【第八話】
‐某体育館‐
エリ「……」
アカネ「……」
三花「……」
とし美「……」
まき「……」
三花「……い」
後輩B「いやあ、ついに来てしまいましたねインターハイ予選!」
後輩B「この会場! 緊張感! 情熱!」
後輩B「全く、どれをとっても、さすがというべきですか!
予選とはいえ、空気が違いますねえ!」
「……」
後輩B「……って、あれ? どうしたんですか、先輩方。
なにやら意気消沈というか、ローテンションというか」
後輩A「お前はもっと自重しろ」
* * *
三花「えっと、出鼻を早々に挫かれたわけだけど」
三花「……来たね、この日が!」
エリ「来たね!」
三花「今年の私たちの目標は、インハイ出場。そして優勝」
三花「今日はその目標への一ステップに過ぎないけど……、
それでも気を引き締めていこう!」
まき「おー!」
アカネ(……インハイ予選の初日が、ついにやってきた)
アカネ(今日は三戦して、また来週に三戦。
そこでも勝ち抜けば、ついに県大会に出場することができる)
アカネ(そして、県大会で勝ち抜けば……、もちろんインハイ出場)
アカネ「……よっし、絶対ここは勝ち抜くからね!」
エリ「おっ、アカネのノリがいつもと違うぞ!」
とし美「最後の試合の、始まりだからね。
ここで出しきらなくちゃ、いつ出すのって話だよ!」
エリ・まき「今でしょ!」
「いつやるのか? 今でしょ!」
「いつ勝つのか? 今でしょ!」
「誰が優勝するのか? ……私たちでしょー!!」
後輩A「……先輩、ちょっと声大きいです。
このままじゃ私たち、めちゃくちゃ恥ずかしい人たちです」
後輩B「楽しそうで、いいなあ」
後輩C「うん、とっても良い」
後輩A(来年の私たちの姿が見えた気がする)
* * *
三花「それじゃ、先生からお話を伺いたいと思います」
「よろしくお願いします!」
顧問「えー……三年生は、先日もお話したように、
これがあなたたちにとって、高校最後の公式試合です。
悔いを残さないように」
顧問「……といっても、失敗する人もいるでしょう。
でもその時は、バレーボールがチーム戦で良かったと、心から思いなさい」
顧問「あなたのフォローは、みんなでする。
だからみんなのフォローは、あなたがしなさい。わかったわね?」
エリ・アカネ・三花・とし美・まき「はい!」
顧問「それから二年生」
顧問「あなたたちも、試合には出てもらうことになります。
本来なら、こんな厳しい試合に二年生は出させたくないところですが、
三年は五人しかいないので仕方ありません」
顧問「どれだけ失敗しても、それは私の責任です。
だから、先輩たちに引けを取らない、全力のプレーを見せてみなさい」
「はい!」
顧問「そして一年生」
顧問「あなたたちは、先輩たちのプレーをよく目に焼き付けておきなさい。
この子たちは意外と、結構な実力の持ち主よ」
顧問「これからの成長は、ここで得るもの次第で大きく変わると思いなさい」
「はい!」
顧問「私からは以上です。三花、あとはお願い」
三花「わかりました」
三花「……まあ、三年に言うことはさっき言っちゃったし。
一年生にも、同じような内容になっちゃうしな〜」
三花「というわけで、とりあえず二年だけに一言!」
三花「私たちに遠慮しないで、ガンガンいこうぜ〜!」
まき「……それ結局、先生と同じようなこと言ってないかな?」
三花「それを言うなっ」
後輩B「三花先輩、質問があります」
三花「どうぞ〜」
後輩B「まき先輩を愛でることも、遠慮しなくていいんですか?」
まき「えっ」
三花「私たちを唸らせるプレーを見せてくれたら、三十分間だけ許可するよ」
まき「ええっ!?」
後輩B「じゃあ私、早速次の試合に出ます!」
まき「さ、三十分って長くないかなー?」
後輩B「いえ」
後輩B「“まき先輩可愛がり隊”として、
その時間制限は大変厳しいものであります!」
まき「……なんて不穏な響きの部隊なんだろうねー」
* * *
「第一試合の開始時刻が迫りました。
選手の方は、決められたコートの側で待機していてください」
とし美「始まるんだね、やっと」
アカネ「しばらくは終わらないけどね」
とし美「いつになく言うね、アカネ」
アカネ「うん。この大会が終わったら私、きっともう、
バレーボールをやることはないと思うから」
とし美「えっ?」
アカネ「決めたよ、私。専門学校に進む。
……絶対、美容師になるって夢を叶えるんだ」
アカネ「だから今だけは……。目の前の夢を、追っていたいの」
「第一試合を開始します! 選手の方は、コートに集まってください!」
* * *
後輩A(第一試合が始まった)
後輩A(先輩たちは、去年の秋ぐらいに行われた新人大会で、
地区優勝を果たした実力者)
後輩A(さすがにこの試合も優勢みたいだけど……)
後輩B「……」
後輩A(あいつガッチガチじゃん!)
