【第十話】
‐某体育館‐
後輩A「先輩、こいつの口は塞いでおきました」
後輩B「ふがっ、ふがっ……」
後輩C(まあ、一日目であんなことしちゃったし……)
後輩A「今日一番の言葉を、ぜひ先輩の口からお願いします!」
三花「ん、それじゃお言葉に甘えて〜」
三花「……みんな、インハイ予選二日目が来たよ!」
エリ「来たね!」
三花「昨日はよく寝れた?」
まき「興奮しすぎて、ぐっすり眠れたよー」
三花「それはなによりっ!」
アカネ「ちょっと前後の繋がりがおかしい気がするけどね」
三花「まあまあ、なにはともあれ体調管理がしっかりしていれば、
万事オーケーなわけですよ〜!」
とし美「そうそう。寝不足で負けた、なんて泣いても泣ききれないよ」
アカネ「うーん、確かに」
エリ「そういうアカネは遠足前日の夜とかに、
寝れないタイプっぽいよね!」
アカネ「一番はしゃぎそうな人に言われたくないね」
エリ「なにを!」
顧問「あなたたち、じゃれあうのはそこまでにしなさい」
エリ・アカネ「私たちは真剣です!」
顧問「……いや、真剣にじゃれあわれても困るのですけど」
* * *
顧問「わかっていると思いますが、
予選一日目を突破してきた学校がここに集まっているということ、
それを忘れないように」
顧問「当然全体的なレベルは上がっています。
それに、この二日目にはもう一つ要注意事項があります」
後輩A「要注意事項ですか?」
アカネ「次の試合を突破すると、シード校とあたるということですね」
顧問「そう。二日目の第一試合を突破した学校は、
どこもシード校と当たることになります」
顧問「つまり、一日目の試合を免除された強豪校と試合です」
まき「……一日目を免除なんて、どんな強さなんだろう」
顧問「気を引き締めなさい、まき。
それに、要注意事項とは言いましたが、
あなたたちもここまで勝ち上がる実力を持っている」
顧問「実力に、自信を乗せて存分に戦いなさい」
「はいっ!」
三花「それじゃ、行くよ〜!」
「サクラコー! オー!」
* * *
後輩A「第一試合始まり、か。……みなさん頑張ってー!」
後輩C(……先輩たちはやっぱり凄い)
三花「任せて〜、それっ!」
後輩C(三花先輩。バレー部の個性的なメンバーをまとめる部長。
ポジションはセッターで、統率力はピカイチ)
後輩C(そしてなにより、部全体の雰囲気を作り出しているのは、
三花先輩に外ならない)
アカネ「はいッ!」
後輩A「おお、アカネ先輩ナイススパイクッ!」
まき「いけいけー!」
後輩C(アカネ先輩。人一倍真面目で、部全体を引き締めている。
ポジションはレフトで、あの背丈から繰り出されるスパイクは強烈)
後輩C(時として事態に厳しく接するけれど、それは優しさの裏返しだ)
とし美「さっきの、ナイスサーブだったよ」
後輩B「ありがとうございます!」
後輩C(とし美先輩。アカネ先輩同様真面目だけど、表立った発言は少ない。
ポジションはセンター、これもまた先輩らしいポジションだ)
後輩C(……そう、まさに縁の下の力持ち。
発言は少ないと言ったけど、きっと私の見ていないところで、
副部長としての仕事をこなしているんだろう)
まき「……ああ、相手のエースのスパイクが……!」
エリ「来るよ!」
後輩C(エリ先輩。正直先輩の間で馬鹿馬鹿言われ続けているせいで、
私たちの間でも馬鹿という印象が強い。
でもライトをこなしているから、実は器用な人だってことがわかる)
後輩C(時にブロックし、時にトスを上げ、時にスパイクをし……。
オールラウンドに、縦横無尽にコートを駆け回る先輩は、
まさに元気一杯のいつものイメージ通りだ)
後輩B「うう、すみません、落としてしまいました」
まき「気にしない、気にしない。
ベンチに下がっている間に、立ち直っておくんだよー」
後輩C(まき先輩。ちっちゃくて可愛い、バレー部のマスコット。
ただポジションはリベロで、マスコットながら、
ボールを追いかけさせれば右に出る者はいない)
後輩B「ああ、まき先輩がコートに! なんて神々しいんだ!
