【第二十三話】
‐エリの家‐
エリ(……ついに明後日となった入試本番)
エリ(センターではやらかしたけど、今度はそんなことないように気をつけよう)
エリ(……)
エリ(アカネは専門が結構前から決まってて)
エリ(とし美はセンター利用で第二志望の合格が濃厚で、
いくらか楽な気分で第一志望の試験に臨めて)
エリ(三花とまきは模試で十分合格圏内だったから、まあ心配ないとして……)
エリ「一番心配なのは他でもない私自身なんだよねー……」
エリ(そもそも人の心配してる場合じゃないっての)
エリ(……)
エリ(……思えば、こんな私の勉強に今までよくついて来てくれたよね、アカネって)
エリ(……)
エリ(……絶対アカネの眼前に、合格証書突きつけてやるんだ)
‐まきの家‐
まき(……よし)
まき(今日はもう寝よっと)
まき(それにしても、思ってたより自分が勉強できるようになってるなー)
まき(こんな英文、始めだったら簡単には意味を取れなかったよ)
まき(……)
まき(……そういえばエリちゃん、もう明後日には入試なんだっけ)
まき(大丈夫かなー)
まき(他のみんなはともかく、エリちゃんに関してはとんでもなく不安だよ)
まき(……)
まき(よし、メールしよ)
‐三花の部屋‐
三花「はあ〜」
三花(もう無理頭が限界! 今日は寝よ〜)
三花(おやすみなさい……)
三花(……)
三花(……)
三花(……頭の中で単語がぐるぐる回ってる)
三花(寝れない!)
三花(こういうときは全く違うことを考えて、気分を紛らわそう)
三花(……いい国作ろう、鎌倉幕府)
三花「って、中学生か!」
三花「……思わず声出しちゃったよ」
三花「あ、そういえば明後日にはエリが試験本番なんだっけ」
三花(眠くならないし、部長として激励のメールでも送ろっかな〜)
‐とし美の部屋‐
とし美「……」
とし美「……む」
とし美「んー……」
とし美「……」
とし美「……」
とし美「…………」
とし美「……すー……」
‐アカネの部屋‐
アカネ「エリの試験日まで後二日……」
アカネ「……」
アカネ「……不安だ」
アカネ(私も頑張って手伝ってきたけど、最後の方は見てあげられなったし)
アカネ(模試の結果を見る限り、正直五分五分で受かるか落ちるか、なんだよね……)
アカネ(……)
アカネ(……こんなことは絶対にないと思うけど)
アカネ(エリ、まさか選択肢で悩んだとき用の鉛筆用意してないよね?)
アカネ(……)
アカネ(澪ちゃん、確かりっちゃんがそんなものを作ってたって言ってたな)
アカネ(エリとりっちゃん……手のかかる点は似てるよねって、澪ちゃんと話したっけ)
アカネ(いやいや、二人は違う。りっちゃんには悪いけど)
アカネ「ごめんね、エリ」
アカネ(それでも私は、あなたを信じてる)
アカネ(……)
アカネ(……信じてるのはまた別として、メール送ってみよう)
‐エリの部屋‐
「prrr...」
エリ(お、メール?)
エリ「まきからだ」
【勉強はかどってるー?】
エリ(ふむふむ、私がしっかりしてるか心配になったわけだ)
エリ「“心配ないよ”、と」
エリ「さーて勉強さいかーい」
「prrr...」
エリ「……って、またメール? まきの返信かな?」
エリ「あれ、今度は三花か」
【お互い勉強を気合い! 入れて! 頑張ってこー\(*⌒0⌒)♪】
エリ(部長からの激励ってわけだ……ありがたや、ありがたや)
エリ「“気合い十分、フルチャージだよー”、と」
エリ「よし! 今度こそ再開!」
「prrr...」
エリ「また? 私も人気者だなあ」
エリ「お、今度はアカネからか」
【どうせ信じるなら鉛筆じゃなくて、自分を信じてね】
エリ「……なにこれ? なにかの比喩?」
エリ「ま、いっか」
エリ「“いつでも私は自分を信じてるよ”、と」
エリ「ちょっと調子乗りすぎかなー?」
「prrr...」
エリ「またまたメールだ」
エリ「この流れだと、とし美かな」
エリ「いやあ、今夜はモテモテで困っちゃうわー」
エリ「……って、まきだった」
【私は心配だよ……エリちゃんのその根拠なき自信が】
エリ「こいつ上から抑えつけて身長縮めてやろうか」
エリ「“全く失礼な、私だって勉強してきたんですー”、と」
エリ「というか明日試験の人にこんなメール送るなんて、ひどくない?」
エリ(まあ楽しんで返信してる私も私だけど)
「prrr...」
エリ(今度こそとし美か?)
エリ「いや、三花だった」
【フルチャージ確認しました〜(笑)
でもエリの頭じゃ、もうパンク寸前だろうね〜】
エリ「これは私の頭の容量が小さいってことだろうか」
エリ「……実際パンク寸前だけどさ」
エリ(でも誰だってこの時期はパンク寸前になるよね?
