【第十四話】
‐三年二組教室‐
まき(夏休みも明けて、数週間が経った頃)
三花「……」
まき(私たちは悪夢ともいえる状況に立ち会っていた)
アカネ「……」
まき(私たちの前に広がる、色とりどりの液体たち……)
エリ「……」
まき(訂正。色とりどりの……)
まき「……珍味ペプシたち」
* * *
まき(事の発端はエリちゃんの、あの一言)
エリ「さて、ここに集まってもらったのは、事件の火種である私たちと……」
三花「……」
まき(“そういえばこんなもの家にあったんだよねー”)
エリ「勇気ある無謀な挑戦者たちだ……」
「…………」
まき(……結果沸き起こる、珍味ペプシへの好奇心!)
エリ「みんな、協力してくれてありがとう。さあ、始めようじゃないか」
エリ「珍味ペプシとの戦いを!」
まき(ざわめく教室! 期待を浮かばせる人々、青ざめる人々!)
まき(……)
まき(早退したい)
* * *
アカネ「ペプシは全部で六種類」
アカネ「しそ、あずき、バオバブ、モンブラン、ピンク、ソルティーウォーターメロンね」
まき「聞けば聞くほどドリンクの味じゃないよねー」
まき「ところでピンクって何味?」
アカネ「いちごミルク」
まき「うおぇ……」
夏香「一体生産者はなにを思ってこんな味を……」
エリ「全く理解できないね」
圭子「だからこそ、挑戦したいと思ってしまう!」
エリ「怖いもの見たさってやつだね!」
風子「既に怖いもの認定されてる飲み物って……」
信代「飲み物の扱いなら慣れてるし、ある程度は私に任せてよ!」
慶子「あんたの家は居酒屋でしょ。コーラとなんの関係があるのよ」
潮「ペプシの水割り?」
慶子「気持ち悪い!」
三花「通はストレートかロックじゃないと〜」
アカネ「いやそれ普通の飲み方だよね」
三花「アカネはコーラ割りが好み?」
アカネ「それ結局ストレートになってるよね!?」
エリ「……さあ、まず開けるのは“ペプシしそ”! 飲みたい人は挙手をお願いします!」
「はいはいはい!」
唯「あれ、和ちゃんどこ行くの?」
和「……気分が悪くて」
唯「大丈夫? ついて行こうか?」
和「ううん、平気よ……。生徒会にさえ行けば……」
唯「保健室に行こう、和ちゃん?」
* * *
とし美「……これは一体どういう状況?」
紬「あら、とし美ちゃんは参加しなくていいの?」
とし美「なにが起こってるのかもサッパリなんだけども……」
律「そっか、とし美はここ二日休んでたもんな、無理もないか」
律「あれはいわば……」
律「……悪魔の儀式だ」
とし美「心底休んでてよかったと思うなあ」
* * *
とし美「珍味ペプシコーラの試飲会かー……」
とし美「確かに悪魔的な儀式ね」
律「とし美は飲んだことあんの?」
とし美「うん、一度だけ」
律「どんな感じよ?」
とし美「どんな感じって……」
とし美「正直、それを思い出そうとしただけで……」
とし美「うおぇ……!」
律「な、なんか悪い! すまなかった!」
とし美「……とにかく、軽い気持ちで飲んでは駄目。手酷い仕打ちを喰らうよ」
紬「ちょっと興味あったんだけど、やめようかしら……」
とし美「その方が絶対いいね……」
律「そういえば、とし美はどのペプシを飲んだんだ?」
とし美「……も、モンブラン」
律「想像しただけで吐き気が……」
とし美「そうでしょ……?」
律「しかし同時に好奇心が」
とし美「えっ」
律「澪も一緒に飲めば怖くないな」
澪「えっ!?」
* * *
エリ「はい、これペプシしそねー」
信代「確かに受け取ったよ」
慶子「ねえ、本当に飲む気なの? 本当に?」
潮「振り返るな、慶子。そこには何もない」
慶子「目の前にも混沌しか広がってないけど」
エリ「今度はペプシあずき!」
圭子「あえて危険な香りのする方へ行くよ!」
しずか「生きて帰って来てね……!」
圭子「これ、遺言状。もしものことがあった時は……」
春菜「うん。火葬場で一緒に燃やすよ」
圭子「それは駄目!」
エリ「お次は、バオバブ!」
夏香「全然味の想像がつかないね」
風子「怖い、怖い……」
風子「……あれ、和ちゃんは?」
夏香「具合が悪いって言って、保健室に行ってたよ」
風子「危険な香りを察知して逃げたか」
エリ「ペプシモンブランのお客様〜?」
三花「まきに一つ!」
まき「よりによってそれ!?」
エリ「じゃあ、三花はペプシピンク!」
三花「えっ」
アカネ「観念することね、三花」
律「こっちにもモンブラン二つくれ!」
澪「い、嫌だっ! こんな歳で死にたくないっ!」
エリ「そんなコーラを劇薬みたいに見なくても……」
アカネ「エリ、私はソルティーウォーターメロンをお願い」
エリ「はい、どうぞ」
アカネ「んっ」
エリ「これで私とお揃いだねっ!」
アカネ「全然嬉しくない」
まき「……エリちゃん、そろそろ」
三花「私たちも、覚悟は決まったよ」
エリ「よーし。それじゃ、いくよ」
「いただきます!」
‐二年一組教室‐
後輩A「はっ? 保健室に行ったら、人でごった返してた?」
後輩C「あれはなにか大事件があったに違いない……」
後輩A「どこのクラスだかわかる?」
後輩C「先輩たちのクラス」
後輩A「……なにやってんスか、先輩方……」
後輩B「まき先輩がピンチであることを察知したんだけど、
それは気のせいではないみたいだね」
後輩A「あー、先輩たちって全員同じクラスなんだっけ」
後輩B「保健室に急ぐよ!」
後輩A「止めなさい、悪化するから」
後輩B「それどういう意味さー」
後輩A「文字どおりの意味だよ」
* * *
純「梓ー、今日部活だよね?」
梓「うん」
純「ちえっ、暇だったら遊びに誘ってたのに。どうやって時間潰すかなー」
梓「勉強しなさいよ……って、ああ、メールだ」
梓「……」
梓「純。今日、遊べることになった」
純「部活は?」
梓「中止。急な体調不良者が出たから、だって」
純「ふーん……あの噂は本当だったんだ」
梓「噂?」
純「三年生の教室でバイオテロが起こったらしいよ」
梓「そんなバカな……」
純「その教室では体調不良を訴える生徒が続出。
被害者は共通して、こんな言葉を残していると聞くよ」
純「……面白半分で開発するな、とね……」
梓「誰に向けたメッセージなんだろう……」
‐三年二組教室‐
さわ子「それでは、ホームルームを始めようと思いまー……」
さわ子「……」
さわ子「……あの、真鍋さん」
和「はい」
さわ子「朝と比べて、席が異様に空いているような気がするんだけど……」
和「ああ、そうですね……。大体の人が早退しました」
さわ子「なにがあったの!?」
和「……実は」
和「どっかの誰かが学校に危険物を持ち込んだので」
エリ「人をテロリストみたいに言うな!」
アカネ「あながち間違ってないけどね……」
さわ子「えっと……どゆこと?」
第十四話「桜高バレー部の災厄」‐完‐
最終更新:2014年04月06日 15:34