【第十二話】


 ‐外‐


エリ「祭りだー!」

三花「いえーい!」

とし美「すっごい人だかりだね」

アカネ「この子らがこれだけ騒いでいてくれれば、はぐれることはないだろうけど」

まき「……」

アカネ「まき、どうしたの?」

まき「あ、アカネちゃん……あれを見て」

アカネ「あれ? 射的の景品?」

まき「あのぬいぐるみ、すっごい可愛い!」

とし美「うん、可愛いね」

とし美「だけど射的で大きいぬいぐるみって、
 なかなか取れるものじゃないよ?」

まき「そうなんだよねー……」

エリ「……話は聞いたよ、まき」

まき「えっ?」

三花「私たちが力を合わせて、あれを取ってあげるよ!」

まき「本当!?」

エリ「任せなさい!」

アカネ(ああいうのって、絶対落ちないような仕掛けがあるって、
 聞いたことあるけれど……)

アカネ(……まあ、黙っておこう)


  *  *  *


エリ「あれっ?」

律「んっ?」

三花「あ、軽音部じゃ〜ん!」

唯「そっちはバレー部!」

エリ「ここで会ったが百年目……」

律「長年の恨み、晴らさせておくべきか……」

アカネ「なに馬鹿なこと」

澪「言ってんだ……」

律「いやあ、つい嬉しくなっちゃってよ。
 なんだ、みんなは三年生全員で祭りに来たってわけか?」

三花「うん、そんな感じ〜。りっちゃんたちも?」

唯「うん、軽音部全員でね!」

梓「あの先輩、この方たちは……?」

紬「同じクラスで、バレー部の子たちよ。
 今、りっちゃんとコントを繰り広げたのが、瀧エリちゃん」

梓「はあ……」

エリ「なんかすっごい呆れられてる!?」

アカネ「哀れね……」

紬「今、梓ちゃんと同じぐらい呆れてるのが、佐藤アカネちゃん」

梓「……カッコいい方ですね。澪先輩みたいに、しっかりしてそうです」

アカネ「えっ、そんな、カッコいいなんて……」

とし美「照れちゃった?」

アカネ「言わないでよ……」

紬「あのボブカットの子は、中西とし美ちゃんよ」

とし美「この子が後輩の梓ちゃんなんだね?」

紬「ええ」

三花「本当可愛いね〜! 唯ちゃんが周囲に自慢してるわけだよ〜!」

梓「ちょっと唯先輩!?」

唯「口が勝手に喋っちゃうんだよね〜」

紬「この子は佐伯三花ちゃん。バレー部の部長よ」

梓「部長……。なるほど、こういう方が本当の部長なんですね!」

律「梓、何故私をちらっと見てから納得した」

紬「最後に梓ちゃんと同じぐらい小さい子が、和嶋まきちゃん」

まき「ムギちゃんいきなりなんて紹介してくれてるのかな!?」

梓「私と、同じぐらい……」

梓「あの、失礼ですが身長は?」

まき「えっと、百六十……」

アカネ「すぐバレる嘘はよくないよ、まき」

まき「正直すぎる言葉もよくないと思うよー」

まき「……百五十二センチだよ。本当に」

梓「そうですか……」

まき「うん」

梓「……」

まき「……」

梓「……それではっ」

まき「あっ、ちょっと待って! なんで逃げるの!」

梓「急用を思い出しました!」

まき「せめて身長を! 身長を教えてよ! ねえー!」

律(あれは負けたな、梓……)

とし美(お気の毒に……)


