【第十五話】
‐ゲームセンター‐
アカネ「あー、頭がガンガンする……」
まき「それって二日酔い?」
アカネ「お酒は二十歳になってからだよ」
まき「あ、アカネちゃんが……非行少女に……!」
アカネ「人の話聞いてる?」
まき「健全な高校生は一口ぐらいお酒を飲んでいるものだよー?」
アカネ「まきの発想は子供だなあ」
まき「……私は飲んだことないけど」
アカネ「うん、まきはまきだったね」
まき「どことなくバカにされてる気がするよ」
アカネ「気のせいだよ」
まき「それならいいけどねー」
まき「それで、アカネちゃんはどうして頭がガンガンしてるの?」
アカネ「えっ、本当に理由わからないの?」
まき「まあ普通だったら、ゲームセンターの騒音かなあと思うんだけど」
まき「アカネちゃんはエリちゃんのいるところなら、どこでも頭痛を起こすでしょ?」
アカネ「なるほど」
エリ「納得しないで」
* * *
エリ「私が、ちょっとばかし五月蝿いというのはわかるよ」
アカネ「ちょっとというか、かなり?」
エリ「……かなり五月蝿いというのは、認めるよ」
まき「五月蝿いというより、やかましい?」
アカネ「騒がしい?」
まき「もはや環境問題?」
エリ「二人はどこまで私の喋りを悪く言えば気が済むの!?」
* * *
エリ「ともかく、やかましくて騒がしくて環境問題一歩手前の私の喋りを、
ゲームセンターの騒音と並べないでよ!」
エリ「……そこまで、酷くないもん……」
アカネ「わかった、わかったから涙拭きなよ」
まき「エリちゃん自分で言っておいて……」
アカネ「まあ、別にエリの喋りには慣れたからいいんだよ。心配しないで」
エリ「アカネ……」
まき「エリちゃんの喋りによる頭痛に慣れたってこと?」
アカネ「うん」
エリ「アカネ!?」
アカネ「でも、この頭痛はいつものと違うよ。
だからゲームセンターの騒音が原因だと思うんだ」
まき(識別できるほどいつも頭痛に悩まされてるんだ……)
エリ「アカネはゲーセン苦手なんだ」
まき「予想通り?」
エリ「まあ、そうなんじゃないかなと思ったよ」
アカネ「ならなんで私を連れてきたの?」
エリ「アカネは仲間だから!」
アカネ「あ、ありがとう……」
エリ「いやでも、あの二人のエンジョイっぷりというか」
三花「えいっ!」
とし美「甘い!」
三花「そっちこそ!」
とし美「うおっ!」
エリ「……プロ顔負けのエキスパートっぷりは、想定外だったよね」
まき「ただのエアホッケーなのに、ギャラリー出来てるもんね」
アカネ「あの子たち卓球でもそうだったけど、どこでそんな技術を得たのやら……」
律「本当だよなー」
アカネ「……あれ?」
律「んっ?」
* * *
律「やっぱり全員来てたんだな」
律「いやー、人が集まっててよ。その中心を見たら三花ととし美でやんの」
アカネ「困ったぐらい目立ってるもんね。そっちも軽音部全員で来てるの?」
律「そそ。前にもこうして全員で会ったこと無かったっけ?」
アカネ「祭りの時ね」
律「それだ、それ!」
アカネ「あの時はみんな一緒だったけど、今は一人なんだね?」
律「あー……実はさー……」
律「私は両替させられに行ってるんだわ」
アカネ「パシられてるの?」
律「平たく言えば」
律「澪がどうしても欲しいっていうぬいぐるみが、UFOキャッチャーにあってさ」
アカネ「なるほど……」
律「困ったやつだよ」
アカネ「でもりっちゃん、そんなことでもちゃんと行ってくれるんだね」
律「まあ、一度ぐらいなら別に……」
アカネ「愛しの澪ちゃんのためなら、なんのそのかな?」
律「ち、ちげえよ!」
律「別に澪なんて、ちょっと昔から一緒にいるってっだけでさ!
そうそう、腐れ縁ってやつで!」
アカネ「時間が経っても変わらない友情って、それだけで素敵だと思うよ」
律「あー、もう……。アカネって結構恥ずかしげもなくそんなこと言えるタイプなんだな」
アカネ「同じようなこと、エリにも言われたよ」
律「エリもやられてるのか……。ところで」
律「そのエリたちはどこに行ったんだ?」
アカネ「えっ? あれっ?」
アカネ「……誰もいない!?」
* * *
エリ「まき、聞いたね」
まき「うん」
まき「りっちゃんが……パシられてて……お金を片手に……」
エリ「まき、それはちょっと危ない」
エリ「さてさて、他の軽音部員はどこにいるのかな?」
まき「……あっ」
まき「エリちゃん、ちょっと私は急用を思い出したから行くねー」
エリ「えっ?」
まき「それじゃっ!」
エリ「えっとー……」
エリ(……行っちゃった。急にどうしたんだろう)
エリ(……あっ)
後輩B「おや、まき先輩の気配を感じたと思ったので、
こちらに寄らせてもらったところ、エリ先輩がいるじゃありませんか!
