるほど、そうですかー!」

ちずる「おっと、早速ですが、第一試合のカードが判明しました。
 気になる第一試合の組み合わせは……」

ちずる「“エリアカ”チームvs“ちっちゃい”チーム!」

まき「えっ?」←ちっちゃい

しずか「ちょっと、ちずる」←さらにちっちゃい

ちずる「今回の試合は“身長の格差社会”をどう埋めるかが、
 勝敗の分かれ目になりそうです」

しずか「その言い方は悪意ないかな!?」

ちずる「それでは実況席にお返ししまーす」

圭子「はーい、ちずるさんありがとうございましたー。
 どうでしょうか、今回の試合は?」

春菜「ちずるさんが仰った通り、“身長の格差社会”が鍵となるでしょう」

圭子「なるほど、“身長の格差社会”。
 これは、面白そうな試合になりそうですね」

まき「さっきから特定の言葉を強調しすぎてないかなー」

春菜「ところで、この“身長の格差社会”ですが……」

しずか「まるで直さないどころか、悪化した!?」

まき「むう……。これは絶対負けられないよ、しずかちゃん」

しずか「そうだね」

しずか「アカネに、身長が全てじゃないって知らしめよう!」

アカネ「いや私はなにも言ってないんだけど」←高身長

エリ「私に関したこともなにも言われてないんだけど」←普通の身長


 *  *  *


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最終更新:2014年04月06日 15:29