それで、合格した途端ガスがぷしゅーと抜ける感じに……)
エリ「ま、いいや。さてさて、返信を……」
「prrr...」
エリ「っと、その前にメールか。アカネだね」
【それはそれで不安かも……】
エリ「自分を信じてって言ったの、アカネだよね!?」
エリ「全く、自分の言ったことには責任を持ってほしいものだよ」
エリ「大学生になるからには、そこら辺もキチンとしないとね」
エリ「まず三花には、“早く試験終えて、ガス抜きしたいよ〜”、と」
エリ「アカネにはなんて返信しようかな。
やっぱりここは大学生としての志ってやつを見せつけて……」
「prrr...」
エリ「ん、まきだ」
【エリちゃん、今まで勉強してきた人がメールしてていいの?】
エリ「どの口が言うんだ!!」
エリ「“そっちから始めてきたことでしょうが!!”、はい、送信!」
エリ「ふー……」
エリ「……あっ、今のメール、間違えてアカネに送っちゃった」
エリ(でもギリギリ意味通じるからいっか)
エリ「まきにも同じ文で返信しといて、と」
「prrr...」
エリ「お次は三花かな」
【本当だね〜(-_-;) どうせなら海外とか行っちゃう?】
エリ「それいい! 凄い良いね!」
エリ「出来ればハワイとか行って遊びたいな〜」
エリ「そうと決まれば行動だ。別になにも決まっちゃいないけど」
エリ「“ハワイ! ハワイ行ってみたい!”、と」
エリ「新しい水着買わなくちゃな〜」
「prrr...」
エリ「まきかな? それともアカネかな?」
「prrr...」
エリ「って、まさかの二連続。あの二人だね」
【そこに気付けるぐらいには、エリが馬鹿じゃなくて良かった】
【そこに気付けるぐらいには、エリちゃんは馬鹿じゃなかったかー】
エリ「こいつら絶対裏で繋がってるでしょ!?」
エリ「あるいは、これがバレー部の私に対する、共通認識という可能性……」
エリ「って、どっちにしろ嫌すぎる!」
エリ「何かこの際、二人ともに一斉送信でいい気がしてきた」
エリ「“グルになって馬鹿にするな!”、と」
エリ「次に来るメールは、あちゃーバレちゃった? みたいな感じだと予想するよ」
「prrr...」
エリ「あれ、アカネ? 返信早いな」
【え?】
エリ「完全に私の勘違い! めっちゃ恥ずかしい!!」
エリ「次に来るまきのメールを思うと、胸がキリキリするよ……」
「prrr...」
エリ「ひぃ! メールだ!」
エリ「……まきじゃなくて三花だった」
【ハワイいいね! 本当に計画しちゃおーよ!】
エリ「三花が天使に見えてきた」
エリ「そういえばミカエルっていう天使を聞いたことがあるなあ」
エリ「……三花える」
エリ「ぷくくく……これは傑作……!」
エリ「“じゃあ試験終わったあとに行くとして、卒業式の前にする?
それとも後にする?”、と」
エリ「あとアカネにはなんて返信しようかなー」
エリ「……もうこのまま放置してやろうか」
エリ「しかしとし美からメールが来ないなー。いや、絶対に来る確証は無いんだけどさ」
エリ「でも場の流れ的にね。流れ的に」
「prrr...」
エリ「とか言ってる側からほら! とし美の文字がディスプレイに!」
【柴矢 俊美】
エリ「でもお前じゃない! 俊美だけどとし美じゃない!」
エリ「って、なんで俊美ちゃんからメールが?」
【今日は友達の家に泊まっていくから、よろしくねお母さん】
エリ「間違いない。間違いなく、これは間違いメール」
エリ「“私はお母さんじゃないよー”、と」
エリ「さて、ちょっとしたサプライズもあったけど、
そろそろまきからメールがあってもおかしくない頃……」
「prrr...」
エリ「きたきた。やっぱりまきからだ」
【グルってなんのことー?
というか、アカネちゃんともメールしてるのー?】
エリ「まあ当然の疑問だよね……」
エリ「“同じような内容のメールがほぼ同時に来たから。
ごめんごめん、勘違いだったみたいだね”、と」
エリ「こういうときは素直になった方が解決は早い。私は学んだよ」
「prrr...」
エリ「お、俊美ちゃん。どういう感じかな?」
【わー、ごめん! 間違えて送っちゃった!】
エリ「うんうん、たまにあるよね、そういうこと」
エリ「“大丈夫だよ、早くお母さんにメール送ってあげて〜”、と」
エリ「そういえば、俊美ちゃんじゃない方のとし美からは音沙汰なしか。
この流れに逆らとは、さすがとし美。一筋縄ではいかないね」
「prrr...」
エリ「今度こそとし美かな?」
【今日は友達の家に泊まっていくから、よろしくねお母さん】
エリ「重ねてきたー!!」
エリ「……もうこれは、放っておこう。多分相手も気付いてるだろうし」
エリ「というか、もうこんな時間なんだ。
そろそろメールも終えて、寝ることにするかな……」
「prrr...」
エリ「っと、三花だ」
【卒業式の前の方がいいかな?
ま、詳しいことはまた後日ってことで〜お休み〜】
エリ「“そうだね、じゃあまた後日! おやすみ!”、と」
エリ「アカネとまきからも返信ないし、二人とも寝たのかな」
エリ「んじゃ、私も寝るとしますかー……」
「prrr...」
エリ「……なんだこれ。知らないメアドからだ」
【件名:私の主人がチンパンジーになって一年が過ぎました】
【いきなりのメール失礼いたします。
とし美といいます。25歳の既婚者です。
信じられないかもしれませんが、私の主人はチンパンジーなのです。
主人が出張から帰ってきたあの日から、私はずっとチンパンジーの相手をしてきました。
ですが、もう限界です。お恥ずかしい話、私の身体はチンパンジーで満足できないのです。
毎晩毎晩、身体の火照りが増すばかりで——】
エリ「……」
エリ「…………」
「…………」
エリ「とし美だけど、お前じゃねえ」
第二十三話「桜高バレー部の文通」‐完‐
最終更新:2014年04月06日 15:38