いやあ、これはまき先輩が一緒にいることも期待できますねー!」
エリ「なるほど」
後輩B「なにがです?」
* * *
後輩B「まき先輩は既にここにいないと」
エリ「うん、どっかいっちゃった。バレー部三年、全員来てはいるけどね」
後輩B「因みに私は一人ですので」
エリ「一人でゲーセン?」
後輩B「極めてるゲームがあるのですよ」
エリ「それだから一人ってわけだ」
後輩B「では、私は再びまき先輩を探す旅に出ますので!
エリ先輩もまき先輩に出会ったら、私が会いたがっていたとお伝えください!
ではさよならです、エリ先輩!」
エリ「うん、じゃあねー!」
エリ「……」
エリ「……あっ、私も一人になっちゃった」
* * *
アカネ(全く、みんないつの間にどこに行っちゃったのよ……)
唯「……あっ! アカネちゃんだ!」
アカネ「あれ、唯ちゃん。どうしたの一人で?」
唯「あのね、トイレに行こうってことで、一旦別れたんだけど……」
アカネ「あー、みんなの居場所がわからないってこと?」
唯「トイレどこにあるかわかる?」
アカネ「それ以前の問題なのね」
* * *
唯「ありがと〜アカネちゃん、助かったよ〜」
アカネ「どういたしまして」
唯「それと、助けてもらった手前、申し訳ないのですが……」
唯「みんなの居場所知らない?」
アカネ「私が知るわけないんだけど……」
唯「ですよねー」
唯「どどどどうしよう、アカネちゃん!?」
アカネ「落ち着いて、ね」
アカネ「私もみんなに置いてかれた身だし、せっかくだから一緒に回ろう?」
唯「えっ、いいの?」
アカネ「いいの。私もちょっとずつ頭痛が治ってきたし」
唯「えっ?」
アカネ「なんでもない。行こ、唯ちゃん!」
* * *
まき(まさかあの子がここにいるとは……。
いや、私を追ってここに来たってこと?)
まき(……)
まき(これ以上考えるのはやめよう。そうしよう)
澪「うう……なんでだ、なんで取れないんだ……!」
紬「ファイトよ澪ちゃん!」
まき(……でも、なにも考えずに行動した結果があれなんだろうなあ)
まき・梓「はあ」
まき・梓「えっ?」
梓「あ、えっと、どうも」
まき「梓ちゃんだよね?」
梓「はい」
まき「どうしたの、まるで」
まき「そろそろ先輩諦めてくれないかな、お金がどんどん無駄になってるのになー」
まき「でもここまでいくと、
“これだけお金使ったんだから取れるまでやめないぞ”、
とか思っちゃって、本当にやめないんだろうなー」
まき「そういえばこれって某コンプガチャの心理に似てるなー……」
まき「と思ってるみたいな顔して?」
梓「つまりそういうことです」
まき「やっぱりそうだったんだねー」
梓「察しが良すぎて、諸々の感想を通り越して怖いです」
まき「全部偶然だよー」
梓「察したところで、先輩のような同年代の先輩にお願いがあります」
まき「ちょっと今の言葉おかいいよ?」
梓「どうにかして澪先輩を止められませんか?
見てるだけで、ちょっと苦しいというか……」
まき「あー……ムギちゃんは応援するだけだもんね。
そして梓ちゃんは後輩だから、ちょっと言い難いと」
まき「でもりっちゃんとか唯ちゃんは? 来てるんでしょ?」
梓「唯先輩はトイレに行ったきり戻ってきません。多分、迷子です。
律先輩は澪先輩にパシられっぱなしで嫌になったのか」
梓「“梓、もうお前と会うのは、これで最後かもしれないな……”」
梓「という言葉を残して、そこら辺をほっつき歩いています」
まき「どこの部活にもエリちゃんみたいな人はいるもんだね」
梓「というかそこのゲームでゾンビを撃ってます」
まき「詰めが甘いところもそっくりだー」
* * *
律「んー、やっぱ私一人だけじゃ、限界があるか……」
三花「お困りのようだね、りっちゃん」
律「おお、三花!」
律「そうなんだよ、このゾンビども、数だけは多くてよ……」
三花「よし、私も協力しちゃうよ〜」
とし美「待って三花。本当にやるの?」
三花「大丈夫! ある程度経ったらとし美と交代するから!」
とし美「別にそれは結構なんだけど、いや、お断りしたいぐらいなんだけど……」
律「とし美って怖いもの苦手だっけ?」
とし美「ううん。お化け屋敷とか、ホラー映画はいいんだけどね。
ただゾンビが銃で撃たれる瞬間だけは、ちょっと気持ち悪くて……」
律「変なモノがぶしゃあって飛び出るところとか?」
とし美「そうそう。それがすっごい苦手」
三花「へえ、それは初めて聞いたな〜」
とし美「三花とこういうところ来ても、この類のゲームはやってこなかったからね」
律「まあ澪じゃないし、無理強いはしないよ」
とし美(澪ちゃんだったら無理強いさせられてたんだ……)
律「ただまあ、なんつーか」
律「……リアルにいる人間も、結構怖いぞ?」
とし美「えっ?」
律「詳しくはUFOキャッチャーのコーナーに行ってみてくれ」
三花「よ〜し、始めちゃうよりっちゃん!」
律「おう!」
とし美(……どういう意味なんだろう?)