後輩A「本当大丈夫なのかな、あいつ……」
後輩C「無理もないよ。この試合で硬くならない方が難しい」
後輩A「……そりゃそうだね。
私たちもいつ入るかわからないし、覚悟を決めておかないと」
* * *
「ありがとうございましたー!」
三花「一回戦、突破!」
三花「次もこの調子でいくよー!」
エリ・とし美「おー!」
後輩B「……」
まき「どうしたの? 勝てたんだよ?」
後輩B「いえ、まあなんといいますか……」
まき「……よしよし」
後輩B「うぇっ!?」
まき「人のことは散々撫でておいて、
自分が撫でられると、こうなっちゃうんだねー」
後輩B「あああああの……」
まき「身体がカチコチだよ? もっとリラックスしないとー」
後輩B「せ、先輩からそんな撫で撫でされてしまったら、
余計身体が動かないといいますか……」
まき「うん」
後輩B「……無理に背伸びしてまで手を伸ばす先輩が、
可愛すぎるといいますか」
まき「私の心遣いと努力を返してくれるかなー!?」
* * *
まき「もう、結局あの子には最初から最後まで振り回されそうだよ!」
アカネ「せっかく先輩風吹かせたかったのに、反撃にあったもんね」
まき「……でも、嫌いではないんだよねー」
アカネ「やっぱり可愛い後輩の一人ってこと?」
まき「うん」
アカネ「そっか。うん、それなら良かったね。良い後輩と巡り合えてさ」
まき「良かったよー」
アカネ「……あっ、これって両想いになるのかな?」
まき「両想い?」
アカネ「うん。互いが互いを、“可愛い!”と思っているじゃない」
まき「アカネちゃん、どうして鎮火しかかった火に油を注ぐの?」
* * *
「本日行われる試合は、全て終了しました。
皆さま、お疲れさまでした。
お忘れ物のないよう気をつけて、お帰り下さい」
三花「みんな、今日一日お疲れさま。
おかげで今日は乗り切ることが出来たよ」
三花「次の試合は来週にあるから、
それまで今以上に自分を磨くように。お願いね」
三花「それじゃ、今日は解散! ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
‐外‐
三花「……いえ〜い、一日目突破〜!」
とし美「もう、解散した途端これなんだから」
三花「良いじゃん、良いじゃん。嬉しいものは、嬉しいんだからさ〜」
とし美「本当、今日はお疲れさま。まだまだ続いていくけどね」
三花「当然! とし美も、色々ありがとねっ」
エリ「二人ともー! 早く行こうよー!」
とし美「……呼ばれてるよ?」
三花「そうみたいだね〜」
三花「……あっ、ごめん!
すぐに追いかけるから、ちょっと先に行っててくれる?」
とし美「ん、わかった。……みんな、ちょっと待ってー!」
三花「……」
三花(……あった、あった)
三花「カメラ起動っと」
三花(本日もバレー部は順調。来週の試合に向けて、絶好調の滑り出し)
三花(……だからこそ、まだ終わらせない)
三花(この一枚を、優勝までの軌跡とするまでは)
第八話「桜高バレー部の意志」‐完‐
最終更新:2014年04月06日 15:30