三花「ふっふっふっ。ハワイに来たからには、結成しなくちゃね」

まき「そうだね!」

とし美「なにを?」

三花「我ら! 桜が丘高等学校バレー部改め……」

まき「桜が丘高等学校ビーチバレー部!」

三花・まき「ここに推参!」

とし美「……お、おう」

まき「あれ?」

まき「とし美ちゃんのテンションが低いね」

とし美「いや、なんというか……」

とし美「別にハワイじゃなくてもよくない?」

三花「ハワイじゃなきゃ駄目なんだよっ!」

とし美「なにゆえ」

三花「実はこの部活名は略されていてね……」

三花「正確に言うと……我ら!」

まき「桜が丘高等学校ビーチバレーとハワイを愛する部!」

三花「なんだよ」

とし美「だいぶ内容に変更があったよ!?」


  *  *  *


エリ「ハワイといえば海だよね!」

アカネ「そうね」

エリ「で、海といえば波だよね」

アカネ「まあ」

エリ「そして波といえば波乗りだと思うんだよ」

アカネ「波乗りねえ」

エリ「というわけで、サーフボードを借りてきちゃいました!」

アカネ「いつの間に!?」

エリ「もうじゃんじゃん乗っちゃうよー」

アカネ「経験者なの?」

エリ「うん。一度も乗れたことないけど」

アカネ「……それは経験者としてカウントしていいの?」


  *  *  *


エリ「……」

とし美「あれ、エリ。どうしたの疲れた様子だけど」

エリ「いやね……」

エリ「その場のノリで物を借りちゃいけないな、と思ってね」

三花「どゆこと?」

アカネ(あの後しばらく頑張ったけど、乗れなかったからねえ)

アカネ(……挙句、地元の親切な人が教えてあげようかと近づいてきちゃうし)

アカネ(もちろん相手は英語だから、エリはしどろもどろでそれどころじゃなく)

アカネ(Thank you! とだけ言ってエリは逃亡)

アカネ「……」

アカネ「エリはサーフィンより先に、英語の学習をしないとね」

エリ「うん……ハワイ怖いわー……」

とし美「なんとなくしかわかってないけど、多分ハワイに罪はないと思う」


  *  *  *


三花「そんじゃ、ホテルに戻って、晩御飯にしようっ!」

エリ「晩御飯かー……突然だけど肉が食べたい」

まき「女子力の欠片も感じられない発言だねー」

まき「でも私も食べたいよ。ラウラウ美味しかったし」

とし美「お、ちょっとガイドブックで調べてみたけど、近くに評判の鉄板焼き店があるみたいだよ」

エリ・まき「そこ行きたい!」

アカネ「決まりね」


 ‐鉄板焼き店‐


エリ・まき・アカネ・三花・とし美「おおおおお!」

まき「すごいよすごいよ! 炎が高いよ!」

エリ「写真、写真撮らなくちゃ!」

とし美「わ、私も!」

三花「うおおお、燃え上がれ〜ってね!」

アカネ「見てるだけで楽しい気分になっちゃうね!」


  *  *  *


三花「ん〜、美味しい〜!」

とし美「このロブスターもだけど、やっぱりお肉が特に美味しいね」

エリ「うん、肉がうまい!」

まき「だから肉が付く!」

エリ「やめて!!」

アカネ「……食べ過ぎたかな……?」

三花「アカネ、安心して」

三花「みんな一緒だよっ」

アカネ「三花……」

三花「さあさあ、どんどんお食べ!」

アカネ「……ねえ、どさくさに紛れて、人のこと道連れにしようとしてない?」

三花「……気のせいだよ〜?」


 ‐ホテル‐


まき「食べたねー」

とし美「ちょっと食べ過ぎたぐらいかな?」

三花「明日からは少し抑えめでいこっか〜」

まき「フードコートとか行けば、日本食もそれなりにあるみたいだしね」

とし美「じゃあ明日の昼はフードコート?」

三花「いいんじゃない〜。あっ、でも、二人とも話しとかないと」

まき「私、呼んでくるねー」


  *  *  *


まき(あ、普通に部屋の外に出ちゃったけど、
 コネクティングルームだから出る必要ないじゃん)

まき(まあいっかー)

まき(どっちにしろ隣の部屋だし。距離は大差ないよねー)

まき(ノックノック、と)

まき(……)

まき(……あれ。反応がない)

まき(二人とも部屋にいないのかな?)

まき(じゃあ仕方ないや。一回、部屋に戻っておこうっと)


  *  *  *


エリ「どこ行ってたの、まき」

まき「えっ!?」

まき「ど、どういうことなの……エリちゃんに似てる人が、私たちの部屋にいる……」

エリ「いや正真正銘私だけど……」

まき「まさかハワイはクローン技術が進歩していて……」

エリ「だから私は本物だって!」

まき「じゃあエリちゃん!
 “これが人間のサガってやつだよ”の、サガを漢字で書いてみてよ!」

エリ「おう!」


 【差我】


まき「良かった、本物のエリちゃんだ」

エリ「やっとわかってくれたかー。これで一つ話が進んだね」

アカネ「エリは何一つ進歩してないけどね」


  *  *  *


三花「明日の計画はこんなところでいい?」

まき「異議なーし」

三花「よしよし決定〜!」

とし美「まだ寝るまでにはじかんあるけど、どうする? なにかする?」

エリ「そういえば私、UNO持ってきたよ」

とし美「UNOなんて随分やってないなあ」

エリ「じゃ、せっかくのハワイ記念にやっちゃう?」

とし美「ハワイ記念にはならないと思うけど、いいね。やろう」


  *  *  *


まき「じゃあ順番は私から時計回りねー」

三花「オッケー」

アカネ「“ウノ”の言い忘れは厳しく追及するからね」

エリ「お、アカネがマジになってる」

三花「これはタッグを組むしかないかな〜」

アカネ「へっ?」

アカネ(このまま時計回りだと、まき、三花、私、エリ、とし美の順番……)