* * *
とし美(とりあえず近くの、UFOキャッチャーのあるコーナーまで来たけれど……)
とし美「あれ、まき?」
まき「とし美ちゃん!」
後輩B「まき先輩!」
まき「ぎゃあああああ!!」
とし美「あっ、逃げた」
後輩B「待ってくださいよー!」
とし美「……」
とし美「……なんだったんだろう」
梓「……なんだったんでしょうね。あっ、どうも先輩」
とし美「梓ちゃんだったよね?」
梓「はい」
唯「またの名をあずにゃんというのです」
梓「唯先輩!?」
唯「あっずにゃ〜ん!」
梓「離れてください! 暑苦しい!」
アカネ「あれ、とし美だ。三花と一緒だと思ったんだけど」
とし美「三花はあそこでゾンビと戦ってるよ」
アカネ「りっちゃんも一緒なんだ」
とし美「ちなみにまきはリアルでゾンビ的な生命力を持つ人から逃げてる」
アカネ「なにそれ怖い」
* * *
梓「……ですから、頼みますよ唯先輩」
唯「え、え〜……。私にも出来るかどうか〜……」
アカネ「どうしたの?」
唯「澪ちゃんを見てくれればわかると思うんだけど……」
澪「ど、どうしてなんだ……どうして取れないんだ……」
紬「……うん、どうしてだろうね……」
唯「見てられないよ……。ムギちゃんまで目を逸らす始末だよ!」
とし美「……確かにリアルにいる人間も十分怖い」
アカネ「誰か止めてあげられる人はいないの……?」
エリ「あー、やっと知ってる人見つけたー!」
紬「あら、エリちゃん!」
アカネ・とし美(エリだ! エリが来た!)
梓「確かあの人は……律先輩と三文芝居してた人ですね」
唯「あずにゃん、その言い方はどうかと思うよ?」
エリ「どうしたのさ二人とも。澪ちゃんなんか、疲れきってる表情しちゃってさ」
澪「えっ、疲れてる……? 本当だ、私疲れてる……」
エリ「だ、大丈夫?」
紬「澪ちゃんはこのぬいぐるみがどうしても欲しいんだけど、
なかなか上手く掴めなくて……」
エリ「あー、これは難しいよ。単純にやるんじゃ駄目だね。
ちょっと貸してくれる?」
澪「えっ……?」
エリ「……うん、いけそうだね」
アカネ(エリがUFOキャッチャーをし始めた……?)
とし美(まさかの展開……)
エリ「こういうのは店員さんに言えば、特に澪ちゃんみたいな子だと、
取りやすい位置に持ってきてくれるんだよ?」
澪「で、でもそれは……」
エリ「恥ずかしい?」
澪「……うん」
エリ「まあ、それならしょうがないと思うけど。
そういえばりっちゃんは? りっちゃんなら得意そうだけど?」
澪「律は私をからかったから、絶対頼まないって決めたんだ」
エリ「あー、なるほどね……」
アカネ(そうこう喋ってる間に、アームを操作して……)
とし美(位置についた……。まさか……?)
エリ「そのりっちゃんには両替係だけを頼んだわけだ」
紬「澪ちゃん、意地っ張りだから」
澪「む、ムギ! ……でも逃げられたけど」
エリ「そりゃ、逃げるよ。
きっとりっちゃんだって本当は、ただこうしたかっただけなんだから」
澪「えっ?」
エリ「ほら、お目当てのぬいぐるみだよ。欲しかったんでしょ?」
澪「……えっ!?」
アカネ・とし美(えええええ!?)
アカネ(本当に取っちゃったの!?)
とし美(えっ、いつの間に? えっ!?)
梓「……カッコいい……」
唯「がーん……!」
エリ「これで無駄遣いと、意地を張るのは最後にしときなよ?」
澪「う、うん……」
エリ「それじゃね、澪ちゃん。私は他のみんなを探さないといけないから!」
澪「じゃ、じゃあ……」
紬「エリちゃん、カッコよかったね〜」
澪「うん……」
* * *
エリ(ふー、一仕事終えたね。良いことをした後は気分が良い)
エリ(さてさて、みんなはどこにいるのやら……?)
アカネ「……」
エリ「って、あれ。アカネだ。とし美もいるし」
とし美「……エリ、見てたよ」
エリ「えっ、ああ、あれ? いやあ本当に取れちゃったねー?」
とし美「凄かったね。一発で取れるなんて」
エリ「偶然だよ、偶然。アカネもそう思うでしょ?」
アカネ「……私ね、思うんだ」
アカネ「今のエリになら、一生付いて行ってもいいって」
エリ「お、おう……?」
とし美(……リアルの人間もやっぱり怖いなー……)
第十五話「桜高バレー部の美男」‐完‐
最終更新:2014年04月06日 15:34