眩しすぎて、直視できない!」
後輩C(こいつのことはさて置き、まき先輩は本当癒し系だ。
うん、マスコット。まさにマスコット。おお、マスコット)
まき(なにやら良からぬ噂を感じ取ったよ……)
後輩B「……にしても、今回の相手は強いよ」
後輩C「そんな?」
後輩B「うん。だからって勝てない相手でもないけれど」
後輩A(確かに、実力は互角ってところか……。でも、きっとこのメンバーなら……)
* * *
「ありがとうございましたー!」
エリ「……いよしっ! まずは一勝!」
三花「みんなお疲れさん! 次も張り切っていくよ!」
「おー!」
アカネ「……」
* * *
アカネ「……」
エリ「この次からが正念場だ、アカネ!
シードで上がってきた学校、またはそれに勝ってきた強豪校と……」
アカネ「……」
エリ「……アカネ?」
アカネ「えっ、ああ、エリ? どうしたの?」
エリ「いや、特にこれといった用ではないんだけど……」
アカネ「そう」
エリ「……アカネこそどうしたの?」
アカネ「ううん。なんでもない」
エリ「本当に?」
アカネ「本当だって」
アカネ(……なんだろう、この左足の違和感……)
* * *
「第二試合、開始します」
「よろしくお願いします!」
アカネ(……気のせいだったみたい。うん。
動かしてみても、特になにも問題はないし……)
アカネ「っ!」
エリ「アカネ!?」
アカネ「……えっ、どうしたのエリ……?」
エリ「どうしたもこうしたもじゃないよ! なんか痛そうじゃん!」
アカネ「き、気のせいだってば……」
三花「ちょっとアカネ、こっち来て」
アカネ「三花まで、そんな大袈裟な……」
三花「いいから早く!」
アカネ「……」
三花「靴脱いで」
アカネ「……っ!」
とし美(……そんな……)
三花「……先生。アカネを、一旦ベンチに下げましょう」
顧問「その方がいいですね」
アカネ「そんな、先生! 私はまだ戦えます!」
顧問「そんな腫れた足で、満足に動けるんですか?」
アカネ「ほら、まだこれだけ動かせ……うっ!」
まき「無理しないで、アカネちゃん!」
アカネ「嫌だよ……無理、させてよ……!」
まき「そんな足で、試合になんか出せられないよ!」
アカネ「嫌だ……嫌だ……!」
アカネ「私のバレーを、ここで終わりなんかしたくない……!
絶対に……嫌だ!」
エリ「アカネ、歯食いしばれ」
アカネ「えっ……?」
「ぱしぃん!」
とし美(え……)
まき(び、ビンタ!?)
三花(うわあ、痛そ〜……)
アカネ「……痛い」
エリ「私の心はもっと痛い!」
アカネ「えっ?」
エリ「っていう言葉を使ってみたかった!」
アカネ「は?」
エリ「けれどアカネ、それはいくらなんでも酷くない?
まるで、ここで私たちが負けるみたいな言い方してさ」
アカネ「あ、いや、そんなつもりじゃ……」
エリ「先生が言ってたでしょ。これはチーム戦。
アカネのフォローは、みんなでやってあげるからさ」
エリ「大船に乗った気持ちで、私たちを見守っていてよ」
アカネ「……」
まき「そうだよアカネちゃん!
