後輩B「いやあ、勝ちましたねえ、まき先輩」
まき「何もしないで勝てたねー」
アカネ「……」
まき「アカネちゃん?」
アカネ「……はあ」
まき(落ち込んでおられる)
アカネ「後で謝らないと……」
まき(あくまで謝るのはこちら、と。律儀だねー)
後輩B「ところでまき先輩、今まさに第二試合が行われているわけですけど」
後輩B「なかなかKOになる気配がしませんね」
まき「そうだねー」
後輩A「そこ、元々バレーにKOなんて無いから!」
三花「よそ見してる暇なんてあるのかな〜?」
とし美「それっ!」
後輩A「しま……っ!?」
とし美「……はい、ゲームセット。私たちの勝ちね」
後輩B「あーあ、よそ見するから……」
後輩A「あんたのせいでしょ!」
後輩C「あそこでよそ見しなければー……」
後輩A「こいつのせいなんだからー!!」
* * *
後輩C「さてついに決勝戦となりました」
後輩C「今度の解説には怪我から復帰したエリさんを招いております」
後輩C「エリ先輩、よろしくお願いします」
エリ「よろしくねー」
後輩C「さてこの試合、一人だけ二年生が紛れてしまっていますが……」
エリ「どっちかというと二人なのでは?」
後輩C「なるほど」
後輩C「おや、まき先輩がこっち睨んでます。図星だからでしょうか」
エリ「まき選手の表情が一層険しくなる! これは試合にも期待できそうです!」
後輩C「そんなこんなしてるうちに、両チームの選手が立ち位置についたようです。
先にサービスを打つのは、とし美選手ですね」
エリ「とし美選手は安定性に定評のある選手です。きっちり決めてくれることでしょう」
後輩C「卓球のエリ選手に比べたら、間違いないでしょうね」
エリ「それどこで聞いたの」
とし美「行くよ! それっ!」
後輩C「そういえばビーチバレーは二人なので、
レシーブした人が相手のコートに打ち込むことにもなりますよね」
エリ「そうだね」
後輩C「まき先輩大丈夫なんですか?」
エリ「えっ?」
後輩C「いや、今レシーブしてたので……」
エリ「あー、大丈夫大丈夫」
エリ「ちっちゃいけどジャンプ力は人並み以上だから」
まき「ちっちゃくないよー!!」
後輩C「おっとまき先輩、叫びながら怒りのスパイク! これは強烈!」
エリ「ちっちゃいわりには、なかなかの威力です。
しかしとし美選手、悠々とレシーブをしますねー」
後輩C「三花選手、うまくとし美選手の位置に合わせてトスを上げた!」
エリ「さあ決めてくれるか、とし美選手!」
とし美(三花、いいボールをありがと)
まき(……来る!)
とし美「くらえっ!!」
エリ「おおっと、とし美選手、狙いが正確だ! 空いてる場所めがけて、ボールが突き進む!」
後輩C「しかし元セッターのまき選手は一味違います!
必死に追いつこうと、手を伸ばしながら灼熱の砂浜にダイブ!」
まき(届けえええーーー!)
後輩B(まき先輩……!)
とし美(……っ!? ダメだ、届く!)
まき(ふふ、甘いねとし美ちゃん……私の実力を舐めてもらっちゃ困るよ……)
まき「それっ! そっちいったよ!」
後輩B「はい、まき先輩! 任されちゃいました!」
後輩B(やっぱりまき先輩は凄いなあ……あんな身体でも、あそこまで出来るんだもん……)
後輩B(私の一生の憧れです、先輩!)
