【第二十話】
‐三年二組教室‐
エリ「この前、ネットで調べ物してた時のことなんだけど」
アカネ「うん」
エリ「ちょっと意味のわからない単語があったんだ」
アカネ「どんな?」
エリ「ダブリュー、ケー、ティー、ケーってやつ」
アカネ「……こんな感じ?」
【wktk】
エリ「そうそう、それ! どういう意味なんだろ?」
アカネ「少なくとも英単語には見えないけれど……」
エリ「英語じゃないとすれば、もっと違う言語だとか?」
アカネ「あっ、これっていわゆるネット用語なんじゃない」
エリ「それか!」
エリ「そういえば前にも、語尾に“w”が一杯ついているのを見て、
これはどういう意味なんだろってなったことあったよ」
エリ「その時はとし美に教えてもらったんだけど、
それは括弧笑いと同じような意味のネット用語なんだって」
アカネ「どうしてそれがダブリュー一文字になるの?」
エリ「“wara”が略されて“w”だって」
アカネ「なるほど」
アカネ「だとすればこの“wktk”も、
なんらかの略だと見たほうがいいかもしれないね」
エリ「うーん……」
エリ「……ワカタケ、じゃないかな」
アカネ「誰だそれ」
* * *
エリ「というわけで三花、wktkの意味知らない?」
三花「うん、知ってるよ」
アカネ「あれ、意外。ネットとか全然やりそうにないのに」
三花「今時そんな原始人みたいな女子高生いないって〜」
アカネ「全国のそんな女子高生に謝ってきなさい」
エリ「それで意味はなんなの?」
三花「エリは随分興味津々だね〜」
アカネ「私も早くまともな答えに会いたいよ」
三花「まともな答え?」
アカネ「今の時点で“ワカタケ”しか、候補に上がってないんだよ」
三花「……誰それ?」
アカネ「私にもわからない」
エリ「ネットに住む妖精の名前じゃない?」
アカネ「適当言うな」
三花「少なくともそういう意味じゃないかな〜」
エリ「えー、じゃあ本当の意味はなんなのさー」
エリ「早く教えてくれないと、三花がwktkをワカタケって読んでたって、
全国に言い触らすぞ!」
三花「微妙に恥ずかしいね」
アカネ「うん、でもそんなことを言うエリはもっと恥ずかしい」
三花「ま、隠すことでもないし、教えてあげるよ。
まずwktkの読み方はね〜……」
エリ「……」
アカネ「……」
「……」
三花「……ワカチコ、なんだよっ!」
エリ「そうだったのか!」
とし美「いやいやいやいや!!」
* * *
エリ「あっ、とし美。どうしたのいきなり?」
とし美「いきなり驚かされたのはこっちなんだけどね……」
とし美「三花、適当なこと教えちゃダメ。本当にそう信じちゃうでしょ」
三花「あっ、ばれた〜?」
アカネ「えっ、じゃあ三花も本当は知らなかったの?」
三花「うん!」
アカネ「騙された!」
三花「ま、wktkだよ〜」
アカネ「ちっちゃいことは気にするなって言いたいのか……」
とし美「だからそれワカチコじゃないって」
エリ「じゃあどんな意味なの?」
とし美「読み方はワクテカ。これ自体も略されてる言葉で、
元々の言葉はワクワクテカテカ」
アカネ「二段階に略されてるんだ」
とし美「意味はまんま、ワクワクしてる様子かな」
とし美「ちなみに“テカテカ”は、顔をテカテカ光らせるほど
楽しみにしてるってイメージでいいよ」
エリ「なるほどねー。ワクワクテカテカから、ワクテカ」
三花「そしてワクテカからwktk、wktkからワカチコなんだね〜」
とし美「違うってば!」
三花「ちっちゃいことは〜」
とし美「気にするよ!」
* * *
エリ「ワクテカかー……。結構言いやすいし、覚えやすい語感だね」
アカネ「日本の伝統で言うなら五七五だけど、
確かに四文字っていうのも言いやすくて、略称として好まれるかもね」
とし美「例えば?」
アカネ「ドラクエ、とか」
とし美「なるほど」
とし美「言われてみれば、エフエフも口に出してみれば四文字だね」
三花「ゲームが一杯出てきたけど、ゲーム機もそうだよね〜」
とし美「プレステ、とか?」
三花「それっ」
エリ「パソコン、もそうだよね?」
アカネ「……意外と四文字の略称って多いんだ」
まき「みんな、なにやってるのー?」
エリ・アカネ・三花・とし美「わじまき!」
まき「……みんな、なに言ってるの?」
* * *
まき「四文字が言いやすい、かー……」
まき「そういえば、ひらがな四文字のタイトルっていうのも、
結構親しまれやすいっていう話だよね」
エリ「四文字タイトル?」
とし美「アニメとか漫画とか、そういったものの話だよ」
エリ「へえ、そうなんだ……。ということは」
エリ「私たちの活躍がアニメ化されたら、タイトルは“ばれえぶ!”になるんだね!」
アカネ「ちょっと字面が微妙じゃない?」
まき「伸ばし棒を無理矢理ひらがなにしてるからねー」
エリ「かといって“ばれーぶ!”はちょっと違う気がするし……」
三花「女子バレー部ってことで、“じょばれ!”なんてどうかな〜?」
とし美「語感は今までで一番いいかもしれないけど……」
