【第二十一話】


 ‐中西宅‐


まき「メリークリスマース!」

三花「いえ〜い!」

エリ「いやあ良かったよ、とし美の家が空いていてさー!」

とし美「家族全員揃って、どっかに出掛けるって言ってたしね」

アカネ「とし美だけ留守番ってこと?」

とし美「うん。バレー部でクリスマスパーティーしたいって話は、
 ずっと前から聞いてたし」

とし美「折角だから家族とじゃなくて、このメンバーで過ごしたいなと思って」

まき「それで自分から留守番するって言ったんだねー」

とし美「そういうこと」

三花「あれ、でもとし美って、お兄ちゃんいなかった?
 お兄ちゃんも一緒に家族とお出掛けなの?」

とし美「その質問の意図は大体わかるけど、悲しくなるからノーコメントで」

まき「大体私たちだって同性で集まってる時点でお察しだよねー」

三花・とし美「やめて!」


  *  *  *


とし美「ところで、本当に私は場所の提供だけで良かったの?」

アカネ「それだけでも十分だよ。料理とかは私たちで持ってきてるから」

エリ「私は飲み物持ってきたよ!」

アカネ「もうオチは見えたから、黙ってて」

まき「ち、違うよアカネちゃん! これを見て……!」

アカネ「嘘……? あのエリが、コーラ以外も購入したというの……!?」

まき「こんなの絶対、天変地異だよ!」

エリ「さすがに私のイメージが偏り過ぎてないか」


  *  *  *


アカネ「サラダにサンドイッチ、ポテトフライにチーズフォンデュ……」

まき「体重右肩上がりコースまっしぐらだねー」

アカネ「……そんなこと気にして、パーティーなんか楽しめないけどね!」

まき「おー、アカネちゃんがノリノリだー!」

三花「ローストチキンもそろそろ出来るから待っててね〜」

アカネ「……楽しめないんだけどね……」

まき「アカネちゃんのテンションが右肩下がりだ!?」


  *  *  *


とし美「全く、朝早くから大きな荷物抱えて家に来て、
 なにをするのかと思えば」

三花「どうせなら手作りで作りたいでしょ!」

エリ「これ三花の手作りなの!?」

三花「うん! とし美にも手伝ってもらったけどね〜!」

とし美「ほとんど三花が作ってたよ」

エリ「すっごい美味しそう!」

アカネ「家ではチキンなんてケンタッキーで済ませちゃうのに……」

まき「私もお店で出来てるのを買ってきちゃうなー」

三花「ふふっ、今年は本物の味というものを知ることになるよっ」

エリ「しっかしこれ手作りできるもんなんだねー……」

三花「手間はかかっても、難しくないからね〜」

まき「じゃあ一通り揃ったことだし、始めちゃおっか?」

とし美「そうだね。せーのっ」


 「いただきまーす!」


  *  *  *


エリ「抜き打ち、一発芸大会!」

アカネ「はっ?」

エリ「抜き打ちだから、誰にも予告してません!」

三花「だろうね〜」

エリ「まあパーティーの余興ってことで、一つさ」

とし美「悪くはないんじゃない?」

アカネ「こういうの苦手なんだよなあ」

まき「大丈夫、どれだけ滑ろうとエリちゃんには勝てっこないから!」

エリ「ひどい!」

三花「ねえねえ私からやっていい?」

エリ「あ、いいよー」

三花「じゃあ物真似いっちゃうよ〜」

三花「……“あー、ロミオ! あなたはどうしてロミオなの?”」

まき「おー、見事なジュリエットだー」

三花「“何故ここに……。屋敷の石垣は高くて、簡単には昇れないのに!”」

まき「ただ……」

三花「“ああ、ロミオ!”」

アカネ「……まだ根に持ってるの、ジュリエットできなかったこと?」

三花「……ちっちゃいことは気にしない方向でね?」

とし美(持ってるのか……)


  *  *  *


エリ「次は私! 私も物真似します!」

アカネ「エリも出来るんだ、意外」

エリ「まあね」

エリ「……“私の中で先輩は年下です!”」

まき「あの子の真似!?」

三花「結構似てるじゃん!」

エリ「“失礼な! 私の方が年上だよ!”」

とし美「まきが怒ってるんだね」

エリ「“ちっちゃいことは気にするなっ!”」

アカネ「今度は三花じゃない?」

三花「言葉を用いるタイミングに悪意を感じるね〜」

まき「私に対してのねー」

エリ「“はあ、いっつもくだらないことして……”」

エリ「“平常運転ね、みんな”」

アカネ「あ、私ととし美だ」

とし美「バレー部のメンバーをまとめて真似て、寸劇をするとはお見事だね」

エリ「いやいや、なんのなんの」

まき「まるで前々から準備してたみたいな出来だったねー?」

エリ「そ、それはありがとうねー?」

アカネ「……そういえばエリだけは準備する余裕があるんじゃ」

エリ「あっ……」

アカネ「あんたまさか……」

エリ「……」

エリ「……てへっ!」

アカネ(いらっ)