アカネ(そしてこの二人が組むということは……)

三花「ほい、リバース!」

アカネ「案の定だ!!」

アカネ(そしてエリのターンに都合よく色が合致したものがあれば……)

エリ「はい、リバース」

アカネ「言わんこっちゃない!!」

アカネ(あー、そして三花の顔。明らかもう一枚リバース持ってますよーって顔だわー)

三花「ごめんねアカネ、またリバース」

アカネ「知ってた」

アカネ(まあ、ここまでくればいい加減リバースも終わ……)

エリ「あ、今度はスキップね。三花の番だよ」

アカネ「な……!」

エリ「へへーん」

アカネ「……やってくれるじゃない」

三花「……」

三花(……あ、なんかアカネがやばいオーラ出してるって、私の勘が必死に騒いでる)

とし美「……」

三花(とし美のあの目、そろそろやめとけってサイン送ってる気がする)

まき「……」

三花(まきも何だか知らないけど、頷いてるし)

三花(まあアカネは、たかがカードゲームで本気で怒る子じゃないけど、
 それでも後が怖いし〜……)

三花「……ほい、リバース」

エリ「なっ!」

エリ(まさかまだリバースがあったとは……まあ十分差をつけることには成功した)

エリ(後は通常通りにやっていけば、難なく……)

アカネ「ふう、やっと私の番ね。ドロツー」

エリ(ドロツー!? く、リバースしたせいで、私に効果が……しかし!)

エリ「私もドロツー!」

エリ(これしきの事体、想定してない瀧エリではないわ!)

とし美「あ、私もドロツーね」

まき「私もあるよ、ドロツー」

三花「ドロツー返し!」

エリ(ぜ、全員ドロツーを所持していただと……! マズイ、嫌な予感しかしない!)

アカネ「ねえエリ」

エリ「な、なにかなアカネ?」

アカネ「ドロツー」

エリ「うわあああああ!!」


  *  *  *


まき(初めのゲームの結果はとし美ちゃん一位で、エリちゃんはビリでした)

まき(そして、あの後も数ゲームしてみて)

まき(結構順位も入れ替わったんだけど)

まき(何故かエリちゃんはずーっとビリなのでした)

まき「特別狙われたわけでもないのに、なんでだろうね?」

エリ「わからない……ハワイ怖いわー……」

とし美「だからハワイに罪はないよね?」


  *  *  *


まき「じゃあねー」

アカネ「うん、また明日ー」


 「ガチャンッ」


エリ「あー、なんであんなに負けが続いたんだー!」

アカネ「もう運が悪かったとしか言いようないでしょ」

エリ「ハワイに神はいなかったってことか……」

アカネ「また極端な」

エリ「……」

エリ「……そういえばハワイにいるんだよね、私たち」

アカネ「どうしたの、いきなり?」

エリ「だってさ、いつもいる学校じゃなくてさ」

エリ「それどころか日本でもない場所に、こうして五人が集まってるんだよ?」

エリ「こんなに遠くに来ても、すぐ近くで明日を迎えようとしてるんだよ?」

エリ「それってなんだかとってもさ……なんていうか……」

アカネ「なんていうか?」

エリ「……なんていうんだろ」

アカネ「こら」

エリ「だって言葉じゃ言い表せないよ。でもわかってくれるでしょ?」

アカネ「まあ、なんとなくは……」

エリ「良かった」

エリ「……良かった」

アカネ「そんなに嬉しいの?」

エリ「嬉しいよ。よくわからないけどさ」

アカネ「ふふ、わからないことだらけ」

エリ「世の中わからないことの方が多いんだよ」

アカネ「それもそうね」

エリ「……うん」

アカネ「……寝よっか?」

エリ「そうしよっか」

アカネ「じゃ、おやすみ、エリ」

エリ「うん、おやすみ」

エリ「……」

アカネ「……」

エリ「…………」

エリ「……どーん!」

アカネ「わっ! な、なによエリ!」

エリ「今日は一緒の布団で寝よ、アカネ!」

アカネ「どうしたの本当」

エリ「ちょっと修学旅行のアカネ思い出しただけー」

アカネ「うっ」

エリ「……だめ?」

アカネ「だめじゃないけど……」

エリ「やった」

アカネ「今日だけなんだからね」

エリ「アっカネ〜!」

アカネ「ちょ、なによもう!」

アカネ「……てか、今の話聞いてた?」

エリ「なにが?」

アカネ「はあ……まあ、いいか。もう遅いし、寝るよ」



アカネ「今度こそおやすみ、エリ」

エリ「ん、おやすみ、アカネ」



第二十四話「桜高バレー部の渡航の壱」‐完‐


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最終更新:2014年04月06日 15:39