エリちゃんだけじゃなくて、私たちにも任せていいんだよ!」
三花「うんうん。修学旅行の夜は、エリ一人に持ってかれたけど〜」
エリ・アカネ「えっ」
三花「あっ」
アカネ「……あの時、起きてたの?」
三花「あ、あはは〜……」
エリ「まきは?」
まき「……修学旅行は、夜更かしに意味があるよねー」
エリ「とし美?」
とし美「まあ……、察して」
アカネ「……うわあああ!! 恥ずかしすぎて死ぬううう!!」
エリ「おおおお落ち着いて、アカネ!! いや、むしろ私も付いていく!!」
まき「大変だよ三花ちゃん! 二人して旅立ちの宣言をしちゃったよ!」
三花「こりゃ失言だったねえ〜」
* * *
後輩C「アカネ先輩、あんな騒ぎ回ってどうしたんですか」
アカネ「聞かないで」
後輩C(なにか弱みでも握られているのだろうか……)
顧問「次、交代します。あなたの出番よ、身体を温めておきなさい」
後輩C「あっ、はい」
アカネ(……はあ、迷惑かけちゃったなあ。柄にもなく駄々こねて。
その後、まさかの事態が発覚して。もう踏んだり蹴ったりも良いところだよ)
アカネ(……大丈夫かな、みんな……)
* * *
三花(……アカネには安心させるよう言ったけれど、
正直状況は芳しくないね)
三花(うちの絶対的エース、アカネの穴は外の人じゃ埋められない。
私たち三年生にだって、それは同じ)
エリ「……」
三花(エリをレフトに持って行ったけど、
こんなぶっつけ本番の変則戦法なんて誰もやりたくない)
三花(でも、レフトを二年生だけで固めるのは、もっと避けないと。
アカネが抜けたことで、二年生に乗った重石は相当なものになってしまっているし)
後輩A「……」
三花(……いや、意外と大丈夫かもしれないね。
良い顔してる。だとすれば、一番不安がっているのは私か、あるいは……)
エリ「……」
三花「エリ」
エリ「ん?」
三花「あの夜の二人のことは、絶対に忘れないよっ」
エリ「なんで今それを言った!? てか忘れてよ!!」
三花「さあ集中するよ、みんな!」
エリ「出来るかー!!」
* * *
後輩B(……すごいなあ、先輩たちは)
後輩B(アカネ先輩をフォローする手段を、一杯知ってる)
アカネ「……」
後輩B(エリ先輩もスパイクは上手い、けれどアカネ先輩ほどの攻撃力は無い。
エースと呼ぶには、少し心もとないかもしれない。でも)
三花「はいっ!」
とし美「それっ!」
「ピーッ!」
アカネ「ナイススパイク、とし美!」
後輩B(決まった、クイック攻撃! これは効果的!)
後輩B(これで相手チームは、こちらのセンターをより警戒しなくちゃいけなくなる。
つまり、センターをより“おとり”として使うことが出来る……!)
後輩B(さっきから、しつこい程度におとりの素振りを見せていたのは、
この状況まで繋げるためだったんですね先輩!)
まき「一旦ただいまー」
アカネ「お帰り、まき」
まき「……良かった、落ち着いたみたいだねー」
アカネ「さっきはゴメンね、迷惑掛けて……」
まき「ううん、困った時はお互いさまだよ!」
後輩B(まき先輩はリベロだから、ちょくちょく行って帰ってを繰り返している。
それも、ただ交代を繰り返すだけじゃない)
顧問「ちょっとまき、良いですか?」
まき「はい」
後輩B(コートの中に、監督の指示を素早く伝達する!
それもリベロである、まき先輩の役割!)
後輩B(リベロの交代に回数制限はないからこそ出来る戦略。
これを考えた人は、表彰されても良いね)
まき「……わかりました」
顧問「そう、それなら行って来なさい!」
まき「はい!」
後輩B「今のまき先輩、カッコいいですよ!」
まき「うん、ありがと!」
後輩B(うおおお、輝く笑顔! 可愛い、可愛すぎるよ先輩!)
アカネ「……だ、大丈夫? 顔が真っ赤だけど」
後輩B「極めていつも通りです!」
* * *
最終更新:2014年04月06日 15:31