  *  *  *


エリ「か、返して! それは私のチキンだ!」

アカネ「一人だけ前々から考えてるなんて、フェアじゃないじゃない」

エリ「それと私のチキンに一体どんな関係があるっていうのさ!」

アカネ「チキンで償える罪なら安いものじゃない」

エリ「全然安くないよ! お高いよ!」

アカネ「……わかった。じゃあ今から一発芸してあげる」

エリ「えっ?」

アカネ「やるのは手品」

アカネ「アシスタントにとし美を起用します」

とし美「私?」

アカネ「まずこの皿の上にあるチキン。これをハンカチで隠します」

アカネ「私はハンカチを両手で持っているので、両手とも使えません。
 しかしこの状態から私は、このチキンを半分にしてしまおうと思います」

アカネ「じゃあ、とし美」

とし美「ああ、なるほど……」

エリ「ねえとし美、どうしてナイフとフォークを持っているの?」

三花「私もアシスタントしたい!」

まき「私もー」

エリ「ねえみんな、どうしてナイフとフォークを持ってハンカチに近づいているの!?」

エリ「……あ、じゃあ私もアシスタントとして」

アカネ「エリは観客だからダメ。
 観客は、タネも仕掛けもわからない状態でないと」

エリ「いやもう、タネも仕掛けも全部バレバレなんだけど!!」


  *  *  *


エリ「全く油断も隙もあったもんじゃないよ」

アカネ「はい、というわけで予定の半分しか消せなかったけど、
 私の一発芸は終わり」

まき「強引だねー」

とし美「私もアシスタントしたから、これで終わりでいい?」

三花「おっと、そうはいかないよ〜」

とし美「うん、まあそんなことだと思った」

とし美「じゃあ私はホントの手品をしてみようかな」

エリ「おっ」

とし美「まずエリのチキンをこのお皿に乗せます」

エリ「それはもういいよ!!」

とし美「嘘嘘。じゃあ、そこにあるトランプを使って……」


  *  *  *


まき「……ねえ」

とし美「どうしたの?」

まき「とし美ちゃんのマジックが見事決まって、今度は私の番ってなったとき」

まき「なにをやればいいのか困ってた私に、
 助け舟を出してくれたのはありがたいよ、とし美ちゃん」

とし美「うん」

まき「でもまさかね……、こんなものを着ることになるとは思えないよね……」

とし美「そうだよね」

まき「うん。じゃあ本題に入るね」

とし美「どうぞ」

まき「なんでミニスカサンタのコスプレなんてあるの!?」

とし美「兄貴が買ってきた」

まき「お兄さん何してるの!?」

とし美「彼女に着せようとしてたらしいんだよね」

まき「うわあ、ドン引きだよ……」

とし美「で、結局別れて、私に押し付けた」

まき「言っちゃ悪いけど、それは別れて当然だと思うよ……」

三花「はーい、こっち向いてー」

まき「写真撮らないで! 撮影禁止だよ!」

アカネ「でも可愛いよ、まき」

まき「あっ、いや……」

アカネ「どうしたの?」

まき「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさー……」

エリ・アカネ・三花・とし美「……可愛いすぎる」

まき「も、もー!!」


  *  *  *


まき「ふん!」

アカネ「ごめんって、まき」

まき「もう知らないもん!」

三花「そう言いながら一向に着替えようとしないんだよね〜」

とし美「似合ってるしね、実際」

まき「こらそこー!」

とし美「ふふっ、ごめんね。
 このあとにケーキあるみたいだから、それで機嫌直して? ね?」

まき「け、ケーキ……」

エリ(あ、これは)


  *  *  *


まき「美味しいー!」

エリ(陥落したね、まき)