後輩C「おっと、なにやら爽やかすぎて逆に気持ち悪い笑顔でトスを上げている!」
エリ「純粋すぎるとああなるんですねー」
後輩C「ところでエリ先輩は先程純粋な愛を叫んだら、KOされたわけですけど」
エリ「うかつでした」
後輩C「そのKOにしたアカネ先輩はどこへ行ったのでしょう?」
エリ「そこら辺で飲み物買って、頭冷やすとか言ってましたね。
ところでそちらの相方も見当たらないわけですが、どこへ行ったのでしょう」
後輩C「……あれ。本当にいませんね。どこ行ったんでしょう」
* * *
後輩A「アカネ先輩!」
アカネ「……あれ、どうしたの。ついて来てたの?」
後輩A「一人でどこに行くのかなと思って。迷惑でしたか?」
アカネ「ううん。別にいいよ」
後輩A「……良かったです」
アカネ「でも皆のところにいなくていいの?」
後輩A「えっと、なんというか、聞きたいことがあったんです」
アカネ「なに?」
後輩A「アカネ先輩っていつからあんなにエリ先輩と仲良しなんですか?」
アカネ「ぶふっ!」
後輩A「ずっと聞きたかったんですよ」
アカネ「よりによって最悪のタイミングでかましてくれるね……」
アカネ「……エリはねえ、一年の頃に部活で会ったのが最初。
初めは落ち着きのない、元気な子だなあと思ってただけだったよ」
アカネ「でも色々な面倒事に巻き込まれていくうちに、私には無いものを持っていることを知って」
アカネ「あとは流れで、仲良しになったんだ。別に面白いエピソードなんかは無いよ」
後輩A「無いものを持っている……」
アカネ「誰でもそうなんだけどね。皆、私に無いものを持っている。
でもとりわけエリはそれがわかりやすくて、話していたいと思ったんだよ」
後輩A「それは……私もそうでしょうか?
先輩に持ってないものを、私も持ってるんでしょうか?」
アカネ「うん」
後輩A「……」
アカネ「……それじゃ、戻ろうか。私も頭冷えてきたし」
後輩A「……先輩!」
アカネ「どうしたの?」
後輩A「私にとっての先輩も、そうでした。ずっと追っていきたいと思ってます」
アカネ「ふふ、本当どうしたの? そんなこと言うキャラだっけ?」
後輩A「い、今だけは腹を割って話そうかと……思って……」
* * *
後輩C(……)
後輩C(思い返せば、あいつが先輩に直接カッコいいと伝えられたの、
後夜祭のたった一度きりなんだよねえ)
後輩C(ヘタレすぎるなあ……面白いけど)
エリ「試合終了ーっ!」
後輩C「あ、終わった」
エリ「三花・とし美ペアの勝利!」
三花「とし美、ナイスプレイだったよ〜!」
とし美「そっちこそね!」
まき「負けたー……」
後輩B「さすがに先輩二人を相手にすると辛いですね。
でも、私たち後輩も健闘したと思いません?」
まき「健闘したと思うけど、私たち後輩ってどういう意味?」
アカネ「試合終わったんだ」
三花「アカネおかえり〜。調子はどう?」
アカネ「まあいつも通りに戻ったよ」
後輩A「……」
後輩B「あれ、なんでアカネ先輩と一緒にいるの? てか試合見てくれてなかったの?」
後輩A「どうせあんたが足引っ張って負けるだろうし、見なかったよ」
後輩B「ひどくない!?」
後輩A「まだまだ先輩たちには適わないよ、私たちなんか」
後輩B「いやいや、部長は過小評価しすぎだよ。私たちだって結構食らいついてたんだから」
三花(……お、部長って呼ばれてる)
* * *
後輩C「それじゃあ私たちは行きますね」
後輩A「お先に失礼します」
エリ「じゃあねー!」
後輩B「では、まき先輩はこちらへ……」
まき「なんで」
後輩A「ほら、行くよ! ここに来てまで先輩に迷惑かけないの!」
後輩B「ああ運命は残酷だ……!」
三花「まあOGとして呼べばいいしさ。ねっ?」
アカネ「そうだね。時間空いてれば、練習手伝うこともできるよ」
後輩A「はい!」
とし美「……そしていつか、合宿で後輩をしごく側に回るんでしょ?」
三花「もちろんそれが最終目標だよ〜」
後輩C(ご愁傷様と言っておくよ、未来のバレー部たち……)
後輩A「……それでは、この辺で」
‐ホテル‐
まき「じゃ、おやすみー」
アカネ「うん、おやすみ」
アカネ「……ふう。今日は一段と疲れたわ」
エリ「まさか後輩たちが揃って出てくるとはね」
アカネ「あとエリがあんな爆弾発言してくるから」
エリ「えー、いいじゃん。私の愛を受け止めろ、アカネっ!」
アカネ「あ、こら! 抱き付くなって!」
エリ「えへへ」
アカネ「まったくもう……。ほら、明日帰るんだから、早く寝るよ」
エリ「んー」
アカネ「……もう。こんなに甘やかしてあげるのは、ハワイにいる間だけなんだからね」
エリ「優しいなあ、アカネは」
アカネ「はいはい。おやすみ、エリ」
エリ「おやすみー」
* * *
エリ「……」
エリ「……アカネ、寝た?」
アカネ「……」
エリ(……完全に寝られたかな。一歩遅れてしまった)
エリ(まあでも、その間は私が主導権を握っているのですよ。
つまりは悪戯し放題ってやつ?)