三花「じゃあ“はいきゅう!”は? これなら紛れもなく四文字だよ!」
まき「うーん、女子高生たち主役のものにしては、
あんまり可愛くないようなー……」
三花「じゃあ“わじまき!”」
まき「私は主人公って柄じゃないよー」
エリ「“たきえり!”」
まき「自分から言っちゃうあたり、さすがエリちゃん!」
三花「仏像好きの変人女子高生が主人公の、ギャグアニメだねっ!」
エリ「ぐっ、悔しいけど反論できない……!」
アカネ「変人ってところも!?」
* * *
三花「もうここは四文字じゃなくて、逆に文字数を増やしてみよう」
アカネ「例えば?」
三花「“あの日見たトスの行方を私たちはまだ知らない”」
エリ「なにやら壮大な話が始まりそうだね……!」
とし美「それちょっと見逃しただけじゃない?」
まき「じゃあ、“排球少女あかねマギカ”とかはー?」
とし美「試合に勝つためなら何度だって繰り返すの?」
アカネ「それすっごい汚いお話になりそうなんだけど……」
エリ「いや、ここはあの国民的アニメに倣って……」
エリ「“トシえもん”、なんてどうかな?」
とし美「それって私のこと言ってるの?」
エリ「トシえもーん! アカネがいじめたんだー!」
とし美「エリが悪い」
エリ「即決!?」
アカネ「普段の行いを見た上だよ、絶対」
とし美「大体、人を寸胴体型のロボットにしないで欲しいかな」
三花「まあ女子高生にあの体型はキツイね〜」
エリ「でも、なんとなくとし美は似合ってると思うよ」
とし美「ん?」
アカネ(あっ)
エリ「うん、私の見立てに間違いはない。トシえもんはア」
とし美「なんだって?」
三花(……地雷踏んじゃったね、エリ)
エリ「えっ、だからアリだっ……」
とし美「ん?」
エリ「……あれ?」
まき(こっそり距離を取っておこう……)
エリ「まさかとし美、怒ってる?」
とし美「どうだろうねえ?」
エリ「お、怒ってるよね」
とし美「そう見えるの?」
エリ「……はい、そう見えます……」
とし美「ふーん……」
アカネ(エリも馬鹿だなあ……途中で止めときゃいいものを)
三花(あーあ、久しぶりに怒らせちゃった、とし美を……)
まき(普段怒らない人ほど、怒ると怖い……。
まさしくそれの典型例だからね、とし美ちゃんは)
エリ「あの、その……」
とし美「ん゛?」
エリ「ひぃっ!」
エリ(み、みんな助けてっ! ……って、もうあんな遠くに!?)
アカネ(みんな自分が一番可愛いんだよ、エリ……)
エリ(薄情者ー!!)
とし美「へえ、怒られていると自覚していても、
エリには余所見してる暇があるんだ?」
エリ「い、いえ、とんでもございませんっ!」
とし美「じゃあ私の目を見て」
エリ「えっと、あの、その……」
まき(確か、今年の新歓祭)
まき(エリちゃんはとし美ちゃんを紹介する際、こんなことを言っていた)
まき(……怒らせてしまえば、まさに鬼神のような、と……)
エリ「あ、あの……どうしてそこまでお怒りに……?」
とし美「……最近……」
とし美「部活をやめたせいか、ちょっと太っちゃったんだよ!」
エリ「そんなことで!?」
とし美「んっ、そんなことって言った?」
エリ「なんでもございませんっ!」
アカネ(エリ、生きて帰ってきてね……)
* * *
アカネ「……」
三花「……」
まき「……」
エリ「……」←正座
とし美「……」←仁王立ち
アカネ「……何分経った?」
三花「十五分ぐらいだね」
アカネ「あの沈黙に十五分は長すぎるよ……」
まき「もう私、見てられないよ……」
エリ「……」
とし美「……」
唯「ねえ、アカネちゃん」
唯「どうしてエリちゃんはとし美ちゃんの前で正座してるの?」
アカネ「例えば、りっちゃんが悪ふざけしたとしたら、どうなる?」
唯「あっ、そっか! 澪ちゃんの前で正座してるね!」
律「おいちょっと待て」
三花「にしても、周りからの視線も集まっちゃってるね」
三花(……それもエリを辱めるという狙いが
あっての行動だったら、かなり怖いんだけど……)
まき「そろそろエリちゃんを助けに行きたくなってきたかも……」
アカネ「うん、私もそれは思った」
まき「じゃあアカネちゃん、後は頼んだよ!」
アカネ「うん、そんなことになるだろうと思った」
アカネ「……とし美」
とし美「ん、どうしたのアカネ」
アカネ「そろそろエリを解放してあげてくれない?
流石に、ここまで人の目を集めちゃってるのは可哀想だしさ」
とし美「……まあ、それもそうだね。私もちょっと、怒りすぎちゃったし」
とし美「エリ、顔を上げて」
エリ「……」
とし美「……エリ?」
アカネ(ただ、なんとなく。この後の展開がもう、私には読めてしまってる)
とし美「……」
エリ「……すぅー……」
アカネ(案の定すぎるだろー!!)
三花(ね、寝てるの!? エリは命知らずなの!?)
とし美「……アカネ」
とし美「これ、どうしよっか?」
アカネ「もう好きにしてください」
第二十話「桜高バレー部の鬼神」‐完‐
最終更新:2014年04月06日 15:37