  *  *  *


エリ「それで、りっちゃんたちは射的でなにを取ってたの?」

律「いや、なにも取れなかった。
 あのぬいぐるみを狙ってたんだけどなー」

アカネ「あっ、それって」

律「ん? アカネたちも狙ってたの?」

アカネ「うん、まあ。まきが欲しがったんだけどね」

律「あれはやめた方がいいぞ。
 私たちも四人がかりで挑んだんだけど、全然落ちやしない」

唯「あれは裏でなにか仕掛けがあるに違いないよ!」

まき「なんて夢のない話……」

とし美「……店主さんがこっち睨んできてるんだけど」

まき「現実って怖い!」


  *  *  *


まき「というわけで、綿あめを買ってきたよ!」

三花「綿あめの原価って知ってる?」

まき「やめて!」

アカネ「そういうの知ると、一気に祭りって楽しめなくなるんだよね」

とし美「じゃあ知らなければいいってこと?」

三花「馬鹿になればいいってことだね」

まき「ねえエリちゃん、どうすれば祭りを精一杯楽しめるかな?」

エリ「どうしてこのタイミングで私に聞くのかな?」


  *  *  *


律「そんじゃ、私らはあっち行くから」

エリ「じゃあねー!」

唯「また学校でね〜!」


三花「……いやあ、まさか軽音部と会うとはね〜」

アカネ「探してみれば、意外ともっといるかもね」

まき「じゃあまずは、たこ焼き屋に行ってみよー?」

とし美「まきが行きたいんでしょ?」

まき「違うよ! 私は、たこ焼き屋に誰かいると思っただけだよ!」

まき「……ついでにたこ焼きも買うけど」

アカネ「ふふっ、それなら行こうか、たこ焼き屋」


  *  *  *


三花・まき「たこ焼き美味しい!」

三花「食感がたまらないね〜」

まき「たこ焼き機が欲しくなっちゃうねー。
 次第に全然使わなくなっていくのがオチだけど」

エリ「はい、二人ともたこ焼き食べたね!」

三花「食べたけど?」

エリ「今たこ焼き食べた二人は、
 関西弁しか使っちゃいけないゲームに強制参加だ!」

まき「えー」

アカネ(また面倒なことを……)