三花「ねえねえ、お正月はみんな暇?」

アカネ「もうお正月の話?」

三花「だって冬休みで学校ないし、聞くならこのタイミングがベストじゃん!」

アカネ「それも確かに。私は暇だよ」

とし美「私も」

エリ・まき「同じくー」

三花「それならみんなでさ、初詣行こうよ〜!」

まき「賛成!」

アカネ「というかもう一年が終わるんだね。実感わかないなあ」

エリ「充実した一年だったね」

三花「大忙しだったよ〜」

とし美「まるでもう終わるみたいな言い方だけど、本番はまだだからね?」

三花「わかってるって!」

まき「アカネちゃんはもう専門に受かったんだよね?」

アカネ「うん」

エリ「お、じゃあ遊び放題じゃん!」

アカネ「そうかもしれないけど面と向かって言われるとムカつく」

アカネ「大体私だって学校始まれば、そこから二年間忍耐の日々なんだからね?」

とし美「二年間通った後じゃないと、試験受けられないから?」

アカネ「そう。なんで美容師に試験なんてあるんだろ」

まき「初めてアカネちゃんに言われた時、冗談かなにかかと思ったよー」

まき「美容師は国家資格、なんて」

アカネ「よっぽど学校で遊んでばかりじゃなければ、受かるみたいだけどね」

三花「バイトとかしてる暇はあるの?」

アカネ「一応しようとは思ってるよ。美容室のバイトでもいいし、他の仕事でもいいし」

エリ「免許無しでもバイト出来るの?」

アカネ「掃除とか洗濯とかだけで、お客さんには触れられないけどね。
 でも段取りとかがわかるし、身になることは多いと思う」

まき「みんなやっぱりバイトするよねー。私はなにしようかなー」

エリ「うーん、まきにバイトは難しいね」

まき「なんで?」

とし美「中学生と間違われるからじゃない?」

エリ「そうそう」

まき「そうそうじゃないでしょ!?」

三花「まきの来年のお願いが決まったね!」

まき「勝手に決めないでよ! まだ志望校合格の方が大切だよ!」

アカネ「あくまでお願いしたいことではあるんだね」

まき「うっ」

アカネ「そうなんだね?」

まき「アカネちゃんの意地悪。別にいいもん」

まき「来年になったら私だって!」


 ‐神社‐


まき「……体重が増えちゃった」

アカネ「どんまい……」

エリ「縦に伸びず、横に伸びたわけかー」

まき「うわあああ!!」

アカネ「エリ!」

エリ「ごめんごめん。大丈夫だよ、見た目はそんな変化ないし」

エリ「ねえ、三花?」

三花「え、あー……、うん……」

エリ(こっちの方が重症だった)

とし美「三花も見た目じゃわからないけど……、何キロ太ったの?」

三花「乙女にその質問は禁止〜!!」

アカネ(とし美はまるで無傷か)

エリ(あのクリスマスパーティーを経ても変わらないとは……)

エリ「……にしても、みんなして張り切ってるね着物」

アカネ「人のこと言えないでしょ」

エリ「いやまあ、折角だしね!」

まき「とし美ちゃん、凄い着物似合ってるよねー」

とし美「そう?」

まき「うん! とっても綺麗で、落ち着いてて、雰囲気が良い!」

とし美「ありがと。まきも似合ってるよ」

三花「まきのは良い意味でまきらしい着物だね!」

まき「うん、ありがとー。久しぶりの着物だから、着れるか不安だったよー」

アカネ「つまりそれって中学生ぐらいから着続けてる着物なの?」

エリ「小学生からじゃない?」

まき「うん、やっぱり新年一発目のいじりもこういう系統なんだね」


  *  *  *


三花「さ、私たちの番だよ」

とし美「そういえばお願い事をするとき、感謝の言葉も添えた方がいいみたいだよ」

三花「去年のお願いを叶えてくれたことに対して?」

とし美「なにに対する感謝かは、私もわからないけど」

三花「ん〜、じゃあさ」

三花「今まで生きてこれたことに感謝!」

三花「とかでもいいのかな?」

とし美「神様の前で適当なこと言えないけど、多分いいんじゃない?」

まき「……」

アカネ「どうしたの、まき?」

まき「いやあ、お礼かあと思って」

まき「ちょっと微妙な心境なんだよねー」

アカネ「……ああ」

アカネ「去年の願い事は叶わなかったもんね」

まき「私の身長を確認しつつ言わないでくれるかなー?」

まき「……でも、そのお願いはもういいんだ」

アカネ「いいの?」

まき「うん。今年のお願いはね、
 少しでもアカネちゃんから身長を吸い取れますように、ってするから!」

アカネ「傍迷惑な!」


  *  *  *


三花「よっしゃ、大吉〜!」

まき「おー」

とし美「新年早々、良いスタートだね」

アカネ「私は中吉。エリは?」

エリ「……」

アカネ「エリ?」

まき「……ていやー!」

エリ「ああっ、私のおみくじが!!」

まき「三花ちゃん、パスっ!」

三花「はいよ!」

三花「どれどれー……」

エリ「か、返してよー!」

とし美「私にも見せて」


 【凶】


とし美「……お、おー……」

エリ「うう、まさかこのシーズンに凶を引くとは……」

まき「だ、大丈夫だよエリちゃん!
 おみくじなんかで、エリちゃんの今後が決まるわけでもないし!」

アカネ「そうそう。どんな努力家でも成功者でも凶を引くことはあるんだし、気にしないでいいって」

エリ「とはいっても、やっぱりショックー……」

三花「……いや、みんな。結論を出すのは、まだ早いよ」

アカネ「えっ?」

三花「ここを見て」


 【学問:早めに目標を定めよ】


まき「あー……」

とし美「なるほどね」

エリ「えっ? なに、どゆこと?」

アカネ「……エリ。この際はっきり言っておくよ」



アカネ「この結果は自業自得だ」

まき「自業自得だねー」

とし美「自業自得だ」

三花「自業自得だね」

エリ「泣きっ面に蜂とはこのことかっ!!」



第二十一話「桜高バレー部の吉凶」‐完‐


25
最終更新:2014年04月06日 15:37