エリ「えい」
アカネ「ん、んー……」
エリ(あ、あれ、起こしちゃった? うわー、こっち向いてきたし)
アカネ「……すぅー……」
エリ(なんだ、ただ寝返りうっただけだった……よかった……)
エリ(……しかしアカネって、こうして見るとホント綺麗だよね)
エリ(どうしてんなにも、アカネは綺麗なのかな。
どうしてこんなにも、ずっと近くで見ていたくなっちゃうのかな)
エリ(うん……、どうして……こんなに近くで……)
アカネ「……」
エリ「……」
アカネ「んー……」
エリ「——っ!?」
エリ(えっ……わ、わたし今なにしようとしてた? えっ!?)
エリ(……わかんない。わけわかんない! ……なにこれ!)
エリ(ああ、もう……、なんなのさ……)
アカネ「……」
エリ(……きっとすごく眠いんだ。だからなんだよ……、うん……)
エリ(早く寝よ……おやすみ……)
・
・
・
‐機内‐
エリ「……」
エリ(ああ、楽しかったなー、ハワイ。色んなことがあった、うん)
エリ(海は綺麗だし、時間は自由に使えるし、ご飯は……ポイ以外は美味しいし)
エリ(ホテルは……アカネたちと一杯過ごせたし……)
エリ(……)
エリ(とっても充実してた。身体も心も大満足の毎日)
エリ(……)
エリ(……日本まで、あと少しだ)
‐日本に着いて数日後・三年二組教室‐
和「……机を前の方に集めて……うん、そうそう」
和「もう一列いりそうね」
信代「りょうかーい」
曜子(ま、まさかの幸福……夢なら覚めないで!)
アカネ「……軽音部もやることが凄いよね」
まき「このタイミングで教室ライブだもんねー」
まき「黒板、あとはなに書こうかなー」
アカネ「適当に可愛くお花とか書いちゃえば?」
エリ「ふふふーん」
アカネ「……エリ、それはなにを書いたの?」
エリ「羽の生えた熊だよ!」
アカネ(さすがの発想と言うべきか……可愛いけど)
律「おいーっす」
律「……え、いいの?」
和「あら」
信代「あとで拭けばいいじゃん」
エリ「主役たちの入場だね」
まき「りっちゃん、持つよー」
律「サンキューな」
唯「黒板可愛い〜!」
エリ「まだまだ半分しかできてないけどね」
律「ロンドン的なテイストも加えてくれよな!」
まき「安心して。ここに“国際的女子高生”って書いといたよー」
澪「こ、国際的……?」
エリ「あと私は“ロンドンがえり!”って書いたよ!」
律「……なあエリ」
律「それってロンドンが“エリ”ってことか?」
エリ「いかにも」
アカネ「えっ」
紬「ふふっ……ロンドンがエリちゃんなんて……!」
梓(ムギ先輩がツボった!?)
エリ「あとは黒板上部に名前を書こうかなーって思ってるんだけど」
エリ「普通の名前を書くんじゃ、つまらないよね?」
澪「いやそこは普通でいいから!」
エリ「そう? 澪ちゃんの候補としては、“みおったん”とかあったんだけど」
梓「あの、私はなんて書かれる予定だったのでしょうか?」
エリ「“あずにゃん”」
梓「唯先輩のせいですよ!!」
唯「ここで私が怒られるの!?」
まき「それじゃ二人は普通に書くとしてー」
まき「ムギちゃんはどうする? よく呼ばれてるあだ名ってある?」
紬「あだ名ねー……うーん……」
唯「ムギちゃんのあだ名かー……」
アカネ「……その“ムギ”って、あだ名じゃないの?」
唯「あっ」
紬「そっか! アカネちゃん、鋭〜い!」
アカネ(本人が自覚してなかったのか……)
律「定着しすぎて、あだ名って感じがしないよなー」
澪「……おい律、まだ終わってないんだぞ」
律「悪い悪い。まだ運ぶものあるんだよな」
律「それじゃ、もう一仕事してくるわ」
唯「いってらっしゃ〜い」
律「お前はこっち側だ」
唯「ひええ〜……!」
まき「頑張れー」
* * *
最終更新:2014年04月06日 15:41