エリ「ほらほら、自分を西の地に飛ばしてごらん!」

三花「……」

三花「...Takoyaki tastes very good!」

エリ「えっ」

まき「I agree with you!」

エリ「なぜ英語!?」

とし美「西洋まで飛んじゃったんだね」

エリ「ぐ……。こうなったらとし美、たこ焼きを食らえ!」

とし美「うえっ!? ……はふっ、はふっ!」

とし美「……んんっ! もう、いきなり口に突っ込まないでよ!」

エリ「さあとし美、たこ焼きを食べたね? 食べたね?」

とし美「いや、だって私、関西弁わからな……」

エリ「さあさあ」

とし美「えー……」

エリ「……」

とし美「……Je ne sais pas」

エリ「えっ」

とし美「Je ne sais pas」

エリ「えっと、じゅぬ……?」

とし美「……Je sais pas」

エリ「えっ!?」

とし美「Je sais pas!」

エリ「じゅ、じゅせぱ……?」

とし美「……Sais pas!」

エリ「しぇぱ!?」

とし美「Sais pas! Sais pas!」

エリ「あ……」

エリ「I'm fine thank you, And you?」

とし美「なに言ってんの」

エリ「こっちのセリフだよ!!」


  *  *  *


エリ「はあ……なんだか無駄に疲れたよ……」

アカネ「エリの絡みの方が疲れるよ」

エリ「全く、誰が西洋に飛べって言ったんだよ!」

アカネ「どれも関西を越えていったのは確かに想定外だったね」

エリ「しかも、とし美にいたっては宇宙語だよ!」

アカネ「あれはフランス語だ馬鹿者」


  *  *  *


三花「金魚すくいやろうよ〜」

エリ「よしっ、それなら全員で勝負だ!」

まき「生き物を勝負事に使うなんて、人間は残酷だなー」

まき「とか思ってないよ?」

アカネ「ならどうして口に出したの」

とし美「あそこにいる金魚たちって、既に相当弱ってるって聞くけどね。
 私たちが掬おうが掬うまいが、微々たる差だよ」

アカネ「勝負の前から精神面で大ダメージで攻撃しないでよ……」

とし美「でも、そこの子たちは全然大丈夫みたいだよ」

エリ「そ、そうだ! べべべ別にその程度で同様しないしぃ〜?」

三花「だだだだよねえ〜?」

アカネ「めっちゃ効果的ですけど!?」


  *  *  *


三花「時間は無制限。各自のポイが全部破れた時点で、終了ね」

まき「いいよー」

三花「それじゃあ、よーい……」

アカネ「……」

とし美「……」

エリ「……」

三花「始めっ!」

エリ「破れた!」

アカネ「早!?」

とし美「よし、四匹目!」

アカネ「早!?」

三花「なんか飽きたー」

アカネ「早!?」

まき「アカネちゃんのツッコミも素早いねー」


  *  *  *


三花「結果、十三匹を掬ったとし美の勝ち〜!」

とし美「本当はもっといけたんだけどね」

アカネ「とし美にそんな才能があったなんて、
 思ってもみなかったよ」

まき「うんうん」

三花「さて、ビリの人にはなにしてもらおっかな?」

エリ「えー、なにそれ聞いてないよー!」

まき「唐突なルール追加はよくあることだよ」

アカネ「特にエリの周りではね」

エリ「うっ、確かにそうだけど……」

エリ「……じゃあわかった。これから打ち上げ花火だよね?」

まき「うん」

エリ「なら、私しか知らない、とっておきの穴場を教えてあげる。これでどう?」

とし美「人混みから抜けて、花火を見られるなら願ってもない話だね」

とし美「エリ、案内してくれる?」

エリ「よし、任せて! こっちだよ!」


  *  *  *


エリ「ここの施設は夜、営業していないんだけど、
 実は裏にちょっとした穴があって、そこから入れるんだ」

エリ「さらに外に取り付けられてる階段を上っていけば……」

エリ「屋上に到着!」

まき「おぉー!」

アカネ「凄い……人もいないし、高さも十分。なんの問題も無しね」

とし美「唯一、法的には問題ありだけどね」

三花「そんな水を差すようなこと言っちゃ、駄目だよ〜」

エリ「気にいってもらえた?」

まき「うん! やっぱり高い所はエリちゃんの管轄だね!」

エリ「それどういう意味だ!」

アカネ「エリはエリってことだね」

とし美「うんうん、そういうこと。……あっ、始まったよ!」

まき「たーまやー! かーぎやー!」

まき「って叫んでみたはいいけど、これってどういう意味なの?」

三花「花火業者の名前だって聞いたことあるよ〜」

エリ「あっ、今の色合い! なんかバレーボールに似てた!」

アカネ「綺麗……」


  *  *  *


三花「……ん〜、すごかったね〜!」

エリ「また来年も来たいね!」

アカネ「みんな違う大学に行くのに?」

エリ「大学違うからって、集まれないわけじゃないでしょ?」

まき「うん。私、来年もこのメンバーで夏を過ごしてみたいなー」

とし美「良いこと言うね」

エリ「そっか、まきは寂しいのか〜!」

まき「そ、そういうわけじゃないんだけど……」

まき「……たまにメールとかくれたら、嬉しいかな」

三花「うん、わかったよ、まき」

三花「四年に一回はメールするよ!」

まき「大学生の間に一回だけしかくれないの!?」

エリ「安心して。足りない分は、私が出してあげるよ!」

エリ「チェンメを装って」

まき「その無駄な努力いらないよ! 削除対象だよ!」

とし美「まき、わかった。私が出してあげる」

とし美「毎日千文字以上のメールを」

まき「重いよ! 重たすぎるよ!」

まき「こ、ここまで来たらアカネちゃんが最後の良心……」

アカネ「えっ?」

まき「アカネちゃんはそれなりの頻度で、普通の形式で、
 気軽なメールを送ってくれるよね!?」

アカネ「うーん、そうだね……」



アカネ「私の実験台になってくれるというなら」

まき「せめてカットモデルと言おうよ」



第十二話「桜高バレー部の花火」‐完‐


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最終更新:2014年04月06日 15:33